上 下
40 / 54

手繋ぎ初デート①

しおりを挟む

 あとは二人でしっかりとお話しください、とだけ告げ、マイルズさんは硬直した私たち二人をその場に残して給仕のお仕事へ向かってしまいました。無慈悲っ!
 下手したらマイルズさんがお料理を運びに来た時も、まだこの状態かもしれません。ど、どうしたら……?

 おかしいですね……私、初対面の相手でもお喋りが盛り上がるくらいには社交的なはずですのに。
 お相手がエドウィン様だというだけで、今まで出来ていたことも出来なくなるなんて思ってもみませんでした。

 恋の力、恐るべし……!

 気まずい空気が流れる中、ようやく立ったままだったエドウィン様がご自分の席へと向かいました。歩き方がどこかぎこちないです。
 それを見ていたら、なんだかちょっと癒されました。戸惑っていたのは私だけではないとわかりましたから、安心したとも言えます。

 エドウィン様が席に着くと、ちょうど私と向かい合う形になります。
 テーブルの端と端なので距離が少し空いているのが救いかもしれませんが……このご尊顔を見ながら食事だなんて贅沢すぎますね。ちゃんと食事が喉を通るか心配です。
 いえ、食いしん坊なのでたぶん大丈夫でしょうけれど。

「……先ほどの、話しだが」
「ひゃ、ひゃいっ」

 静かな空間では、小声での呟きもはっきりと聞こえてきます。急にお声を聞いたので、私はおかしな声を上げてしまいましたが。

 でも、そのおかげでエドウィン様のどこか硬くなっていたお顔が緩んだ気がするのでオッケーです。
 そのかわいすぎる笑顔を見られるのなら、いくらでも笑い者になりますよ、私は!

「街の散策に、付き合ってもらえないだろうか。ただ、マイルズも言ったように、その、常に手を繋ぐことに、なるのだが……」

 少しだけ顔を逸らしたエドウィン様でしたが、一度言葉を切ると目だけをこちらに向けました。
 彼の緊張がこちらにまで伝わってきます。お顔が赤い……私も負けていないと思いますけれど。

「本音を言うなら、俺は行きたい。一度でいいから、街をこの足で歩き、この目で……近くで見たいんだ」

 相変わらず緊張した様子ではありますが、その青い瞳からは強い決意が見て取れました。きっと、すごく勇気を出してくださっているのでしょう。

 それはそうですよね。ずっと人の目を避けてきたんですもの。周囲の人たちを傷つけたくないから、と。
 もしも自分が出歩いたことで誰かに恐怖を植え付けることになったら、と怖くなるのも無理はありません。エドウィン様はお優しい方ですからね。

「だ、だが、ハナが嫌だと言うのなら無理強いは……」
「行きましょう!」

 ならば、婚約者として協力するしかありません!

 私はエドウィン様の言葉を遮り、食い気味に告げました。彼の丸くなった目を見つめます。

 ま! そうでなくとも、二人で手を繋いでのデートなんて、私にとってはご褒美でしかありませんからね。そもそも断る理由がないのですよ!

「嫌なわけないではありませんか。その、緊張はしてしまいますが。あっ! エドウィン様が私と手を繋ぐのが嫌であれば……」
「嫌なわけがないっ……!」

 さ、先ほどとは立場が逆転してしまいましたね。今度はエドウィン様が私の言葉を遮ってそう言ってくださいました。

 こっ、これは、あの、その。結構、照れるものですね……?

「す、すまない。大きな声を出してしまった」
「い、いえ……」

 再び、私たちは頰を赤く染めて俯き、黙ってしまいます。ほんと、何やってんでしょうか、私たち。
 とはいえ、また同じことを繰り返すわけにはいきません。勇気を出して話を続けなくては!

 恥ずかしさを堪え、私はパッと顔を上げるとその勢いのまま提案をしました。

「あの、それなら。一度だけなんて言わずに、たくさん行きましょう?」
「え」

 これがたった一度のことだなんて、寂しすぎますから。それに、エドウィン様が素顔のまま外を歩く練習は絶対に必要です。
 私の家族や領民にもエドウィン様のかわいさを知ってもらうという壮大な野望のためにも!

 練習、となると一度じゃ慣れませんよね? 繰り返し、つまり反復練習をせねばならないと思うのです。

「私は、エドウィン様の妻になるのですよ? これからもずーっと一緒なのです。いくらでも、何度でもお付き合いします! ね? これからもたくさん、一緒に街へ行きましょう」
「ハナ……」

 いつかの野望が叶った日を思うと、ついつい頰も緩んでしまいます。ウォルターズ家のみんなにも、早くエドウィン様の素敵なところをたくさん知ってもらいたいです! 心から祝福してもらいたいのです!

「あ、ありがとう。ハナ」
「こちらこそですよ、エドウィン様!」

 柔らかく微笑むエドウィン様のなんと愛らしいことかっ! 尊すぎて鼻血が出そうですが、ギリギリ耐えましたよ!

 街歩きの日は二日後に、と決まったところでタイミングよくマイルズさんが料理を運んできてくれました。
 どことなく嬉しそうに口角を上げているのを見るに、こちらの話を聞いていたのでしょうね。

 あ、マイルズさんにウィンクされてしまいました。よくやった、と褒められたみたいでちょっと嬉しいです。

 それからは、二人で街についての話をしながら楽しく食事をしました。
 ただ、昼食の時以上に高級食材を使ったメニューに私は驚きっぱなしですよ! あまりにも私が良い反応をするからか、エドウィン様には笑われてしまいましたが。

 田舎者ですみません! でもとっても美味しいです、ありがとうございますぅっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...