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死霊術師の未来編
死霊術師の弟子
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もう一方の弟子、ハスミンについては文句なしに優秀だ。
ハスミンは魔術の技術を磨き、ついに念願の<念話>を習得した。
そして、彼女はすぐにいつもそばに佇んでいる幽霊に向けて<念話>を発動する。自分の言葉が通じることに驚く侍女、バルバラさんの幽霊と、久しぶりにその声を聞いて涙を流すハスミン。
触れ合うことはできなくとも、互いに寄り添って久方ぶりの会話に興じる二人を目にして、僕はハスミンなら良い死霊術師になるだろうと確信を持った。
後日、僕はハスミンに死霊術の修業をするかどうかの意思確認をすることにした。
僕が師匠に弟子入りしたときは、ほとんど何の説明も無かったが、本当は色々と死霊術師としての掟や心得を説明したうえで、本人の合意を得るのが正式らしい。
師匠と僕の場合は300年ぶりの候補と言う事もあり、「決して逃がさん」という決意の下でその辺は省略されたらしい。免許皆伝の時にこれを聞いて思わずため息を吐いてしまった。まあ、それでも僕は死霊術師になりたいと言っていただろうから、問題は無いのだけれども。
「はい、テオ師匠。私は死霊術師になります。死者の霊を悪用せず、またそれを許さず、悪霊災害から人々を守ることを約束します」
ハスミンが目に決意を込めて、誓いの言葉を述べた。
「よろしい。では、今からハスミンは死霊術の弟子となった。これからはそちらの修業も行うから、そのつもりでいて」
僕は自分が死霊術を教わった時を思い出しつつ、指導方法を頭の中で組み立てるのだった。
それから魔術の修業に加えて死霊術の修業も進め、ハスミンは順調に成長していった。
そして、<使鬼使役>を詠唱付きではあるが習得するに至る。そして、動物霊での実験も成功させる。
「いよいよだね」
「はい」
ハスミンが緊張の面持ちで、短く返事をする。
侍女のバルバラさんの幽霊に対して<使鬼使役>を行使する時が来たのだ。
ハスミンがバルバラさんに向かって話しかける。
「バルバラ、これからも私の側にいてくれる?」
『はい、お嬢様。私はこれからもお嬢様のお役に立ちとうございます』
バルバラさんの返答に頷くと、ハスミンは<使鬼使役>の呪文を詠唱した。
詠唱は成功し、魔術が発動する。魔術契約が結ばれる少しの間をおいて、霊糸リンクが新たに結ばれ、バルバラさんの霊体が一瞬揺らめくように淡く輝くと使鬼に必要な魔術基盤が組み込まれた。完了だ。
僕はハスミンに向かって頷いた。
ハスミンがようやくホッと息を吐き、笑みを浮かべる。
「これからもよろしくね、バルバラ」
『いつまでもお供いたします、お嬢様』
そう言って二人は笑い合っていた。
その後、屋敷の地下倉庫からハスミンが選んできた永続死体を自給型偽生体に改造して、バルバラさんに与えた。選ばれたのは、金髪に蒼い瞳を持つ、豊満な体形の20代後半の女性だった。生前のバルバラさんのイメージに一番近かったそうだ。
「まあまあ、こんなに若い身体になるだなんて。死ぬのも悪くないものですねぇ」
バルバラさんは大喜びだった。
「中身はバルバラなのに、見た目が違うから、とっても変な気分です」
とハスミンは戸惑っている様子だ。
分かる。ナナさんが初めてあの身体で出て来た時の猛烈な違和感が思い出された。
「大丈夫。すぐに慣れるよ」
僕は実体験をもとにそう助言しておいた。
その日から、ハスミンはよく笑うようになり、雰囲気も明るくなって、ますます綺麗になった。これが彼女の本来の姿なのだろう。
カタリナがハスミンに駆け寄って腰に抱き着いた。
「ハスミン姉ちゃん、ニコニコしてるね」
「そう?」
「うん、すっごくいいよ」
と言って、ニカッと笑いかける。
「ふふ、ありがとうカタリナ」
ハスミンも笑顔になっていた。
「あの人誰?」
カタリナが側に立つ大人の女性を見て首を傾げていた。
「バルバラよ。いつも一緒にいたでしょう」
「え?バルバラばーちゃんは幽霊でしょ。あれ?ばーちゃん、いない?」
きょろきょろと辺りを見回すカタリナに、バルバラさんが話しかけた。
「カタリナちゃん、こうしてお話するのは初めてね。私がバルバラばーちゃんですよ」
きょとんとするカタリナに、微笑みかけるバルバラさん。じっとその顔を見つめるカタリナが、何かに気付いたらしい。
「本当だ、バルバラばーちゃんと同じ色だ!どうして?ばーちゃん生き返ったの?」
「生き返ったわけじゃないけれど、この身体をお借りしてるのよ」
「へぇ~、すごいんだね」
いやいや、凄いのはカタリナの方だ。偽生体に憑依中の霊体を観察できただけでなく、色?で区別したようだ。
「カタリナ、もしかして幽霊を色で区別しているのかい?」
「うん、そうだよ。テオ兄ちゃんは違うの?」
「ああ。僕には色まで分からないな。ハスミンはどう?」
「私も幽霊は全て同じ色に見えています」
ハスミンが首を振る。やはり、カタリナが特殊なようだ。どうやら通常よりも霊視能力が優れているみたいだ。
「何かダメだった?」
不安そうにするカタリナの頭を撫でてやる。
「ダメじゃないよ。むしろ凄い事だ」
「カタリナ凄いの?」
「ああ」
「むふ~」
良く分かっていないなりに、褒められて喜んだカタリナは、バルバラさんに抱き着きに行った。
後でカタリナの霊視能力について師匠に聞いてみたところ、師匠も聞いたことのない事例だったようだ。並外れた霊視能力を持っているのは確かなので、今後が楽しみだ、とも言っていた。
あれ以降、バルバラさんは侍女としてハスミンと常に一緒に行動している。僕にとってのアネットさんと同じ立場だね。
アネットさんにとっても、大ベテランのバルバラさんから学ぶことが多いらしく、色々と話を聞いているようだ。
こうしてハスミンは死霊術師としての一歩を順調に踏み出したのだった。
ハスミンは魔術の技術を磨き、ついに念願の<念話>を習得した。
そして、彼女はすぐにいつもそばに佇んでいる幽霊に向けて<念話>を発動する。自分の言葉が通じることに驚く侍女、バルバラさんの幽霊と、久しぶりにその声を聞いて涙を流すハスミン。
触れ合うことはできなくとも、互いに寄り添って久方ぶりの会話に興じる二人を目にして、僕はハスミンなら良い死霊術師になるだろうと確信を持った。
後日、僕はハスミンに死霊術の修業をするかどうかの意思確認をすることにした。
僕が師匠に弟子入りしたときは、ほとんど何の説明も無かったが、本当は色々と死霊術師としての掟や心得を説明したうえで、本人の合意を得るのが正式らしい。
師匠と僕の場合は300年ぶりの候補と言う事もあり、「決して逃がさん」という決意の下でその辺は省略されたらしい。免許皆伝の時にこれを聞いて思わずため息を吐いてしまった。まあ、それでも僕は死霊術師になりたいと言っていただろうから、問題は無いのだけれども。
「はい、テオ師匠。私は死霊術師になります。死者の霊を悪用せず、またそれを許さず、悪霊災害から人々を守ることを約束します」
ハスミンが目に決意を込めて、誓いの言葉を述べた。
「よろしい。では、今からハスミンは死霊術の弟子となった。これからはそちらの修業も行うから、そのつもりでいて」
僕は自分が死霊術を教わった時を思い出しつつ、指導方法を頭の中で組み立てるのだった。
それから魔術の修業に加えて死霊術の修業も進め、ハスミンは順調に成長していった。
そして、<使鬼使役>を詠唱付きではあるが習得するに至る。そして、動物霊での実験も成功させる。
「いよいよだね」
「はい」
ハスミンが緊張の面持ちで、短く返事をする。
侍女のバルバラさんの幽霊に対して<使鬼使役>を行使する時が来たのだ。
ハスミンがバルバラさんに向かって話しかける。
「バルバラ、これからも私の側にいてくれる?」
『はい、お嬢様。私はこれからもお嬢様のお役に立ちとうございます』
バルバラさんの返答に頷くと、ハスミンは<使鬼使役>の呪文を詠唱した。
詠唱は成功し、魔術が発動する。魔術契約が結ばれる少しの間をおいて、霊糸リンクが新たに結ばれ、バルバラさんの霊体が一瞬揺らめくように淡く輝くと使鬼に必要な魔術基盤が組み込まれた。完了だ。
僕はハスミンに向かって頷いた。
ハスミンがようやくホッと息を吐き、笑みを浮かべる。
「これからもよろしくね、バルバラ」
『いつまでもお供いたします、お嬢様』
そう言って二人は笑い合っていた。
その後、屋敷の地下倉庫からハスミンが選んできた永続死体を自給型偽生体に改造して、バルバラさんに与えた。選ばれたのは、金髪に蒼い瞳を持つ、豊満な体形の20代後半の女性だった。生前のバルバラさんのイメージに一番近かったそうだ。
「まあまあ、こんなに若い身体になるだなんて。死ぬのも悪くないものですねぇ」
バルバラさんは大喜びだった。
「中身はバルバラなのに、見た目が違うから、とっても変な気分です」
とハスミンは戸惑っている様子だ。
分かる。ナナさんが初めてあの身体で出て来た時の猛烈な違和感が思い出された。
「大丈夫。すぐに慣れるよ」
僕は実体験をもとにそう助言しておいた。
その日から、ハスミンはよく笑うようになり、雰囲気も明るくなって、ますます綺麗になった。これが彼女の本来の姿なのだろう。
カタリナがハスミンに駆け寄って腰に抱き着いた。
「ハスミン姉ちゃん、ニコニコしてるね」
「そう?」
「うん、すっごくいいよ」
と言って、ニカッと笑いかける。
「ふふ、ありがとうカタリナ」
ハスミンも笑顔になっていた。
「あの人誰?」
カタリナが側に立つ大人の女性を見て首を傾げていた。
「バルバラよ。いつも一緒にいたでしょう」
「え?バルバラばーちゃんは幽霊でしょ。あれ?ばーちゃん、いない?」
きょろきょろと辺りを見回すカタリナに、バルバラさんが話しかけた。
「カタリナちゃん、こうしてお話するのは初めてね。私がバルバラばーちゃんですよ」
きょとんとするカタリナに、微笑みかけるバルバラさん。じっとその顔を見つめるカタリナが、何かに気付いたらしい。
「本当だ、バルバラばーちゃんと同じ色だ!どうして?ばーちゃん生き返ったの?」
「生き返ったわけじゃないけれど、この身体をお借りしてるのよ」
「へぇ~、すごいんだね」
いやいや、凄いのはカタリナの方だ。偽生体に憑依中の霊体を観察できただけでなく、色?で区別したようだ。
「カタリナ、もしかして幽霊を色で区別しているのかい?」
「うん、そうだよ。テオ兄ちゃんは違うの?」
「ああ。僕には色まで分からないな。ハスミンはどう?」
「私も幽霊は全て同じ色に見えています」
ハスミンが首を振る。やはり、カタリナが特殊なようだ。どうやら通常よりも霊視能力が優れているみたいだ。
「何かダメだった?」
不安そうにするカタリナの頭を撫でてやる。
「ダメじゃないよ。むしろ凄い事だ」
「カタリナ凄いの?」
「ああ」
「むふ~」
良く分かっていないなりに、褒められて喜んだカタリナは、バルバラさんに抱き着きに行った。
後でカタリナの霊視能力について師匠に聞いてみたところ、師匠も聞いたことのない事例だったようだ。並外れた霊視能力を持っているのは確かなので、今後が楽しみだ、とも言っていた。
あれ以降、バルバラさんは侍女としてハスミンと常に一緒に行動している。僕にとってのアネットさんと同じ立場だね。
アネットさんにとっても、大ベテランのバルバラさんから学ぶことが多いらしく、色々と話を聞いているようだ。
こうしてハスミンは死霊術師としての一歩を順調に踏み出したのだった。
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