幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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死霊術師の未来編

帝国の刺客VS師匠

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師匠が表彰されてからしばらくして、ペパン諜報部長から報告が入る。
「帝国の工作員をペルピナルで発見しました。目的はどうもエルウッド殿のようです」
それを聞いて、師匠が溜息をついた。
「はぁ、かつての大帝国が情けなくなったものよのう。ロッカーラで負けた逆恨みか?しかし、厄介なことになったものだな」

まさか帝国に狙われることになるとは、想像もしていなかった。
「えっと、大丈夫ですかね?」
僕が不安になって聞いてみると、ペパン諜報部長は。
「ええ、帝国側の動きは完全に補足しております。また、ジルベール隊長に警備を強化してもらっていますので、万が一にもこの屋敷に侵入されることはありません」
と頼もしい答えが返ってきた。
何か手伝うことはあるかと聞いてみたが。
「既に、使鬼も偽生体も十分な数を提供していただいておりますので、大丈夫です。お任せください」
そうですか。よろしくお願いします。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

貧民街のあばら家の一つで、もう夏だと言うのにフード付きの薄汚れた外套を身に付けた男が二人、ひそひそと小声で言葉を交わしていた。
「目標を発見。貴族街の外れ、13番地の屋敷に住んでいた。外見も情報通りエルフだ。間違いない」
「ご苦労。引き続き監視を頼む」
そう答えた男の後ろ、部屋の片隅には長さが1尋(1.5m)ほどの細長い箱が無造作に置かれていた。

その1巡り後の夕方。再びあばら家で二人の男が密会していた。
「晴れた日の午前は必ず、庭で茶を飲みながら読書をしている。これが狙い目だろう」
「分かった。狙撃ポイントはどうだ?」
「確保した。今日は夕焼けがきれいだ。明日も晴れるだろう」
「では、明朝から現地入りだな」
「ああ。帝国に栄光あれ」
「帝国に栄光あれ」
二人は拳をこつんとぶつけ合わせると、あばら家を出て二手に分かれて雑踏に消えていった。

翌日の早朝。貴族街からは離れている商業区にある神殿、その鐘楼塔の最上階に、フードを被った男の姿があった。
男の傍らにはあばら家にあったあの細長い箱が置かれている。
塔の外壁に開いた明り取りの小さな窓から、男は覗き穴の付いた1尺(15㎝)ほどの筒を手に持ち、筒越しに外の様子を伺っている。そのまま男はじっと動きを止めて何かを待っていた。
途中、何度か鐘の音がゴーン、ゴーンと塔の中に響き渡ったが、男に動じる様子は無かった。

そのまま2刻(4時間)ほど経った頃、彫像のように動かなかった男がようやく動き出した。傍らに置いていた箱を開け、中から何やら細長い杖のようなものを取り出した。
小さな窓にその細長い杖の先端を載せると、足を投げ出し壁にもたれかかって、身体を支える。
杖の身体に近い方の金具をカチャリと操作すると、側面に穴が開いた。そこに1尺弱(12cm)ほどの細長い金属製で一方の端が尖った棒を押し込み、再び金具を操作して穴を塞いだ。
窓とは反対側の杖の端は木製の棍棒のようになっており、男はその部分を右脇に抱えるようにして構えた。
男はその姿勢のまま筒の上部についている覗き穴越しに外の風景を見ている。

その覗き穴の先には、庭に小さなテーブルを出し、お茶を飲みながら読書にいそしむエルフ男性の姿が見えていた。

男はそのままぴたりと動きを止めて、そして息も止めてしまった。しばらく静かな時間が流れる。
ガンッ!と突如大きな音が、塔の内部に響き渡った。
「よし」
男が小さくつぶやいた。
その時、覗き穴の先には、エルフ男性が庭の芝生の上に倒れている光景が広がっていた。

しかし、間も無く男が急に取り乱して声を上げた。
「なに!馬鹿な、命中したはずだぞ!」
何故なら、覗き穴の先で、倒れていたはずのエルフ男性がのっそりと起き上がり、ぎょろりとこちらに目を向けたのだ。
その顔は右の頭部がつぶれてひしゃげており、金属光沢のある内部が露になっていた。
「何だあれは!」
男は混乱の最中にありながら、任務の失敗を悟っていた。
逃げなければ。男は何とか冷静さを取り戻してそう考えた。

「いやー、本当にこんな離れている所から命中するとはな。驚きの技術だ」
男の死角から不意に声がかけられた。
「くっ!」
男は咄嗟に振り向こうとしたが、視界がぐるりと回って、ゴツン!後頭部に衝撃を受けた。殴られたにしては、視界がどうもおかしい。
塔の天井が見え、そこに向かって真っ赤な噴水が勢いよく吹き上がっているのが見えている。
その噴水の根本、そこには首のない男の胴体があった。
その胴体の側では屈強な男が剣を振りぬいた姿勢のまま床に転がる首を見つめていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

僕は遠隔から暗殺者の死霊を霊体球にして、<物品庫>に収納した。
「お疲れ様、ジルベール隊長。首をくっつけるから頭を胴体に載せてもらえるかな」
「了解だ」
ジルベール隊長に手伝ってもらいながら、<死体修復>で男の首を繋げておいた。
僕は屋敷で霊体球を取り出し、隣にいる師匠に渡した。
「くっくっく、人形の儂が起き上がった時のこやつの驚き様ときたら、思い出しても笑えるな」
人を驚かせるのが大好きな師匠だからな、今回もかなり手の込んだ仕掛けになった。

今回の作戦には、ペルピナルの裏を束ねるジョフロアの一派にも協力してもらった。
師匠が偽の屋敷に住んでいるという欺瞞情報を流してから、あたかもそこで人が生活しているように見せかける工作をしていたのだ。

ポリーヌさんには、師匠と同じような背格好の自動人形を作ってもらった。その表面を万能生体組織で覆って、師匠の外見に似せておいたのだ。
そして毎日決まった時間に狙いやすい庭に出る、という生活パターンを繰り返すように設定してあった。

帝国の工作員はまんまと騙されて、偽物の人形を襲撃したというわけだ。

首ちょんぱ男の死霊を解析した結果、帝国軍の特殊作戦部隊の兵士だと分かった。ちなみに、情報を集めていたもう一人の男は既に捕えて尋問している。
目的はやはり師匠の暗殺だった。
軍のかなり偉い人から直接命令を受けており、その時に長々とした訓示があって、火砲類対抗魔術のせいでこっぴどく敗戦したことを逆恨みして報復する、という内容だったらしい。
暗殺の手段として、小型砲による遠距離からの精密射撃にこだわっており、意趣返しをしようという作戦だったようだ。

「確かに、このような遠距離から命中させる技術があるとは思っておらんかった。奴らの作戦も悪くはなかったな」
師匠も敵の技術に素直に感心した上で。
「しかし、魔術での奇襲でも似たようなことはできるし、そもそも暗殺に対する防衛魔術は山ほどあるからな。うむ、やはり魔術の方が優れておるわ」
と対抗意識丸出しだった。

ジルベール隊長は、この長距離狙撃用の小型砲に興味を持ったようで、師匠に霊体球から知識を引き出してもらって、使い方を学んでいた。


これらの情報と、捕虜をリアーヌ様経由で国王陛下に差し出した。
「まさか帝国から暗殺者が送られてくるとは。しかし、流石はエルウッド殿。返り討ちにするとは、見事である」
国王陛下はこの事実を少し脚色して、世に知らしめるそうだ。
どうせ帝国に抗議しても知らぬ存ぜぬで無視されるから、事実を公表して帝国に屈辱を与えるのが一番なのだとか。そうすれば暗殺などと言う卑怯な手段は二度と使えなくなる。

後日、サンテイユ王国から公式発表があった。
帝国が、ロッカーラ侵攻に失敗した原因となった魔術師エルウッドの暗殺を企み、我が国に暗殺者を送り込んできた事。しかし返り討ちにして暗殺者を公開処刑した事。
そして、王国は卑劣な行いをする帝国に断固として抗議する。
といった内容である。
しかも、これと時期を合わせ、ロッカーラ連合王国も帝国を非難する声明を発表した。

帝国は敗戦に続き暗殺の失敗という不名誉を突き付けられ、周辺国はおろか、国内からも強い批判が沸き起こった。
この事態を収めるため、帝国は「軍の一部による独断専行である」と声明を出し、軍内部では粛清の嵐が吹き荒れ、多数の将校が責任を取らされて処刑・投獄されたと言う。

ペパン諜報部長の諜報網は既に帝国内部にも及んでおり、いち早くそう言う情報が入って来ていた。
「これで一安心かな」
僕がそう言うと、ペパン諜報部長が太鼓判を押してくれた。

これでまた平和な日々が戻ってきた。
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