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・プロローグ
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「こんにちは。こちらの依頼ですね。登録証をご確認します。はい、問題ありません。ではこちらの依頼を受理しますね。受理後の達成期限は5日となります。達成報告がない場合はキャンセル扱いになりますのでご注意ください」
「はいはい、わかってるって。そうなんべんも同じこと言わなくてもいいのによぉ」
「規定ですので。あとで聞かなかった、なんて言われても困りますから」
「へいへい、じゃあ行ってくるわ」
「はい。無事に帰ってきてくださいね」
にこっと微かに笑い手続きが済んだ登録証を返す。腕時計のようなそれは再び男の左腕に嵌り、取れないようぴったり張り付いた。
(……便利だよねぇ、これ)
何回見ても見慣れない。魔法の力で作られたそれは凡人には理解できない頭で作られているらしいハイテク魔道具だ。
当然のように作るのにお金がかかるそれは報酬のうち5%が取られる手数料によって管理されている。
琴乃の腕にもあるそれは冒険者ギルドにはお馴染みのもの。
本人にしか着脱できない登録証は日本で言うキャッシュカードや身分証明書の役割をしてくれている。
さらに細かいことを言うと着けているだけで一部の店では商品が安くなったりするし、かなり多様な機能がある。
ぶっちゃけて言うと簡易的なスマホのようなものだ。冒険者にとって必需品。
職員の登録証の中には依頼の履歴などはないけれど、タイムカードになっていたり、登録した相手同士で短い文章を送り合ったりもできる。
もちろんどこでも文章を送れるわけではなくこの街限定だけど。
「ヒイナちゃん、休憩入っていいよ!」
「分かりました。行ってきますね」
上司から声掛けがありカウンター奥へ入っていく。女子更衣室のロッカーで上着を羽織り、裏口から外へ出る。数分歩いて辿り着いたのは愛しの我が家だ。
鍵を回して部屋へ入り、上着を脱いで椅子に座り込む。
「は~、お腹空いたぁ」
ようやく食べれるという安堵した気持ちを感じたのか、ぐぅー、と切なく鳴った。
「って言ってもたいした物はないんだけどね」
箱から取り出したのは昨日売れ残っていたパン。
一番安くてコスパが良い丸パンで、5つ入りで300円のところが半額になっていた。
2つを夕食に食べ、1つを朝食に、そして最後の1つを昼食に食べる。
握りこぶしサイズのパンはあっという間に食べ終わり、まだお腹は空腹を訴えていた。
「あとは水で我慢するしかないね」
タオルの上に伏せていたコップを正面に置き、意識を集中させる。
ぷくぷく……こぽっ
すると綺麗なミネラルウォーターの完成。不純物もなくクリアなお水。
それを手に取ってぐびぐびと一気飲み。
「ぷはぁっ、美味しー」
空になったコップに再び水を入れ、再度飲み干す。
合計2杯のお水を飲み終わると水分を消し去り、元の位置へ。
しばらくぼーっと過ごした所で左腕に嵌めていた登録証を使って時間を確認する。休憩時間終了まで残り10分だ。そろそろ戻ろう。
「腕時計って高価だから支給品で時間分かるの便利だなぁ。作ってくれた人に感謝」
腕時計の時計部分が平たい鉄の板のようになっている登録証はその板部分に触れるとディスプレイのようなものが現れる。腕につけている人にしか見えないそれは現在受けている依頼内容の確認や貯金残高の確認、銀行への入金・振込の履歴が見れる。あとクレジットカードのような機能もあるので一部の店舗では現金を持って行かなくても支払いができる。もちろん全部の店舗というわけではなく、冒険者ギルドへ申請して受理を受けたお店だけだ。
それ以外の店舗では当然のように現金払いなのでお財布は必需品。
というか、登録証を持っている人は少ないので全体の割合で言うと冒険者ギルドと提携しているお店は1割ほどでしかない。
なんてったってこの登録証、冒険者じゃなくても欲しいと思うくらい便利なのだが……
「かなり高いんだよねぇ」
普通に買うと50万円は最低でもかかるとか。
なので再発行の場合は50万円がかかる。けど基本的にギルドで受付依頼するときくらいしか外さないし、外したときも私たちギルド職員は直接触れない。柔らかい布が敷かれたトレーの上に置いてもらい、それをスライドさせて機械にスキャンするだけだ。その様子はカウンターの上で行うので盗難の恐れはないし、そもそも他人の登録証を盗んだところで何もできない。最初に血液によって個人登録をするのでその人以外が登録証をいじることはできないのだ。
ちなみに壊れたときも問題はない。ギルドの依頼をこなしているときに壊してしまった場合は保険が適用となって一律1万円で修理が可能だ。なお本体がなければ紛失扱いになって再発行になるので壊れたとしても部品をできるだけ持ち帰らないといけない。
一応スマホでいうデータが入った基盤部分さえ無事ならば問題はないらしいのだが、冒険者に一々それを言っても「いらねぇっていうから持ってこなかったぜ!」なんて言う奴が出てくるのは容易に想像がつくので持ち帰れる部分は全部持ち帰ってくださいと伝えるようにマニュアル化されている。
最初のみ無料配布、そして修理費用や不具合が出た場合のメンテナンスはたった1万円。そのようなことが出来ているのは手数料という形で管理費用を取っているから。
手数料5%が高いか安いかは……よく分からない。ただインフラ整備にお金がかかるようなことだと考えれば必要経費なのだろう。
それを職員は手数料なしで使わせてもらっているのだから大変感謝したい。
時間を確認するために高価な腕時計を買わずに済んだし、地図が入っていたり、冒険者割引価格で買い物ができたりと良いこと尽くしなのだ。
もちろん職員を辞めるときには返却の義務があるが、今のところは辞める気もない。
お金が目標金額に到達したらちょっとは考えるかもしれないが、職場の人間関係には困っていないしよっぽどのことがない限りは続けるつもりだ。
「……よし、行くか。午後からも頑張ろー」
机に突っ伏したせいで乱れた前髪を整え、バレットで留めた後ろ髪に問題がないか確認する。
問題なかったのでそのままにして椅子に掛けておいた上着を羽織って職場へ戻る。
昼間のギルド内はわりとのんびりしている。基本的に朝と夕方が忙しいのだ。
特に夕方。しょうがないとはいえ駆け込むようにやってくる人が多いので就業時間がずれ込むことも多いし、遅いと文句を言われることもある。
依頼達成期限があるので今日中に達成報告をしたい冒険者の気持ちは分かるのと営業時間内にギルド内に入っていれば処理しないといけない。
しかしギルド内に人がいれば入り口を閉めることができないのでその間にも人が入って来て……繁栄期は22時まで受付したこともある。ちなみに営業時間は6時から18時だ。しかも受付業務が終わったとしてもその後の作業は残っている。けど琴乃は新人な上に睡眠が必要な子供なので気を遣って先に帰してくれた。優しい。
とはいってもそれは繁栄期の話。魔物が大量発生したなんてその時以来で聞かないし、今日は定時か少し遅いくらいで帰れるだろう。
17時59分
(よし、誰も来てない)
心の中でガッツポーズ。おもむろに立ち上がった感じを出して鍵を閉める直前に18時になったのを登録証の時間で確認。
……ガチャリ。オープン表示からクローズへ看板を変えて営業時間終了だ。
本日の冒険者ギルドは就業時間となりました。
「はいはい、わかってるって。そうなんべんも同じこと言わなくてもいいのによぉ」
「規定ですので。あとで聞かなかった、なんて言われても困りますから」
「へいへい、じゃあ行ってくるわ」
「はい。無事に帰ってきてくださいね」
にこっと微かに笑い手続きが済んだ登録証を返す。腕時計のようなそれは再び男の左腕に嵌り、取れないようぴったり張り付いた。
(……便利だよねぇ、これ)
何回見ても見慣れない。魔法の力で作られたそれは凡人には理解できない頭で作られているらしいハイテク魔道具だ。
当然のように作るのにお金がかかるそれは報酬のうち5%が取られる手数料によって管理されている。
琴乃の腕にもあるそれは冒険者ギルドにはお馴染みのもの。
本人にしか着脱できない登録証は日本で言うキャッシュカードや身分証明書の役割をしてくれている。
さらに細かいことを言うと着けているだけで一部の店では商品が安くなったりするし、かなり多様な機能がある。
ぶっちゃけて言うと簡易的なスマホのようなものだ。冒険者にとって必需品。
職員の登録証の中には依頼の履歴などはないけれど、タイムカードになっていたり、登録した相手同士で短い文章を送り合ったりもできる。
もちろんどこでも文章を送れるわけではなくこの街限定だけど。
「ヒイナちゃん、休憩入っていいよ!」
「分かりました。行ってきますね」
上司から声掛けがありカウンター奥へ入っていく。女子更衣室のロッカーで上着を羽織り、裏口から外へ出る。数分歩いて辿り着いたのは愛しの我が家だ。
鍵を回して部屋へ入り、上着を脱いで椅子に座り込む。
「は~、お腹空いたぁ」
ようやく食べれるという安堵した気持ちを感じたのか、ぐぅー、と切なく鳴った。
「って言ってもたいした物はないんだけどね」
箱から取り出したのは昨日売れ残っていたパン。
一番安くてコスパが良い丸パンで、5つ入りで300円のところが半額になっていた。
2つを夕食に食べ、1つを朝食に、そして最後の1つを昼食に食べる。
握りこぶしサイズのパンはあっという間に食べ終わり、まだお腹は空腹を訴えていた。
「あとは水で我慢するしかないね」
タオルの上に伏せていたコップを正面に置き、意識を集中させる。
ぷくぷく……こぽっ
すると綺麗なミネラルウォーターの完成。不純物もなくクリアなお水。
それを手に取ってぐびぐびと一気飲み。
「ぷはぁっ、美味しー」
空になったコップに再び水を入れ、再度飲み干す。
合計2杯のお水を飲み終わると水分を消し去り、元の位置へ。
しばらくぼーっと過ごした所で左腕に嵌めていた登録証を使って時間を確認する。休憩時間終了まで残り10分だ。そろそろ戻ろう。
「腕時計って高価だから支給品で時間分かるの便利だなぁ。作ってくれた人に感謝」
腕時計の時計部分が平たい鉄の板のようになっている登録証はその板部分に触れるとディスプレイのようなものが現れる。腕につけている人にしか見えないそれは現在受けている依頼内容の確認や貯金残高の確認、銀行への入金・振込の履歴が見れる。あとクレジットカードのような機能もあるので一部の店舗では現金を持って行かなくても支払いができる。もちろん全部の店舗というわけではなく、冒険者ギルドへ申請して受理を受けたお店だけだ。
それ以外の店舗では当然のように現金払いなのでお財布は必需品。
というか、登録証を持っている人は少ないので全体の割合で言うと冒険者ギルドと提携しているお店は1割ほどでしかない。
なんてったってこの登録証、冒険者じゃなくても欲しいと思うくらい便利なのだが……
「かなり高いんだよねぇ」
普通に買うと50万円は最低でもかかるとか。
なので再発行の場合は50万円がかかる。けど基本的にギルドで受付依頼するときくらいしか外さないし、外したときも私たちギルド職員は直接触れない。柔らかい布が敷かれたトレーの上に置いてもらい、それをスライドさせて機械にスキャンするだけだ。その様子はカウンターの上で行うので盗難の恐れはないし、そもそも他人の登録証を盗んだところで何もできない。最初に血液によって個人登録をするのでその人以外が登録証をいじることはできないのだ。
ちなみに壊れたときも問題はない。ギルドの依頼をこなしているときに壊してしまった場合は保険が適用となって一律1万円で修理が可能だ。なお本体がなければ紛失扱いになって再発行になるので壊れたとしても部品をできるだけ持ち帰らないといけない。
一応スマホでいうデータが入った基盤部分さえ無事ならば問題はないらしいのだが、冒険者に一々それを言っても「いらねぇっていうから持ってこなかったぜ!」なんて言う奴が出てくるのは容易に想像がつくので持ち帰れる部分は全部持ち帰ってくださいと伝えるようにマニュアル化されている。
最初のみ無料配布、そして修理費用や不具合が出た場合のメンテナンスはたった1万円。そのようなことが出来ているのは手数料という形で管理費用を取っているから。
手数料5%が高いか安いかは……よく分からない。ただインフラ整備にお金がかかるようなことだと考えれば必要経費なのだろう。
それを職員は手数料なしで使わせてもらっているのだから大変感謝したい。
時間を確認するために高価な腕時計を買わずに済んだし、地図が入っていたり、冒険者割引価格で買い物ができたりと良いこと尽くしなのだ。
もちろん職員を辞めるときには返却の義務があるが、今のところは辞める気もない。
お金が目標金額に到達したらちょっとは考えるかもしれないが、職場の人間関係には困っていないしよっぽどのことがない限りは続けるつもりだ。
「……よし、行くか。午後からも頑張ろー」
机に突っ伏したせいで乱れた前髪を整え、バレットで留めた後ろ髪に問題がないか確認する。
問題なかったのでそのままにして椅子に掛けておいた上着を羽織って職場へ戻る。
昼間のギルド内はわりとのんびりしている。基本的に朝と夕方が忙しいのだ。
特に夕方。しょうがないとはいえ駆け込むようにやってくる人が多いので就業時間がずれ込むことも多いし、遅いと文句を言われることもある。
依頼達成期限があるので今日中に達成報告をしたい冒険者の気持ちは分かるのと営業時間内にギルド内に入っていれば処理しないといけない。
しかしギルド内に人がいれば入り口を閉めることができないのでその間にも人が入って来て……繁栄期は22時まで受付したこともある。ちなみに営業時間は6時から18時だ。しかも受付業務が終わったとしてもその後の作業は残っている。けど琴乃は新人な上に睡眠が必要な子供なので気を遣って先に帰してくれた。優しい。
とはいってもそれは繁栄期の話。魔物が大量発生したなんてその時以来で聞かないし、今日は定時か少し遅いくらいで帰れるだろう。
17時59分
(よし、誰も来てない)
心の中でガッツポーズ。おもむろに立ち上がった感じを出して鍵を閉める直前に18時になったのを登録証の時間で確認。
……ガチャリ。オープン表示からクローズへ看板を変えて営業時間終了だ。
本日の冒険者ギルドは就業時間となりました。
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