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32.上がれない階段

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 物部満百合(まゆり)・・・物部一朗太と栞(しおり)の娘。
 久保田健太郎・・・久保田誠とあつこの息子。
 大文字おさむ・・・大文字伝子と学の息子。
 福本めぐみ・・・福本英二と祥子の娘。
 依田悦子・・・依田俊介と慶子の娘。
 服部千香乃(ちかの)・・・服部源一郎とコウの娘。
 南原未玖(みく)・・・南原龍之介と文子(ふみこ)の娘。
 山城みどり・・・山城順と蘭の娘。
 愛宕悦司・・・愛宕寛治とみちるの息子。

 愛宕寛治・・・悦司の父。警視庁警部。
 久保田あつこ・・・警視庁警視正。健太郎の母。
 久保田誠・・・警視庁警部補。健太郎の父。
 草薙あきら・・・元ホワイトハッカーで警視庁からEITOに出向していた職員だったが、今はアマチュア発明家をしている。

 鈴木栄太・・・小学校校長。
 根岸淳・・・副校長。
 藤堂所縁(ゆかり)・・・健太郎の担任。ミラクル9の顧問。

 池上葉子・・・池上病院院長。おさむの父学の後輩彰の母。
 辰巳一郎・・・喫茶店アテロゴのウエイター。

 ==============================
 ==ミラクル9とは、大文字伝子達の子供達が作った、サークルのことである。==
 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 午後3時半。レンタルビデオ店「GERO丸髷店」。
 ある老人が階段を、杖を突きながら上っている。
 階段の踊り場で折り返し、上ろうとしたところで、未就学児らしい子供が階段の手すりを駆け下りてきた。
 子供は、じっと睨んでいる。どうして通してくれないのか、と思ったのか。
 そう思った老人は言った。
「坊や、ごめんよ。おじちゃんはね、杖と手すりがないと上れないんだよ。」
 男の子は、泣き出した。そして、がむしゃらに老人を殴って、突いた。
 老人は、数段下にずり落ち、何とか踏ん張って、その場に立ったが、手すりに寄りかかるのが精一杯だった。
 泣き声を聞きつけ、母親らしき人がやってきた。
「何てことを!幼児虐待ですよ!この子は手すりがないと降りられないんですよ!」
「違うよ、奥さん。」
 荷物を抱えたまま、ヤマトネ運輸の宅配ドライバーが言った。
「その子は、弾みで押したのかも知れないが、おじいさんは虐待したんじゃない。」
「僕らも見てました。おじいさんは、杖を突きながら手すりを持って上ろうとしていた。その子は手すりを持って降りようとしていた。おじいさんが大人だから譲るべき?どうして、おばさんは、一緒に降りてあげなかったの?」
 悦司が母親に抗議した。
「健太郎君、今、救急車呼んだよ。」と、満百合が言った。
 騒ぎを聞きつけ、店員がやって来た。
 宅配ドライバーと悦司が事情を説明した。
 老人が持っていたDVDを確認して、「返却に来られたんですね。返却処理やっておきますよ、中谷さん。」店員はおじいさんに言った。
 宅配ドライバーは、荷物をトラックに急いで積むと、救急車が入りやすいようにトラックを移動した。
 おじいさん、中谷さんは救急隊員によって、救急車に乗った。健太郎は、迷わず『目撃者』として同乗した。
 宅配便は、他の巡回に回り、救急車は去って行った。
 店員は、中谷という名前が後輪の泥よけに書いてあるのを見て、前カゴのバッグを見て躊躇った。
 いくら、常連さんでもバッグを開けるのは・・・。
 そこへ、悦司から連絡を受けた愛宕警部がパトカーでやってきた。
 店員の様子を見て、「私なら問題ないと思いますよ。中谷信也さん、今行った、あの人ですね。ああ、会員証がある。おたくの。後は、生活保護課の者が病院に確認に行きます。あ、おたくらは?」
「父さん、この子が、おじいさんとニアミスしたんだよ。」悦司が説明した。
 その時、悦司のスマホが鳴動した。
「父さん、大前田病院だって。健太郎から連絡メールが来たよ。」
「判った。後は任せておけ。」
 健太郎が、中谷さんの検査結果を待っていると、藤堂と、馴染みの橋爪元警部補がやって来た。橋爪は定年退職したが、警備員をしている。
 そこに、橋爪の後任の佐倉晋太郎警部補がやって来た。
「詳しいことは、健太郎君から話を聞いてくれ。胸を打ったかも知れないということで、今CTを撮影している。」
「了解しました、先輩。」佐倉は、警備員の橋爪に敬礼をし、橋爪も敬礼で返した。
 橋爪と佐倉が去った後、「相変わらず渋いわねえ。お父さんも渋いけど。」と、藤堂が言うので、「タイプなの?先生。」と悦司が揶揄った。
「こら。先生を揶揄うんじゃない。」と、藤堂は拳を握った。
 健太郎達が雑談をしていると、中谷さんの家族がやって来た。
 その家族が佐倉に紹介されている間に、検査室の扉が開いた。
「先生、容態は?」と、中谷の娘の松子が尋ねた。
「先生、こちらは中谷さんの家族です。」と、藤堂が紹介した。
「骨はまあ、少しヒビが入った位だが、あ・・・家族さんだけで。」と言い、看護師と娘夫婦を別室に連れて行った。
「帰ろうか?ミラクル9。」
 皆は、状況を察して、解散した。
 午後7時。愛宕家。
「あ。母さんが帰ってる。バトルは?」「勿論、勝ったわよ。」
「悦司。それで、中谷さんは?」「藤堂先生が、ご家族に聞いたら、内蔵が痛んでいます、って応えたらしい。」
「肺の関係だな。店員さんも、ヤマトネ運輸の宅配ドライバーも、いい人で助かったな。その人、悦子ちゃんのお父さん後輩らしい。ミラクル9のことも知ってたよ。それから、ぶつかった子供の親が、謝罪しに行きたい、って生活安全課に申し出たので、佐倉が中谷さんに確認したら、『お気持ちだけで結構です。元気なお子さんは久しぶりに見ました』、って返事が来たそうだ。中谷さんのお孫さんは、去年亡くなったらしい。」
「人間、どこでどうなるか判らないわね。私たちも、おねえさまに出逢って運命が変わったし。」
 みちるの号令で夕食は始まった。
 みちるは、家庭でも隊長になっていた。
 ―完―

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