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18.通信士ヘレン

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 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。
 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。総子からは『兄ちゃん』と呼ばれている。
 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。
 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。
 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。
 愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。EITOエンジェルスの後方支援担当になった。
 白井紀子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。ある事件で総子と再会、EITOに就職した。
 芦屋一美警部・・・大阪府警テロ対策室勤務の警部。総子からは『ひとみネエ』と呼ばれている。
 芦屋二美(ふたみ)二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。総子からは『ふたみネエ』と呼ばれている。
 芦屋三美(みつみ)・・・芦屋財閥総帥。総合商社芦屋会長。EITO大阪支部のスポンサー。総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。
 南部寅次郎・・・南部興信所所長。総子の夫。
 幸田仙太郎所員・・・南部興信所所員。総子のことを「お嬢」と呼ぶ。
 花菱綾人所員・・・南部興信所所員。元大阪阿倍野署の刑事。
 倉持悦司所員・・・南部興信所所員。
 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。
 横山鞭撻警部補・・・大阪府警の刑事。大阪府警テロ対策室に移動。
 指原ヘレン・・・元EITO大阪支部メンバー。愛川いずみに変わって通信担当のEITO隊員になった。
 花菱所員・・・元大阪阿倍野署の刑事。今は南部興信所所員。
 佐々一郎巡査部長・・・曽根崎署刑事。横山と同期。
 本郷弥生2等陸佐・・・陸自からのEITO大阪支部出向。

 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =
 ==EITOエンジェルズとは、女性だけのEITO大阪支部精鋭部隊である。==

 午前9時。EITO大阪支部。会議室。
 いずみとヘレンは、並んで立った。
「今日から、ヘレンは通信士や。いずみは、EITOエンジェルや。二美と弥生と3人で後方支援班や。2人とも、新しい制服、よう似合ってるで。チーフ、挨拶。」
 大前の言葉に、総子は「頑張ろな。」と言った。
 大前はずっこけて、「それだけかい、総子。訓示は無いんかい。」と突っ込んだ。
「ありがとう、コマンダー、総ちゃん。復帰なんて夢のようや。よろしゅう頼みます。」
「私も、心機一転、頑張ります。妹には負けません。」といずみは言い、弥生も「私も弟に負けません。」と言った。
「よっしゃ。その意気や。」
 アラームが鳴った。ヘレンは急いで司令室に戻った。大前達も移動した。
「小柳警視正です。画面に出します。」ヘレンはテキパキと仕事をした。
「大前君。朝っぱらから済まんな。実は、ニュースにはなっていないが、市内の神社が、墨をかけられたり、ペイントをかけられたりの被害、詰まり、『ケガレ犯』が昨日までに3件続出している。時間は正午から午後3時までの間。付近の防犯カメラから、割り出された。各神社の神職から、相談が寄せられている。今までのように、日本人が嫌いな反日思想の者と簡単に決めつける訳にもいかない。」
「何かの陽動の場合もあり得る、と。」「うむ。えだは会の生き残りがいる場合、オクトパスの触手が、いや、脚が伸びた場合も考慮する必要がある。兎に角、1件でもいいから、食い止めてくれ。」
「了解しました。」大前は通信が切れると、「総子、班分けや。」と言い、皆で会議室に集まった。
 大前は、紀子が用意した大阪市内の神社にマークを付け、一美が、ホワイトボードに書き出した。

 1.露天神社(お初天神)・・・曾根崎
 2.サムハラ神社・・・立売堀(いたちぼり)
 3.少彦名神社・・・道修町(どしょうまち)
 4.宝珠院・・・与力町
 5.法善寺・・・難波
 6.難波神社・・・博労町(ばくろちょう)
 7,崇禅寺・・・東中島
 8,愛染堂・・・夕陽丘街⇒あいぜんさん、と呼ばれる
 9.三光神社・・・玉造本町
 10.杭全(くまた)神社・・・平野宮町

「あ。兄ちゃん、天神さんと今宮戎が入ってへん。」と、総子が言った。
「その2つは大きいから目立つ。すぐ捕まるやないか。」と、大前は言った。
「2人1組で班分けやな。ホバーバイク班は、駆けつけやすいとこで待機やな。」
「コマンダー。私も参加させて貰えますかな。銃火器を持ってないようなら、相手が私もお役に立てるかも知れない。」
 入って来たのは、剣道指導に来ている、松本だった。「喜んで。」と、大前は笑った。
 正午。北区曾根崎。お初天神。
 横山警部補と佐々巡査部長は、先日爆破された雑居ビルの前にいた。
「瓦礫は、おおかた片付いたな。ここ、跡地になんか出来るんか?」
「角地の三角地帯。なかなかテナント入りにくい土地やから、地主は頭悩ませているらしい。」
「あ。佐々ヤン。あそこ。」「丸見えやな。そうか、雑居ビルがある頃は死角やったんや。」
 2人は、そっと近づいた。
 2人の若者は、気づいて、逃げようとした。
 佐々と横山は、素早く取り押さえ、手錠をかけた。
「俺ら、何もしてへんやんけ。」「しようとしてても罪になるな。」佐々が言うと、横山が「スプレー缶か。仰山持ってるな。アーチストやなあ、自分?」と、捕まえた男に言った。
「そ。そや。塀に落書きしようとしたんや。鳥居にかける積もりなんかないんや。」
 佐々は、ICレコーダーの停止ボタンを押した。横山はDDバッジを押した。
「取り調べ担当は、楽やナア。」「時代は変わったで。」2人は笑った。
 今回は、EITO大阪支部主導だ。それで、大前は2人のDDバッジを届けさせた。
 DDバッジバッジとは、元々、陸自が開発して、主に災害救助用の連絡手段としていたバッジをEITOが改造したもので、DDバッジを押すだけで、待機しているオスプレイを通じて、EITOに連絡が入ることになっている。超小型のICレコーダーは、東京の本郷隼人が開発したものだった。大前は、これも、各班のメンバーに配った。
 正午。西区立売堀(いたちぼり)。サムハラ神社。
 EITOエンジェルスの姿の祐子と稽古が見張っていると、女子高生が鞄をゴソゴソとしている。
「何か探しもんか?てつどうたるで。」と、祐子が声をかけると、2人が逃げだそうとした。稽古がすかさず、2人の靴の前にシューターを投げた。シューターは、うろこ形の手裏剣で、先に痺れ薬が塗ってある。文字通り、相手の足止めに使う。
「う、動かれへん。何すんねん!」高校生の1人が訴えたが、「何しようとしてたんかなあ。ケチャップとマスタード?」と鞄の中身を開けた祐子が笑い出した。
「何いしようとしてたん?」「は、ハンバーガーや。」「ハンバーガー?入ってへんで。大体どこのハンバーガー屋さんでも、ケチャップとマスタード足らんかったら、言うたらくれるで。鳥居の前でハンバーガー。映えるか?」
 稽古はDDバッジを押した。間もなく、オスプレイを通じてEITOに連絡が行き、警官隊が到着するだろう。
 正午。中央区道修町(どじょうまち)。少彦名(すくなひこな)神社。
 北浜道修町にある少彦名神社は「神農さん」の愛称で皆様に親しまれ、日本医薬の祖神・少彦名命と中国医薬の祖神・炎帝神農をお祀りし、日本医薬総鎮守として信仰されている。7月中にお参りすることを『夏詣(なつもうで)』と呼び、7月1日から7月7日までを『七夕祭』として、短冊を奉納することになっている。
 地元でもある、悦子とあゆみは、EITOエンジェルスの姿のまま、ついお参りをした。
 それが、幸いした。奉納する短冊がある箱に、ライターを近づける若者がいた。
「火遊びしたら、寝ションベン垂れるで。」と悦子が言い、あゆみがライターを取り上げ、DDバッジを押した。
 よく見ると、日本人の若者ではない。リュックを背負った、その若者は叫んだ。
「神様はアッラーだけだ。この宗教は間違っているんだ!」
 日本語を話せるのに、日本のことを知らなすぎる若者に悦子は呆れた。
 更に叫ぶ若者に、あゆみは平手打ちをした。神職がやって来た。あゆみは、しまったと思った。
 が、「どこの国、どこの民族にも『信仰の対象』はあります。日本には色んな神様仏様がおられ、人それぞれ、自分の信仰する対象に手を合せます。あなたが手を合せたかったのは、残念ながら、ここでは無かったようです。警察の方には、こう言いなさい。場所を間違えた、と。ただ、ライターは言い訳がしにくいかな?」
 警官隊がやって来て、若者は連行された。
 後に残った、あゆみと悦子に「お勤めご苦労様です。『ケガレ犯』と言うそうですね。変な事が流行ったものです。よろしければ、プライベートでお越しになった時もお参り下さい。」神職は頭を下げ、去って行った。
 正午。与力町。宝珠院。
 与力町の名の由来は、江戸期に大坂町奉行所の主力官僚である与力が当地に屋敷を構えていたことによる。北区東部の丁番を持たない単独町名である。
 大阪市の観光案内マップから大前が抽出したので、お寺が幾つか混じってしまった。
 芦屋三美がいれば、大前は叱られていた。
 どこが狙われるか分からないので、誰も注意をしなかった。
 真知子とみゆきが訪れた時、参拝客の女性二人が、油を撒こうといている女性を取り押さえて、文句を言っている。
 取り押さえられた外国人女性は、何やら外国語で喚いている。
 エマージェンシーガールズ姿のみゆきは、彼女に言った。
「あなたの足下の500円玉は、あなたのものかな?」
 彼女は、つい足下を見た。真知子はDDバッジを押した。「日本語、分かるみたいよ。取り押さえてくれてありがとうね。今、警察が来るからね。」と、みゆきは参拝客の二人に言った。「御朱印帳、汚されたのよね。」と、その一人が言った。
 正午。中央区難波。法善寺。
「包丁いーっぽん。」「何言うてるの?」今日子が真子に言った。
「昔、おじいちゃんが、よう歌っていたわ。」
「まんまやな。観光客が逃げまくっているがな。」2人は、包丁を振り回している、高校生を取り押さえた。真子はDDバッジを押した。
 エマージェンシーガールズやEITOエンジェルスは、逮捕は出来ても、連行取り調べは出来ない。そこで、エマージェンシーガールズ隊長直伝の『指手錠』を使う。
 犯人の両腕を後ろに回し、両方の親指を重ねて、ヘアゴムで括るのだ。
 真子と今日子も、その方法を実行した。
 正午。中央区難波(博労町)。難波神社。
 仁徳天皇ゆかりの神社で、第二次世界対戦の空襲で焼失したのだが、後に再建された。
 境内にはパワースポットと呼ばれる場所もある。
 EITOエンジェルス姿の真美とジュンが狛犬の前で立ちションをしようとしているオッサンを見付けた。
 ジュンがすかさず、水流弾を男の股間目がけて撃った。
 水流弾とは、特殊な液が入った水で、放出すると、グミ状になる。普通の水の放水より、鎮火させやすい。消火器のような泡は跳ばない。
 真美は、男の呼気を確認した。ICレコーダーのスイッチを入れた。
「何してたん?酔っ払ってないよね。」「た、頼まれたんや。」「誰に?」「言えるかい!」
 真美は停止ボタンを押して、男に金蹴りを食らわすポーズをし、空振りした。
 ジュンは、笑いながら、DDバッジを押した。
 正午。東淀川区東中島。崇禅寺。
 行基により創建されたとされる。一美は智子と広い境内を歩いた。
 前方に、バッグを持った女性2人が、御朱印帳を奪われた、と騒ぎながら、こちらに走って来た。そのさらに前方を走る男2人。迷わずEITOエンジェルス姿の一美と智子は男達の脚を引っかけてたおれさせた。
 智子は、DDバッジを押した。一美は、御朱印帳を参拝客の2人に返してやった。
 正午。天王寺区夕陽丘町。愛染堂。
『愛染さん』と親しみを込めて呼ばれる愛染堂勝鬘院は、縁結び・良縁成就・商売繁盛に、ご利益あついパワースポットとして、また名作映画「愛染かつら」のモデルとなった縁結びの霊木が境内に鎮座されている。
 松本と、いずみは剣道着を着て歩いていた。
「昨日は、愛染まつりのパレードで賑やかだったでしょう?」
「ああ、越して来て良かった。亡くなった女房から話には聞いていたが・・・。暑くはないかい?」「いいえ。慣れてますから。それに、この格好していても、仮装している人が歩いている時期だし、目立たないし。」「うむ、だからこそ、妙な・・・。」
 前方に、着物姿で歩いている女性に、ライターを持って近づく男が見えた。
 松本は、いずみに頷くと、その男の手首を竹刀で打った。
「何すんねん!」「ライター、落ちたよ。あんたのかい?ちょっと、警察に来て貰おうかな?」
 男は脱兎のごとく駆けだしたが、いずみの方が早かった。「胴!!」
「一本、それまで!!」松本は、DDバッジを押した。
 正午。天王寺区玉造本町。三光神社。
 三光神社は、大阪市天王寺区の宰相山公園にある神社。大阪七福神の『寿老人』を祀る。かつてこの一帯には真田丸があったため、真田信繁ゆかりの地とされている。
 本郷弥生と、ぎんは、他の参拝客と出会わないから、事件は起こらないだろうと話し合っていた。
 しかし、やはり、そうは行かなかった。中学生らしき5人の男子が今正に『賽銭泥棒』をする瞬間だった。
 弥生は、DDバッジを押し、わざとシャッター音を鳴らして、スマホで撮影した。
「何だ、おまえ・・・げっ、EITOエンジェルス!!逃げろ!!」
 ぎんは、三方向同時にシューターを放った。弥生は、胡椒ガンで残りの2人の肩に胡椒弾を撃った。胡椒弾とは、胡椒等の調味料を丸薬状にしたもので、被弾すると、飛散して、かゆみで立っていることすら困難になる。
「私たちの名前を知っていることだけは、褒めてあげる。でも、罪は軽くならないわよ。」と、弥生は言った。
 正午。平野区平野宮町。杭全(くまた)神社。
 杭全という地名も立売堀同様、大阪の難読漢字の地名に列挙されている。
 夏祭りが毎年7月11 日から14日に行われ、付近の国道25号の走行が規制される。
 金運上昇の神様として知られている神社である。
 この神社は、幸田、花菱、倉持という南部興信所の面々が担当することになった。戦闘や危険が及ぶと判断した場合は、連絡して逃げるように、と小柳警視正や大前に言われている。
「まあ、張り込みは3時頃まで言われても、やっぱり昼時はどこも閑散・・・って、あれ、なんや?」と、幸田は言った。
 参拝客に声をかけて、『福の種』を売りつけている男がいた。
「おいこらオッサン、何も知らんと思って、観光客に福の種売りつけてるんか?」と幸田が言うと、花菱が、「あんたらな。お参りしたら、このお守りはタダで貰えますよ。」と説明した。
 男は相棒らしき男と逃げ出したが、幸田と倉持がねじ伏せた。花菱は、すぐDDバッジを押した。
 こうして、大前が選びだした神社仏閣は無事に終った。
 ところが、同じ頃。
 正午。浪速区元町。難波八阪神社。
 南海難波駅から少し歩いた所にある、こじんまりした神社で、獅子舞の形をした舞台がある。ここが爆発した。時限爆弾である。昼時の閑散とした時機でもあり、死傷者は出なかったが、付近に防犯カメラはなく、手掛かりは爆弾の破片のみだった。
 正しく「白昼の死角」だった。
 消防車の放水が始まった頃は、名物の獅子頭が崩れだしていた。
 午後1時。
 ホバーバイクで駆けつけたEITOエンジェルス姿の総子と二美は、臍を噛んだ。
 インカムに大前の声が響いた。「消防に任せて、帰還してくれ。」
 午後1時。
 大阪府警にメールが届いた。
『コラージュ』という動画サイトを観よ、と書いてあった。
 コラージュには、犯人からのメッセージの動画があった。
 《
 今回は序の口だ。アルフィーズ
 》

 午後3時。
 Tick Tackの動画が公開された。
 《
 大胆なことする奴がいるねえ。僕とは関係ないよ。
 まあ、EITOにとって。小物だな。
 》
 ―完―
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