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ぐるり南方旅行編
幽霊船
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それからしばし砂浜でそれぞれに海を堪能し、そろそろ宿に戻ることにした。
岸壁に上がり、馬車へ戻る。
そうだ、ポリーヌさんはどうなった?
「僕が探してくるよ」
セラフィン君がそう言うと、憑依を解除して、使鬼になって飛んでいった。
身体の方はナナさんが抱えていた。
しばらくして、セラフィン君が通信を繋いできた。
『見つけた。けど、牢屋に入ってる』
「えぇぇ!」
何やってんのポリーヌさん!
ピエールさんにそのことを伝えると、溜息を吐きつつも。
「私にお任せください。皆様は馬車でお待ちを」
と言って、建物の一つに走って行った。
セラフィン君に<感覚公開>してもらって、見てみると、確かに牢屋の中にふてぶてしい態度のポリーヌさんがいた。
「だから、ただ単に魔動船を見に来ただけなんだってば」
「だったら何で船の中に入ろうとした」
「だから見たかっただけなんだってば」
何!ポリーヌさんってば外から見るだけじゃなく、中に侵入しようとしたの?
子供でもダメって分かるでしょうが!
馬車でこの光景を見ていたみんなが溜息をついた。
結局、迷惑料を支払うことで、ポリーヌさんは釈放された。
しかしピエールさんはそれだけで終わらせなかった。
なんと、その場で「魔動船内部の見学」を新規の商売として提案し、そのお試しと言う形にして、実現してくれたのだ。
いや本当に有能な方です、ピエールさん!
内部見学会は2日後と決まった。
なお、迷惑をかけたポリーヌさんには、2日間の禁酒が言い渡され、彼女は真っ白になっていた。
宿に戻って、美味しい夕食を食べ、ふかふかのベッドで眠る。う~ん、贅沢だ。
こうして海辺の町での初日は過ぎていった。
翌日は、街を散策するチーム、海で遊ぶチーム、宿でのんびりするチームに分かれて行動することになった。
僕は、アネットさん、ココちゃん、ニコレットさん、案内のピエールさん、そして護衛のジルベール隊長と一緒に街の散策に向かった。
なお、海で遊ぶのは、ナナさん、セラフィン君、ポリーヌさん、5人衆の面々だ。師匠は一人で宿チームだ。
ポントニーの街並みを歩く。
白い壁の建物が立ち並んでいるが、あれが漆喰というものだろう。南部ではこういう建物が多いと習った。
街行く人々も、褐色の肌に黒い髪の南方系人種が多くみられる。海の向こうにはこういう人が多いらしい。
それはつまり、この海の向こうにも見知らぬ土地があり、この国と同じように人々が生活しているという事だ。あまりの世界の広さに頭がクラクラしそうだ。
ピエールさんの案内で、食材屋に入った。
「これは魚を干したものですか?」
アネットさんがお店の人に質問している。店員さんも身なりのいい僕らに売りつけようと、熱心に説明してくれている。
ペルピナルでは見かけないような珍しいものが多い。色鮮やかな果物、変な臭いのする調味料、魚介の干物も多くみられる。
ココちゃんやニコレットさんは、珍しい果物や黒糖菓子など甘いモノを熱心に見ているようだ。
「おう、テオ坊こっち来て見てみろ。これ、クジラの金玉だってよ」
とジルベール隊長が変なものを指さしてニヤニヤ笑っている。
そこには輪切りになった干物があるがすごく大きい。僕の顔よりデカいぞ。
その大きさから、全体像を想像して両腕で輪っかを作っていたら、ジルベール隊長に爆笑されてしまった。
そんなに可笑しかったかな?
それから、服屋で南方系の衣装に着替えてみたり、酒屋でこの地方の地酒を購入したり、海から採れる錬金術素材を買い集めたり、といろいろなお店を見て回った。
昼食は大衆食堂という所で食べた。
普通に町の住人が利用するだけあって、質素で飾り気のない店内だったが、料理はおいしかった。家庭料理らしい素朴な味だ。
アネットさんが早速厨房に勉強しに行っていた。
食事中、近くのテーブルのお客さんの会話がふと耳に入る。
「そういや、聞いたか。幽霊船が出たって言うじゃねぇか」
「おうおう、サンチョスとこの倅が見たってあれかい?ボロボロの船に骸骨の船員が乗ってたとか。本当かねぇ」
「何?サンチョスの倅も見たのか。俺が聞いたのは・・・」
ん?幽霊船?骸骨の船員?
何だか気になる単語がいっぱいだったぞ。僕はもっと話が聞きたいと思ってそっちの方ばかり気にしていた。
すると、ジルベール隊長が席を立ってそっちのテーブルに向かう。
「やあ、兄弟。面白そうな話じゃねぇか。ちょいと詳しく聞かせてくれないか。何、タダでとは言わないさ」
と話しかけ、空いている椅子に座り込み、店員さんを呼ぶ。
ついでに僕を手招きしたので、僕もそっちのテーブルに向かった。
最初は呆気に取られていたおじさん達も、おごりと分かると途端に上機嫌になり、お酒とつまみを注文すると舌が滑らかになった。
詳しく聞いた所、複数の漁師が、別の場所で目撃しているという。証言は以下のようなものだ。
時間は早朝、まだ朝靄の残る頃。漁船で沖に出ると、朝靄の向こうに大きな船影が見えた。近づいてくると船体はボロボロに崩れており、帆も破れている中型船だと分かった。
中型船と言うのは、漁船の3~5艘分の全長(およそ15~30m)の船だ。
漂流船かと思いきや、甲板から何体もの骸骨の船員が顔を出し、サーベルを振りかざすのが見えた。
慌てて漁船を動かし逃げ出すと、その船は進路を変えて追ってきた。
恐怖にかられ、必死で操船して何とか引き離し、周囲の靄が晴れたことに気付いて、振り返ると幽霊船は消えていた。
今の所実害は出ていないものの、追っかけられた者が恐怖の余り家から出てこなくなると、猟師の間にも動揺が広がり始めたと言う。
最近では朝靄が晴れてから漁に出る者が増え、漁獲量が落ちてきているそうだ。
このままじゃ魚が値上がりして気軽に食べられなくなるかもしれないらしい。
他にも与太話をいくつか聞いて、お礼を言って僕らは店を出た。
それにしても幽霊船か。死霊術と何か関係があるんだろうか。帰ったら師匠に聞いてみよう。
その後も民芸品店で変わった人形や仮面を見たり、金物屋で魚用の包丁を見たり、といろいろと回った。
その途中、店員に幽霊船の噂話について聞いてみると、結構な割合で知っているようだった。
町中で噂になっているようだ。
夕方になり宿に帰ると、”海で遊ぶチーム”が既に戻ってくつろいでいた。
早速、お昼に聞いた幽霊船を話題にすると。
「あー、聞いたよその話」
ポリーヌさんも港で船乗りとおしゃべりして、そこで聞いたという。
漁師ではなく、商船の船員に聞いた話だそうだが、同じようにボロボロで骸骨船員を載せた幽霊船の目撃情報があるそうだ。
今年の夏の中頃、土の期節の半ばあたりから噂を聞くようになったらしい。
一緒に聞いていた師匠が、この話を聞いてつぶやく。
「う~む、悪霊災害の恐れがあるな」
「「「悪霊災害?」」」
「そうだ。強い想念を持つ幽霊同士が一か所に集まり融合して巨大化したものを悪霊と言うのだが、それがさらに周囲の幽霊や死霊を取り込んで狂暴化し、周囲に大きな被害をもたらすことを悪霊災害と呼ぶ。
そのくらいの悪霊ともなると霊視能力の無い普通の人間にも見えるようになるから、人々の噂に上るようになるんじゃ」
「では、この幽霊船も悪霊なのですか?」
アネットさんが不安そうな顔で確認する。
「まだ断言はできんな。悪霊ではなく、単なる幽霊が憑依して船や骸骨を動かしている可能性もあるからな。いずれにせよ調査が必要じゃ。
良いかテオよ。悪霊災害から人々を護ることは死霊術師の重要な使命だ。普通の人間には抗うすべがないのだからな、我らが戦わねば大勢の命が失われることになる」
「はい、師匠」
僕は背筋を伸ばして返事をする。
「テオ様。私にもできることがあれば何でもやります。遠慮せずに命じてください」
「おう、テオ坊。俺もやるぜ。戦闘なら任せろ!」
「ん、任せる」
「僕も魔術で戦うよ」
アネットさんが、ジルベール隊長が、ナナさんが、セラフィン君が、助力を申し出てくれる。
「ありがとう、みんな」
みんなと一緒なら、きっとなんとかなる。
夕食後、まずは幽霊船を見つけることにした。
ジルベール隊長とセラフィン君に使鬼状態で海上の偵察をお願いする。
憑依を解除して、2人は海の方へ飛んでいった。師匠の犬使鬼も一緒に偵察に飛んだ。
「テオの使鬼たちには、霊素攻撃に対する防御魔術<霊体防護>を組み込んである。悪霊に対しても効果があるはずだが、もし問題があれば即座に収納するのだ」
「はい、師匠」
セラフィン君の<感覚公開>で向こうの様子を見る。
上空から海を見ると真っ暗だ。何も見えない。
いや、遠くに青白い光がうっすらと見えた気がした。船だろうか?
「右斜め前に光が見えない?」
僕が指摘すると、セラフィン君も気づいたようだ。そっちに飛んでもらう。
「あれは!」
どうやら正解だったようだ。
「これが幽霊船か」
噂通り、ボロボロの船と骸骨船員たちがそこにいた。全体が青白い光を放っていて、霊体が関与しているのは間違いない。
それを見た師匠が安心したように息を吐いた。
「ふぅ、よかったな。これは悪霊災害ではない、幽霊が憑依しているだけだ。悪霊はもっと禍々しい色をしているからな。
しかし、これだけの幽霊が一か所に集まっていれば、近いうちに悪霊となるだろう。今のうちに蹴散らしておいた方が良いな。使鬼の<霊衝撃>を使うのがよかろう」
「分かりました。では増援をおくります」
アネットさんとナナさんを収納して、幽霊船の側に呼び出す。さらに、屋敷警備の犬猫で非番の使鬼10体も呼び出した。
総勢14体の使鬼たちに、<霊衝撃>を使って幽霊船から幽霊を引きはがすよう指示を出す。
使鬼たちが一斉に幽霊船に飛び込んでいくと、幽霊船のあちこちで青白い光が弾けた。
次々に骸骨船員から幽霊が弾き飛ばされて、姿を現した。幽霊の抜けた骸骨はその場に頽れた。
船体からは、なんとクジラっぽい大きな幽霊が飛び出て来た。
僕と師匠は使鬼を介して遠隔から<霊素干渉>で幽霊を休眠状態にして、霊体球を<物品庫>にどんどん保管していく。
僕が20体ほど捕獲したところで、幽霊は見当たらなくなった。
甲板の上には、動かなくなった骸骨船員が散らばり、船は浸水して徐々に沈んでいく。
そう言えば、どうして船にクジラの幽霊が憑依していたんだろう?
その疑問に師匠が教えてくれた。
「船の素材にクジラの髭や骨、皮が使われると聞いたことがあるな」
なるほど。ネズミくんのぬいぐるみと同じ原理か。
『そうだ、お宝とかあるんじゃねぇか』
ジルベール隊長がそう言うと、ナナさんが船の中に飛び込んでいった。
『あ、こらずるいぞ』
ジルベール隊長も後に続く。アネットさんとセラフィン君も顔を見合わせてから後を追った。
探索は4人に任せ、動物の使鬼を屋敷に戻しておいた。
船内を探索したところ、船倉に木箱が結構残っていた。大半は朽ちていたが、瓶のお酒は大丈夫そうだ。他にも貴金属や宝石類が見つかった。
骸骨船員たちの遺品らしきものや、航海日誌という記録簿も見つかった。
それらを<物品庫>に収納し、ついでに遺体(骸骨)も収納して持って行くことにした。
遺体と遺品、航海日誌については、港近くの砂浜に、いかにも流れ着いたかのように乱雑に並べておいた。
その他は、お駄賃としてもらっておこう。
とりあえず今回は悪霊災害でなくて良かった。
「今回は幸い悪霊災害ではなかったが、今後もこういう怪しい噂を集めて早い段階で散らしておくと良いだろうな」
と師匠が今後の指針を示してくれた。
こういうのはペパン諜報部長の出番だね。早速、情報収集をお願いしておいた。
◇◆◇
翌朝、港町ポントニーは少し騒がしかった。
2期節ほど前の大嵐で難破した船の船員の遺体が、砂浜に流れ着いていたのが発見されたのだ。
全て白骨化していたが、幸運にも遺品と航海日誌が一緒に流れ着いていたため、どの船の船員だったかはすぐに特定された。
遺体は遺族の元に届けられ、葬式が行われた。
その葬式の片隅で、誰にも気づかれることなく、青白い光が空中に霧散していった。
岸壁に上がり、馬車へ戻る。
そうだ、ポリーヌさんはどうなった?
「僕が探してくるよ」
セラフィン君がそう言うと、憑依を解除して、使鬼になって飛んでいった。
身体の方はナナさんが抱えていた。
しばらくして、セラフィン君が通信を繋いできた。
『見つけた。けど、牢屋に入ってる』
「えぇぇ!」
何やってんのポリーヌさん!
ピエールさんにそのことを伝えると、溜息を吐きつつも。
「私にお任せください。皆様は馬車でお待ちを」
と言って、建物の一つに走って行った。
セラフィン君に<感覚公開>してもらって、見てみると、確かに牢屋の中にふてぶてしい態度のポリーヌさんがいた。
「だから、ただ単に魔動船を見に来ただけなんだってば」
「だったら何で船の中に入ろうとした」
「だから見たかっただけなんだってば」
何!ポリーヌさんってば外から見るだけじゃなく、中に侵入しようとしたの?
子供でもダメって分かるでしょうが!
馬車でこの光景を見ていたみんなが溜息をついた。
結局、迷惑料を支払うことで、ポリーヌさんは釈放された。
しかしピエールさんはそれだけで終わらせなかった。
なんと、その場で「魔動船内部の見学」を新規の商売として提案し、そのお試しと言う形にして、実現してくれたのだ。
いや本当に有能な方です、ピエールさん!
内部見学会は2日後と決まった。
なお、迷惑をかけたポリーヌさんには、2日間の禁酒が言い渡され、彼女は真っ白になっていた。
宿に戻って、美味しい夕食を食べ、ふかふかのベッドで眠る。う~ん、贅沢だ。
こうして海辺の町での初日は過ぎていった。
翌日は、街を散策するチーム、海で遊ぶチーム、宿でのんびりするチームに分かれて行動することになった。
僕は、アネットさん、ココちゃん、ニコレットさん、案内のピエールさん、そして護衛のジルベール隊長と一緒に街の散策に向かった。
なお、海で遊ぶのは、ナナさん、セラフィン君、ポリーヌさん、5人衆の面々だ。師匠は一人で宿チームだ。
ポントニーの街並みを歩く。
白い壁の建物が立ち並んでいるが、あれが漆喰というものだろう。南部ではこういう建物が多いと習った。
街行く人々も、褐色の肌に黒い髪の南方系人種が多くみられる。海の向こうにはこういう人が多いらしい。
それはつまり、この海の向こうにも見知らぬ土地があり、この国と同じように人々が生活しているという事だ。あまりの世界の広さに頭がクラクラしそうだ。
ピエールさんの案内で、食材屋に入った。
「これは魚を干したものですか?」
アネットさんがお店の人に質問している。店員さんも身なりのいい僕らに売りつけようと、熱心に説明してくれている。
ペルピナルでは見かけないような珍しいものが多い。色鮮やかな果物、変な臭いのする調味料、魚介の干物も多くみられる。
ココちゃんやニコレットさんは、珍しい果物や黒糖菓子など甘いモノを熱心に見ているようだ。
「おう、テオ坊こっち来て見てみろ。これ、クジラの金玉だってよ」
とジルベール隊長が変なものを指さしてニヤニヤ笑っている。
そこには輪切りになった干物があるがすごく大きい。僕の顔よりデカいぞ。
その大きさから、全体像を想像して両腕で輪っかを作っていたら、ジルベール隊長に爆笑されてしまった。
そんなに可笑しかったかな?
それから、服屋で南方系の衣装に着替えてみたり、酒屋でこの地方の地酒を購入したり、海から採れる錬金術素材を買い集めたり、といろいろなお店を見て回った。
昼食は大衆食堂という所で食べた。
普通に町の住人が利用するだけあって、質素で飾り気のない店内だったが、料理はおいしかった。家庭料理らしい素朴な味だ。
アネットさんが早速厨房に勉強しに行っていた。
食事中、近くのテーブルのお客さんの会話がふと耳に入る。
「そういや、聞いたか。幽霊船が出たって言うじゃねぇか」
「おうおう、サンチョスとこの倅が見たってあれかい?ボロボロの船に骸骨の船員が乗ってたとか。本当かねぇ」
「何?サンチョスの倅も見たのか。俺が聞いたのは・・・」
ん?幽霊船?骸骨の船員?
何だか気になる単語がいっぱいだったぞ。僕はもっと話が聞きたいと思ってそっちの方ばかり気にしていた。
すると、ジルベール隊長が席を立ってそっちのテーブルに向かう。
「やあ、兄弟。面白そうな話じゃねぇか。ちょいと詳しく聞かせてくれないか。何、タダでとは言わないさ」
と話しかけ、空いている椅子に座り込み、店員さんを呼ぶ。
ついでに僕を手招きしたので、僕もそっちのテーブルに向かった。
最初は呆気に取られていたおじさん達も、おごりと分かると途端に上機嫌になり、お酒とつまみを注文すると舌が滑らかになった。
詳しく聞いた所、複数の漁師が、別の場所で目撃しているという。証言は以下のようなものだ。
時間は早朝、まだ朝靄の残る頃。漁船で沖に出ると、朝靄の向こうに大きな船影が見えた。近づいてくると船体はボロボロに崩れており、帆も破れている中型船だと分かった。
中型船と言うのは、漁船の3~5艘分の全長(およそ15~30m)の船だ。
漂流船かと思いきや、甲板から何体もの骸骨の船員が顔を出し、サーベルを振りかざすのが見えた。
慌てて漁船を動かし逃げ出すと、その船は進路を変えて追ってきた。
恐怖にかられ、必死で操船して何とか引き離し、周囲の靄が晴れたことに気付いて、振り返ると幽霊船は消えていた。
今の所実害は出ていないものの、追っかけられた者が恐怖の余り家から出てこなくなると、猟師の間にも動揺が広がり始めたと言う。
最近では朝靄が晴れてから漁に出る者が増え、漁獲量が落ちてきているそうだ。
このままじゃ魚が値上がりして気軽に食べられなくなるかもしれないらしい。
他にも与太話をいくつか聞いて、お礼を言って僕らは店を出た。
それにしても幽霊船か。死霊術と何か関係があるんだろうか。帰ったら師匠に聞いてみよう。
その後も民芸品店で変わった人形や仮面を見たり、金物屋で魚用の包丁を見たり、といろいろと回った。
その途中、店員に幽霊船の噂話について聞いてみると、結構な割合で知っているようだった。
町中で噂になっているようだ。
夕方になり宿に帰ると、”海で遊ぶチーム”が既に戻ってくつろいでいた。
早速、お昼に聞いた幽霊船を話題にすると。
「あー、聞いたよその話」
ポリーヌさんも港で船乗りとおしゃべりして、そこで聞いたという。
漁師ではなく、商船の船員に聞いた話だそうだが、同じようにボロボロで骸骨船員を載せた幽霊船の目撃情報があるそうだ。
今年の夏の中頃、土の期節の半ばあたりから噂を聞くようになったらしい。
一緒に聞いていた師匠が、この話を聞いてつぶやく。
「う~む、悪霊災害の恐れがあるな」
「「「悪霊災害?」」」
「そうだ。強い想念を持つ幽霊同士が一か所に集まり融合して巨大化したものを悪霊と言うのだが、それがさらに周囲の幽霊や死霊を取り込んで狂暴化し、周囲に大きな被害をもたらすことを悪霊災害と呼ぶ。
そのくらいの悪霊ともなると霊視能力の無い普通の人間にも見えるようになるから、人々の噂に上るようになるんじゃ」
「では、この幽霊船も悪霊なのですか?」
アネットさんが不安そうな顔で確認する。
「まだ断言はできんな。悪霊ではなく、単なる幽霊が憑依して船や骸骨を動かしている可能性もあるからな。いずれにせよ調査が必要じゃ。
良いかテオよ。悪霊災害から人々を護ることは死霊術師の重要な使命だ。普通の人間には抗うすべがないのだからな、我らが戦わねば大勢の命が失われることになる」
「はい、師匠」
僕は背筋を伸ばして返事をする。
「テオ様。私にもできることがあれば何でもやります。遠慮せずに命じてください」
「おう、テオ坊。俺もやるぜ。戦闘なら任せろ!」
「ん、任せる」
「僕も魔術で戦うよ」
アネットさんが、ジルベール隊長が、ナナさんが、セラフィン君が、助力を申し出てくれる。
「ありがとう、みんな」
みんなと一緒なら、きっとなんとかなる。
夕食後、まずは幽霊船を見つけることにした。
ジルベール隊長とセラフィン君に使鬼状態で海上の偵察をお願いする。
憑依を解除して、2人は海の方へ飛んでいった。師匠の犬使鬼も一緒に偵察に飛んだ。
「テオの使鬼たちには、霊素攻撃に対する防御魔術<霊体防護>を組み込んである。悪霊に対しても効果があるはずだが、もし問題があれば即座に収納するのだ」
「はい、師匠」
セラフィン君の<感覚公開>で向こうの様子を見る。
上空から海を見ると真っ暗だ。何も見えない。
いや、遠くに青白い光がうっすらと見えた気がした。船だろうか?
「右斜め前に光が見えない?」
僕が指摘すると、セラフィン君も気づいたようだ。そっちに飛んでもらう。
「あれは!」
どうやら正解だったようだ。
「これが幽霊船か」
噂通り、ボロボロの船と骸骨船員たちがそこにいた。全体が青白い光を放っていて、霊体が関与しているのは間違いない。
それを見た師匠が安心したように息を吐いた。
「ふぅ、よかったな。これは悪霊災害ではない、幽霊が憑依しているだけだ。悪霊はもっと禍々しい色をしているからな。
しかし、これだけの幽霊が一か所に集まっていれば、近いうちに悪霊となるだろう。今のうちに蹴散らしておいた方が良いな。使鬼の<霊衝撃>を使うのがよかろう」
「分かりました。では増援をおくります」
アネットさんとナナさんを収納して、幽霊船の側に呼び出す。さらに、屋敷警備の犬猫で非番の使鬼10体も呼び出した。
総勢14体の使鬼たちに、<霊衝撃>を使って幽霊船から幽霊を引きはがすよう指示を出す。
使鬼たちが一斉に幽霊船に飛び込んでいくと、幽霊船のあちこちで青白い光が弾けた。
次々に骸骨船員から幽霊が弾き飛ばされて、姿を現した。幽霊の抜けた骸骨はその場に頽れた。
船体からは、なんとクジラっぽい大きな幽霊が飛び出て来た。
僕と師匠は使鬼を介して遠隔から<霊素干渉>で幽霊を休眠状態にして、霊体球を<物品庫>にどんどん保管していく。
僕が20体ほど捕獲したところで、幽霊は見当たらなくなった。
甲板の上には、動かなくなった骸骨船員が散らばり、船は浸水して徐々に沈んでいく。
そう言えば、どうして船にクジラの幽霊が憑依していたんだろう?
その疑問に師匠が教えてくれた。
「船の素材にクジラの髭や骨、皮が使われると聞いたことがあるな」
なるほど。ネズミくんのぬいぐるみと同じ原理か。
『そうだ、お宝とかあるんじゃねぇか』
ジルベール隊長がそう言うと、ナナさんが船の中に飛び込んでいった。
『あ、こらずるいぞ』
ジルベール隊長も後に続く。アネットさんとセラフィン君も顔を見合わせてから後を追った。
探索は4人に任せ、動物の使鬼を屋敷に戻しておいた。
船内を探索したところ、船倉に木箱が結構残っていた。大半は朽ちていたが、瓶のお酒は大丈夫そうだ。他にも貴金属や宝石類が見つかった。
骸骨船員たちの遺品らしきものや、航海日誌という記録簿も見つかった。
それらを<物品庫>に収納し、ついでに遺体(骸骨)も収納して持って行くことにした。
遺体と遺品、航海日誌については、港近くの砂浜に、いかにも流れ着いたかのように乱雑に並べておいた。
その他は、お駄賃としてもらっておこう。
とりあえず今回は悪霊災害でなくて良かった。
「今回は幸い悪霊災害ではなかったが、今後もこういう怪しい噂を集めて早い段階で散らしておくと良いだろうな」
と師匠が今後の指針を示してくれた。
こういうのはペパン諜報部長の出番だね。早速、情報収集をお願いしておいた。
◇◆◇
翌朝、港町ポントニーは少し騒がしかった。
2期節ほど前の大嵐で難破した船の船員の遺体が、砂浜に流れ着いていたのが発見されたのだ。
全て白骨化していたが、幸運にも遺品と航海日誌が一緒に流れ着いていたため、どの船の船員だったかはすぐに特定された。
遺体は遺族の元に届けられ、葬式が行われた。
その葬式の片隅で、誰にも気づかれることなく、青白い光が空中に霧散していった。
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