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219.止まっていた時間(前編)

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
 高木(日向)さやか一佐・・・空自からのEITO出向。
 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。
 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
 安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
 稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
 工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。
 伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
 葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
 越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
 財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
 仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。丸髷署からの出向。
 青山たかし・・・元丸髷署生活安全課警部補。EITOに就職。江南(えなみ)美由紀と結婚した。EITOガーディアンズ(EITOボーイズ)所属。
 草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向の特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
 渡伸也一曹・・・自衛隊からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当。
 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。
 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。
 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。
 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。警察との連携通信担当。
 小柳警視正・・・大阪府警テロ対策室室長。
 芦屋三美・・・芦屋グループ総帥。EITOオーナー。
 青木新一・・・Linenを使いこなす大学生。独特のLinenグループを複数持っている。
 中山ひかる・・・元愛宕警部のお隣さん。伝子達と同じ大学に入学。後輩になった。アナグラムが得意。
 中山千春・・・ひかるの母。宝石店を営んでいる。

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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 1月10日。午後11時。
 伝子の予感が現実化しそうな、メッセージがBase bookの動画で語られた。
 《
 お待たせ、お待たせ。三が日も終ったし、『えべっさん』も終ったし、そろそろ本腰入れないとね、エーアイも、あくびばかりしているだろうし。ちょっと、ヒントあげるわ。これ見て。決行日は2日後でどう?時間と場所は・・・まずは宿題済ませてね。アタイって親切だなあ。持って生まれた性分ってやつね。じゃねえ。
 》
 ヒントは、添付動画の上に書いてある。
 [財産送ろう、明日え。]
 翌日。1月11日。午前9時。EITO東京本部。会議室。
「また、アナグラムかね、大文字君。」と、理事官は伝子に尋ねた。
「謎の言葉の方は、学にも流石に解けないようなので、『チーム・エーアイ』に任せました。
「『チーム・エーアイ』?初耳だが。」と伝子に問いただした理事官に、なぎさが「おねえさま。ひかる君と青木君の知恵を借りるように、おにいさまにおっしゃったのね。」と割り込んだ。
「まあ、そんなところだ。この文章に、『三が日』と『えべっさん』とあるのは、1月1日から1月3日までをひっくるめた言い方の三が日、そして、1月9日から1月11日までを示す、今宮戎神社参りのことです。何故西宮戎じゃないかと言うと、昨日、大阪支部管内の、今宮戎神社で事件があったからです。今宮戎では、毎年、1月10日に、詰まり、『十日戎』と呼ばれる本宮に、『ほうえいかご』と呼ばれる行列、パレードが行われます。仮装行列と言った方がいいかも知れない。今年は総勢500人の行列参加者がいたようです。興味のある方は、大前さんと総子が作った資料の電子ファイルがあるので、参照して欲しい。」
「大前君の報告では、こちらの事件と関わりがあるそうだが・・・。」と、夏目警視正が尋ねると、「はい。実は、昨日の事件というのは、特別参加した、吉本知事のカゴのグループに、賊が襲いました。大前さんとEITOエンジェルが平定、解決しましたが、知事がカゴに乗り込む時に、金属プレートを見付けたそうです。これです。」と、伝子は河野事務官を促した。マルチディスプレイには、3枚の金属プレートが並んでいて、番号がついている。
「1枚目が、山村編集長が利用しているフィットネスで編集長が拾ったもの。2枚目が、道着の死体の側にあったもの。そして、3枚目が、吉本知事が発見したものです。プレート自体には、その印刷以外に加工した形跡はなく、何かが隠されていた訳でもありません。」
「しかし、大文字。文言の[キーワードは8]の謎は解けたんじゃないのか?」「うん。でも、偶然とは考えにくい。大前さんの話では、大阪府警にタレコミの電話が前日の九日にあったらしい。カゴ襲撃のことは言っていなくて、『何かが起こる』だった。誰がタレコミをしたんだろう?筒井警部殿。」と、伝子は、筒井の問いかけに応えた。
「その言い方、止めてくれる?元カノなのに。」「その言い方、止めてくれる?公私混同だろ。」
「まあまあ。おねえさま。タレコミって、普通、内部の人間からの告発なのよね。でも、そうじゃないって顔してるわね。あ、そうか。コンティニューは邪魔者って言ってるグループの仕業か、『ほうえいかご』襲撃は。コンティニューは、その予定を知って、大阪支部に止めさせた?」
「その通りだよ、あつこ。レッドサマーは言ったが、コンティニューが『せっかち』でないことは、もう分かっている。私は、コンティニューには、沢山の『枝』がいて、せっかちは、その枝の幾つかだと思う。コントロールし損なっている。」
「大阪府警から入電です。繋ぎます。」と、スピーカーから河野事務官の声が流れ、マルチディスプレイに大阪府警の小柳警視正が映った。
「理事官。大変なことが分かりました。ほーえーかご事件の賊ですが、全部で10人いるんですが、1人だけ、鞍馬天狗役をした者だけ、年が離れていて、皆初対面ということで納得していたけれど、どうもおかしい。他の者が『お宝をゲットするゲーム』と聞かされていた、と言っているのに、奴は言わなかった。念の為、知事の乗ったカゴを子細に調べさせたら、麻薬グミの材料のかけらが見つかった。指紋採取したら、前田透という、マエのある指紋が出てきました。そこで、鞍馬天狗に尋ねると、落ちました。前田は、リゾート組という反社の下っ端です。そして、鞍馬天狗は、半グレに雇われたチンピラでした。詰まり、府知事が乗る前に、『お宝』を隠し、行列に紛れて受け取る手はずだったようです。昨日の事件はまだ公表していないので、鞍馬天狗に繋ぎを取らせて、取引場所に警察官とEITOエンジェルを派遣しました。結論は、金属プレートは、『お宝』とすり替えられていました。」
 小柳の通信が終った後、伝子は再び推敲を初め、ホワイトボードに簡単な図を書いた。
「金属プレートの文言[キーワードは8]は、この際、無視しよう。コンティニューの仲間割れが根底にあるからややこしくなっている、と考えたらどうだろう。仮に、大阪で反社と半グレの取引の『お宝』を『漁夫の利』で、横取りしたグループをAとすると、コンティニューの主力グループBは、金属プレートを使って、揺さぶりをかけているんじゃないだろうか?こっちの方がメインだぞ。仕事は、着々とやってのけているぞ、と。」
「それで、通信手段が違っていたんですね。」と入って来た下條が言った。
「下條。大丈夫なのか?リハビリは?」伝子が尋ねると、「月1回の検診をすればいいそうです。」と、下條は応えた。
 あかりは、泣きながら、下條を抱きしめて言った。「お帰り、下條。」
「よし、今回の作戦で現役復帰しろ。命令だ。」と、伝子は言った。
 伝子は知っている。警察官も自衛官も『命令』という言葉が『殺し文句』になることを。それは、信頼の証だからだ。だから、ここぞというタイミングで使う。
 この心情は、かつて、なぎさとあつこに教わったことだ。
「隊長。じゃあ、この金属プレートは、グループAの意思表示にも使われていたんですね。」「その通りだ、馬場。『アタイは関係ない』って言うのは本音であり、グループAへのけん制だった。あのゼッケンだって、本来は必要のないものだった筈だ。」
「余裕を見せたかったんですね。」と、今度は青山が言った。
「すると、大阪府警にタレコミをした人物は、グループAの人物ということですか?EITOが関与してくることも、連中を逮捕連行に導くことも計算済みですか?」と、今度は高木が言った。
「冴えてるわねえ、今日の男性陣は。何かいい物食べたのかしら?」と、入って来た芦屋三美が言った。
 午前10時半。
 高遠から連絡が来た。マルチディスプレイの上の高遠は上気している。
「お待たせしました。青木君に指摘されて、初めて気づきました。このままじゃ、アナグラムでも解けない訳です。まず、『ざ い さ ん お く ろ う あ す え』から『ア行』の文字を消します。すると、『ざ さ ん く ろ す』になります。そして、アナグラムで並べ替えると、『さ ざ ん く ろ す』になります。『え』は文章としてはおかしいけど。文字としては、この方が分かり易い。だから、『へ』は使っていない。」
「サザンクロス・・・南十字星か、学。」と伝子が尋ねると、「うん。そこで、ひかる君の登場・・・と言うよりは、お母さん登場か。『サザンクロス』って名前の『婚約指輪』の種類があるそうだよ。」
「つまり、婚約指輪に関係する人が危ないのかしら?」と、増田が言った。
「要人で、誰か婚約する人はいないか?草薙。」と、理事官は言い、草薙は、「はいはい、ただいま。」と応えた。
「女優の原さとみが今日、婚約を発表しました。婚約指輪のお披露目パーティーが1月13日です。」
 ―完―

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