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19.ワンダーウーマン出没

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。
 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。
 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。交通課巡査。
 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。宅配便ドライバーをしている。
 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。
 福本(鈴木)祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。
 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。
 逢坂栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。
 南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤めている、美容師見習い。
 久保田刑事(久保田警部補)・・・愛宕の丸髷署先輩。相棒。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。
 久保田管理官・・・久保田警部補の叔父。
 藤井康子・・・伝子の隣人。
 橘なぎさ一佐・・・陸自隊員。祖父は副総監と小学校同級生。

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「嫌よ!嫌!嫌!嫌!」と久保田あつここと通称渡辺あつこは叫んでいた。明日からは新婚旅行。結婚式を挙げてからすぐに新婚旅行に行かなかったのは、事件も絡んでいたものの、そもそも新居に引っ越してから行く予定だったのだ。
 あつこが怒っていたのは、久保田管理官から、ある任務を拝命したからだ。「新婚旅行は一生に一度よ。やり直せないのよ、分かっているの、まこちゃん。」
「分かっているけどさ。君も警察に奉職しているんだから、分かるだろ?上意下達ってやつ。」「分かっているから腹立たしいのよ。こんなことになるのなら、引っ越す前に行けば良かったわ。」
「これ、辞令ね。後は頼むよ、誠。」と管理官は言って去って行った。
「誠っ!来なさい!!こうなったらセックスしまくってやる。」ネグリジェを着たままのあつこは夫の久保田の耳を掴んで、寝室に引きずって行った。
 翌日。都内某所1。
 宝石店から逃走する泥棒達。彼らは電動キックボードを駆り、バラバラの方向に疾走していた。その内の1台を追って、馬が走っていた。いや、ワンダーウーマンの格好をし、眼に赤いマスクを身につけた渡辺あつこが乗馬で追っていた。
 瞬く間にビルを縫って走っていた電動キックボードをあつこは追い抜き、手錠を近くの車と犯人にかけた。そして、宝石店に引き返し、違う方向に逃げた電動キックボードに追いつき、同様の手錠繋ぎをし、最後の電動キックボードに追いつき、また手錠繋ぎをした。
 宝石店に戻ると、すぐに馬を夫の久保田に渡した。久保田はどこかへ去り、あつこもいずこかへ消えた。マスコミがやってきたが、彼女が消えた後だった。
 後日、高遠達がニュースで見たワンダーウーマンの画像は、近くにたまたまいた若者のネット画像だった。
 翌日。都内某所2。
 雑居ビルが燃えていた。消防が狭い路地が多すぎてなかなか入れない。どこからともなくやってきたワンダーウーマンが馬から下りて、はしご車を上っていく。ビルの5メートル先まではしご車が来たが、路地が狭すぎて入れない。5階の非常階段踊り場で下に降りれないビルの社員がいた。ワンダーウーマン、いや、あつこは彼を連れ、屋上に逃げた。
 屋上に待機していたヘリの縄梯子に彼を固定したあつこは隣のビルに跳んだ。ヘリは上空に消えていった。
 翌日。都内某所3。
 川遊びをしていた親子が流された。馬に乗ってやって来たワンダーウーマンの扮装のあつこはロープの端を木にくくり、ロープを口に咥えて川に飛び込んだ。岩にしがみついていた親子にロープをかけた。後からやってきた警察官達が木のロープに重機に繋がったロープを結び、重機は後退しながら、親子を引き上げた。次いで、あつこも引き上げられた。
 翌日。都内某所4。
 ノックアウト強盗が女性を襲った。ノックアウトされたのは、強盗の方だった。
「真実のロープの前で真実を述べよ。」そう言った、あつこに強盗はすらすらと悪事を白状した。録音したボイスレコーダーを残し、ワンダーウーマン姿のあつこは去った。
 翌日。都内某所5。スーパー駐車場。車上荒らしの男が警備員に見つかったが、荒らしていた車で逃走。猛然と逃げ続けた。
 突然、車の前に馬が現れて、男は急ブレーキをかけた。馬から下りてきたワンダーウーマン姿のあつこは往復ビンタを男に食らわし、持っていたロープを使って、男と車を繋ぎ、馬にまた跨がり、悠然と去って行った。警察のパトカーが到着した時にはもういなかった。
 翌日。都内某所6。男は、通りがかった女からハンドバッグを奪おうとした。女は悲鳴を上げ、駆けつけたワンダーウーマンの姿のあつこは『素手』でノックアウトさせた。すかさず去ったあつことは反対側の方向から警察官たちがやって来て、その男を逮捕した。
 男が抵抗を見せたので、警察官の一人がある方向を指さした。防犯カメラだった。
 翌日。都内某所7。女はレイプされる寸前だった。男は女の上着を剥ぎ取り、ブラウスやスカートをナイフで切り裂き、涎を垂らして近寄って行った。
「そこまでだ!」男が振り向くと、いきなりラリアートをかまされた。「早く逃げて!」「ありがとう、ワンダーウーマン。」と言って女は逃げた。
 失神した男を近くの電柱に荷造りロープで縛り、撮った写真をあつこはEnstagramで送った。
 男の首には『この男、レイプし損なった変態』というプレートが下がっていた。
 翌日。都内某所8。横綱の優勝パレードが出発しようとしていた。暴漢が横綱に突進しようとしたが、ワンダーウーマンのあつこがナイフを叩き落とし、暴漢に張り手をかました。横綱は、思わず「ごっつぁんです!」と挨拶した。
 翌日。都内某所9。首都高速をスーパーカーであおり運転する車があった。
 その車の隣に並び、急ハンドルで路肩側に追い込んだ車があった。
 ガードレールにたっぷりと傷をつけられたスーパーカーの運転手が降りてきた。
 運転席にいた女は眼にマスクを着けたワンダーウーマンのあつこだった。「何かようか?あおり運転野郎。」
 あつこは降りるなり、男の股間を3発蹴った。白バイがやって来た。男が何か言おうとしたが、「何かありましたか、隊長。」「指名手配犯を追っていたが、この馬鹿の妨害で取り逃がした。」「公務執行妨害ですね。」と、白バイの女性警察官が無線で何やら連絡した。程なくパトカーが2台やって来て、男は逮捕され、連行された。レッカー車も到着した。
 翌日。名古屋市内。滝田会を襲撃する有本組。両者は元々1つの反社組織だったが、分裂した。激しい抗争が始まった。
 そこへ、馬に乗ったワンダーウーマンを先頭に、バイクに乗ったワンダーウーマン、オープンカーに乗ったワンダーウーマンの一隊が到着した。そして、オスプレイが上空に現れた。ヤクザ達は、目の前にいる対抗組織やワンダーウーマン達より前に、オスプレイを打ち落とそうと躍起になった。
 オスプレイから縄梯子で降りて来たのは、やはりワンダーウーマンの格好をした女だった。
 ヤクザ達はめくら撃ちを始めたが、車や馬から下りたワンダーウーマン達の敵ではなかった。伝子は三節棍を使い、あつこはヌンチャクを使った。オスプレイから降りたワンダーウーマンはトンファーを使った。
 十数分後、何台ものパトカーが到着した。全ての組員が逮捕連行された。
 陰で見ていた男の肩を叩くワンダーウーマンがいた。眼のマスクを取った、大文字伝子だった。もう一人のワンダーウーマンが眼のマスクを取った。あつこだった。あつこは、いきなり一本背負いをかけた。伝子は拍手して言った。「お見事!」
 その現場から少し離れた場所でスナイパーがライフルを構えていたが、誰が標的か分からないので、引き上げようとしていた。久保田刑事と愛宕がすかさず逮捕した。
 翌日。伝子のマンション。
「というお話。管理官が警察内部にスパイがいるって言ってただろう?それが、その男、堀井。スナイパーの名前はまだ分からない。」
「じゃ、国賓館襲撃の黒幕?」と依田が尋ねた。「そして、サチコ襲撃の黒幕。」入って来た久保田管理官が説明した。「今回は、念入りの作戦だった。大文字夫妻の大手柄だな。」久保田刑事、愛宕、みちるも入って来た。
「え?高遠も知ってたのか?」「うん。筋書きは僕が考えた。僕らに送ってきた不思議な写真は、管理官が地元警察から送ってきた写真を僕がコラージュしたものだ。」
「敵を欺く為にはまず味方から、って昔から言うだろう?」と伝子が言った。
「私はギリギリまで替え玉。影武者ね。堀井は私とチームを組んでいたの。ヤクザ達の抗争は予め決まっていた。昔と違って『仁義ある戦い』なのよ。反社も普通の会社組織と変わらない。小さい所はいつも人手不足。だから、『短期派遣』が多い。半グレの方がまだましかも。とにかく、抗争の日は決まっていた。銃弾も最初の数十発だけ。後は空砲。おねえさまを狙っていたスナイパーの分は実弾だけどね。」あつこはため息を吐いた。
「ゴールが決まっていたからこそ、大文字伝子が10日間、ここそこに現れて抗争の日の当日は爆発エネルギーで奴らを一網打尽。そんな情報を流しておいた、スパイに。で、ヤクザ達はワンダーウーマンを返り討ちにして名を上げる予定だった。」と、久保田刑事は続けた。
「そこで、高遠さんが作った偽情報をどう扱うかで堀井の様子を伺った。」と愛宕が言うと、「公安は既に眼をつけていたのよ、堀井に。」とみちるが続けた。
「ワンダーウーマン軍団は、正しく『聞いてないよー』って状況だった。私は9日間、ずっと、ここにいた。仕事で缶詰だった。」と、伝子は言った。
「何しろ、大文字君は文武両道だし、悪党を蹴散らすのも得意だが、民間人の大文字伝子は隠し球にする必要があった。標的にされていたし。」と、管理官は言った。
「それで、渡辺警視が替え玉作戦を堀井に教えながら、監視していた、と。そうか。不自然な気がしていたんだ。ニュースで川に流されて、どうしてワンダーウーマンが駆けつけることが出来るんだろうって思ってた。先輩に予知能力がある訳じゃなし。あれ、ヤラセですか?」と福本が言った。
「それと、何で先輩がレイプ事件に駆けつけることが出来たのか?って思ったわ。このニュースは変、って思った。」と祥子が言った。
「夫婦揃って鋭いね。毎日続けて事件が起こるとは限らないからね。ノックアアウト強盗も、今はあまり流行らないし。コロニー流行ってから、減ったんだよ。」と、管理官は言った。
「警察の色んな部署が動いて・・・あ、オスプレイ。」と依田が叫んだ。
「あれは、副総監のコネだよ。」「はい、コネの橘一佐です。」と、女性自衛隊員が入って来て言った。
「ウチのインターホン、壊れていないんだけどな。」と伝子は呟いた。
「大文字伝子探偵。ぶっつけ本番は私の得意とする所ですが、あなたのあの動きは素晴らしかったです。流石、副総監が眼をつけるだけのことはあるな、と感心しました。因みに、私の祖父は副総監と同級生です、小学校の。」と橘は言った。
「何か盛り上がってるなあ。大文字が分身の術使えるとは思わなかったなあ。」と、物部が言いながら入って来た。「副部長。それどういうことです?」と福本が尋ねたが、返答したのは栞だった。「ニュースで流れているわ。私は本物を見分けられたけどね。」
「ニュース。報道管制敷いたのに、どこが抜け駆けしたんだろう?困ったな。」と久保田管理官は頭を抱えて帰って行った。
「インターネットよ。誰か撮影した人がいたのね。」と大文字綾子が言った。
「あ。みんな。当店でも公表だった、煎餅。ネット注文でひっぱりだこだそうだ。藤井さんのお陰だな。」
「ありがとう。大盤振る舞いよ。」と段ボール箱に入った煎餅を藤井の後ろから南原と蘭が運んで来た。
 依田が、煎餅を頬張りながら久保田刑事に尋ねた。「話に久保田刑事の登場場面があまりないみたいですね。」「裏方だよ。それ以上は聞かないで。」と、久保田刑事も煎餅を囓った。
「あ、おねえさま。掛け合って頂いたお陰で、『本物の』新婚旅行ゲットしました。明日から20日間。」「おめでとう。」
 おめでとう、の声は大きく輪唱した。
 ―完―


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