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56.ランドセル

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 ○月〇日。
 俺は、花ヤンこと花菱所員に頼まれて、心斎橋の百貨店にやって来た。
 ジジババが、来年小学校に上がる孫のランドセル買う時期や。
「敬老の日」にかこつけて、皆自分の財布を締めて、ジジババをあてにする。
 花ヤンの娘夫婦と、孫を連れて。
 実は、俺の中学生の時の同級生が、ランドセルの売り場主任をやっているのだ。
 詰まり、「身内割引」の為だ。ランドセルは、ピンからキリまである。
 同級生の汐留は言った。「マネキンが背負ってるやつあるやろ?何体かある。それなら三割引に出来る。」
 花ヤンの孫が選んだのは、可愛い女の子のマネキンの背負っている、薄紫のランドセルだった。俺と花ヤンは、胸をなで下ろした。
 汐留は、さっさと、倉庫から包装済みの薄紫のランドセルを部下に運ばせ、花ヤンは財布から金を出して、精算した。
 娘夫婦は満足げだった。
 その時、けたたましい非常ベルが鳴った。煙が迫ってくる。
 俺は、花ヤン一家と、外に避難した。
 手ぶらなら避難活動を手伝ったのだが、今は無理や。
 幸い、この百貨店には、屋上駐車場はない。
 外で、火事を見守っていると、「きゃあ」と声がした。
 花ヤンが怪我をしている。暴漢が、今買ったばかりのランドセルを奪って逃げたのだ。
 丁度、駐車場ビル方面から倉持と横ヤンこと横山が走ってきた。
 俺は、叫んだ。「横ヤン、倉持!ひったくりや!!」
 2人はトオセンボをした後、素手で暴漢を捕まえた。
 やって来た警察官に、俺は事情を話した。
「花菱先輩なら、軽傷のようです。ここはお任せ下さい。行ってやって下さい。」
 警察官は、敬礼をした。思わず横ヤンが敬礼をしたので、俺と倉持もつい釣られて敬礼をした。
 花ヤンの所に戻ると、ワコがいた。
「兄ちゃん。兄ちゃんのツレか?」「うん。」「丁度良かった。今、包帯買いだめしたとこや。」買いだめ?包帯不足してるんか?」「ちゃうちゃう。兄ちゃん、きゅうてんいちいち、覚えてる?そのセールや。」
 何とまあ、商売人は、何でも商売にするなあ。
 花ヤン一家を送って家に帰ると、包帯の箱の山があった。「何や、これ。」
「ワコちゃんがナア、暫く置かせてくれって。転売ヤーが買い占めしてるらしい。」
「ああ。それで・・・って、何でウチやねん。」「きょうだいみたいなもんやから、エエワナア、言うて。あの子、前から思ってたんやけど、変わってるなあ。」
「そう思うなら断れよ。」
 今夜も悪夢を見そうな気がしたら、やはり夢の中に出てきた。
 包帯だらけのワコが、「私、綺麗?」と言った。
 飛び起きた澄子に俺は言った。
「明日な。病院に運ぶわ、包帯。」「うん。」
 ―完―

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