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213.誘拐された新婚夫婦(前編)

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
 高木(日向)さやか一佐・・・空自からのEITO出向。
 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。
 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
 高坂一郎看護官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。
 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。
 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。宅配便ドライバーをしていたが、やすらぎほのかホテル東京の支配人になった。
 藤井康子・・・伝子のお隣さん。モールで料理教室を開いている。
 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。
 森淳子・・・依田が済んでいたアパートの大家さん。
 内藤久女(ないとうひさめ)・・・ウーマン銭湯の客。
 前田空将・・・空自の、上から2番目に偉い人。
 橘陸将・・・陸自の、上から2番目に偉い人。なぎさの叔父。
 新里警視・・・あつこの後輩。警視庁テロ対策室勤務。
 池上葉子・・・池上病院院長。亡き息子彰の先輩で、卓球の指導に来ていた高遠を息子のように大事に扱う。

 =================================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 午後4時。伝子のマンション。
 依田が、日向夫婦が区役所に届けを出しに行ったまま、ホテルに帰って来ない、と伝子に報せてきた。
 伝子は臍をかんだ。前回と違い、来賓も来ていたのに、外に警備体制を敷いていなかった。
 高遠は、EITO用のPCを起動した。
 EITO本部。司令室。
「何だって?」と、理事官は驚いた。
「ホテルの方からは、届を出しましたが、誘拐かも知れません。区役所に、あつこの名前を出して確認しましたが、届は受理されています。」と、伝子は言った。
 食直室から、草薙が走ってきた。
「緊急信号がありましたが。」と、草薙は理事官に尋ねた。
「日向と高木が行方不明になった。区役所を出た後、ホテルに戻っていない。お前、渡のPC、操作できるか?」「愚問です。」
 草薙は、憮然として渡のPCを操作して、ピンポイントの位置を割り出した。
「議員会館?理事官。参議院議員会館です。登庁する議員なんているのかな?」
 理事官は、メールでSATに出動要請した。
 午後4時半。
 SATから警察無線を通じてEITOに連絡が入った。
 草薙は、伝子のマンションのPCをリモート起動し、音声を繋いだ。
「SATの東山です。参議院議員会館を隈なく探しました。今病気の為入院している、違憲異種党の杉下議員の事務所の奥の部屋に人の出入りした形跡があり、男女の衣類が放置されていました。言いにくいんですが、そのう・・・。」
 伝子の側から叫んだ。「下着類も放置されていたんですね。」
「その通りです。」「そこにDDバッジもありますか?以前お話した、こちらの備品ですが。」「あります。大小2個ずつあります。」
「他には?」「ありません。」「衣類の裏を見て下さい。」「タグにNDとサインペンで書かれています。何かの暗号ですかね?」
 午後5時。
 なぎさ、あつこ、伝子が到着した。理事官は、日向と高木の衣類を、金森と馬場に引き取りに行かせて、3人だけを呼び寄せた。善後策を練る為だ。
「日向達の衣類は、金森達に取りに行かせた。SATには、爆発物がないかどうかを確認して貰い、外部的には『爆発物を仕掛けた』という通報があったことにした。」
「今後は、依田のところのホテルは使わないことにしましょう。可哀想だが、仕方が無い。」と、伝子が言い、敵は焦っていたんでしょうね。衣類全部剥がしたということは、DDバッジと呼ばれているモノが、どこにあるのか分からなかったんでしょう。普通なら逆利用しますが。」
 DDバッジは、以前はもっと大きなバッジだったが、蘭が襲われた事件以後、すぐに次期バージョンとして用意されたものと交換された。ズボンの折り返しに縫い付けてあるので、一目で分かる者はいない。
 河野事務官が言った。「空将と陸将から通信が入っています。」「繋いでくれ。」
「どこで入手した情報からか知らないが、訓練所を通じて『脅迫状』が来た。」
 前田空将の言葉に、橘陸将も「同じ文面の脅迫状だ。『自衛隊員』を見殺しにしたくなければ、2億円用意しろ。取引に応じない場合はマスコミにリークする。」と話した。
「おじさま。EITOの名前は出てこないんですね?」と、なぎさは確認した。
「その通りだ。」「おねえさま。2種類の作戦を用意しなければいけませんね。」と、なぎさが言うと、「うむ。可哀想だが、皆の休暇は強制終了だ。コンティニューが仕掛けた場合と、別の敵の場合を考えなければいけない。」と、伝子は応えた。
「コンティニューの部下を葬って、自殺した連中のことね、おねえさま。なぎさ。」
 そう言って、あつこは腕を組んだ。
 午後7時。伝子のマンション。
 追加の脅迫状が来ないので、緊急呼び出しが無い場合は、『仕事始め』までは休息を取るように、と言われて伝子は帰って来た。
「何、これ?池上病院の薬もあるのに。何で僕の分もあるの?」
「帰り際に須藤先生が来て言ったんだ。飯星達に先を越されるな。まだ、充分産める、って。」
 高遠は、幾種類ものビタミン剤・強精剤にうんざりした。
 先日、南部所長や幸田所員に渡されているビタミン剤・強精剤にうんざりしたばかりだ。芦屋三美の『心遣い』には、感謝するが、伝子と高遠には既に息子おさむがいた。
 安全を考えて、一部の人間以外は知らない。おさむは今、池上家の特別乳児室にいて、看護師達が24時間監視している。
 伝子の母綾子達は、他の介護士達と新年会に行っている。
 しかも、藤井は森のアパートに行って、明日帰ってくる。
 何も、誰も邪魔しない。
 伝子は、無理矢理高遠に薬を飲ませ、自分も飲んだ。
 そして、その場で衣類を脱ぎ、高遠の衣類も脱がせた。
 翌日。午前5時。
 伝子のスマホが鳴動し、伝子は飛び起きた。
 間違い電話であって欲しいと思ったが、芦屋三美だった。
「誘拐犯は早起きのようね。2億円はもう用意してるけど、空自と陸自の偉いさんが、晴海埠頭に持って来い、だって。午前11時よ。現場への輸送は、本人達でなくていいって。前と同じく自衛隊事務所宛で速達が来たらしいわ。夕べ、寝られた?夜通しセックスした?総子より先に産みなさい。」「三美さんも寝た方がいいわよ。」
 オスプレイの音が聞こえて来るかと高遠はヒヤヒヤしたが、来たのは、なぎさでなく、あつこだった。どうやら近くまでパトカーで来たか。
「おへえはんま、はやおうう。」と、あつこはあくびをかみ殺して訳の分からない挨拶をした。
 高遠は、送り出した後、水を1杯飲んでから、また寝た。
 元々小説家だから、不規則な睡眠は慣れっこだ。
 寝床に入ったものの、やはり寝付けない。高遠はぼんやりと考えた。
 敵が、ホテルからつけたという確証はない。むしろ、区役所ではないのか?
『婚姻届』は、お役所で365日24時間受理している。通常のお役所の時間しか開いていなければ、『少子化』に歯止めがかからないだろう。
 2人ともEITOに出向している自衛隊員だが、機密情報だ。
 そうか。自衛隊員の身分証か。『お名前カード』でなくていい。。
 衣類が引き剥がされて、という話だから、財布か身分証入れに入っていたか。
 居場所を特定出来る手段は今の所無い。
 高遠は懸命に推理した。
 午前9時。EITO本部。会議室。
 指定時間より前ではあるが、あまり時間はない。1時間後には出発しなくて行けない。
 理事官は。マルチディスプレイの高遠に推理するよう促した。
「日向隊員と高木隊員は、披露宴の後、どうせ旅行に行くことも出来ないから、ホテルでゆっくりする積もりだった。だが、ヨーダの話によると、せめて結婚届くらいは出しておこう、と千代田区役所に向かった。ホテルの車で送迎する積もりでヨーダ、あ、依田はは送迎バスを出した。ここでまた気まぐれを起こした2人は、食事をして帰ると言い出した。それで、電話してくれれば迎えに出ると約束して、依田はホテルに戻った。ここからは、私の考えです。予め届け用紙を準備していた2人は、区役所の手続きは簡単に済み、外に出た。悲鳴を聞いて駆けつけた2人は、女性が誘拐されワゴンに運び込まれ、発車するのを目撃した。ふと見ると、郵便バイクがある。年賀状配達の途中らしいバイクが2台ある。2人は郵便配達員に自衛隊の身分証を見せ、バイクを借りて追走。これは、目撃者がいるそうです。途中、垂直方向から走ってきた車に激突された。気がついたら参議院議員会館。着替えさせられ、連中とアジトへ。DDバッジやガラケー追跡装置はそのまま。連中は、自衛隊員と知って、自衛隊に連絡した。ところで皆さん、おかしなことに気づきませんか?昨日、1月2日は郵便物の配達はないんですよ。1月1日が必ず配達物がある限り配達するけれど、次の日はお休みなんです。郵便局員は仮装、郵便バイクは盗難車か偽装。高木夫婦を狙ったというより、結婚届を区役所に届けに来たカップルが狙われた。さらわれた女性がいるので、2人は迂闊なことは出来なかった。だが、その女性はグルかも知れない。完璧な計画ほど、崩れやすい。偶然を上手く利用しないと、却ってスムーズに行かない。そういう例が府中市で昔起こった『3億円強奪事件』です。とにかく、現金引き渡しには、充分注意して下さい。そして、その時が最大のチャンスです。」
 皆、ポカンとしている。だが、すぐに立ち直って、なぎさや伝子は段取りを決めた。
 ―完―

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