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263.ジャーナリストの『退化』(前編)

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。降格中だったが、再び副隊長になった。只今、産休中。
 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。
 青山たかし元警部補・・・警視庁を退職して、EITO東京本部に就職。
 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
 青山(江南)美由紀・・・、元警視庁警察犬チーム班長。警部補。警視庁からEITOに出向。青山たかしと結婚した。
 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
 七尾伶子・・・警視庁からEITO出向の巡査部長。
 大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁テロ対策室からのEITO出向。
 本郷隼人二尉・・・海自からのEITO出向。システム開発担当。
 大蔵太蔵・・・EITO開発室長。
 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 新里あやめ警視・・・あつこの後輩。警視庁テロ対策室勤務。
 村松警視正・・・警視庁テロ対策室室長。
 渡辺道夫・・・警視庁副総監。

 市橋早苗・・・移民党総裁。内閣総理大臣。
 大前英雄・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。
 用賀哲夫二曹・・・空自からのEITO大阪支部出向。

 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

 =================================================
 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 午前6時。東京都新宿区。新宿御苑。
 犬の散歩をしていた老人が、犬が吠えて鳴き止まないので確認すると、男の死体が木の影にあった。眠っているのか、と思ったが、男が体を折って座っている側に血だまりが出来ていた。
 午前7時。京都市中京区西ノ京円町。バス停付近。
 マンションに帰宅途中のサラリーマンが、バス停前にあるベンチに座っている男を発見した。バス停のベンチは赤く染まっていた。
 午前9時。東京都千代田区。千鳥ヶ淵公園。「自由の群像」碑付近。
 観光客が、碑の足元に腰掛け、池に足を漬けているのを発見した。
 カメラの望遠レンズで確認すると、項垂れて座っているように見えた男の近くに血だまりが見えた。
 午前10時。警視庁。
 会議で、同じような恰好の死体であり、同じような箇所に、同じようなナイフの傷跡があることから、京都府警との合同捜査本部が警視庁に置かれることになり、本部長を副総監、副本部長をテロ対策室室長の村越警視正が担当することになった。
 緊急事態と判断され、京都府警の上京を待っている訳にも行かず、警察のヘリを飛ばす案も出たが、給油等を考えれば、時間がかかるので、副総監の『鶴の一声』で、EITO大阪支部のオスプレイに京都府警の捜査員を搬送して貰うことになった。
 午前10時。シネコン映画館。
 EITO東京本部の理事官が、リモート記者会見を行っていた。
 スクリーンには、理事官が映っている。
「EITO隊員が背中の刀を抜刀して闘ったのは事実です。ですが、それは、所謂『竹光』です。切れない刀です。今、見本を・・・。」
 理事官が全てを言い終わらない内に、夏目警視正がやって来て、何やら耳打ちした。
「諸君。会見は中止だ。逃げる訳では無い。今言った『竹光』の写真は各社に送るので、記者コードを記帳していって下さい。実は、警視庁管内と京都で連続殺人事件が発覚しました。手口から、同一犯行グループと判断されました。警視庁の記者会見は、午前11時からです。すぐに移動が賢明と思います。」
 スクリーンの映像は消え、記者達は、慌ただしく出口に向かった。
 伝子の刀で、EITOのつるし上げを目論んでいた記者達は、それどころでは無くなった。
 午前11時。警視庁。記者会見場。
 通常の記者会見が行われた。副総監と村越警視正が正面に座っている。
 村越警視正が口を開いた。
「今、お伝え出来ることのみのお知らせです。解剖等、今はまだ進行中です。被害者は、1人目が、東京都新宿区、新宿御苑で、午前6時に発見された、消費者庁の職員、宝田永幸氏、42歳。2人目が、京都市中京区西ノ京円町で発見された、文化庁の職員、若草重二氏、36歳。3人目が、千代田区千鳥ヶ淵公園で発見された、文科省職員の佐藤路夫氏。55歳。いずれも、背中にナイフ状のもので刺され、犯人に運搬され、座った姿勢で発見されています。やり口がソックリなので、同一犯行グループとみています。時間はバラバラですが、京都の件は移動困難です。」
「我々は、連続刺殺事件と判断して、京都府警と連携するべく、合同捜査本部を設置します。発見場所のデータは、お渡ししますので、各社とも目撃者情報の収集にご協力頂きたい。」と、副総監は頭を下げ、一緒にいた村松警視正、新里警視も頭を下げた。
 午前11時。EITO東京本部。会議室。
 マルチディスプレイには、大前が映っている。「京都府警の捜査員の搬送ですか。了解しました。用賀くん、とんぼ返りになるが、東京本部で給油次第、帰阪してくれ。」マルチディスプレイの向こうで、用賀が「了解しました。」と返事をした。
「まあ、データはネットで共有出来るけどな。合同捜査本部を設置するしかないだろう。」と、理事官が言うと、「理事官、ダークレインボーは関係ないのでしょうか?」と、なぎさが尋ねた。理事官は首を振った。
「なぎさ。もし、ピースクラッカーの仕業だったとしたら、今時分、声明を発表しているさ。関係無かったとしても、声明を出すだろうな。」と、伝子は言った。
「大文字。ひょっとしたら、エイラブの方かも知れないな。」と、筒井が言った。
 正午。EITO東京本部。司令室。
 待望のメッセージがBase bookに投稿された。
 ん?と皆は首を捻った。ピースブロッカーは、文字を書いたフリップを持っているだけだ。5分位で無言のリール動画を観た、理事官は、「草薙。本郷くんに『隠し音声』を探させろ。高遠君にアナグラムの解析を頼め。」と草薙に指示した。
 そのフリップには、こう書いてあった。
「よし 嫁は踏んだ」
 午後1時半。EITO東京本部。会議室。
 昼食から帰ったEITO隊員は、急展開に困惑した。
「嫌な夫だわ。」と小坂が言った。あかりが、「アナグラムよ。これ自体は意味ないの。」と、注意した。小坂は舌を出した。
 マルチディスプレイの向こうに、高遠が映った。
「理事官。アナグラムの解は、『ふんしょはだめよ』です。本郷くんからメールで、今回は『隠し音声』は無いそうです。ひょっとしたら、ですが・・・。」
「今回の連続殺人事件は、ピースクラッカーの仕業ではない。だから、映像で顔を背けていた、って言いたいんだろ?ダーリン。」と、伝子が言うと、「流石に、我が愛妻は頭の回転が早い。」と高遠は返した。
「画面越しでじゃれるなよ。つまり、エイラブ系の組織の仕業か。」と筒井が言い終わらない内に、伝子は出ていき、どこかへ電話していた。
「荒っぽい手口だから、あるいは、とは思っていたが、そうか。しばらく鳴りを潜めていたが。ああ、そうだ。殺されたのが、消費者庁、文化庁、文科省の職員なので、各『首長』の警護は強化された。」と、夏目警視正は言った。
 伝子が、素早く帰って来た。
「焚書(ふんしょ)と言うのは、本を焼き捨てることですが、アメリカのベストセラー『LBGTに利用された少女達』というノンフィクションの日本で翻訳本を出版することが発表されるや否や、『出版するなら焚書するぞ』と出版元の『戸川出版』に脅迫状が届いた事件がありました。先々月のことです。それを受けて、『渓谷出版』が出版を表明し、今月1日に出版したんです。内容は、トランス女性、詰まり、『心が男性』の少女達が、ある宗教団体組織に洗脳されたことで無理矢理性転換手術を受け、発覚したことで親が裁判を起こしたことを、1女医が纏めたレポートです。ノンフィクションです。ジャーナリストは追いかけられなかった。取材したのは、女医なんです。『ジャーナリストは退化した』と言われました。みゆき出版社の山村編集長に確認したところ、脅迫状を出した犯人は捕まっていないし、戸川出版は手を引いたけど、今度は『渓谷出版』が危ないのでは?と言っていました。もし金目当てだったとしたら、『グリコ森永事件』に匹敵しますね。戸川出版が恐喝されて断っていたら、今回の事件の理由が分かりません。」と、伝子は早口で言った。
「詰まり、『見せしめ』で3人の職員は殺された。個人に恨みとかではなくて、出版を快く思わない組織が、エイラブ系のヒットマンを雇った、というところですか。」と、青山は言った。
「じゃ、狙われるターゲットは?日時は?」と理事官が尋ねると、「ターゲットは3つのお役所と、渓谷出版社、それに渓谷出版の工場ですね。日時のヒントはありませんから、本日のいつかです。張り込みしか対応出来ませんね。」と、伝子は言った。
「分かった。早急に配置を決めよう。」と、理事官は言った。
 午後1時。東京都板橋区。渓谷出版工場。
 オスプレイが着陸した。大蔵と、エマージェンシーガールズの馬越チームがコンピュータ室に入った。工場の従業員が隅に縛られており、男達が数人、部屋のPCを弄っている。大蔵が、持参したWi-Fi妨害装置を、従業員と反対側の、部屋の隅に置いた。
 忽ち、彼らの作業は中断された。電源を落してもバッテリーが動く。PCを直接壊しても上手くない。そこで、非常手段を執ったのだ。男達が抵抗しようとしたので、馬越、大空、七尾は絞め技で落とし、男達に猿ぐつわをした。自殺防止である。
 午後1時。東京都千代田区大手町。渓谷出版社本社。
 ヘリポートに、オスプレイが着陸した。
 本郷と、エマージェンシーガールズの増田チームがコンピュータ室に入った。
 社員達は、隅で縛られ、転がされていた。
 本郷が、持参したWi-Fi妨害装置を、従業員と反対側の、部屋の隅に置いた。
 忽ち、彼らの作業は中断された。男達が抵抗しようとしたので、増田、仁礼、財前は、絞め技で落とし、男達に猿ぐつわをした。
 午後1時。小野田清美大臣の自宅。
 小野田清美大臣は、内閣府特命消費者庁担当大臣になったばかりで怯えていたが、総理の説得でEITOに一任した。
 男達が、アーミーナイフで大臣を襲う所だったが、どこからか、警察犬のシェパードがなだれ込んで来た。
 低く唸る犬たちに、男達は手を挙げるしかなかった。
「自殺は許さないわよ、この子達がね。」と笑いながら入って来たのは、エマージェンシーガールズ姿の青山美由紀こと江南美由紀だった。
 ―完―


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