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三話 一方その頃な師匠 (ビルside)

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「師匠、見てみて! こんなにおっきい火を出せるようになったよ!」
 杖の先に浮かぶ炎を見せ、満面の笑みを見せる弟子のモニカ。
 出会った頃は短かった栗色の髪はもう胸元まで伸びている。
 両親を亡くし、寂れた村で搾取されていた女の子。
 一日中働いても、野菜一本しかもらえず、世話もされずに生のまま齧る姿は哀れですぐに保護をした。
 王都の孤児院に預けようと思ったが、魔力が多く、教えてみれば飲み込みも早かったため初めての弟子を取ることにした。
 枯れ枝のように細かった手足は肉をつけ、ひなびた髪は艶が出始めた。光を失った瞳は色づき、笑顔を向けられるたびに、体の奥が温かくなった。
 5歳で拾い、16歳になったモニカは、大人の表情を見せるようになった。
 その姿におかしな気分が湧いてくるような気がして、俺はモニカを閉じ込めておきたくなった。
 ずっとずっと、一緒に……しかしそれはだめなことだと分かっていた。
 リカルドからの手紙が来たのは、そんなときだった。

 北東の炭鉱にてダンジョンが発見された。俺の力を貸してほしいと。
 国からの手紙はすべて無視していたが、唯一の友人であるリカルドからの手紙には返事を出していた。そこに目を付けた国はリカルド伝いに依頼を持ち掛けた。
 ”あなたの弟子も同年代と過ごす経験が必要だと思いますよ”
 手紙の文章の中で、そのことが頭にこびりついた。
 魔力が多い人間は寿命が長い、そして自分の外見年齢を止めることができる。俺は25歳のときに止めたため、見た目は若いままだ。だけど中身がそうじゃないことは自分が一番分かっているし、俺しか親しい人間がモニカにいないことは気になっていた。
 もし、色んな人と出会って、それでもモニカが俺といたいと思ってくれたら、こんなに嬉しいことはない。
 俺はモニカと一時、離れることにした。幸いにもリカルドがその間面倒を見てくれるというのでお願いすることにした。
 初めての場所に初めての仕事。たくさん人がいる環境に、多種多様な食べ物。
 目を輝かせ、とても楽しそうな様子だった。
 リカルドとも仲良く話し、大丈夫そうだと思った俺はモニカを城に残し、遠い北東のダンジョンへと赴いた。
 国の端にあるダンジョンは遠地だが、配送ルートは整っており、手紙を二、三日で届けることができるため交互に送り合うことにした。モニカからの手紙にはリカルドに良くしてもらっていること、魔物討伐の仕事は大変だけどやりがいがあって楽しいことが綴られていた。
 俺はそのことを嬉しく思う反面、俺なしでもモニカはやっていけているのだと思い寂しく感じた。

「ビルさん! 新しい道が見つかりましたよ!」
「分かった! 今行く」
 最初は面倒だと感じていたダンジョン攻略だったが、意外とやり始めてみると楽しかった。少しずつ進み、ある程度進むと転移のための陣を作って自由に移動できるようにしていく。今日も陣を作り、仮住まいへと帰っていく。
「……来ていないな」
 備え付けられた郵便受けをチェックするものの愛しの弟子からの手紙は入っていない。忙しいのだろうか?
 週二度は必ず来ていた手紙は減り、向こうから来ないものだから俺も返事を書いていいものか悩んだ。それでも月に一度は一方的でもいいからと送っているのだが、3か月ほど返事がこない。
「ふぅ……まあ、元気にやっているみたいだからいいか」
 寂しくて頻繁に手紙を送るより忙しくて手紙を出さない方がモニカにとっては良いのかもしれない。
 それにモニカについてはリカルドからの手紙の中で書いてくれている。最初は低ランクの魔物を退治していたが、十分な実力があると判断され、高ランクの魔物を倒せるようになっているそうだ。魔法部隊のもう一人の女性であるアリアンヌとも頻繁に話している姿が見られ、笑顔を見せているとも書かれていた。
「モニカにも友達ができたのか……俺は寂しいぞ」
 そう呟くも顔に笑顔が浮かぶのを感じていた。
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