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西国の幽霊城編
これって報酬?
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宮廷の晩餐会には、ディポーリ王家の方々と、ロッカーラ王家の方々が参加していた。
ロッカーラは筆頭王家としてこの国の代表を代々務める家系だ。サンテイユ王国と交友関係にあるのも、ロッカーラ王家だ。
「やあ、君がテオ殿か。サンテイユ国王から噂は聞いているよ。子供ながらにとても優秀な魔術師だそうだね」
とロッカーラ王家の当主に直接話しかけられてしまった。恐縮しながら会話をしたが、サンテイユの国王陛下と同じく、気さくな方だった。
他の方々とも和やかに交流していたのだが、一人だけ敵愾心を向けてくる子供がいた。
「ふん、平民のくせに生意気にも魔術師を名乗っているそうだな」
と僕より少し年上な感じの男の子が話しかけてきた。
「えーと、初めまして。魔術師のテオと申します。失礼ですが、あなたは?」
「僕の名前も知らないなんて。これだから平民は。良いかよく聞け。ロッカーラ王家第三王子ステファノだ。いずれ大魔術師としてその名が世界に轟くことになる。よく覚えておけ」
後ろにひっくり返るんじゃないかってくらい胸を反らせて、そう名乗りを上げた。
いや、すごい自信だな。そこまで自分を信じ切れるのはある意味凄いことかもしれないな。
「凄いですね。今後のご活躍をお祈り申し上げます」
素直に感心したのでそう伝えたのだが、ステファノ王子はムッとして。
「なんだその言い方は。僕の実力を分かっていないようだな。よし、表へ出ろ!」
いや、会ったばかりだし知ってるわけないじゃん、と思っている間に、彼はさっさとバルコニーへ歩いて行った。
このまま放置すると拗ねて余計にややこしくなりそうなので、後についてバルコニーに出て、そこから庭へと降りた。
「僕の実力を見せてやる。驚いて腰を抜かすがいい」
ステファノ王子はそう宣言すると、何やら呪文を詠唱し始めた。
彼の体内魔力がそれに合わせてうごめき、やがて掲げられた右手に集中して、一気に上空に打ち出された。
打ち出された魔力塊が炎を上げて半尋(75cm)ほどの火球になると、すぐに消えた。
ステファノ王子は膝を付いて、ハァハァと荒い息を吐いている。
「ど、どうだ。僕の魔術の威力に驚いたか!」
「……っ!」
あまりにもへぼ過ぎて呆気に取られてしまった。え、え~と、どう反応したらいいんだろう。
困ったな、お世辞を言っておくべきなんだろうか。
「良ければテオ殿の魔術も披露してもらえないかね」
と、いつの間にかバルコニーに来ていたロッカーラ王様が、苦笑しながら助け舟を出してくれた。ああ、良かった。
「ええ、構いませんよ。そうですね、日も暮れましたから”火の華”を魔術で再現してみましょうか。ちょっと考える時間を下さい」
僕はそう言うと、顎に手を当てながら少しの間考え込む。
ニコレットさんから”火の華”の仕組みは聞いていたので、それを参考に魔術の構造を決定した。
「うん、できそうです。あの、大きな音が出ますが大丈夫でしょうか?」
「ふむ、少し待ってもらえるかな」
ロッカーラ王様がそう言うと侍従に合図を出した。多分、関係各所に連絡してくれるのだろう。
「もう大丈夫だ。続けてくれたまえ」
「分かりました」
無詠唱で魔術を発動する。
本物の”火の華”と同じように、中心に爆裂球を、その周囲に色とりどりの小さな火球の種を一杯詰め込んだ、大きな魔力球を作って、それを上空に打ち出した。
一応、あの上がっていくときのヒューと言う音も再現しておいた。
上空でパッと光の華が開き、少し遅れてドン!と響く音が聞こえた。
よし、我ながら上出来だ!
「「「おおー!」」」
バルコニーで見ていた皆から驚愕と感嘆の声が上がる。そしてパチパチと拍手が沸き起こった。
「いや、実に素晴らしい。あれはまさしく”火の華”だった。まさかその歳であれほどの魔術を操るとは思っていなかった。驚いたよ」
ロッカーラ王様が拍手しながら、そう賛辞を述べた。
「いえ、恐縮です」
なんだか照れくさいな。
すると、ポカーンと空を見上げていたステファノ王子が再起動した。
「す、すごぉい!あれは何だ!どうしてあんなことができるんだ!信じらーれなーい!」
何だか頭を抱えてそこらをウロウロと歩き回り始めてしまった。
だ、大丈夫かな。
そして急に僕の方を向き、駆け寄ってくると、僕の手を握り締めて。
「師匠と呼ばせてください!」
とのたまったのだった。
その夜は宮廷の客室に泊って、翌朝。
「師匠!おはようございます!」
朝からステファノ王子が押しかけて来た。正直ウザい。
昨晩、師匠にステファノ王子の事を相談したら。
「おぬしは知識こそ足りぬが、技量は一流の魔術師だ。弟子を取って教えても良いくらいの実力はある。他人を教導することで新たな発見もあるからな、いい経験になるぞ」
と言われてしまった。
「朝からこんな所に来てて大丈夫ですか?他の勉強とか無いんですか」
とステファノ王子に一応聞いてみると、御付きの従者が代わりに答えてくれた。
「テオ様が滞在中は全ての勉強時間を魔術の勉強に充てるよう調整いたしました。もちろん、講師としての謝礼は用意してございます」
と言って、スッと金貨袋を差し出してきた。うお、ずしっと重いんですが。
ここまでお膳立てされては仕方ない、やってみるか。
「分かりました。では今の実力を見せてもらって指導方針を決めましょう」
「はい、師匠!」
ステファノ王子は元気よく返事をすると、練習場へ歩き出すのだった。
それから数日、ステファノ王子に魔術の稽古をつけることになり、僕らは引き続き宮廷でお世話になっている。
ピエールさんもすっかり執事ポジションで、宮廷の人との折衝を担ってくれている。
なお、宿に泊まっていた観光組には一足先に屋敷に帰ってもらった。
今日はロッカーラ王様に呼び出され、王城の一室に来ている。
幽霊城に関する褒賞をくれるそうだ。衣装はいつの間にかピエールさんが準備していた。
質素ではあるが値打ちのありそうな調度品が整えられた室内の中央に長テーブルがあり、ディポーリ王様とロッカーラ王様を始め、10人ほどの王侯貴族が着席している。
そこに僕と師匠が案内されて入っていった。
「やあ、よく来てくれた。座ってくれ」
ロッカーラ王様がそう言うと、案内の者が椅子を引いてくれた。
「幽霊城の件だが、城に居座る超巨大悪霊については情報統制することが決定した。世間には不死系魔物が討伐され、あの一帯が国の管理下に置かれたと発表することになっている。そのつもりでいて欲しい」
ロッカーラ王様の言葉に僕らは頷いた。
「さて、此度の貢献に対する褒賞だが、国からは名誉騎士の称号をエルウッド殿に贈ろうと思っている。受けてもらえるだろうか」
「光栄にございます」
と師匠が立ち上がって礼をする。
名誉騎士なら貴族じゃないから、リアーヌ様にも怒られないだろう。
「良かった。次にエルウッド殿とテオ殿には一級魔術師の認定を与えよう」
「一級魔術師、ですか?」
「ああ。説明はジャコッビ伯爵から頼む」
ロッカーラ王様に言われて、同席していた年配の貴族が頷く。
「国立魔術学院の院長を務めているジャコッビ伯爵家当主サミュエルと申す。お見知りおき下され。幽霊城では息子のポンペーオがお世話になりましたな。この場を借りてお礼申し上げる」
なるほど、ポンペーオさんの御父上だったか。
ジャコッビ伯爵の説明によると、この国の魔術師には上は一級から、下は十級までのランクが付けられており、国家試験によって認定される仕組みらしい。
魔術学院の卒院生の平均が5級で、国の要職についている魔術師なら3級~準2級、国全体でも2級と準1級を合わせて300名ほどで、1級は13名しかいないという。
この前宮廷の晩餐会で見せた”火の華”もどきの魔術でも、十分に一級魔術師の実力があると認められたらしい。
「実際、私もあの晩間近で見ておったが、あれは一級でもかなり上位の実力だと思っている。テオ殿は、幽霊城での活躍と合わせ、試験免除での認定が妥当と考えておる。生憎、一級より上が無いのでエルウッド殿には役不足とは思うが、どうか受け取っていただきたい」
「いえ、謹んでお受けいたします」
師匠がそう答える。続けて僕が。
「僕の実力が認められたのなら、大変うれしい事です」
と言うと、ジャコッビ伯爵は嬉しそうに頷いていた。
するとロッカーラ王様が話を引き継ぐ。
「そして一級魔術師のテオ殿には、宮廷魔術師の肩書を贈ろう。これで名実ともにステファノの師匠だ。これからも息子をよろしく頼む」
うわ~、それは要らなかったなー、とは思うがなるべく表情に出さないようにして。
「はい、微力を尽くします」
と答えておいた。
この場で略式ではあるが、名誉騎士の授与式と、宮廷魔術師の任命式が行われた。
その後、お金に関する話を担当の貴族から聞かされた。幽霊城の褒賞金がかなりの額となったうえ、名誉騎士と宮廷魔術師の年給が頂けるそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その翌日。
褒賞も受け取ったし、そろそろペルピナルの屋敷に帰ろう、とピエールさんに伝えると関係各所に連絡してくれた。
すると。
「師匠~、見捨てないでください~!」
とステファノ王子が駆けつけてきて、泣き付かれてしまった。
はぁ、と思わずため息が漏れる。
「テオ様にご教授いただいてから間違いなく王子の実力は上がりました。是非今後もご指導をお願いいたします」
と従者が深々と頭を下げながら、金貨袋を差し出してくる。
お金はともかく、指導の効果があったと言われるのは嬉しい。
「分かりました。1巡りに1度くらいは様子を見に来ますよ。その間に実力が伸びていなければ、それ以降は来ないという事にしましょう」
「分かりました、師匠!次にお会いするときまで、必ずや成長して見せます!」
ステファノ王子が燃えていた。
その後、ロッカーラ王様とディポーリ王様にも挨拶をして、ようやく首都ポルツィアを脱出できた。
郊外で<簡易転移門>を使い、思いがけず長い滞在となったロッカーラの地を後にする。
久しぶりの屋敷で、いつもの生活に懐かしさを覚えた。
一息ついた頃、アネットさんから。
「今回のロッカーラ国でのことを国王陛下にご報告申し上げねばなりませんね」
と指摘された。
確かに、行くときに協力してもらったんだから、結果を報告しなきゃならないよね。すっかり失念してた。
リアーヌ様経由で面会を申し込むと、「王宮に泊りにおいで」とお誘いを受けた。
これは行かないと、へそ曲げるやつだな。
と言うわけで平凡な生活は短命に終わった。
リアーヌ様の手回しで、直接客室に転移できるようにしてもらったので、僕とアネットさん、セラフィン君とナナさんでこっちに来た。
「テオ、お帰りなさい!」
ソフィ王女が先に客室で待ってたようだ。
「ただいまソフィ」
他の面々もソフィ王女と挨拶を交わす。
アネットさんがお茶を用意してくれたので、応接テーブルで、ソフィ王女に土産話を聞かせている。
幽霊城での激闘とかいろいろあったが、一番反応があったのはこの話題だった。
「え~!ステファノ王子の師匠になったの?あの高慢ちきで人の話を聞きそうにもない、あのバカ王子が、信じられない!」
どうやらソフィ王女はロッカーラ王家のステファノ王子と面識があったようだ。あの性格は誰に対しても同じだったのか。
ステファノ王子に魔術の稽古をつけてやった話をしていたら、ソフィ王女が可愛くほっぺたを膨らませている。
「むぅ、私には魔術教えてくれないの?」
「あれ?ソフィって魔術嫌い、って言ってなかった」
以前そんな事を言ってた気がするぞ。
「むー」
あ、ソフィ王女が本格的に拗ねだした。
「あ、何でもないです。僕で良ければ教えますとも」
慌てて僕は返事をする。
「本当!やったー、約束よ」
一瞬で笑顔になって、ソフィ王女が喜んでいる。
側に控えていた侍女さんが、後で教師陣のスケジュールを調整して連絡くれるそうだ。
う~ん、これで二人目の弟子か。しかも両方とも王族だよ!
今気づいたけど、これって結構スゴイ事なのでは?
国王陛下への報告は明日にねじ込んでもらえた。強引にスケジュールを調整したそうだが、大丈夫か?
「いいのよ。テオ君より優先しなきゃいけない者なんてこの国にはいないわ」
とリアーヌ様が言うが、そんなことは無いと思うなぁ。
夕食をリアーヌ様ご家族(国王陛下除く)と一緒にいただき、ゆっくりお風呂に入って、ふかふかのベッドで眠った。う~ん、贅沢ぅ。
翌日、師匠と僕は、王宮の応接室で国王陛下に今回の旅の報告をした。一応、報告書も作って渡しておいた。
「いやはや、これほどの大活躍だったとは思わなかった。幽霊城の件はロッカーラ王から感謝の手紙が届いている。よくやってくれた。これで我が国とロッカーラの絆はより深まっただろう」
国王陛下も僕らの活躍を喜んでくれたようだ。
「ロッカーラからは褒賞として名誉騎士の称号と、宮廷魔術師の肩書をもらったというわけか。これは我が国としても褒賞を出すに値する功績だ。また日を改めてとなるが、期待していてくれ」
そう言うと、国王陛下は次の予定へと向かっていった。
何がもらえるんだろう。期待半分、不安半分と言ったところだ。
数日後、師匠は王城の式典場で叙爵を受けて、貴族となった。”王宮導士爵”と言う爵位だ。
ついでに僕も国家間の親善に貢献大なりとして、勲章を受け取った。
ふふ、これで僕もネズミくんに並んだぞ。
その後、爵位について説明を受けた。
”王宮導士爵”は武力以外の魔法や学芸に秀でた者を、王家直属の貴族として取り立てるための爵位だそうだ。ちなみに、武力だと王宮騎士爵になる。
期待される役割は、王家の守護や指南役だそうだ。現在は、近衛騎士団や国立学芸院、魔法ギルドなどの組織が整備されたことで廃れてしまった爵位で、以前の叙爵は60年以上前になるとか。
爵位としては伯爵に相当する地位だが、領地は持たない。
そして、他の爵位が血筋によって継承されるのに対し、この爵位は師弟関係で継承されるのが大きく異なる点だ。
「つまり、テオが成人するまで儂が爵位を預かる、という意味合いがありそうじゃな」
と師匠が深読みしていた。
他にも、年給がもらえたり、王宮内に居室がもらえたりと、色々あるらしいが、一番重要なのは。
「ソフィ王女の魔術指南がお役目だそうだ。テオよ、儂の代わりにおぬしが務めるがよい」
と言う事だ。
こうして僕は、エルウッド王宮導士爵の弟子として、ソフィ王女の魔術指南役を拝命したのだった。
ロッカーラは筆頭王家としてこの国の代表を代々務める家系だ。サンテイユ王国と交友関係にあるのも、ロッカーラ王家だ。
「やあ、君がテオ殿か。サンテイユ国王から噂は聞いているよ。子供ながらにとても優秀な魔術師だそうだね」
とロッカーラ王家の当主に直接話しかけられてしまった。恐縮しながら会話をしたが、サンテイユの国王陛下と同じく、気さくな方だった。
他の方々とも和やかに交流していたのだが、一人だけ敵愾心を向けてくる子供がいた。
「ふん、平民のくせに生意気にも魔術師を名乗っているそうだな」
と僕より少し年上な感じの男の子が話しかけてきた。
「えーと、初めまして。魔術師のテオと申します。失礼ですが、あなたは?」
「僕の名前も知らないなんて。これだから平民は。良いかよく聞け。ロッカーラ王家第三王子ステファノだ。いずれ大魔術師としてその名が世界に轟くことになる。よく覚えておけ」
後ろにひっくり返るんじゃないかってくらい胸を反らせて、そう名乗りを上げた。
いや、すごい自信だな。そこまで自分を信じ切れるのはある意味凄いことかもしれないな。
「凄いですね。今後のご活躍をお祈り申し上げます」
素直に感心したのでそう伝えたのだが、ステファノ王子はムッとして。
「なんだその言い方は。僕の実力を分かっていないようだな。よし、表へ出ろ!」
いや、会ったばかりだし知ってるわけないじゃん、と思っている間に、彼はさっさとバルコニーへ歩いて行った。
このまま放置すると拗ねて余計にややこしくなりそうなので、後についてバルコニーに出て、そこから庭へと降りた。
「僕の実力を見せてやる。驚いて腰を抜かすがいい」
ステファノ王子はそう宣言すると、何やら呪文を詠唱し始めた。
彼の体内魔力がそれに合わせてうごめき、やがて掲げられた右手に集中して、一気に上空に打ち出された。
打ち出された魔力塊が炎を上げて半尋(75cm)ほどの火球になると、すぐに消えた。
ステファノ王子は膝を付いて、ハァハァと荒い息を吐いている。
「ど、どうだ。僕の魔術の威力に驚いたか!」
「……っ!」
あまりにもへぼ過ぎて呆気に取られてしまった。え、え~と、どう反応したらいいんだろう。
困ったな、お世辞を言っておくべきなんだろうか。
「良ければテオ殿の魔術も披露してもらえないかね」
と、いつの間にかバルコニーに来ていたロッカーラ王様が、苦笑しながら助け舟を出してくれた。ああ、良かった。
「ええ、構いませんよ。そうですね、日も暮れましたから”火の華”を魔術で再現してみましょうか。ちょっと考える時間を下さい」
僕はそう言うと、顎に手を当てながら少しの間考え込む。
ニコレットさんから”火の華”の仕組みは聞いていたので、それを参考に魔術の構造を決定した。
「うん、できそうです。あの、大きな音が出ますが大丈夫でしょうか?」
「ふむ、少し待ってもらえるかな」
ロッカーラ王様がそう言うと侍従に合図を出した。多分、関係各所に連絡してくれるのだろう。
「もう大丈夫だ。続けてくれたまえ」
「分かりました」
無詠唱で魔術を発動する。
本物の”火の華”と同じように、中心に爆裂球を、その周囲に色とりどりの小さな火球の種を一杯詰め込んだ、大きな魔力球を作って、それを上空に打ち出した。
一応、あの上がっていくときのヒューと言う音も再現しておいた。
上空でパッと光の華が開き、少し遅れてドン!と響く音が聞こえた。
よし、我ながら上出来だ!
「「「おおー!」」」
バルコニーで見ていた皆から驚愕と感嘆の声が上がる。そしてパチパチと拍手が沸き起こった。
「いや、実に素晴らしい。あれはまさしく”火の華”だった。まさかその歳であれほどの魔術を操るとは思っていなかった。驚いたよ」
ロッカーラ王様が拍手しながら、そう賛辞を述べた。
「いえ、恐縮です」
なんだか照れくさいな。
すると、ポカーンと空を見上げていたステファノ王子が再起動した。
「す、すごぉい!あれは何だ!どうしてあんなことができるんだ!信じらーれなーい!」
何だか頭を抱えてそこらをウロウロと歩き回り始めてしまった。
だ、大丈夫かな。
そして急に僕の方を向き、駆け寄ってくると、僕の手を握り締めて。
「師匠と呼ばせてください!」
とのたまったのだった。
その夜は宮廷の客室に泊って、翌朝。
「師匠!おはようございます!」
朝からステファノ王子が押しかけて来た。正直ウザい。
昨晩、師匠にステファノ王子の事を相談したら。
「おぬしは知識こそ足りぬが、技量は一流の魔術師だ。弟子を取って教えても良いくらいの実力はある。他人を教導することで新たな発見もあるからな、いい経験になるぞ」
と言われてしまった。
「朝からこんな所に来てて大丈夫ですか?他の勉強とか無いんですか」
とステファノ王子に一応聞いてみると、御付きの従者が代わりに答えてくれた。
「テオ様が滞在中は全ての勉強時間を魔術の勉強に充てるよう調整いたしました。もちろん、講師としての謝礼は用意してございます」
と言って、スッと金貨袋を差し出してきた。うお、ずしっと重いんですが。
ここまでお膳立てされては仕方ない、やってみるか。
「分かりました。では今の実力を見せてもらって指導方針を決めましょう」
「はい、師匠!」
ステファノ王子は元気よく返事をすると、練習場へ歩き出すのだった。
それから数日、ステファノ王子に魔術の稽古をつけることになり、僕らは引き続き宮廷でお世話になっている。
ピエールさんもすっかり執事ポジションで、宮廷の人との折衝を担ってくれている。
なお、宿に泊まっていた観光組には一足先に屋敷に帰ってもらった。
今日はロッカーラ王様に呼び出され、王城の一室に来ている。
幽霊城に関する褒賞をくれるそうだ。衣装はいつの間にかピエールさんが準備していた。
質素ではあるが値打ちのありそうな調度品が整えられた室内の中央に長テーブルがあり、ディポーリ王様とロッカーラ王様を始め、10人ほどの王侯貴族が着席している。
そこに僕と師匠が案内されて入っていった。
「やあ、よく来てくれた。座ってくれ」
ロッカーラ王様がそう言うと、案内の者が椅子を引いてくれた。
「幽霊城の件だが、城に居座る超巨大悪霊については情報統制することが決定した。世間には不死系魔物が討伐され、あの一帯が国の管理下に置かれたと発表することになっている。そのつもりでいて欲しい」
ロッカーラ王様の言葉に僕らは頷いた。
「さて、此度の貢献に対する褒賞だが、国からは名誉騎士の称号をエルウッド殿に贈ろうと思っている。受けてもらえるだろうか」
「光栄にございます」
と師匠が立ち上がって礼をする。
名誉騎士なら貴族じゃないから、リアーヌ様にも怒られないだろう。
「良かった。次にエルウッド殿とテオ殿には一級魔術師の認定を与えよう」
「一級魔術師、ですか?」
「ああ。説明はジャコッビ伯爵から頼む」
ロッカーラ王様に言われて、同席していた年配の貴族が頷く。
「国立魔術学院の院長を務めているジャコッビ伯爵家当主サミュエルと申す。お見知りおき下され。幽霊城では息子のポンペーオがお世話になりましたな。この場を借りてお礼申し上げる」
なるほど、ポンペーオさんの御父上だったか。
ジャコッビ伯爵の説明によると、この国の魔術師には上は一級から、下は十級までのランクが付けられており、国家試験によって認定される仕組みらしい。
魔術学院の卒院生の平均が5級で、国の要職についている魔術師なら3級~準2級、国全体でも2級と準1級を合わせて300名ほどで、1級は13名しかいないという。
この前宮廷の晩餐会で見せた”火の華”もどきの魔術でも、十分に一級魔術師の実力があると認められたらしい。
「実際、私もあの晩間近で見ておったが、あれは一級でもかなり上位の実力だと思っている。テオ殿は、幽霊城での活躍と合わせ、試験免除での認定が妥当と考えておる。生憎、一級より上が無いのでエルウッド殿には役不足とは思うが、どうか受け取っていただきたい」
「いえ、謹んでお受けいたします」
師匠がそう答える。続けて僕が。
「僕の実力が認められたのなら、大変うれしい事です」
と言うと、ジャコッビ伯爵は嬉しそうに頷いていた。
するとロッカーラ王様が話を引き継ぐ。
「そして一級魔術師のテオ殿には、宮廷魔術師の肩書を贈ろう。これで名実ともにステファノの師匠だ。これからも息子をよろしく頼む」
うわ~、それは要らなかったなー、とは思うがなるべく表情に出さないようにして。
「はい、微力を尽くします」
と答えておいた。
この場で略式ではあるが、名誉騎士の授与式と、宮廷魔術師の任命式が行われた。
その後、お金に関する話を担当の貴族から聞かされた。幽霊城の褒賞金がかなりの額となったうえ、名誉騎士と宮廷魔術師の年給が頂けるそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その翌日。
褒賞も受け取ったし、そろそろペルピナルの屋敷に帰ろう、とピエールさんに伝えると関係各所に連絡してくれた。
すると。
「師匠~、見捨てないでください~!」
とステファノ王子が駆けつけてきて、泣き付かれてしまった。
はぁ、と思わずため息が漏れる。
「テオ様にご教授いただいてから間違いなく王子の実力は上がりました。是非今後もご指導をお願いいたします」
と従者が深々と頭を下げながら、金貨袋を差し出してくる。
お金はともかく、指導の効果があったと言われるのは嬉しい。
「分かりました。1巡りに1度くらいは様子を見に来ますよ。その間に実力が伸びていなければ、それ以降は来ないという事にしましょう」
「分かりました、師匠!次にお会いするときまで、必ずや成長して見せます!」
ステファノ王子が燃えていた。
その後、ロッカーラ王様とディポーリ王様にも挨拶をして、ようやく首都ポルツィアを脱出できた。
郊外で<簡易転移門>を使い、思いがけず長い滞在となったロッカーラの地を後にする。
久しぶりの屋敷で、いつもの生活に懐かしさを覚えた。
一息ついた頃、アネットさんから。
「今回のロッカーラ国でのことを国王陛下にご報告申し上げねばなりませんね」
と指摘された。
確かに、行くときに協力してもらったんだから、結果を報告しなきゃならないよね。すっかり失念してた。
リアーヌ様経由で面会を申し込むと、「王宮に泊りにおいで」とお誘いを受けた。
これは行かないと、へそ曲げるやつだな。
と言うわけで平凡な生活は短命に終わった。
リアーヌ様の手回しで、直接客室に転移できるようにしてもらったので、僕とアネットさん、セラフィン君とナナさんでこっちに来た。
「テオ、お帰りなさい!」
ソフィ王女が先に客室で待ってたようだ。
「ただいまソフィ」
他の面々もソフィ王女と挨拶を交わす。
アネットさんがお茶を用意してくれたので、応接テーブルで、ソフィ王女に土産話を聞かせている。
幽霊城での激闘とかいろいろあったが、一番反応があったのはこの話題だった。
「え~!ステファノ王子の師匠になったの?あの高慢ちきで人の話を聞きそうにもない、あのバカ王子が、信じられない!」
どうやらソフィ王女はロッカーラ王家のステファノ王子と面識があったようだ。あの性格は誰に対しても同じだったのか。
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「むぅ、私には魔術教えてくれないの?」
「あれ?ソフィって魔術嫌い、って言ってなかった」
以前そんな事を言ってた気がするぞ。
「むー」
あ、ソフィ王女が本格的に拗ねだした。
「あ、何でもないです。僕で良ければ教えますとも」
慌てて僕は返事をする。
「本当!やったー、約束よ」
一瞬で笑顔になって、ソフィ王女が喜んでいる。
側に控えていた侍女さんが、後で教師陣のスケジュールを調整して連絡くれるそうだ。
う~ん、これで二人目の弟子か。しかも両方とも王族だよ!
今気づいたけど、これって結構スゴイ事なのでは?
国王陛下への報告は明日にねじ込んでもらえた。強引にスケジュールを調整したそうだが、大丈夫か?
「いいのよ。テオ君より優先しなきゃいけない者なんてこの国にはいないわ」
とリアーヌ様が言うが、そんなことは無いと思うなぁ。
夕食をリアーヌ様ご家族(国王陛下除く)と一緒にいただき、ゆっくりお風呂に入って、ふかふかのベッドで眠った。う~ん、贅沢ぅ。
翌日、師匠と僕は、王宮の応接室で国王陛下に今回の旅の報告をした。一応、報告書も作って渡しておいた。
「いやはや、これほどの大活躍だったとは思わなかった。幽霊城の件はロッカーラ王から感謝の手紙が届いている。よくやってくれた。これで我が国とロッカーラの絆はより深まっただろう」
国王陛下も僕らの活躍を喜んでくれたようだ。
「ロッカーラからは褒賞として名誉騎士の称号と、宮廷魔術師の肩書をもらったというわけか。これは我が国としても褒賞を出すに値する功績だ。また日を改めてとなるが、期待していてくれ」
そう言うと、国王陛下は次の予定へと向かっていった。
何がもらえるんだろう。期待半分、不安半分と言ったところだ。
数日後、師匠は王城の式典場で叙爵を受けて、貴族となった。”王宮導士爵”と言う爵位だ。
ついでに僕も国家間の親善に貢献大なりとして、勲章を受け取った。
ふふ、これで僕もネズミくんに並んだぞ。
その後、爵位について説明を受けた。
”王宮導士爵”は武力以外の魔法や学芸に秀でた者を、王家直属の貴族として取り立てるための爵位だそうだ。ちなみに、武力だと王宮騎士爵になる。
期待される役割は、王家の守護や指南役だそうだ。現在は、近衛騎士団や国立学芸院、魔法ギルドなどの組織が整備されたことで廃れてしまった爵位で、以前の叙爵は60年以上前になるとか。
爵位としては伯爵に相当する地位だが、領地は持たない。
そして、他の爵位が血筋によって継承されるのに対し、この爵位は師弟関係で継承されるのが大きく異なる点だ。
「つまり、テオが成人するまで儂が爵位を預かる、という意味合いがありそうじゃな」
と師匠が深読みしていた。
他にも、年給がもらえたり、王宮内に居室がもらえたりと、色々あるらしいが、一番重要なのは。
「ソフィ王女の魔術指南がお役目だそうだ。テオよ、儂の代わりにおぬしが務めるがよい」
と言う事だ。
こうして僕は、エルウッド王宮導士爵の弟子として、ソフィ王女の魔術指南役を拝命したのだった。
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言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
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主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
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初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
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