幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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死霊術師の未来編

あれから1年半後

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帝国のゾンビ騒動から、かれこれ1年半ほどが経過した。
その間に僕は2度の誕生節を迎え、今は14歳になっている。

春のうららかな日差しの下、庭に出したテーブルでゆったりとお茶を楽しみながら、僕は呟いた。
「あー、平和だなぁ」
「はい、テオ様。平和が一番ですね」
僕の隣では、アネットさんがティーカップを傾けて一緒にお茶を楽しんでいる。
去年の末ごろから、アネットさんは僕の従者として常に行動を共にするようになっていた。

と言うのも、ココちゃんが一人前のメイドとしてアネットさんに認められたので、ココちゃんを家政婦長に任命し、屋敷の管理を任せたからだ。
彼女もいつまでもドジっ子メイドではないのだ。つい最近成人(15歳)になったし、もう立派な大人の女性だ。見た目はともかくとして。
今、ココ家政婦長の下では、3名のメイド使鬼(もちろん偽生体付き)が部下として働いている。手持ちの霊体球の中にメイド経験者がいたので即戦力になってくれた。


このように、僕の周囲はとても平和だったが、かの帝国はそうではなかったようだ。

主力兵器である火砲類が無力化されたことで軍の戦力が急低下し、それを補うはずだったゾンビ作成技術もとん挫した。
その隙に、内乱や反乱が帝国の各地で勃発したのだ。
元々、帝国は周辺国を武力で支配して大きくなった国だ。虎視眈々と牙をむく機会をうかがっていたそれらの旧国家勢力が一斉に動き出した、と言うわけだ。
火砲類に頼り切り、弓や魔術をおろそかにしていた帝国は為す術なく各地で敗退し、多数の旧王家が次々に独立を宣言していった。
半年もたたないうちに、帝国の版図は縮小し、その国際的な影響力は大幅に減退してしまった。
周辺諸国ではそれを揶揄して”小帝国”なんて呼んでいる。


あの騒動の後にペパン諜報部長が築き上げた情報網は、現在までにさらに充実しており、今や僕らに敵対する勢力は存在しない、と言っても過言ではない状態だ。
なにせ、何か悪だくみしようとしても、その相談を始めた段階くらいで察知されて、ことごとく潰されているからね。

山岳地帯の小国家群で再び飢饉が起こった時には、略奪軍が組織される前に支援物資を送りつけて未然に防いだ。
ペルピナルで、レスコー伯爵が建造中の大型飛空船を探ろうとした密偵も、ことごとく捕獲して雇い主に警告文付きで送り返した。
幽霊城では、城下町に忍び込んで火を放とうとした工作員を捕獲、洗脳して送り返した結果、黒幕の屋敷が全焼した。
その他にも僕が知らないくらい小さな出来事は山ほどあるらしい。
うちの優秀な諜報部門の暗躍のおかげで、僕はこうして平和な日々を享受できているわけだ。
実にありがたい。


そうそう。情報網を作ったそもそもの目的である、”霊体と憑依に関する研究”に対する規制も順調に進んだ。
特に、幽霊城を生み出し、帝国でゾンビ研究のきっかけにもなった、旧ディポーリ王国の研究者ジャンカールロの著書や論文は、各地から発見の報告が相次いだ。
なにしろ、国と魔法ギルドと神殿という3大権威から禁忌指定されたものだから、知らずに所持しているだけでも罰せられる恐れがあるのだ。工作員が各地でそんな噂を流すだけで、心当たりのある者は自分から申告してくれたのだ。

あの後、八神教と協力して大陸各地に慈善治療院を作った事も、様々な便益をもたらしてくれた。
病気や怪我の治療を万人が受けられるというのが一番のメリットだが、他にも”聖女の轍”と呼ばれる、治療院を中心に各地を結ぶ無料馬車の運行体制が敷かれた事によって、人や物の往来が活発化した影響も大きかった。
おかげで、各地の経済状況が軒並み上向くようになったのだ。
当然、そこにはダヤン商会もガッチリ食い込んでいたので、今やダヤン商会は大陸全土でも有数の商会としてその名を轟かせている。

慈善治療院の予想外の成果として、霊視能力を持つ子供たちを発見しやすくなったというのがある。
「他人に見えないモノを見えると言い張る子供」と言うのは周囲の大人にしてみれば真っ先に病気の心配をするものだから、自然と慈善治療院に情報が集まってくるわけだ。

その事に気づいてからは、積極的に”そういう症状であれば誰でも無料で診る”と噂を流したので、多数の患者が訪れるようになった。
大半は、子供特有の虚言癖であったり、精神的な病だったりと別の要因によるものだったが、中には当たりもいた。

これまでに、大陸全土で7名の霊視能力者が発見されている。師匠も「しっかり探せばこれだけの数がいるのだな」と驚いていた。
彼らには、「その見えるものは基本的に無害だから極力無視して生活するように」と指導した上で、監視を付けている。そのおかげで迫害されるような者は出ておらず、普通に生活できているようだ。

霊視能力者は魔術師としての適性も高い傾向があるので、本人たちが希望するのであれば魔術師として僕の弟子にする事にしている。師匠は「もう面倒だから弟子はとらん」と言っていた。
勧誘の結果、そのうちの2名が弟子入りを希望したので、ペルピナルの屋敷に住み込みで修業してもらっている。もちろん、死霊術師の後継者候補としても期待している。
この二人についてはまた別の機会に紹介しようと思う。


そうだ、僕以外の人たちの近況も記しておこう。

まずセラフィン君だが、現在16歳で、偽生体もすらっと背の高い男性の姿に成長している。かなりのイケメンだ。
彼は、その魔術の腕とハンターとしての活動実績を買われ、シャルル王太子の護衛として採用された。一緒に剣術の練習とかもしてたし、歳も近いので親友と言ってもいいくらい二人は仲が良い。

当然、二人は共に行動することが多いのだが、揃ってイケメンなので、行く先々で淑女たちの黄色い声が上がると言われている。
うちの諜報部門のバックアップもあり、既に何度も襲撃を撃退して実績を積み重ねている。多分、近いうちに王宮騎士爵に叙されることだろう。

もう一方のシャルル王太子は、現在18歳で、次期国王として様々な公務をこなしているそうだ。この1年ほどは国内の巡察をしていて、セラフィン君が護衛になったのもこれに随伴するためだ。
一度ペルピナルにも視察に来たことがあり、聖女礼拝堂(本当は治療院なんだが)を視察に来た時には、アネットさんが聖女になって出迎えたのだった。
来年には親善大使として、ロッカーラ連合王国に赴く予定なのだと聞いている。着々と次期国王としての経験を積んでいるみたいだ。

世間で今一番熱い話題と言えば、シャルル王太子の婚約相手は誰か、という話だ。意外なことに、シャルル王太子の婚約相手はまだ発表されていないのだ。色々と裏話はあるようだが僕はよく知らない。

そうだ婚約者と言えばなんと、ソフィ王女と、ロッカーラ王家のステファノ王子の婚約話が浮上しているのだ。
二人とも僕の弟子だからということで親同士が乗り気になってしまったらしいのだが、本人たちは猛反発。どうにも相性がよろしくない様子だ。
なので、僕の所に二人の仲を取り持って欲しい、という内密の依頼が来た。

う~ん、僕は魔術の師匠であって、そう言うのは門外漢なんだけどなぁ。
しょうが無いので、お二人と、僕の新弟子の1人を交えて、計3名で魔術の修業をする機会を何度か作った。
野外演習として魔物退治をしに行った際に、協力し合いながら課題に取り組むことで、少し関係が改善したようだった。お互いに相手を見直したのだろう。
僕にできる手伝いはこのくらいだったが、双方の親からは大変感謝された。
まあ、本人たちは相変わらず「婚約なんて御免だ」と言い合っているみたいだけどね。

あとはサラだね。彼女も16歳になって、ますます美人になった。服装も化粧もビシッとしていて、もうすっかり大人の女性って感じだ。
バリバリ仕事をこなして、かなり出世したらしい。王都サイユ支部の中でも結構偉い人になってると、ピエールさんから聞いた。
来年には国外勤務で、ロッカーラ連合王国に行くことになりそうなのだとか。
ピエールさん曰く、僕の友人であることは考慮されておらず、純粋に実力があるとの事。実に有能であり、幹部候補として色々と経験を積ませている最中なんだとか。本当にすごいよ。

ニコレットさん、ポリーヌさんは相変わらず屋敷で研究三昧だ。二人とも本当に研究好きだよね。そして、その成果はダヤン商会がお金に変えてくれるというわけだ。

トムさんは相変わらずダヤン商会の会頭として辣腕を振るっている。この大陸は制覇したので、去年あたりからは海の向こうの大陸にも手を広げ、着々と地歩を築いているそうだ。唯一の悩みは後継者の育成だそうで、寿命の無い使鬼になってて良かったと冗談交じりに言っていた。

シメオンさんはレスコー伯爵として北ペリゴール領を立派に治めている。トムさんと協力して、領内の経済規模をそれまでの10倍以上に拡大したので、国内有数の豊かな領地となっている。
特に、ペルピナルで次々に発明される画期的な化粧品や薬品類、そして飛空船をはじめとする魔道具類は他の追従を許さず、ペルピナルの特産品として国内はもとより、国外からも熱い注目を集めている。
そして何より、聖女のお膝元として有名となったため、聖地巡礼に訪れる旅行客が後を絶たない。
これだけの人が集まりながらも、治安がとても良いということで、北ペリゴール領への移住希望者は年々増加しているという。僕の故郷の田舎町リュノールでさえ、ここ数年で人口が倍近くに増えているみたいだ。

この領内の治安の良さに貢献しているのが、実はジルベール隊長だったりする。

ジルベール隊長は現在、レスコー伯爵の所で仕事をしている。
うちの屋敷が平和過ぎて退屈していた所に、シメオンさんからお声がかかったのだ。
「ぜひ我が軍の兵士たちを鍛えてやって欲しい」
そう言われて二つ返事で引き受けたジルベール隊長は、伯爵軍で調練の教官を任されたのだ。
彼の厳しい調練によって、兵士たちは1巡りで目つきが変わり、1期節で体つきが変わった、と言われている。
多少は尾ひれが付いているにせよ、その指導は確かなものだったようで、レスコー伯爵軍は精兵ぞろいだと評判になっている。

その効果は軍に留まらず衛兵隊にも及び、領内に現れた野盗や山賊は3日とかからずに討伐され、町なかの破落戸ごろつきどもは衛兵を恐れてすっかり大人しくなった。

レスコー伯爵と付き合いのある貴族から、「ぜひうちの兵士も鍛えて欲しい」と要望が寄せられており、まだまだジルベール隊長が暇を持て余すことはなさそうだ。


師匠は王宮導士爵となった後、王都サイユに屋敷を下賜されたので、一応そこに住んでいることになっている。
実際は<簡易転移門>でペルピナルの屋敷と行ったり来たりしているけどね。
貴族になったし、隣国から感謝状を贈られたしで有名になったため、魔法ギルドに講師として招聘され、各国のトップクラス魔術師に対する指導をお願いされたりしている。
師匠は「面倒だのう」と口では言いつつも、口角を上げていそいそと出かけて行くのを僕は知っている。なんだかんだで、ちやほやされるのは好きらしい。

なお、死霊術については、僕が成人するまでは師匠の許可が必要という制限付きながらも、奥義を全部習得したので「免許皆伝じゃ」ということになった。
師匠から出された最後の課題は、「弟子を見つけ、死霊術師として立派に育て上げて見せろ」と言うものだった。

既に霊視能力者の弟子を二人迎えているので、これからじっくりと資質を見極め、後継者として育てていくつもりだ。

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