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42.ワンダーウーマン、参議院へ

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。巡査部長。
 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。
 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。
 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。
 福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。
 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。
 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師
 南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている、美容師見習い。
 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。
 山城一郎・・・山城の叔父。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。
 橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。
 中津警部補・・・警視庁警部補。
 久保田誠警部補・・・警視庁警部補。あつこの夫。
 久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の叔父。
 青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。
 柴田管理官・・・警視庁管理官。
 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
 高峰圭二元刑事(巡査部長)・・・高峰くるみの別居中の夫。みちるの義兄。

 ========================================

 東野病院。眼科。待合席。患者の一人が両目を押さえて、叫んだ。「目が、目が・・・。」
 伝子のマンション。
 テレビのニュース。「東野病院で、目薬に劇薬が混入された患者が失明しました。政府厚生省は眼科での点眼を中止するように全国の病院に指示、日本眼科医師会、薬品メーカー各団体は調査に乗り出しました。また、厚生省は全国の薬局、薬店、ドラッグストアに販売を中止するよう求め、国民には所謂『転売屋』の高額購入をしないよう注意を呼びかけています。」
「先輩。目薬の要る時、どうすればいいんですか?」と祥子は言った。
「色んな方法がある。目にゴミが入った時は水で洗ってもいいが、多少危険だな。昔はホウ酸水が重宝されたそうだ。今でも安く売っている。洗浄水で洗い流す方法もある。ただ、点眼薬同様、転売屋が買い占めに回るかもな。でも、一つ方法がある。蒸留水を作って貯めておくことだ。ミネラルウォーターを沸騰させて、冷ます。それでいい。」
「アンバサダーは何でも知っているなあ。」と、起動したPCの画面から草薙が言った。
「いきなり、脅かすなよ。」「いい加減、慣れてくださいよ。」
「今回の事件は、テロっぽいですよね。」と高遠が草薙と伝子の会話に割り込んだ。
「プーさんは何て言っているんですか?」と高遠が言うと、「呼んだ?」と理事官が顔を出した。
「いいあだ名つけてくれてありがとう。でも、私は蜂蜜が苦手でね。」
「すみません。学、謝れ。」「申し訳ありません。」
「まあ、いいさ。実は警察庁でもテロの疑いがある、と認定している。ただ、現場を押さえ込まないと解決しない、今のところ、手掛かりはない。関与しそうな人物を監視する位だな。」「公安ですか。」
「うむ。何か分かれば知らせて来る。ただ、これが『いたずら』で無ければ、犯人の犯行声明があるだろう。今のところ、警戒だけだ。」
 画面は勝手に消えた。「冷静に、か。難しいな。」と物部が呟いた。
「そうだ、あつこ警視のかっこいい動画、観ました、副部長?」「なんだ、それ。」「高遠、副部長に見せてやれよ。」と依田がいい、高遠はスマホを渡した。
「凜々しいな、流石警視だ。でも、高峰さんの懲戒免職って重くないか?」
「先輩の事件だけじゃないからですよ、物部さん。」と言いながら、愛宕が奥の部屋から出てきた。上方にランプが点いている。
「どういう意味だ、愛宕氏。」「みちるは、いつも怒っていました。別居を勧めたのも、みちるです。捜査の暴走50件、家ではDV。舞子ちゃんが可愛そうだった。」
「警察官に向いていない。愛宕と真反対だった。」と、伝子は言った。
「そうだ。伝子さん。今日、山城さんの叔父さん、退院日だよね。」
「祝いに行こう。」
 本庄病院。山城の叔父、山城一郎の病室。
 伝子達が行くと、空だった。「山城さんなら、ロビーですよ。」と看護師が言った。
「山城。あ、叔父さん、退院おめでとうございます。」「ありがとうございます。まだ、傷や痣は残っていますけどね。いつまでも順に迷惑かけられないし。それに、大文字さんの探偵助手の一人になったんだから、大文字さんにご迷惑だし。一律教会の残党はまだいるんでしょう?」「いるかも知れませんね。」
「出来れば、根こそぎ、やっつけてやってください。」山城一郎は頭を下げた。
「じゃ、先輩。」「うん、またな。」伝子達は山城と別れた。
「相変わらず、後輩思いだね、大文字さんは。」と、医師がやってきて言った。
「退院、早すぎないですか?」「実は、東野眼科の事件以来、忙しくなって、ね。眼科に看護師や医療助手を増やして対応している。山城さんは、気を遣って早期退院したんだよ。車椅子に乗っている訳じゃ無いから、って。2日に1回通院してくれるようお願いしている。」
 ファミリーレストラン。
 伝子と高遠はステーキセットを食べながら話している。
「池上病院でも同じらしいですよ。電話対応も多くなったとか。」「犯人逮捕は簡単じゃないだろうな。」その時、伝子のスマホが鳴った。ひかるからだった。
「大文字さん、大変です。犯人から犯行声明が出ました。詳しくはネットニュース見てください。」と言って電話は切れた。
「ひかる君は大学卒業したら、警察官になった方がいいな。」「うん。」
「なるほどな。誘拐事件だ。目薬を持った犯人が、誘拐した少女の横にいる。」と伝子はスマホでニュースを確認した。
「帰りましょう、伝子さん。」
 伝子のマンション。
 伝子と高遠がPCの前に到着すると、システムが起動し画面が現れた。理事官が話し始めた。
「まず、誘拐された少女だが、前の交通大臣の孫だ。」「前の交通大臣と言うと、後援会の前で不適切発言があって、更迭された?」と高遠が尋ねると、「そうだ。前の交通大臣の浜中晋太郎の孫、浜中めぐみだ。現閣僚だけマークしていたが、政府に恨みがあるなら、こういう場合もあり得た。」「じゃ、一律教会の残党?」
「いや、小梅党の支援団体の総化学の会から枝分かれした、総化学の会Bだ。思想の食い違いで分かれたが、名前は頓着しないらしい。あ、彼女を特定できたのは、実はEバッジのお陰だ。」
「彼女は渡されていなかったのでは?」「実は、現農業大臣の孫と同級でね、頂戴と言うから渡した、と言うんだ。前回の事件の後、回収しようとしたら、現農業大臣の孫のバッジが未回収と分かり、問い合わせたら、お友達のめぐみに譲渡しました、と返答があった。」
「では、誘拐場所は分かったのでは?」「国会議事堂2キロ以内ということしか分からない。Eバッジは『イージー』だからな。」
「テレビでは、犯行声明、詳しく分かりませんでしたが。」「誘拐事件だから、報道管制を敷いている。総化学の会Bという団体名は、警察庁に当てた文章で知った。内部分裂のことは誰も知らない。」「警察だけに送って来たんですか。」
「そうだ。だから、人質が帰るまでは報道管制だ。総化学の会Aに当たる、総化学の会に尋ねたら、あまりに過激なグループなので、脱会させた、と言っていた。従って、我々は関与していないし、必要資料があれば、いくらでも提供すると言っている。」
「仮にも与党の移民党と連立を組んでいる国政の党の支援団体ですからね。」
「要求は?」と今度は伝子が尋ねた。「身代金1億円。そして、大文字伝子の命、だそうだ。マスコミには1億円のことしか発表していない。」
「ええっ!犯人に伝子さんの存在が知られているってことですか。」
「知っての通り、総化学の会の会員は多い。一律教会の5倍以上は存在する。会員=小梅党の党員だから、組織票ほしさに、未だに移民党は単独与党に切り替えることが出来ない。どんな組織にも、総化学の会の会員はいる。警察内部にも自衛隊にもだ。」
「どこから漏れたか分からない、と。」「いや、そうでもないですよ、アンバサダー。」と、横から草薙が顔を出した。隣国のハッキングですよ。隣国の組織と日本の悪が手を組むと、アンバサダーの情報も売り渡される。EITOのセキュリティは万全だ。でも、政府や官公庁のセキュリティはどうかな?」
「とにかく、もう向こうは君の存在を知って、喧嘩を売ってきたが、どうするね?」
「プーさんは意地が悪いな。金や、投獄中の悪との交換じゃなくて、私との交換ですね?」と、伝子は応えた。
「だが、EITOのことは知られていない。そこが作戦のミソだな。」
「堀井情報かな?国賓館事件の時の。」「かも知れんな。」
「理事官。30分、時間を頂けますか?」「30分?短いな。」「じゃ、1日。」「30分でいい。」
 Linenでの作戦会議が始まった。「つまり、国賓館事件の時のように、敵の道を塞ぐんだな。」と物部が言った。「うん。どうせ向こうから、時間は指定して来るだろうが、あらましは決めておかないとな。」メンバーから『了解』の返事が来た。
 1時間後。警視庁。総監室。
 電話が鳴った。あつこが出た。あつこは伝子に目で合図を送った。「お待ちください。」あつこは電話を副総監に渡した。
「ああ。君かね。ウチのSPと人質を交換したがっているのは。金だけじゃダメか?」
「面白い警視総監だな。」「知らんのかな?警視総監は長期入院中だ。用件は副総監の私が聞く。」
「訂正しよう。面白い副総監だな。明日、正午。大文字伝子を『なごみ埠頭』に連れてこい。いや、違うな。大文字伝子が1億円を持って『なごみ埠頭』に来るんだ。こちらは、人質を連れて行く。」「面白い男だな。」「お互い様だな。」
 伝子のマンション。理事官が、犯人からの要求を伝子に伝えた。
「約束を守るかな?」と伝子が言うと、「悪党にそれを期待するのかね?」と理事官が返した。
「新しい情報が入りました。ある市民団体が『消費税撤廃』を求めて、国賓館前から国会議事堂に向かってデモをやるそうです。多分、その団体が総化学の会Bと思われます。時間は明日正午。」
「詰まり、国会議事堂でテロを働く積もりか。私に行かせない為に足止めか。作戦の立て直しが必要だな。」
 夕方。テレビで久保田管理官が記者会見を行っている。
「犯人は身代金1億円を用意しろと言って来ている。明日中に日時指定などを言って来るだろう。マスコミの皆さんは、事件解決まで、身内の方々は勿論、政府への取材は控えて欲しい。人命がかかっている。では。」
 翌日正午。
『消費税を止めろ』と書いたプラカードを持ったり、ゼッケンに『消費税はもうごめんだ』と書いたシャツを着たりした一団がデモを始めた。
 同時刻。なごみ埠頭に大文字伝子は現れた。OLがよく着る黒いフォーマルスーツを着て、眼鏡をかけている。
 男が現れた。目隠しされロープに繋がれた女子大生を連れて来ている。
「大文字か。」「大文字だ。」「金は?」「持って来た。」
 1億円の金と、人質の交換が行われた。女子大生は、後方に控えていた女性警察官に保護された。男は金を確認すると、伝子をロープで縛り上げ、こう言った。「約束は守ったぜ、一応はな。」
 女子大生は、女性警察官を振り切って、男の方に走った。「そこまでだ!」と女性警察官は言った。
 午後1時。デモの1団は、国会議事堂前に到着するや否や、議事堂の門内に侵入した。警備員や警察官には拳銃で応戦した。
 彼らは四方八方に散って、議事堂内に侵入した。
 同じく午後1時。伝子のマンション。
「高遠さん、公安との協力体制でアジトを特定。捜査1課が踏み込みました。こういう時に活躍出来た筈なのになあ、高峰さんは」
 同じく午後1時。なごみ埠頭。
 女性警察官は、ヌンチャクを持って向かって来た。女子大生に化けていた、誘拐犯の仲間に伝子はトンフアーで対峙した。
 男の方は、OLがロープを解いていたのに気づいて、羽交い締めにしようとした。OLは男を振りほどいて、1本背負いで投げ飛ばした。
 同じく午後1時。国会議事堂内。
 至る所にワンダーウーマンの格好をした女性がいて、一団の拳銃を交わして闘っていた。形勢振りと見て、議事堂の外に出た男達がいた。その時、男達は悟った。自分たちは「追い詰められたネズミだった」ことを。ジュラルミン盾の機動隊、後に続く警官隊、外の道路の周りには、大きなトレーラーや車が何台も連ねられ、バリケードが何重にも出来ていた。バリケードの車には、物部達の車も参加していた。
 蟻の這い出る隙間も無かった。
 午後1時半。
 捜査1課に転属した中津警部補は部下達と共に、所謂ガサ入れをした。
 女子大生のめぐみはベッドに横たわっていた。ベッドの上方から、薬がまるで点滴のように彼女の目に向かって落ちていた。中津はすぐに池上医師に連絡をした。
「先生。この薬、本当に3滴でいいんですか。」「はい。後は病院で処置します。点眼したら、すぐに救急車を。」
 中津はベッドの位置をずらし、池上医師から処方された『中和薬』を3滴、めぐみの目に垂らし、「おい、救急車だ。」と部下に怒鳴った。
 午後2時。伝子のマンション。
「高遠さん、人質は無事保護。池上先生の薬って、いつ出来たんですか?」中津警部補は尋ねた。
「池上先生は、NASAの医療研究所で働いていた事があって、今回の劇薬はアメリカで流行って日本に入ったことから、万一の場合に備えて中和剤の開発はされていたようなんです。それでアメリカ空軍から空輸され、空自経由でEITOに届きました。あ。ご栄転おめでとうございます。」「ありがとうございます。ありがとうございました。」中津は礼を言った。
「理事官、聞いての通りです。元大臣ほか関係者の対処をお願いします。」「心得た。」
 午後2時半。なごみ埠頭。
 OLに化けていた、あつこは誘拐犯、つまり、一味のボスに手錠をかけた。女性警察官に化けていた伝子は、女子大生に化けていた隣国人女性を倒し、久保田警部補に引き渡した。
 連行されていく隣国人女性は、ボスに向かって中国語で毒を吐いた。「あんたは上も下も役立たずよ!!」
 午後3時。
 国会議事堂の上方にオスプレイが現れ、ワンダーウーマンが飛び降りた。
 ワンダーウーマンが中に入ると、殆どの一味が連行されて行くところだった。
「ワンダーウーマン、参議院会議場に行って下さい。」と、ワンダーウーマン姿の増田3尉が言った。
 参議院会議場では、『ワンダーウーマン姿のなぎさ』と、『ワンダーウーマン姿のみちる』が、一人の大男に苦戦していた。
『ワンダーウーマンの伝子』が号令をかけた。「行くわよ、櫓アタック、ワン、ツー、スリー!!」
 残りのワンダーウーマン二人は向かい合って、お互いの腕を交差した、ワンダーウーマンの伝子は、その組んだ腕を踏み台にして、大男にフライングニープレスを見舞った。
 どこからか、手錠が飛んできた。それをキャッチしたみちるが大男に手錠をかけた。
「遅い!!」投げた愛宕は謝った。
 それを見ていた柴田管理官が拍手した。後から駆けつけた警察官が大男を連行し、柴田管理官が言った。「相変わらず見事だ。」「確かに。」
 並び立った青山警部補が言った。
 伝子のマンション。
「DDの諸君は見せ場がなくて残念だった。」
「いいですよ、俺たちも参加したんだし。」と物部が言った。
「やはり、総化学の会Bは隣国組織と繋がっていたよ。その事実の判明と同時に、大文字伝子の存在は有名になってしまったのも事実だが。」
「後戻りしようと思ってませんよ。」と、伝子は言った。
「そうだ、物部。明日部長の墓参りに皆で行こう。」
「ああ。いいな。蘇我に報告することありすぎだな。高遠、まとめろよ。」
「ええ?」「文章と言えば高遠だろう。」と物部が言った。
「文章と言えば高遠だろう。」と依田が言った。
「文章と言えば高遠だろう。」と福本が言った。
「文章と言えば高遠君よね。」と栞が言った。
「文章と言えば学。今夜中にやっとけよ。子作りはその後でいい。」
 場内は静まりかえった後、爆笑の渦になった。
 ―完―
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