上 下
74 / 280

74.『敵の敵は味方』

しおりを挟む
 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は巡査。
 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。
 橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
 金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。
 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
 浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者の1人。
 久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。
 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。
 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。
 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。
 物部(逢坂)栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。
 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。
 池上葉子・・・池上病院院長。
 江南(えなみ)美由紀警部補・・・警察犬チーム班長
 副島はるか・・・伝子の小学校の書道部の先輩。書道塾を経営しているが、EITOに準隊員として参加。
 久保田誠警部補・・・警視庁捜査一課刑事。EITOの協力者。あつこの夫。久保田管理官の甥。
 高峰圭二・・・高峰くるみの別居中の夫。みちるの義兄。警察を退職後、警備員をしている。
 高峰くるみ・・・愛宕みちるの姉。スーパー店長山田の部下。
 高峰舞子・・・高峰くるみの娘。愛宕みちるの姪。
 中条真吉・・・高峰の同僚。
 窪内真二郎・・・窪内組組長。
 遠山新八・・・遠山組組長。
 青木新一・・・Linenを使いこなす高校生。友人の致傷事件の関係者。後に伝子達の協力者になる。
 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。
 中津健二・・・中津警部補(中津刑事)の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。
 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 =======================================

 午後6時。高峰が、撃たれた肩を押さえている。
「みちるに何ていい訳する積もりですか?」と伝子は言った。「言い訳できないな。」と高峰が自嘲気味に言った。伝子は高峰を平手打ちした。
 遡ること12時間前。午前6時。
「すまん。」高峰はアパートに向かって、片手で拝んだ。
 午前7時。同じ警備会社の同僚、中条真吉が、ある会社のビルを見張っていて、高峰は中条に合流した。「ここは?窪内組?奴は反社と付き合っているのか?」と、高峰が呆れた。
 午前8時半。
 高峰は中条に言った。
「会社に電話しますね・・・あ、高峰です。すみません。子供が熱出しまして・・・。はい。すみません。」
「高峰さん。そろそろ中に入って待ち受けませんか。」「そうですね。」
 二人はビルの中に入り、組事務所の看板がある部屋の向かいの部屋に入った。しかし、中条は外から施錠をした。
「すまんな。あんたを巻き込みたくないんだ。」
 午前9時。組長と組幹部が一人の男と組事務所に入って行った。
「これが、那珂国人が置いていった、札束。」「仕事は?」「遠山組を潰すこと。」
「自分らでやりゃあいいじゃないか。」「直接ショバを取ろうとするのは難しいから、ヤクザ同士潰し合って、後でいただく、と。旦那、漁夫の利どころじゃないんですぜ。俺たちを兵隊にする積もりだ。金は欲しいが性に合わない。」「今時分、任侠か?」
「作戦を伺いましょうかね。ああ。奴らは遠山組の野球大会に殴り込みをかけるらしい。自分らの人数が少ないから、俺らを利用する、ということです。」
「野球大会?」「コロニーのせいで倒産したアマチュア球団の差し押さえ物件だが、住宅には向かないらしい。組員も運動不足だし、とレクレーションに利用し始めたらしい。」
「まあ、いい運動にはなるだろうな。」「で、作戦って何です?」
 午前10時。大文字邸。
「何です?伝子さん。」「誰かが噂している気がする。」
「空耳?それとも、座敷童がいるのかな?」「変なこと言うなよ。」
「座敷童って何?お化けが出るの?この家。」と、綾子は言った。
「ああ。近寄らない方がいいよ、この家には。今日は仕事ないの?」「あ。いけない。」
 綾子は慌てて出て行った。
 伝子のスマホに電話が入った。みちるからだ。電話を切った伝子は高遠に伝えた。
「高峰圭二が行方不明。舞子が熱出した、って欠勤の電話が入ったが、舞子は元気に学校に行った。勝手に捜査しているのかも知れない、ってさ。あり得るな。」
「捜査って、交番巡査?」「うん。」「思い込みが強いからなあ、あの人。」「そこが問題なんだよ。あつこに指名手配するように頼むか。」「指名手配は悪いことした人でしょ。あそこの警備会社の制服、特徴あるから、青木君たちに探して貰おうよ。」「そうだな。連絡してくれ。」
 また、伝子のスマホに電話が入った。今度は筒井からだった。「うん・・・うん・・・うん。そうか。分かったよ、筒井。」
「筒井さん、何だって?今日、ヤクザのバトルがあるらしい。野球場で。」「はあ?」
 午前11時。組事務所のあるビル。
 漸く高峰はドアの解錠に成功した。頑丈なドアだし、映画の様に簡単に蹴破れるドアなんて今時無い。高峰は隣の組事務所を覗いてみた。ドアは開いていた。誰もいない。昼飯にでも行ったのかも知れない。何やら固定電話の横にメモ用紙が置いてある。「横田野球場、午後4時」と書いてある。
 高峰は、行ってみることにした。高峰がビルを出た後、そっと、その様子を伺っている者がいた。中津健二である。中津は高峰を尾行した。
 正午。大文字邸。
 EITO用のPCのある部屋でアラームが鳴った。
 伝子達が行くと、理事官が言った。
「大文字君。食事が済んでからでいい。横田野球場に行ってくれ。午後2時に遠山組の野球大会がある。」「反社の野球大会?レクリエーションですか?」「そうだ。ただ、殴り込みがレクリエーション中にある、とい情報が入った。そこで、エマージェンシーガールズの出番だ。頼むよ。今日はカレーかな?」
「なんで分かるんですか?」と高遠が間抜けな質問をしたが、画面は消えた。
「学、何を持っている?」「あ。ルーを入れる所だった。」高遠は、慌てて台所に走った。
 午後4時。横田野球場。
 遠山組組員が揃いのユニフォームを着て、紅白試合をしようとしていた。ベンチの人数の方が選手より多い。用意されたパネルには、『勝ち抜き戦』の文字が見えた。
 そこに、違うユニフォームを着た一団がやって来た。窪内真二郎が言った。
「ウチのショバで野球か。いい根性しているじゃないか、遠山の。」
「何?ここは借金の『カタ』に貰ったグラウンドだ。土地転がししようと思ったら、家建てるのに不向きらしいから、ウチのレクリエーションに使っているんだよ。文句あるのなら・・・。」遠山新八が言うより早く、窪内組と遠山組の乱闘が始まった。
 誰かが那珂国語で叫んだ。少林寺拳法の道着を来た那珂国人が雪崩れ込んでいた。
 そこへ、オスプレイから、エマージェンシーガールズが次々と降りて来て、全くの混戦模様となった。エマージェンシーガールズは、拳銃を持っている者を片っ端からシューターやブーメランで叩き落とした。シューターとは、EITOが開発した武器の一つで、平たく言うと、うろこ形の手裏剣である。殺すことは出来ないが、足止めすることは出来る。先端には、しびれ薬が塗ってある。那珂国人が銃を見捨てて移動すると、青山警部補達が回収に回った。
 野球場の入り口で見ていた高峰が「なんだ、こりゃあ。」と言った。
 伝子が、マフィアをトンファーで交わしながら窪内に近寄り、「日本のヤクザのシマを那珂国人に横取りされていいのか?」と言い、トンファーで遠山に近寄り、「2つのシマをただ取りする積もりだが、許していいのか?」と、言った。
「やっぱりか。おい、遠山の。『敵の敵は味方』って言葉を知っているか?」と窪内は遠山に近寄り、言った。
「休戦協定か。望むところだ。おい、野郎ども。俺らの敵は那珂国野郎だ。迷うな。ユニフォーム着てない奴だけ叩け!」と窪内は言った。
 続けて、遠山が言った。「日本のヤクザのシマは、日本のヤクザのものだ。死んでも守れ!!」
 誰彼構わず攻撃していたヤクザ達は、那珂国マフィアの使いと思しき少林寺拳法道着の連中に向かって行った。エマージェンシーガールズ達は、ヤクザの邪魔にならぬように、ヤクザに加勢した。
 闘いは、約1時間半続いた。圧倒的に2組のヤクザより那珂国マフィアの使いの方が数で勝っているにもかかわらず、マフィアの使いは劣勢に追い込まれていた。
 メガホンで怒鳴る女が現れた。那珂国語で《何をしている。早く全滅させろ!!》と言ったのだが、日本人では、ただ一人を除いて皆分からなかった。
 その一人とは、中条だった。その女の背後にいた中条は、思わず那珂国語で呟いてしまった。《ヤクザ達は嵌められたんだ。》
 振り返った女は《貴様、裏切る積もりか?》と那珂国語で怒鳴って、中条に拳銃を向けた。
「危ない!」と中条を庇って前に出たのは、高峰だった。女は思わず引き金を引いた。
 銃声が鳴り響いた。勢いづいたヤクザ達とエマージェンシーガールズは、マフィアの使いを殲滅した。
 あつこと金森が投げたブーメランが2個飛んできて、女の拳銃は撥ねられ、女の左顔面を直撃した。
 伝子が走り寄ってきた。どこかから、6時の時報チャイムが鳴った。
 高峰が、撃たれた肩を押さえている。
「みちるに何ていい訳する積もりですか?」と伝子は言った。「言い訳できないな。」と高峰が自嘲気味に言った。伝子は高峰を平手打ちした。
 愛宕達が駆けつけ、女を逮捕した。何か喚いている。
 中条は言った。「私は関係無い。ヤクザじゃないんだから。そう言っています。高峰さん、済まない。悪いのは私だ。娘の治療費欲しさに、通訳とは言え、那珂国マフィアの手先になってしまった。巻き込んだのは、私だ。怪しい人物って、私が言ったのは多分潜入捜査官だろうな。」
 オスプレイが降りて来た。担架が運ばれ、高峰が乗せられた。ヤクザもマフィアの使いも逮捕連行された。
 久保田管理官は言った。「一応、逮捕はする。事情聴取はする。あんたらは『親善試合』をしていた、野球のな。試合で興奮して、つい乱闘をしてしまった。マフィアなんか来なかった。だよな。小競り合いは、平和になるまでお預けだ。国民の大半は意識していないが、日本は那珂国と戦っている。戦争だ。有事だ。ヤクザでも『猫の手』ぐらいにはなる。」
「旦那。猫の手は、ちょっと酷いなあ。」と窪内は言った。「本当に『お咎め無し』ですかい?旦那。」と遠山が管理官に尋ねた。「お咎めなしだ。何か奴らの情報があれば、いつでも流してくれ。」「ご褒美は?」「煎餅なら1ケースくれてやる。」
「煎餅??」と呆れた二人を、後から来た警察官が連行した。
 そこへ、筒井と中津健二がやって来た。「一足遅かったようだな。」と筒井が呟いた。
 午後8時。池上病院。
 手術室を終えた終えた高峰が病室に帰ってきた。
「今度やったら、離婚だからね。」と、くるみは言った。
「離婚だからね。」と、舞子が真似た。
「申し訳ない。」とベッドから謝る高峰に、舞子は「パパ。げんまん。」と求めた。
 お決まりの指切りゲンマンを高峰は笑って応じた。池上院長は微笑んだ。
 午後8時。大文字邸。
「じゃ、初めから?わざわざ乱闘させたの?」と、料理をしながら、高遠が言った。
「そう。うまくリーダーの女が現れてくれたわ。那珂国マフィアは、実は80%は、日本で調達したバイトだったわ。」と、伝子は言った。
「中条さんは、どうなるの、警視。」と問う高遠に、「そうね。情状酌量の余地はあるし、掴んだ情報によっては、潜入捜査官扱いになるかも。」と、あつこは答えた。
「みちるが、今にも飛びだしていきそうだったから、署長命令で拘束衣着せられたそうよ、おねえさま。」と、あつこは、リビングから戻った伝子に言った。
「病院で警察官が暴れたら、洒落にならんものな。あつこ、今日泊まっていくか?」と伝子が言うと、「お仕置き部屋でない部屋ならね。」
「さ。出来たよ。にゅうめん定食。」「旨そうだわ。」と、あつこと伝子は目を丸くした。
 ―完―

しおりを挟む

処理中です...