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48.辻斬り『討伐』

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。巡査部長。
 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。
 小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田と交際している。
 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。
 福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。
 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。
 逢坂栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。物部と再婚した。
 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師
 南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている、美容師見習い。
 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。
 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。
 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。
 橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
 久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の叔父。EITO前司令官。
 斉藤理事官・・・EITO理事官。
 金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。
 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。
 天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。
 矢田浩一郎・・・天童に同じ。
 松本悦司・・・天童に同じ。
 謎の少女?
 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
 =======================================

 モール。喫茶アテロゴ。物部が高遠に尋ねた。
「高遠。怒らないから、正直に言ってみろ。どんな拷問受けた?病院行かなくて平気か?」「体は傷ついていないです。」と高遠が応えると、一同は、ああ、と頷いた。
「精神的打撃ですね、副部長。」と依田が言った。
「副部長は入院中だったから、順を追って言いますね。」「うむ。」
「伝子さんは、昼飯食った後、暫く翻訳の作業していたんですが、いきなり立ち上がって『そうだ』って言ったんです。で、仕事を中断して、理事官、管理官、みちるちゃん、一佐、警視、増田3尉、金森一曹、逢坂先輩、順に慌ただしく連絡をしたんです。その後、ヨーダ、慶子ちゃん、福本、祥子ちゃん、蘭ちゃんに連絡をしたんです。ああ、愛宕さんと青山警部補にも打ち合わせをしていました。南原さんは授業があったし、山城さんはお婆ちゃんの介護があったし、服部さんはまだ帰省中だったしで連絡しませんでした。あ。副部長はまだ入院中だったし。」
「ほぼ、オールスターだな。残念だ。」
「午後2時。EITOのスタッフがアクリル板を設置しました。講演会場の2階はバリケードが出来ました。カメラの設置もその時です。後援会の人に聞かれたら、コロニーの名残だと説明するように、と公会堂の人に伝子さんが頼んだのが午後3時。」
「EITOのスタッフって、前に大文字のマンションの改造をした自衛隊員か?」
「そうです。で、みちるちゃんがレンタル衣装屋の店長を脅して、スーパーガール用の衣装を4着用意させ、衣装が揃ったのが午後4時。慶子ちゃんが店の隣の倉庫で着付けをして、空自の助っ人4人がスーパーガールになり、EITOのオスプレイで店から、公会堂近くで降り、福本の劇団の松下君がトラックに乗せて公会堂に向かったのが午後5時。その頃、愛宕さんと青山警部補が警備員に『講演の後の余興』のスタッフだと言って、裏口から一佐達を入れ、食堂に向かいました。食堂は『控え室』で、そこで一佐達は着替えました。また、同じ頃、草薙さんと僕は『中継移動車』で公会堂に向かっていました。」
「待てよ。その控え室で、着替えるのに間に合わないじゃないか、高遠達は。」と物部が物言いをした。
「はい。祥子ちゃんと蘭ちゃんがワンダーウーマン達の衣装を着付けしましたが、その時は間に合っていません。午後6時。議員とSP達が到着し、伝子さんは合流しました。講演の直前。SPのサブリーダーを倒した茅野が入れ替わりました。で、講演が終わったのが午後8時半。乱闘があって、伝子さん達が闘い終わって、愛宕さん達が犯人達を連行したのが午後9時半。その後、慌ただしく食堂では、皆の着替えがありました。午後10時には退去しなくてはならないので、公会堂の外で、ヨーダの車と福本の車が待機していました。僕は、監視しながら、ヨーダ達に合図を送らなければいけなかったんです。着替え、見ましたよ。つい、『役得』って言ったのはまずかったけど。」
 高遠の説明が終わると、「俺はレンタル衣装屋に返す分を返しに行った。」と依田が言った。「僕は、EITOのオスプレイの所で女性達を下ろして、祥子と帰った。南原さんが迎えに来ていたから、蘭ちゃんは任せた。皆、晩飯は夜中に自宅で採りました。以上です、副部長。」
「経緯はよく分かった。栞はタクシーで夜中に病院に来たよ。カップラーメン食べてた。で、どんな拷問だったんだ、高遠。私のパンティを見て興奮したのか?とか自分の妻の下着と比べて妄想したか?とか、のぞきは楽しいか?とか・・・。」
「副部長、見てたんですか?」「本当にそうなのか?」
 改めて聞く物部に、「最初は・・・で、最終的に『罰』を与えられました。逢坂先輩が言い出して、女子全員が賛成しました。」
「どんな、どんな罰ですか?」と服部が勢い込んで聞いた。
「今後、ひとのまえでも、伝子さんを『伝子』と呼べ、と。」
「なあんだ。そんなの罰じゃないでしょう。」と入って来た辰巳が言った。
「いつ来たんだ?全部聞いてたのか?」「今ですけど。夫が妻の下の名前を呼び捨てにするのって、普通でしょ。最近フェミとかが五月蠅いけど。マスターだって、この頃奥さんのこと、栞って呼んでいるじゃないですか。夫も妻も呼び捨てでいいですよ。」
「お前、いいこと言うなあ。その通りだ。高遠、抵抗あるのか?こんなの慣れだ。最初は台詞だと思って発音すればいい。なあ、福本。」「副部長の言う通りだ。諦めろよ、高遠。」と福本が物部に同調した。
 高遠のスマホが鳴った。高遠はスピーカーをオンにした。「学。どこで油を売っている?どうせ、物部の店だろうが。」
「分かってたら、言うな。男同士で『傷の舐め合い』してたんだよ。」と物部が怒鳴った。「気色悪いこと言うなよ、物部。学。早く戻って来い。事件だ。」「はい。」
 勘定を済ませ、あたふたと高遠は帰って行った。
「やっぱり、怖いのかなあ。」と言う辰巳に、依田が「あの二人、長い間、高遠、先輩って呼び合ってたんだぜ、辰巳君。」と言った。「やっぱり怖いんだ。」
 伝子のマンション。「傷は舐め尽くしたか?」「意地悪だなあ、伝子は。」
「え?今、何て?」「それより、事件って?」「辻斬りだ。」「辻斬り?それ、江戸時代でしょ。」
 伝子が操作して、久保田管理官の部屋に通じるPCが起動した。いや、明るさを調整したから画面が現れた。「いつから聞いてたんですか?」と怒る伝子に「さっき。」と悪びれず管理官は答えた。
「私たちにはプライベートはないんですか?セックスの声も筒抜けですか?」「いや。この画面が見える範囲に君たちが来ると、センサーが感知して起動する、と聞いている。EITO用のPCも同様だ。」「じゃ、学。今度からここでセックスしよう。」
「怒るなよ、大文字君。困っているんだから。辻斬りって言うと何だか変な感じだが、要は、真剣で人を襲う事件が勃発している。時期は1日置きだ。詰まり、卑近な例は昨日起っているから・・・。」という管理官に「明後日が決行日だと。」と高遠が言った。
「管理官、時間は?」「時間は午後7時頃。場所は都内のどこか。決行場所が規則的に移動している訳では無い。だが懸命に予測を立てている。知っての通り、日本刀は管理されている。例え家宝でも届け出が義務づけられている。届け者の中に紛失盗難に逢った人はいない。」
「反社か那珂国マフィアですか。」「うむ。剣道の有段者でも真剣を扱える人間は少ない。大文字君。元公民館での死闘を覚えているかね?」
「ああ。柔道や剣道の有段者をネットで映画撮影だと欺して集めて、私と対決したことがありましたね。」「今回、あの時の剣道有段者が助っ人になる。そこで、けしからん辻斬り野郎を懲らしめる算段をして欲しい。」
 画面は消えた。「そう言われてもなあ。学。取り敢えずメシだ。ブランチだ。」「え?食べて無かったの?伝子さん。いや、伝子。」
「放り出した仕事を片付けていたら、この時間になった。煎餅じゃもたない。」
「はいはい。フレンチトーストね。」
 午後2時。EITOベース。
「EITOの仕事だったんですか?」「ああ。立派なテロ行為だし、恐らく、また那珂国の・・・。」「死の商人、ですか。」
 エイトの別館、エイトワンで待っていると、剣道場ブースから、竹刀を持ったままの男が現れた。「天童晃(ひかる)と申します。その節は・・・。」
「後の4人は後に紹介しよう。剣士にあるまじき行為だ、と、皆さん喜んで助っ人を引き受けてくれた」と理事官が言った。
 伝子のスマホのLinenの通知音が鳴った。「失礼。」と伝子はスマホを広げた。
『次に狙われる街が分かった。』と書いてある。伝子はビデオ電話に切り替えた。
「どこだ?」「狙われる場所は板橋区。」「分かった。」伝子は電話を切った。
「じゃ、打ち合わせしますか。」
 翌日。板橋区の、通称たまご団地。
 案内板の前で、伝子と5人の剣士が打ち合わせている。伝子も剣士達も着物に袴の出で立ちで木刀を腰に挿している。
「これが長波ホイッスル。犬笛みたいなものです。敵が現れたら、これをまず吹いて下さい。着物の襟の内側にポケットがあります。これを入れておいて下さい。」と伝子が説明すると、映画みたいだな。」と天童は言った。
「まだ凄いのがありますよ。」伝子はイヤリング型イヤホンマイクをそれぞれに渡した。「これは通信機です。さて、この案内板を集合場所にしましょう。2人ずつ3方向に15分歩いて下さい。何もなかったら、ここに戻る。誰かがホイッスルを吹いたら、ここに戻ってから、救援に向かう。いいですね?」
 午後7時になった。6人は3方向に歩き出した。伝子と組むのは天童だった。
「マンモス団地だから、どこにでも潜めることが出来ますね。」と天童が言った。
「あの時は、欺されたと知ってがっかりしたが、あなたと手合わせ出来て良かった。まさか再会出来るなんて。我々は、てっきり、悪者に加担したから刑務所行きだと思っていたが、欺されてやってきて、試合をした。それだけだ、と管理官さんが言ってくれて良かった。EITOの剣道場の師範を打診してくれた時も嬉しかった。もう定年退職の歳だし、喜んで引き受けましたよ。」「しっ!」
 伝子は何かを察知したようだった。イヤリングから草薙の声が聞こえた。
「ホイッスルが鳴った。応援に向かって下さい。」「急ぎましょう。」
 伝子は天童と案内板の場所に走って、分かれた方向に向かおうとした。「違う。そっちじゃない。3つ目の方向。」
 天童とうなずき合って、伝子は方向転換をして走った。
 3組目のメンバー、滝川と名越が倒れていた。伝子は傷口を確認した。見るからに重傷だ。2組目のメンバー、矢田と松本が走って来た。「やられたんですか?」と松本が言った。「ええ。皆さん、注意して下さい。まだ、その辺にいるかも知れない。」
「ご名答。流石は大文字伝子だ。」と物陰から、男が現れた。「あ。お前は。」
「知り合いですか、天童さん。」「誘いを断ったメンバーの一人、笹島です。」と天童が応えた。
「こっちの方はギャラがいいんでね。国家転覆?那珂国の手先?そんなのどうでもいいさ。」「お前にギャラを渡したのは『死の商人』か。」
「ああ、そんなこと言ってたかな。ターゲットはあんただけだから、他に斬った奴は死んじゃあいない。さ。覚悟して貰おうか。」と笹島は笑った。
 団地の方向から、笹島の部下が大勢やって来た。皆、日本刀を持っている。「皆さん、覚悟はいいですね。」「おう!!」
 乱闘が始まった。4人は木刀で日本刀をくぐり抜け、所謂『小手』を撃ち、『面』を撃ち、『胴』を撃ち、倒して行った。しかし、いかんせん、人数が多い。そこへ、4人のワンダーウーマンが駆けつけ、三節痕、ヌンチャク、トンファー、鞭、電撃警棒で闘った。
 なぎさ、あつこ、増田、金森、みちるだった。
 天童が石に躓き、バランスを崩した。一団の一人が天童に刀を下ろした。
 が、何かが飛んできて、刀が飛んだ。すかさず、天童は面と胴を撃って、倒した。
「しゃあないなあ。手伝うたるわ。まだちょっとデビュー前やけどなあ。」
 天童の場所から少し離れた所の、エアコンの室外機の上にその人物はいた。ヒョウ柄の全身タイツにヒョウ柄のマスクを被った、少女らしき人物は、一団の刀を握った手首目がけて、『石礫(いしつぶて)のような物』を投げつけて行った。パトカーが数台、走って来た。
 一瞬の隙を突いて、伝子は笹島を倒した。笹島の刀は3本に折れていた。木刀で真剣を折ったのだ。
 天童は、連行される笹島に言った。
「どんな事情があったかは知らない。知りたくも無い。だが、剣士としての誇りが微塵でもあるなら、この『負け』を素直に認めることだ。大文字さんは、刀を3本にしただけじゃない。急所を3カ所斬り込んでいる。その気になれば、殺せた。」
「ああ、完全な敗北だ。だから、大文字に一つだけ教えてやる。俺に近づいて来た『死の商人』はジジイだった。どこにでもいる、ジジイだった。」
 気が付けば、ワンダーウーマン達も、妙な少女もいなかった。
「天童さん。師範続けてくれますよね。」「あなたもたまには指導に来て下さい。忙しいかもしれないが。」「はい。」
 伝子のマンション。「で、そのヒョウ柄女は誰なんです?先輩」「ヨーダ。伝子の代わりに僕が明かすよ。それは、伝子の従妹だ。そうだよね、伝子。」
「そうよ、あなた。」伝子は高遠の肩にもたれ掛かった。
 一同は驚いた。「ええええええ?」
 ―完―

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