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ぐるり南方旅行編
成長期
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久しぶりにサラとみんなで遊びに行った。
聖女騒ぎに戦争と、いろいろ立て込んでたからなかなか会う機会が取れなかったんだよね。
待ち合わせの広場の噴水前。
「久しぶり~、みんな元気だった?」
サラが手を振って挨拶してきた。
「やあ」
「サラちゃん、久しぶり」
セラフィン君とココちゃんも挨拶を返す。
あれ?サラってあんなにお姉さんだったかな。久々に見たせいか思ってたのと印象が違うな。
「ん?テオ、どうしたの?」
おっと、黙ってジッと見てしまってた。
「いや。なんかサラがいつもと違って見えた気がして」
そう答えると、ココちゃんも同意して。
「私も思った。なんかサラちゃん、大人っぽくなってない?」
「そりゃあ、もうすぐ12だもん。いつまでも子供と思ってちゃダメよ」
人差し指を左右に振りながらそう言って、最後にパチリとウィンクをする。
う~ん、様になってるなぁ。
ココちゃんも、「わ~、カッコイイ」って言ってる。
「最近背も伸びたし、お世話になってるお店でおしゃれのコツとか教わってるしね。そのおかげかな」
確かにサラの手足がすらっと伸びて、体形が変わった気がするな。
「う~ん、セラフィン君とココはあんまり変わってないね。ちゃんと食べてる?」
こちらの面々を見渡してサラが心配そうにそう言った。
「えっ!あ、うん。大丈夫だよ。食べてる食べてる」
あ、ココちゃんがあからさまに動揺してる。まずいぞ!サラが食いついてしまう。
「そうだね。ココちゃんはあんなに食べてるのに、全然太らないよね」
すかさず、何食わぬ顔でセラフィン君がフォローに入った。さすが!
『慌てずに、落ち着いて』
僕も霊糸通信でココちゃんに呼びかける。
「えっと、あはは」
ココちゃんは笑ってごまかした。
「食べても太らないなんて、羨ましい体質よね。年上の子たちはみんな体重気にしてるもんね。この前なんかさ・・・」
サラは女の子の体重事情の話を始める。
僕とセラフィン君は顔を見合わせて、安堵する。
ふぅ、なんとかなったか。
その後は、サラの案内でいろんなお店を見て回って、おしゃべりしたり、買い物したり、楽しく過ごすことができた。
「じゃね。また会いましょ」
「うん、またね」
「バイバイ」
僕は手を振って人込みに紛れるサラを見送りつつ、今日発覚した問題について考えを巡らせていた。
そして屋敷に帰ったら、すぐ師匠に相談する。
「・・・と言うわけで、偽生体が成長しないのは色々と問題だと思うんです」
「確かにな。セラフィンたちは成長期だから、体形が変わらないのは病気を疑われたりして面倒なことになる、か」
師匠も問題を把握してくれた。そして。
「これはポリーヌやニコレットの力を借りよう」
と言うことで、二人に相談に来た。
事情を話すと、問題点を理解してくれて、さっそく解決策を検討してくれた。
ニコレットさんが案を出す。
「以前、私の模造死体を作った時の魔道具が使えると思います」
ああ、”全自動偽生体化装置”の開発の時に、実験用にニコレットさんの複製を作ったという装置か。
「そうね。あの魔道具で模造死体の形状を変更させれば疑似的に成長させることはできると思う。問題は、成長した後の姿をどう決めれば良いか、ってところね。手足が伸びるのは簡単そうだけど、それ以外の部分ってどう変化するか良く分からないわ」
ポリーヌさんが課題を指摘する。
それを聞いた師匠が助け舟を出す。
「ふむ。成長した姿を見せることは可能だぞ」
「ええ?できるの!」
「理論的にはな。実際に試したことは無いが、まあ、何とかなるじゃろ。明日までには魔術を開発しておく」
「さ、さすがエルフね。そんな簡単に新しい魔術を作っちゃうなんて」
ポリーヌさんが驚愕を通り過ぎてあきれた感じでそう言った。
僕と師匠は地下に降りた。
実験用に地下倉庫から子供の永続死体を1体運び、寝台に横たえる。
師匠はそれに対していろいろと魔術を発動して、ああでもないこうでもないとブツブツつぶやいている。
師匠が魔術を作る所は初めて見るけど、こうやっていたのか。
単純な機能の魔術を単発でいくつも発動させて効果を確かめ、それを組み合わせた複雑な魔術を作ってまた試し、さらにそれらを組み合わせてより複雑な魔術を構築している。
う~ん、すぐに真似できるようなものじゃないけど、とても参考になるな。
しばらくすると、目の前の死体が白い光に包まれ、変化した。光が消えると、そこには成長して大人になった姿の死体が横たわっていた。
「これは!」
「ふむ。一応成功じゃ」
師匠の話によると、この姿は幻影だそうで、実際には変化していないとの事。
情報次元から生前の肉体情報を辿り、その時間軸を20歳時点に設定して一時的に再現している、とか説明されたけど、とりあえず凄いとしか分からなかった。
説明を聞いているうちに効果が切れて幻影は消えた。
その後、時間軸の設定を細かく変更して実験を行い、十分実用になることを確かめた。
翌日、ニコレットさんとポリーヌさんを呼んで、新魔術を披露した。
「わぁ!」
「おー、確かに成長した姿っぽいわね。面影があるわ」
二人とも驚いている。
時間軸を自在に動かせるので、徐々に成長していって大人になり、さらに老いていって老人になるまで見ることもできるし、一気に戻して赤ん坊姿を見ることもできた。
「は~、こりゃすごい。もしかしてこれって生きてる人間にもできたり?」
「ああ。むしろその方がもっと簡単だな」
ポリーヌさんの疑問に師匠が答える。
「へー。あ、でも自分の年老いた姿を見るのはちょっと勇気が要るわね」
そんな雑談をしてから、師匠とポリーヌさんはこの魔術をどうやって活用するかの相談を始めた。
「これを使うなら、万能生体組織が大量に必要ですよね。私、調合にとりかかりますね」
「うん、よろしく」
「はい。お任せください」
ニコレットさんはニコッと笑ってそう言うと、錬金工房に消えていった。
翌日。
ポリーヌさんがあっという間に作り上げてきた試作機、”年齢可変・全自動模造死体製造機”の試作1号機、の試運転を行った。
万能生体組織の元となる液体が満たされた棺桶型容器と、実験対象の子供の永続死体を、この試作機で接続する。
そして装置を稼働すると、年齢を入力する状態になった。
試しに15歳と入力して、実行ボタンを押すと、液体で満たされた棺桶の中に次第に人型が出来上がっていき、成人になりたてくらいの見た目の模造死体が出現する。
実験は成功だ。
念のため犯1の使鬼を呼びだして憑依させると、目が開いて上半身を起こす。
「どう?問題ないか試してみて」
指示すると、棺桶から出て部屋の中を歩いたり、飛び跳ねたりする。
「特に問題ないと思います」
と若い男の声で犯1が答えた。
棺桶に戻らせて犯1を収納する。
「今のが最初から全部製作する場合ね。次が既にある模造死体を年齢変更する機能の実験」
ポリーヌさんがそう言うと、また装置を起動していくつか操作をする。
そして、年齢に30歳と入力して実行すると、棺桶に横たわる模造死体が徐々に変形してすっかり大人の外見に変化した。なんと髭まで生えてる。
「お~、実際に目にすると凄いね」
「見る間に年を取りましたね」
僕とニコレットさんは驚きの声を上げた。
「問題は、中に偽生体化の魔道具が入ってると壊れちゃうってことね。こうやって年齢を変化できるのは、偽生体化されていない模造死体だけね。今のところは」
ポリーヌさんが残念そうにそう言った。
「いやいや、これで十分だよ。年齢を変えたかったらまた新たに作ればいいんだから」
僕はそう思ったんだけど、ポリーヌさん的には不満らしい。
「そう?じゃあ、とりあえず第1弾はこれで完成させるかな」
ポリーヌさんには本番機の製作をお願いしておいた。
実験の結果は良好だった。自在に年齢を設定できるのも凄いと思うが、なによりセラフィン君たちの身体を成長させてあげられるのが、一番うれしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
後日、出来上がった本番機を使って、セラフィン君とココちゃんに今の年齢に成長させた模造死体の偽生体、略して”模造偽生体”を用意してあげることになった。
まずセラフィン君だ。
実年齢の13歳に設定すると、思ったより急成長してしまった。身長も高いし、肩幅も広く、喉仏も出ていた。いきなりこれでは怪しまれる恐れがあるので、12歳に変更した。
これならまだ「成長期だから」で納得できる程度の成長だろう、と周囲の大人たちも太鼓判を押した。
この模造死体を全自動偽生体化装置で”模造偽生体”に改造して、セラフィン君に入ってもらった。
セラフィン君は背が伸びて、顔つきがやや男っぽくなった。
うん、僕より年上って感じになったね。これなら安心だ。
「身体に違和感はない?」
「手足が伸びたからバランスが変わっちゃったね。しばらく訓練して慣らさないと」
そのくらいなら大丈夫か。
次にココちゃん。
こっちは全部女性陣にお任せした。
身体を模造偽生体に取り換えたココちゃんが処置室から出て来た。
何だかずいぶん時間がかかったな。
ココちゃんは、う~ん、あまり変わってない?
「む~、そんなことないです。ほら、おっぱいが少し膨らんでるんですよ」
と言って、横を向いて服をピタッと張り付ける。
あー、うん、そうかも。
「えーと、身体に違和感はない?」
「特にないですね」
あー、うん。変わらないというのも、いいことあるよね。
◇◆◇
【女性だけの処置室の中で】
ポリーヌが質問する。
「えーと、ココちゃんっていま何歳?」
「今年で12になります」
「え!そうなの?てっきりテオと同じかと思ってた」
「むぅ、どういう意味ですか?」
「い、いやあ、別に深い意味は無いよ、うん。よし、じゃあ装置の年齢を12に設定っと」
ポリーヌが装置を操作すると、棺桶の中に12歳に成長したココの模造死体が出来上がった。
「どれどれ、ん?」
「わぁ、どうなりました、え?」
そこには今とほとんど変わっていないココが横たわっていた。
「あ、あれ~おかしいな。設定間違ったかな」
ポリーヌが引きつった笑みを浮かべて、可能性の低い原因に言及する。
「そ、そうですよね~。これじゃ今と変わりないですもんね」
ココも、間違いであってくれと祈るような気持ちで同意する。
「ちょっと、念のため14歳に設定して試してみるね」
ポリーヌが再び装置を操作してボタンを押すと、模造死体がほんの僅か変化した。
「…ちょっと変わった?よね」
「…はい、おっぱいが少し膨らんだ、はず」
奇妙な沈黙が場を支配する。
「あの、念のため18歳にしてもらえますか」
ココが真剣な表情でポリーヌに頼み込んだ。
「そ、そうね。やってみよっか」
三度、装置を設定しボタンを押す。
すると、今度は目に見えて変化があった。
「お~!変わった、変わったよね!」
「…そうですね」
そこには、さっきよりは明確に膨らんだ胸、少し大きくなった骨盤周りが見て取れた。
が、身長はさほど変わらず、腰の括れも見当たらなかった。
ココの顔色がどんよりと曇った。
「えーと、ほら、ドワーフならこんなもんだよ。うん、普通普通」
ポリーヌが懸命に慰めの言葉を絞り出したが、効果があったかどうかは疑問だ。
「とりあえず、14歳で作っておこうか?」
「はい…」
力なくココが頷き、模造偽生体が完成した。
ちなみにニコレットはかける言葉が見当たらず、終始沈黙を守っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらく経って、火の期節。
サラの12歳の誕生節パーティーに招待された。
パーティー会場に到着してみんなで挨拶すると、サラがセラフィン君を見て驚いた声を上げた。
「ちょっと、すごい大きくなってない?」
「うん、急に背が伸びてね。数日熱が出て足が痛かったよ」
セラフィン君が用意しておいた急成長エピソードを披露する。
「あ、聞いたことある。成長痛ってやつよね。へぇ~」
セラがなるほど、と頷いた。
セラフィン君の横では、ココちゃんがなぜか胸を張って偉そうにしていた。
「ん?どうしたのココ」
サラがそんなココちゃんに気付いて問いかける。
ココちゃんは無言でさらに胸を張る。
「ん~?あ!その服かわいいじゃない、買ったわけじゃなさそうね。もしかして自分で作ったの?」
「ふぇっ!あ、うん。アネットさんに教えてもらいながら作ったんだ」
「へぇ!良いじゃない。アネットさんって本当に万能よね」
話題はココちゃんの服とアネットさんに移っていった。
サラ、気付いて欲しかったのは服じゃないと思うよ。
いつもは鋭いサラでも流石に気づけなかったようだ。
聖女騒ぎに戦争と、いろいろ立て込んでたからなかなか会う機会が取れなかったんだよね。
待ち合わせの広場の噴水前。
「久しぶり~、みんな元気だった?」
サラが手を振って挨拶してきた。
「やあ」
「サラちゃん、久しぶり」
セラフィン君とココちゃんも挨拶を返す。
あれ?サラってあんなにお姉さんだったかな。久々に見たせいか思ってたのと印象が違うな。
「ん?テオ、どうしたの?」
おっと、黙ってジッと見てしまってた。
「いや。なんかサラがいつもと違って見えた気がして」
そう答えると、ココちゃんも同意して。
「私も思った。なんかサラちゃん、大人っぽくなってない?」
「そりゃあ、もうすぐ12だもん。いつまでも子供と思ってちゃダメよ」
人差し指を左右に振りながらそう言って、最後にパチリとウィンクをする。
う~ん、様になってるなぁ。
ココちゃんも、「わ~、カッコイイ」って言ってる。
「最近背も伸びたし、お世話になってるお店でおしゃれのコツとか教わってるしね。そのおかげかな」
確かにサラの手足がすらっと伸びて、体形が変わった気がするな。
「う~ん、セラフィン君とココはあんまり変わってないね。ちゃんと食べてる?」
こちらの面々を見渡してサラが心配そうにそう言った。
「えっ!あ、うん。大丈夫だよ。食べてる食べてる」
あ、ココちゃんがあからさまに動揺してる。まずいぞ!サラが食いついてしまう。
「そうだね。ココちゃんはあんなに食べてるのに、全然太らないよね」
すかさず、何食わぬ顔でセラフィン君がフォローに入った。さすが!
『慌てずに、落ち着いて』
僕も霊糸通信でココちゃんに呼びかける。
「えっと、あはは」
ココちゃんは笑ってごまかした。
「食べても太らないなんて、羨ましい体質よね。年上の子たちはみんな体重気にしてるもんね。この前なんかさ・・・」
サラは女の子の体重事情の話を始める。
僕とセラフィン君は顔を見合わせて、安堵する。
ふぅ、なんとかなったか。
その後は、サラの案内でいろんなお店を見て回って、おしゃべりしたり、買い物したり、楽しく過ごすことができた。
「じゃね。また会いましょ」
「うん、またね」
「バイバイ」
僕は手を振って人込みに紛れるサラを見送りつつ、今日発覚した問題について考えを巡らせていた。
そして屋敷に帰ったら、すぐ師匠に相談する。
「・・・と言うわけで、偽生体が成長しないのは色々と問題だと思うんです」
「確かにな。セラフィンたちは成長期だから、体形が変わらないのは病気を疑われたりして面倒なことになる、か」
師匠も問題を把握してくれた。そして。
「これはポリーヌやニコレットの力を借りよう」
と言うことで、二人に相談に来た。
事情を話すと、問題点を理解してくれて、さっそく解決策を検討してくれた。
ニコレットさんが案を出す。
「以前、私の模造死体を作った時の魔道具が使えると思います」
ああ、”全自動偽生体化装置”の開発の時に、実験用にニコレットさんの複製を作ったという装置か。
「そうね。あの魔道具で模造死体の形状を変更させれば疑似的に成長させることはできると思う。問題は、成長した後の姿をどう決めれば良いか、ってところね。手足が伸びるのは簡単そうだけど、それ以外の部分ってどう変化するか良く分からないわ」
ポリーヌさんが課題を指摘する。
それを聞いた師匠が助け舟を出す。
「ふむ。成長した姿を見せることは可能だぞ」
「ええ?できるの!」
「理論的にはな。実際に試したことは無いが、まあ、何とかなるじゃろ。明日までには魔術を開発しておく」
「さ、さすがエルフね。そんな簡単に新しい魔術を作っちゃうなんて」
ポリーヌさんが驚愕を通り過ぎてあきれた感じでそう言った。
僕と師匠は地下に降りた。
実験用に地下倉庫から子供の永続死体を1体運び、寝台に横たえる。
師匠はそれに対していろいろと魔術を発動して、ああでもないこうでもないとブツブツつぶやいている。
師匠が魔術を作る所は初めて見るけど、こうやっていたのか。
単純な機能の魔術を単発でいくつも発動させて効果を確かめ、それを組み合わせた複雑な魔術を作ってまた試し、さらにそれらを組み合わせてより複雑な魔術を構築している。
う~ん、すぐに真似できるようなものじゃないけど、とても参考になるな。
しばらくすると、目の前の死体が白い光に包まれ、変化した。光が消えると、そこには成長して大人になった姿の死体が横たわっていた。
「これは!」
「ふむ。一応成功じゃ」
師匠の話によると、この姿は幻影だそうで、実際には変化していないとの事。
情報次元から生前の肉体情報を辿り、その時間軸を20歳時点に設定して一時的に再現している、とか説明されたけど、とりあえず凄いとしか分からなかった。
説明を聞いているうちに効果が切れて幻影は消えた。
その後、時間軸の設定を細かく変更して実験を行い、十分実用になることを確かめた。
翌日、ニコレットさんとポリーヌさんを呼んで、新魔術を披露した。
「わぁ!」
「おー、確かに成長した姿っぽいわね。面影があるわ」
二人とも驚いている。
時間軸を自在に動かせるので、徐々に成長していって大人になり、さらに老いていって老人になるまで見ることもできるし、一気に戻して赤ん坊姿を見ることもできた。
「は~、こりゃすごい。もしかしてこれって生きてる人間にもできたり?」
「ああ。むしろその方がもっと簡単だな」
ポリーヌさんの疑問に師匠が答える。
「へー。あ、でも自分の年老いた姿を見るのはちょっと勇気が要るわね」
そんな雑談をしてから、師匠とポリーヌさんはこの魔術をどうやって活用するかの相談を始めた。
「これを使うなら、万能生体組織が大量に必要ですよね。私、調合にとりかかりますね」
「うん、よろしく」
「はい。お任せください」
ニコレットさんはニコッと笑ってそう言うと、錬金工房に消えていった。
翌日。
ポリーヌさんがあっという間に作り上げてきた試作機、”年齢可変・全自動模造死体製造機”の試作1号機、の試運転を行った。
万能生体組織の元となる液体が満たされた棺桶型容器と、実験対象の子供の永続死体を、この試作機で接続する。
そして装置を稼働すると、年齢を入力する状態になった。
試しに15歳と入力して、実行ボタンを押すと、液体で満たされた棺桶の中に次第に人型が出来上がっていき、成人になりたてくらいの見た目の模造死体が出現する。
実験は成功だ。
念のため犯1の使鬼を呼びだして憑依させると、目が開いて上半身を起こす。
「どう?問題ないか試してみて」
指示すると、棺桶から出て部屋の中を歩いたり、飛び跳ねたりする。
「特に問題ないと思います」
と若い男の声で犯1が答えた。
棺桶に戻らせて犯1を収納する。
「今のが最初から全部製作する場合ね。次が既にある模造死体を年齢変更する機能の実験」
ポリーヌさんがそう言うと、また装置を起動していくつか操作をする。
そして、年齢に30歳と入力して実行すると、棺桶に横たわる模造死体が徐々に変形してすっかり大人の外見に変化した。なんと髭まで生えてる。
「お~、実際に目にすると凄いね」
「見る間に年を取りましたね」
僕とニコレットさんは驚きの声を上げた。
「問題は、中に偽生体化の魔道具が入ってると壊れちゃうってことね。こうやって年齢を変化できるのは、偽生体化されていない模造死体だけね。今のところは」
ポリーヌさんが残念そうにそう言った。
「いやいや、これで十分だよ。年齢を変えたかったらまた新たに作ればいいんだから」
僕はそう思ったんだけど、ポリーヌさん的には不満らしい。
「そう?じゃあ、とりあえず第1弾はこれで完成させるかな」
ポリーヌさんには本番機の製作をお願いしておいた。
実験の結果は良好だった。自在に年齢を設定できるのも凄いと思うが、なによりセラフィン君たちの身体を成長させてあげられるのが、一番うれしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
後日、出来上がった本番機を使って、セラフィン君とココちゃんに今の年齢に成長させた模造死体の偽生体、略して”模造偽生体”を用意してあげることになった。
まずセラフィン君だ。
実年齢の13歳に設定すると、思ったより急成長してしまった。身長も高いし、肩幅も広く、喉仏も出ていた。いきなりこれでは怪しまれる恐れがあるので、12歳に変更した。
これならまだ「成長期だから」で納得できる程度の成長だろう、と周囲の大人たちも太鼓判を押した。
この模造死体を全自動偽生体化装置で”模造偽生体”に改造して、セラフィン君に入ってもらった。
セラフィン君は背が伸びて、顔つきがやや男っぽくなった。
うん、僕より年上って感じになったね。これなら安心だ。
「身体に違和感はない?」
「手足が伸びたからバランスが変わっちゃったね。しばらく訓練して慣らさないと」
そのくらいなら大丈夫か。
次にココちゃん。
こっちは全部女性陣にお任せした。
身体を模造偽生体に取り換えたココちゃんが処置室から出て来た。
何だかずいぶん時間がかかったな。
ココちゃんは、う~ん、あまり変わってない?
「む~、そんなことないです。ほら、おっぱいが少し膨らんでるんですよ」
と言って、横を向いて服をピタッと張り付ける。
あー、うん、そうかも。
「えーと、身体に違和感はない?」
「特にないですね」
あー、うん。変わらないというのも、いいことあるよね。
◇◆◇
【女性だけの処置室の中で】
ポリーヌが質問する。
「えーと、ココちゃんっていま何歳?」
「今年で12になります」
「え!そうなの?てっきりテオと同じかと思ってた」
「むぅ、どういう意味ですか?」
「い、いやあ、別に深い意味は無いよ、うん。よし、じゃあ装置の年齢を12に設定っと」
ポリーヌが装置を操作すると、棺桶の中に12歳に成長したココの模造死体が出来上がった。
「どれどれ、ん?」
「わぁ、どうなりました、え?」
そこには今とほとんど変わっていないココが横たわっていた。
「あ、あれ~おかしいな。設定間違ったかな」
ポリーヌが引きつった笑みを浮かべて、可能性の低い原因に言及する。
「そ、そうですよね~。これじゃ今と変わりないですもんね」
ココも、間違いであってくれと祈るような気持ちで同意する。
「ちょっと、念のため14歳に設定して試してみるね」
ポリーヌが再び装置を操作してボタンを押すと、模造死体がほんの僅か変化した。
「…ちょっと変わった?よね」
「…はい、おっぱいが少し膨らんだ、はず」
奇妙な沈黙が場を支配する。
「あの、念のため18歳にしてもらえますか」
ココが真剣な表情でポリーヌに頼み込んだ。
「そ、そうね。やってみよっか」
三度、装置を設定しボタンを押す。
すると、今度は目に見えて変化があった。
「お~!変わった、変わったよね!」
「…そうですね」
そこには、さっきよりは明確に膨らんだ胸、少し大きくなった骨盤周りが見て取れた。
が、身長はさほど変わらず、腰の括れも見当たらなかった。
ココの顔色がどんよりと曇った。
「えーと、ほら、ドワーフならこんなもんだよ。うん、普通普通」
ポリーヌが懸命に慰めの言葉を絞り出したが、効果があったかどうかは疑問だ。
「とりあえず、14歳で作っておこうか?」
「はい…」
力なくココが頷き、模造偽生体が完成した。
ちなみにニコレットはかける言葉が見当たらず、終始沈黙を守っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばらく経って、火の期節。
サラの12歳の誕生節パーティーに招待された。
パーティー会場に到着してみんなで挨拶すると、サラがセラフィン君を見て驚いた声を上げた。
「ちょっと、すごい大きくなってない?」
「うん、急に背が伸びてね。数日熱が出て足が痛かったよ」
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「あ、聞いたことある。成長痛ってやつよね。へぇ~」
セラがなるほど、と頷いた。
セラフィン君の横では、ココちゃんがなぜか胸を張って偉そうにしていた。
「ん?どうしたのココ」
サラがそんなココちゃんに気付いて問いかける。
ココちゃんは無言でさらに胸を張る。
「ん~?あ!その服かわいいじゃない、買ったわけじゃなさそうね。もしかして自分で作ったの?」
「ふぇっ!あ、うん。アネットさんに教えてもらいながら作ったんだ」
「へぇ!良いじゃない。アネットさんって本当に万能よね」
話題はココちゃんの服とアネットさんに移っていった。
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