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65.尾行者

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 ○月〇日。
「幸田・・・幸田。おい、起きろ!聞いてなかったんか。」
「すんません、うとうとして。」
「こないだは、すまんかったな、総子のせいで。皆殺し事件の方は、那珂国の『乗っ取り計画』があったらしい。盗聴してしまった歯科衛生士が実家に緊急避難していて、警視庁に録音録画データを提出したらしい。犯人が捕まるまでは、保護する予定やったが、噛んでたNPO法人で捕まえた、って小柳さんからEITO大阪支部にメールが来た。幸田、早引きしてええぞ。」
 興信所を出ると、想わぬ再会があった。
 いや、相手が興信所に入るかどうか迷っていた。
 中学の同級生、武田貢。バブルが流行った時は、同級生の女の子に、よく呼び出された。
 確かに、『みつぐくん』に違い無いのだが、実際は『ええかっこしい』に利用されただけで、武田には見向きもしなかった、とぼやかれたことがある。
 俺は、喫茶店に誘い、静かな席で事情を聞いた。
 武田は、区役所分所の職員。
「どないしたんや、武ちゃん。」「幸ちゃん、おれ、クビやて。温情で今年中は働けるけど。」
「何かやらかしたんか?」「こないだ、選挙あったやろ?」
「うん。」「投票所の管理係、持ち回りで俺の番が来たんや。」「うん。」
「上司がな。帰化人でな。投票者のチェック係のバイトを全部阿寒国人にする言うから、反対したんや。日本人の議員の投票ですからって。しかも、日本人のバイト雇った場合の2割増しの給料で。金のことはええ、ってあんたの金ちゃうやろ?って想った。流石に、それは口にセエヘンかったけど。」
「そうかあ。色んなとこに阿寒国人や那珂国人が入り込んで侵略されているって聞いてたけど。市橋総理が電波オークションした第一の理由は、実は『日本に主権を取り戻す』って意味もあるって聞いたことあるわ。あ。不正投票?」
「そう。投票用通知自体、別個。詰まり、区役所から住民票データを元に送った葉書やない。投票用紙自体、水増しされている。多分、投票率は100%越えるやろうと。」
「それって、以前アメリカであった話に似てるな。あっちは投票マシンやったけど。ネットで『別個の投票用紙』を取り上げてたけど、通知葉書自体偽物で、チェック要員が照合チェックに不正したら、しまいやな。投票、呪われてるのも同じやな。」
 翌日。大和川に死体が上がった。
 実際は、身元不明のホームレスの死体だったが、俺は小柳さんに頼み込んで、武田の死体ということにした。
 武田は、今年、介護していたお袋さんが亡くなり、天涯孤独になった。
 俺は、中津興信所の中津さんに段取り付けて貰って、『夜逃げ』させた。
 俺は、武田との話の途中で、尾行監視に気づいて、こっそり、応援を呼んだ。
 倉持と花ヤン横ヤンが尾行者を『尾行』して判明したのは、反社の会社に彼らが帰っていったことだった。
 武田の命が危ない。所長は一にも二も無く賛成してくれた。
 引っ越し先は、芦屋グループの総帥芦屋三美が見付けてくれた。
 武田は、上司に猛烈に反対したお陰で、スパイと判断され、消される運命だった。
 他の区役所では、彼らの思惑通りの『政治』が行われていた。
 小柳警視正から吉本知事経由で、市長は独断で区役所の配置転換が決まった。
 彼らは、簡単に『解雇』は出来ないが、『転勤』『転属』なら可能だったから。
「新しい職場」で、より活躍して貰うのだ。
 武田は、独身だったお陰で、却ってよかったのだ。家族がいれば、奴らは必ず人質にとる。
『でっち上げ』の事件で追放する場合もあるのだ。
『偽の』葬儀で、俺は涙ながら弔辞を読んだ。
 大した演技力やで。
 ―完―


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