38 / 130
ちゃんと頑張りますよ? でも聖女と崇めるのはやめてください!
やはり幻獣人は曲者揃いだと実感しました
しおりを挟む「はー、美味しかった! ごちそうさまっ! エマチャンって料理上手なんだねー?」
「い、いえ。キッチンにあった材料でササッと作れる簡単なものなので……」
全員が食べ終えたところでみんなの食器を下げていると、リーアンがそんなことを言ってくれた。いや、本当に適当に作ったものだから素直に喜んでいいのかと迷ってしまう。
うーむ、こんな風に言ってもらえるのなら昨日の夕食ももっと気合いを入れて作ればよかったな。ただ本当に昨日は色々ありすぎてヘトヘトだったから。
しばらくは教会にも帰れなさそうだし、お昼ご飯からは少し頑張ってみようかな。
「またそうやって謙遜なさるんですから……。いいですか? 料理をしない人はそこにある材料で適当に作るってことも出来ないものですよ。ですから、エマ様はすごいのです!」
シルヴィオは両拳を握って褒めちぎってくれる。そ、それはそうかもしれないけど!
なんだか恥ずかしくなってきたから、絶対にお昼はもっと気合い入れて作ろう。そうしよう。
「よく料理していたの?」
「たぶん……」
カノアにはそう聞かれたので曖昧に答える。いやぁ、キッチンに立って作るものを決めたら勝手にレシピや手順が浮かぶから、そういうのは覚えているんだなぁって思って。
でも、よく料理をしていたのか、と聞かれるとわからない。家で料理をしていた記憶はまったく思い出せないから。作れるってことは作っていたってことだと思うんだけど……。
「なんで曖昧?」
そんなパッとしない答えだったから、案の定カノアには突っ込まれて聞かれてしまう。
うーん、別に隠しているわけじゃないから教えてしまってもいいかな。私は食器を洗いながらサラッと説明してしまうことにした。
「覚えていなくて。学校に通っていたこととか、勉強した内容とか、そういうのは覚えているんですけど。どう過ごしていたのかとか、家族や友達のことはなぜか思い出せないんです」
「記憶喪失、ってこと?」
「そうだと思います。あ、でも最近は夢で懐かしいことを思い出したりもするので、いつかは思い出せるんじゃないかなって思うんですけど」
あまり大事にはしたくなかったので、ヘラッと笑って誤魔化す。納得してくれたのか、私の意図が伝わったのか。いずれにせよ、彼らはそれ以上は聞いてこなかった。ホッ。
ただ、なんとなく思い出さない方がいいんじゃないかって気配を感じてはいるんだよね。
夢の中の私って、今よりももっと自信がなくて、自分を下げてばかりいるから。家庭環境になにか問題でもあったのかな、って思うと不安になる。
まぁ、それを思い出したところで今に影響するわけじゃない気がするけど。元の世界に帰りたいと思うかどうかは変わってきそうかな。
でも、夢の中の友達のことは思い出したいって思う。私にとってあの子はかけがえのない存在だったんだなってことだけはわかるから。
どんな顔で、なんて名前だったっけ。まったく思い出せないのが悔しい。いやいや、焦ったらダメだよね。また思い出すことがあるかもしれないし。
「なー、ところでさー。オレっちたちいつまで館にいなきゃなのー? ずっとここにいろって言われたらさすがに暇すぎて死にそー。ってかアンドリューは? 戻ってくるの? いやその前に、この館に来れるの?」
リーアンが頭の後ろで手を組みながらブーブーと口を尖らせている。でも言いたいことはわかる。私も同じことを思ったし。
ずっとここにいる、ってことはないと思うよ? だって、他の幻獣人も解放しに行かなきゃいけないもの。
そう思っていると、カノアがおもむろにポン、と一つ手を叩いた。
「そうだった。陽が昇る前に、城のアンドリューの部屋と扉を繋いでくれって言われていたんだった」
「カノア!?」
それ、忘れていちゃダメなやつでは!? もうとっくに陽は昇ってるよ!
私は慌てて今すぐ扉を出してあげて! とカノアを急かした。
それを受けてカノアはお茶を飲んでからね、と優雅にカップを手に取ろうとする。
ダメ! 先に! と手を押さえて私が必死になっていると、カノアは不服そうにしながらも立ち上がってくれた。
「エマに言われちゃ仕方ないなぁ。もう、お茶が冷めちゃうじゃない」
「だ、だって絶対にアンドリューを待たせているもの! 何かあったんじゃないかって心配しているかも……」
「もうわかった、わかった。面倒くさいなぁ。この話はおしまーい」
まだ文句を言うカノアに必死で訴えたけれど、あまり響いてはいなさそうだ。面倒くさいって……。自由人だなぁ。
でも、なんだかんだ言いつつもすぐに扉を出してくれたから良かった。
カノアが扉出すと、ものの数秒でガチャリと開き、向こう側からホッとしたような表情のアンドリューがやってきた。扉はアンドリューが閉めるとすぐに消えていく。うん、やっぱり不思議だな。
「ご、ごめんなさい、アンドリュー。陽が昇る前に扉を出すって約束をしていたこと、カノアはさっき思い出したの」
やや疲れたような彼の様子に、どうしても放っておけなかったのでなぜか私が謝ってしまった。
だって、カノアは絶対に何も言わないと思ったから。ほら、我関せずといった様子でお茶を飲んでいるし。
「いや、カノアのことだからそうだろうとは思っていた。少し心配していたのは事実だがな。だが、結果的にここに来られたんだ。皆も無事なようで安心した。問題はない」
心が広い……! カノアは「ほら大丈夫だったでしょ」とでも言いたげにフフンと得意げに笑っている。素直でいい子だと思っていたけど、他二人の幻獣人と同じで価値観の違いを実感したよ。
幻獣人は曲者揃い。この言葉を忘れてはいけないなって改めて思った。無害そうだと思っても、今後は油断しないようにしよう。
さて、とにもかくにもアンドリューは気疲れしたでしょう。座っていてください、と声をかけてから新しいお茶を淹れるべく、私は再びキッチンへと向かった。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
元構造解析研究者の異世界冒険譚
犬社護
ファンタジー
主人公は持水薫、女30歳、独身。趣味はあらゆる物質の立体構造を調べ眺めること、構造解析研究者であったが、地震で後輩を庇い命を落とす。魂となった彼女は女神と出会い、話をした結果、後輩を助けたこともあってスキル2つを持ってすぐに転生することになった。転生先は、地球からはるか遠く離れた惑星ガーランド、エルディア王国のある貴族の娘であった。前世の記憶を持ったまま、持水薫改めシャーロット・エルバランは誕生した。転生の際に選んだスキルは『構造解析』と『構造編集』。2つのスキルと持ち前の知能の高さを生かし、順調な異世界生活を送っていたが、とある女の子と出会った事で、人生が激変することになる。
果たして、シャーロットは新たな人生を生き抜くことが出来るのだろうか?
…………………
7歳序盤まではほのぼのとした話が続きますが、7歳中盤から未開の地へ転移されます。転移以降、物語はスローペースで進んでいきます。読者によっては、早くこの先を知りたいのに、話が進まないよと思う方もおられるかもしれません。のんびりした気持ちで読んで頂けると嬉しいです。
…………………
主人公シャーロットは、チートスキルを持っていますが、最弱スタートです。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜
よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」
ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。
どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。
国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。
そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。
国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。
本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。
しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。
だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。
と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。
目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。
しかし、実はそもそもの取引が……。
幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。
今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。
しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。
一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……?
※政策などに関してはご都合主義な部分があります。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる