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ちゃんと頑張りますよ? でも聖女と崇めるのはやめてください!
記憶:2
しおりを挟む誰かが泣いている。
あ、あの子だ。あの子が泣いているんだ。でも、なんで? いつも笑顔で明るいのに。
「ば、バカぁ! エマのバカ……! 本当に、死んじゃうかと思ったんだから……」
あ、あれ? 原因は、私? 何をしでかしたんだろう。えーっと、これは私が小学三年生くらいのことだったかな。
……うん、たぶんそう。ちょっとずつ思い出してきた気がする。
「だって怪我をするなら、私の方がいいと思ったから……」
「何言ってるの!? どっちがいいとか、そんなのないよっ!」
ああ、そうだ。確か、二人で道を歩いていた時に、向かい側からバイクがすごい勢いで走ってきたんだよね。私たちは道の端を歩いていたし、バイクからも離れていただけど……。
路上駐車している車を避けたバイクが、ハンドル操作を誤ったのか、勢い余ったのかで、こっちに向かって来たのだ。このままだとあの子にぶつかる。それは絶対にダメだって咄嗟に思った。
だってあの子は、家族からも友達からも大切にされているから、怪我なんかしたらみんなが大騒ぎする。すごく心配もするだろう。私だってあの子が怪我をするのなんて絶対に嫌だった。
でも、私なら……? 誰も、心配する人なんていないから。うん、そうだ。そう思って私はあの子の腕を引っ張って、自分が前に出た。
「エマは、もっと自分のことを大事にしてよ……。いっつも自分が傷つけばいいって思っているでしょ」
「? だって、それが一番、問題にならないから」
「そういうとこだよ!!」
そのおかげで、あの子は助かった。でも私は、バイクとぶつかって吹き飛び、怪我をした。救急車で運ばれたみたいで、気付いた時は病院のベッドの上。
お見舞いに来たあの子が私を叱りながらずっと泣き続けていたんだ。
「なんで、怒るの……? 私、嫌われるようなこと、しちゃったのかな」
「っ! ち、違う。違うよエマ……。あぁ、どうしたらわかってもらえるの?」
余計なことをしちゃったのかな。私が怪我をしたことで今すごく泣いているし、病院に来る時間もわざわざ作ることになっちゃったもんね。
あー、そうだ。病院代ってどうなったんだろう? 私、保険とか入っていたのかな? 家族は怒ったかな、それとも心配したかな? ちょっとその辺りはよく思い出せないや。
「エマ、聞いて。私はね、エマのことが大切なの」
「大切……? 私が?」
一度泣き止んだあの子は、私の両手をギュッと握って真剣な眼差しを向けてくる。その力強い瞳だけは思い出せる。
でも、顔全体がまだあやふやだ。私みたいに髪が長いのはわかるんだけど……。
「だからね、エマが傷つくのを見るのは嫌なの。悲しいの。しかも私のせいで怪我をしたんだもの。余計に苦しいの」
「……私、あなたが傷つくのが嫌だから、身代わりになったの。それと一緒?」
「そう、一緒! その気持ちはすごく嬉しいよ。でも、同じくらい悲しいの。辛いの」
同じことを考えてくれていたってことが、すごく嬉しかったなぁ。
でも、私なんかのためにそこまで思ってくれるなんて、悪いなって思った。私は人から心配されるような人じゃないのにって。
あはは、あの頃から私の考え方って変わっていないんだなぁ。
「だから今度は、二人ともが怪我をしない方法を考えよう? エマだって痛いのは嫌でしょ?」
「……うん。ちょっと、嫌」
……あ、だから私、渓谷でも皆に助かってもらいたいって強く思ったんだ。この時のことがあったから、どうにかして皆が助かる方法はないかなって考えた。誰にも傷付いてもらいたくなかったんだ。
「だから、もしまた同じことをしたら、もっと怒るよ。許さないかも」
「そっ、それはもっと嫌……!」
自分が怪我をするより何より、あの子に嫌われるのが一番怖い。好かれようだなんて思ってはいないけど、あの子と一緒にいるのは幸せな気持ちになったから。安心したから。
だから、もう話せないなんてことになったら、生きる意味を失うんじゃないかって、大げさじゃなく本気で思ってた。
「だから、絶対に自分を大切にして!」
「む、難しいよ。だって、どうやって大切にしたらいいのかわからないんだもん」
あの子は、私を見捨てることは一度もしなかった。いつも私を気にかけてくれた。そうだ、あの子だけが私の友達で、家族のように思えたんだ。
ウジウジして、わからないことだらけで、どうしようもない私に対して、根気強く相手してくれる優しい子は、あの子くらいだったもの。
「それは、エマが大切にされずに育ったから……ううん。私がエマを大切にする! 教えてあげるからね!」
私が、大切にされずに育った……? 当時はよくわからなかったけど、今はひっかかりを覚えるその言葉。
どういうことだろう。私は、どんな風に育ってきたのだろうか。
思い出したいような、思い出したくないような、複雑な気持ちになる。深く考えると胸の奥がモヤモヤする。
だけど、やっぱりあの子のことはもっとしっかり思い出したい。そう思った。
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