幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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死霊術師の未来編

北部国境の騒ぎ

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師匠たちが帝国の暗殺者を退治して、帝国内が荒れてからしばらく経った夏のある日。

「テオ様、お時間よろしいでしょうか」
と珍しくアネットさんが深刻そうな表情で僕の所に来た。
「もちろん。どうしたの?」
「実は、先ほどリアーヌ様とお話をしていたのですが、その中で気になる話題がありまして」
アネットさんがリアーヌ様から伝え聞いた情報によると、北方の山岳地帯で不死系魔物が大量発生している可能性があるらしい。
公式には未確認であるが、複数の目撃情報が様々な地域から寄せられているのだとか。
アネットさんは特にゾンビが苦手だからな。話している間も表情が強張っていた。
「分かった。報告ありがとう。僕と師匠で調べてみるよ」
そう言うと、アネットさんはホッとした表情で「よろしくお願いします」と言って仕事に戻って行った。

早速師匠の所に相談に行った。
「どう思います?」
「今年の冬は特に厳しかったからな、山岳地帯では多数の村が全滅したと聞く。しかしそれだけで大量発生する可能性は、皆無ではないが、普通ではありえないな。何か原因があるに違いない」
悪霊災害の可能性が少しでもあるなら早めに調べておくべきだ、ということで、まずはペパン諜報部長に情報収集をお願いした。

数日後、ペパン諜報部長から報告を受ける。
「事前情報の通り、確かに山岳地帯のあちらこちらで不死系魔物が多数発生していました。北方諸国でもその事は問題となっていますが、木の柵を設置して生活圏を守る程度で、積極的に討伐するつもりは無いようです。そして、柵を迂回した魔物たちが山を下り、我が国の国境へと徐々に近づいているのが確認されております」
魔物は、ゾンビがほとんどで、一部白骨化したスケルトンも混ざっている。

発生源は冬に全滅した村と考えられ、一部の廃村を調査したところ気になる物が見つかったという。
「村の外周を囲むように、木の板が打ち付けられており、その板にこのような文様が刻まれていました。しかも複数の村で」
と紙に書いた図を見せてくれた。
「師匠、これって」
「うむ。結界術で用いられる文様だろうな。これは範囲を指定する文様だから、効果を指定する文様が別の場所にあるはずだ。それは見つかっていないか?」
「村全体を調べましたが、それらしきものは見つかっておりません。なお、村の中心部に死体を集めたらしき痕跡がありました」
師匠が表情を曇らせた。
「魔物除けの結界という線は消えたな。何者かが人為的に不死系魔物を作り出したとみて、まず間違いあるまい」

これは厄介だ。幽霊城の時のような制御不能な力技ではなく、結界術というより洗練された方法で意図的に不死系魔物を作っているという事になる。
間違いなく、相手は優秀な魔術師だ。もしかすると、霊視能力者であるかもしれない。
「このような外道を放置するわけにはいかんな。テオよ、これも死霊術師の使命だ。死者を冒涜するような魔法技術は、我らの手で根絶させねばならんぞ」
「はい、師匠」
さあ、まずは犯人を探し出すぞ。
と言っても調査は諜報部門頼みだ。ペパン諜報部長からの報告を待つとしよう。

ひとまず、国境に不死系魔物が近づいている事を、リアーヌ様経由で国に報告しておいた。

なお、この話を聞きつけたトムさんが何か商売を思い付いたようで、ダヤン商会は北方に、とある商品を大量に送ったそうだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

サンテイユ王国北方の国境に、東西に長く張り巡らされた巨大城壁。
数年がかりの大工事でもまだ建造途中ではあるが、仮設の防壁は一通り出来上がっていた。現在は、頑丈な城壁を10か所ほどで順次建築している最中だ。

その城壁の建設現場に、山から吹き下ろす風に乗って異臭が届くようになったのは数日前からだ。
「なんだ、この鼻が曲がりそうな臭いは」
「腐った肉の臭いじゃねえか」
作業員たちは顔をしかめながらも仕事を続けていた。
しかし、臭気は弱まるどころか、日々だんだんと酷くなっていく。そして、ついには吐き気を催す者が続出し、仕事どころではなくなってしまった。

そこへ、顔に布を巻いた行商人が現れた。
「悪臭や有毒ガスには浄化マスクが良く効きます。今なら銀貨1枚の所を何と大銅貨5枚と、半額でご提供しております。この機会にぜひお買い求めください!」
と大声で宣伝している。
「買うぞ、1枚くれ」
「俺もだ」「こっちにも」
作業員が殺到し、あっという間に売り切れてしまった。
「あ~、臭くない。空気ってこんなに美味かったんだな」
とマスクをつけた作業員は晴れやかな表情を浮かべていた。

マスクを買えなかった作業員は棟梁の所に押し寄せ、「あれを現場に導入してくれ」と嘆願した。暴動を恐れた棟梁が行商人と交渉し、ダヤン商会から大量に仕入れる商談がまとまった。
こうして、あちこちの建設現場で浄化マスクが支給されるようになったという。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いやー、大儲けさせてもらいましたよ」
トムさんは笑いが止まらない様子だ。
今の季節は夏。当然、ゾンビは腐敗が進み、悪臭が酷くなる。
それを見越して、対策用の商品を国境の建設現場に売り込みに行ったということらしい。本当に抜け目のない人だ。

問題は悪臭だけではない。死体は疫病の原因になることは良く知られているが、ゾンビもまた同じ。なので、このまま国境に近づいてこられるのは非常に困るわけだ。
「とりあえず、支配して山に戻すか」
師匠と相談した結果、対策を取ることになった。
幽霊城でスケルトンを支配したのとやり方は同じだ。すでに現地には諜報部門の工作員が潜入しているので、そこを起点に使鬼を送り込む。

「どのように作り出されたかを調べるために10体ほど捕獲しておこう」
と言うことで、適当に選んだゾンビを十数体、魔術で氷漬けにして確保しておいた。
そして、残りのゾンビの群れに向かって<霊体剥がし>からの<霊体支配>をして、再度憑依させた。これで僕らの命令を聞くようになったので、山に戻り水場を避けてじっとしているよう指示を出しておいた。
このような作業を西から東まで広域に渡って繰り返し、目につく限り全てのゾンビを支配下に置いて山に戻した。
疫病対策としてはこれでひとまずは大丈夫だろう。悪臭は、しばらく残りそうだ。

捕獲したゾンビから<霊体剥がし>で幽霊を取り出し、霊体球にする。
これを分析した結果、これらのゾンビがどのようにして作られたかが、ある程度わかった。
やはりゾンビは冬に全滅した村の住民だった。凍死した後、幽霊として漂っていたら何かの力で引き寄せられ、頭の中に「死体に入り込んで山を下れ」という命令が繰り返し聞こえてきて、その声に従っていた、と言う事らしい。
その引き寄せられた場所には、たくさんの死体が並べられており、それの周囲で見物する生きた人間たちを、幽霊は見ていた。

記憶にあるその光景には、帝国軍の軍服を着た人物が十数名、魔術師らしきローブの人物が3名ほど見えていた。
「なんと、帝国軍が関与しておったか」
師匠がその光景に驚きの声を上げた。
「これはまずいな。この技術が帝国のどこまで広まっているのか分からんが、最悪は帝国そのものを敵に回す必要があるかもしれん」
「帝国を敵に!」
流石にそんな規模の話になると腰が引ける。
「まあ、まだ実験段階のようだし、機密情報であれば知るものは一部に限られているはずだ。しかし、時間が経つほど知るものは増えていくだろう。急いだほうが良いな」
師匠の補足で多少気が軽くなったが、国家機密を密かに抹消しなければならないというのは、やはり気が遠くなる話だ。

そこまで話を進めたところで、ペパン諜報部長から報告が入った。
「山岳地帯で帝国軍の斥候らしき人間を見つけました。ゾンビの動きを監視していたようで、異常に気付かれました」
「帝国に知られたくはないな。押さえられるか?」
「ええ。問題ありません。…拘束しました。同様に斥候と思われる者を全て拘束しました」
速い!最初からそのつもりで待機してたんだな。
「やれやれ、斥候による監視付だったとは。危なかったな。さて、その斥候はこちらで逆に利用させてもらうとしよう」
師匠がニヤリと悪い笑みを浮かべてそう言った。

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