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髑髏屋敷にようこそ⑤
しおりを挟むゾイが落ち着いたところで、ようやく話が先に進みました。
といっても、それぞれが私の意見に賛成だという意思表示をしてくれただけなのですけれど。
「ありがとうございます、皆さん! でも、その。あんなに熱心に言っておいてなんですが……こんな私の、ただの欲望を叶えるために動いてくださっていいのでしょうか?」
「ぶはっ、ハナ様、やめとくれって……」
「ああっゾイ、しっかり! そうは言われましても、なにがゾイのツボにはまるのか私にはさっぱりですよぅ!」
私が慌ててそう告げると、ゾイはますます笑ってしまいます。どうして!
だ、だって、さすがに引かれてもおかしくないテンションだったなって。冷静になると恥ずかしくなってしまうのですよ。直したいんですけどね?
でもエドウィン様のこととなると抑えられないのです、仕方ないのです。
「なんだかハナ様を見ていると、あまり難しく考えなくてもいいんじゃないかって思えてきますよ」
そんな私とゾイのやり取りを苦笑しながら見ていたモルトさんが、頭を掻きながらそんなことを言いました。
やや呆れられていますね……! 無理もないので甘んじて受け止めます。
「い、いい意味でですからね!? 俺たちにとって、領主様は雲の上の存在って感じだったんで……あまり身構えずにいた方がエドウィン様のためにもなるのかもなぁ、って。おこがましくもそう思っちまったんです」
「あ、そういう話でしたか」
私がしょんぼりしていたからでしょうか。モルトさんが慌てて両手を振っています。気遣いが心に沁みますね。優しい方です。
でも……確かに、私も別の領主様が相手だと思うとピシッと畏まってしまいますね。それが一般的な認識でしょう。とても気軽に接しすることなんて出来ないって思います。
あ、なんだか私、ギャレック家に来て少し気が大きくなっていたのかもしれません。
エドウィン様に会って、親しくなれたから。私が偉くなったわけではないのに。
いえ、立場としては偉くなったのでしょうけれど、そうではなく!
……謙虚にいようと思っていながら、自分の感覚で物事を進めていたように思います。暴走気味だったと今更ながらに反省です。
「私はただ、普段のエドウィン様の様子を見る機会があったものですから。ああ、彼も私たちと同じなんだなって気付いただけです。普通の人と同じように悩んだり、傷ついたりするのだと」
どうしようもない彼の体質のせいで、人を必要以上に避けざるをえないだけで。
私が呟くように告げると、皆さんがハッと息を呑むのがわかりました。
ですよね、忘れがちですよね。私だって、直接会うまでは同じでした。
本当は、寂しい思いをしていたんじゃないかと思います。これは、私の想像でしかないのですけれど。
だから、私の体質がエドウィン様の助けになれると知ってとても嬉しいですし、ずっとお側にいたいと思います。
でも、私だけでいいはずありません。
「せめて、エドウィン様の領民を思う気持ちを、領民の皆さんにもっとわかってもらいたいのですよ。今も感謝はされているでしょうけれど、もっともっと好きになってもらいたいのです」
そしていつか、国中の認識を変えられたらと願うのです。ほんの少しだけでも。
「彼に対する恐怖をなくして、とは言いません。今のエドウィン様のお立場を守るためにはそれも必要なことでしょうし。ですからせめて、誰彼構わず恐怖を振りまくような人物ではないのだと……守るべきものを誰よりも大切に思う心の温かな人なのだとわかってもらいたいのです。ただ怖いからというだけで、誤解されたままなのはとても悲しいですから」
そう、ほんの少しだけでいいのです。必要以上に避けたり、嫌ったりされなければそれで十分。
……願わくば、私の家族にも。祝福できないなら仕方ありませんが、誤解だけはされたままでいたくありません。
「ですから私の影響で、少しでもそう思ってくれたのなら嬉しいです。ありがとうございます、モルトさん」
だからこそ、モルトさんの認識の変化がとても嬉しく思いました。私にも、できることがあるんだって思えましたからね!
「でも、私の自分勝手な願望を押し付けているだけなのかもしれませんけれど……」
「そんなこと……」
あ、なんだか悲しくなってきました。私って思い込んだら突き進んでしまうタイプで……今回もまた、良かれと思って勝手にあれこれ言い過ぎたかもしれません。
勝手に一人でギャレック領に来て、あれだけご迷惑をかけたというのに懲りないですよね、私。
ありがた迷惑ってヤツなのかも……。エドウィン様は、今の立場を守るためにグッと堪えていらっしゃるのに、それを台無しにしてしまう行為なのかもしれません。
「ハナ様……」
先ほどから、心配そうに声をかけてくれていたコレットさんの声でハッとします。
ダメダメ、せっかく楽しんでもらいたくてお呼びしたのに盛り下げてしまっては!
「えへへ! 押し付けすぎないようにほどほどに、ですよね! ちゃんと気を付けますから! 皆さんも、何かの話のついでで構いませんので。私が頼んだからってあまり気負わないでくださいね」
私が下手くそな作り笑いを浮かべてそう告げると、皆さんも曖昧に微笑んでくださいました。ああ、もっと取り繕うのが上手なら良かったのですけれど。
「ハナ様、私はハナ様のお考えを支持しますよ! いいじゃないですか、押し付けだって! それは愛と呼ぶんですよぅ!」
「私もそう思います。ですが、ハナ様が気になさるなら、私たちもよく考えて行動しますから安心してください」
「コレットさん、リタさん……」
お、お優しいっ! うっかり涙が滲んでしまうではないですか!
ちらっと視線をずらすと、モルトさんやローランドさんもこちらを労わるような優しい目で見てくださっています。
き、気を遣わせてしまいました! でも、でも。
「ありがとうございます、皆さん! 改めて、今日はいらしてくださって嬉しかったです!」
「……こちらこそ。お呼びくださりありがとうございました、ハナ様」
滲んだ涙がこぼれる前に笑顔でそう告げると、代表してモルトさんが頭を下げてくれました。
本当に素敵な方々ですね! 良い人たちと縁が持てて、私は幸せ者です!
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