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北方防衛戦編
裏話
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その頃の僕たちがどう過ごしていたのか、時間を戻して語るとしよう。
備蓄基地で敵軍を駆逐し、勝利が確実になった頃、トムさんは既に戦勝ムードだった。
「戦勝祝いとしてサイユで売り出す新商品を検討しておりまして、ライナス様に相談させていただきたく」
<幻影会合>でトムさんと師匠が話している。
「何かな」
「例の王子殿下が持っていたネズミのぬいぐるみのレプリカを大々的に売り出したいと考えておりまして」
「ほう?良い所に目を付けたのう」
一気に師匠が乗り気になった。
そこからは縫子の手配や師匠による指導など、実現に向けた具体的な話し合いに突入していった。
「よし、戦もここまでくれば儂の出番も無かろう。儂は早速、縫子の指導に行ってくる」
シュタ!と立ち上がると足早に立ち去ってしまった。
僕はあっけに取られて見送るしかなかった。
どんだけぬいぐるみ作りたいんだよ。
「ライナス様のぬいぐるみにかける情熱には目を瞠るものがありますね」
アネットさんも驚いていた。
この後、ペパン諜報部長は王都サイユに潜伏中の工作員に、王子を絶賛する噂と、北方辺境伯を貶める噂を流すよう指示を出していた。
特に、上流階級に向けては、北方辺境伯の暗殺計画に第一王妃派閥が関わっていたという噂を加えていた。
これで、ドルレアク公爵を直接断罪できずとも、嫌がらせ程度にはなるはずとの事だ。
確かに、それくらいはしてやらないと、腹の虫がおさまらないよね。
王子一行が王都サイユに到着するまでの間、師匠はずっとぬいぐるみ製造に携わっていた。
師匠の厳しい指導により製造されたぬいぐるみは、王子の持つものと寸分たがわぬ仕上がりとなった。
ダヤン商会はこれを完成した端からサイユへ送り、「シャルル王子の勝利の御守りレプリカ」と称してかなりの高額で販売を始めた。
ペパン諜報部長が流した王子の噂の事もあってか、縁起が良いとして富裕層の目に留まり、高額にもかかわらず飛ぶように売れた。
すぐに真似をした類似品が現れたが、比較すれば一目で品質の違いが分かるため、富裕層向けの本物と、庶民向けの偽物で自然と住み分けができていた。
「いやぁ、予想以上の売れ行きですよ。”ダヤン印のぬいぐるみ”として評判になったおかげで、サイユでもダヤン商会の名前が使えるようになりましたし、本当にライナス様には感謝していますよ」
トムさんは大喜びのご様子。
師匠は師匠で「儂の持つぬいぐるみの技術をすべて叩き込んだ。免許皆伝じゃ」とか言って、満足そうにしていた。
ぬいぐるみの売り上げの一部は技術指導料として、師匠の口座に振り込まれるようになったらしく、これでうちの屋敷の収入がまた増えてしまったのだった。
さらに後日、トムさんはネズミくんの叙勲の話を聞きつけると、リアーヌ様から王家のお墨付きをもらった上で、勲章のレプリカ付きで「叙勲を受けたネズミのレプリカ」と名前を変えて値もぐんと釣り上げて売り出した。
そしてこれも売れに売れた。多分、国内の貴族のほぼ全てに行きわたったんじゃないかな。そのぐらいの勢いで売れた。
余りにも有名になったため、世間では「銀星剣盾勲章」の事を”ネズミ勲章”と呼ぶようになり、”戦場で王族を命がけで守るくらいの誉れ”であると知れ渡った。
なお、ダヤン商会のサイユ支店には「ネズミ以外のぬいぐるみは無いのか」と貴族からの問い合わせがちらほら寄せられるようになったため、第二弾「猫」、第三弾「狸」の製造が計画されているとか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんなとある日のこと。
今日はアネットさんが何だか疲れた様子だったのでお休みを与えた。
「どうしたの?大丈夫?」
使鬼だから体調不良と言うことは無いだろうけど、心配になる。
「すみません、テオ様。ご心配をおかけしてしまって」
アネットさんが申し訳なさそうな表情で謝る。
「気にしないで。良かったら話してみてよ」
「ええ、実はここの所リアーヌ様から、その、愚痴を聞かされることが多くて、気疲れしてしまいまして」
「うーん、それは悩ましいね。なかなか断るのも難しいし」
「はい。おしゃべりするのは楽しいのですが。最近はすっかり愚痴が多くなってしまって」
「最近急に?何かあったのかな」
「ええ、実は」
王子暗殺未遂で北方辺境伯が処刑されて以降、第一王妃派閥が急激に縮小したため、焦ったドルレアク公爵が巻き返しを図ろうといろいろと暗躍しているそうだ。
監視体制は強化されているが、なかなかに巧妙で尻尾を掴ませないらしく、それでリアーヌ様もイライラしているようだ。
「本当に嫌な奴だね、あの公爵って。そんな裏でコソコソするほど暇なのかな?ちゃんと仕事しろよ、って思うね」
「公爵ですからね。仕事と言っても……ッ!これなら、あるいは」
アネットさんが何か閃いた様子。
「すみません、テオ様。ちょっとリアーヌ様とお話させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「うん、どうぞ」
アネットさんが無言になる。リアーヌ様と霊糸通信で会話しているんだろう。
しばらくして、晴れやかな顔で。
「ふぅ、リアーヌ様も喜んでいました。これで何とかなりそうです。ありがとうございます、テオ様」
「ん?僕は何もしてないけど」
「いいえ、テオ様とのお話が無ければ思い付きませんでしたから。ですからテオ様のおかげなのです」
とアネットさんは笑顔でそう言う。
「大げさだなぁ。おしゃべりで良ければいつでも歓迎だよ。そうだ、アネットさんの愚痴は僕が聞いてあげるから、遠慮しないでね」
「テオ様。はい、おねがいしますね」
それからしばらく僕はアネットさんと他愛のないおしゃべりを楽しんだのだった。
今にして思えば、これが「北方長城壁」誕生のきっかけだったのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今回の戦争では、装置や死体などの大きな物体の輸送に影収納が大活躍だった。
やっぱりアレ使えるようになりたいなぁ。
「まだおぬしには無理じゃろ。<物品転送>の手順は理解できたのか?」
「う、まだです」
「なら、無理じゃな。あれは影収納を簡略化したもの。あれで練習を続ければいずれ理解できるだろう」
「はい、頑張ります」
そういう事なら、やるしかない!
それからは毎日、暇さえあれば<物品転送>を発動してはすぐ解除、を何度も繰り返した。
う~ん、さっぱり分からない。発動のさせ方はもうすっかり覚えたけど、なぜそれで”穴”が開くのかは理解できないままだった。
師匠は、「やれば分かる」としか言わないし。こういう時は書斎だな。何か参考になる本があるかも。
書斎へ向かい、本棚を端から見て行くと、「転移・転送の魔術」という本を見つけたので、さっそく読んでみた。
専門用語だらけでさっぱり分からない。でも空間、亜空間、情報次元、辺りの単語が頻繁に出て来た。
本棚をもう一度探して、「空間系統魔術入門」と「情報次元とは何か」という本を見つけた。
「空間系統魔術入門」を開く。くっ!これもまた難解な。でも”試してみよう”というページに呪文が書いてあるから、実際に発動させながら本と見比べれば、何となくわかる気がする。
さっきの本よりは、かなりましだぞ。
それからしばらくは書斎にこもって本を読む日々が続いた。
5日後。
「あ~、読み終わったぁ」
とりあえず、関連する入門書や初心者向けの本を読み漁ってみた。何となく知識が増えて理解が深まった、ような気がする。
ここのところずっと本を読んでたからな、気分転換に魔術の練習をしよう。
庭に出て、犯1の使鬼を呼びだし、庭の反対側に行ってもらう。足元から小石を拾い、<物品転送>を発動する。
空間に”穴”が開いて向こう側とつながった。これまでは”穴”としか見てなかったが、今なら分かる。
これは、こっちの空間と裏側の亜空間が融合している面なのだ。犯1の側に開いた”穴”もそうだ。で、情報次元上で亜空間の座標を同一に設定してあるから、向こうとこっちの穴が重なって、物が通り抜けるってことか。
小石を放り込むと、それが通常空間⇒亜空間⇒通常空間と通過するのが理解できた。
こういう事だったのか。
うん。魔術を練習するだけじゃ絶対に習得できないよ、これは。
多分、師匠は本なんか読まずに理解したんだろうなぁ。あの天才め!
師匠の言う事を全面的に信じちゃダメだな。すべて天才基準だから。
本を読んで勉強するの大事。僕は理解した。
その証拠に、「空間系統魔術入門」を読んで影収納が古い魔術であることを知り、より使い勝手の良い<物品庫>という魔術を見つけた。
これは影が不要で、術者の半径2尋(3メートル)の範囲内であればどこからでも出し入れできるし、他にもいろいろ便利。
僕はこの<物品庫>を習得した。
師匠に見せてドヤ顔したら。
「ほう、それは便利じゃな。どれ」
と言って一瞬で真似された。
くそっ!天才めぇ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日はペルピナルの都内でお祭りだ。
レスコー子爵が陞爵して伯爵になったことのお祝いだそうだ。
驚いたよね。ついこの間子爵になったばかりだったのに。
そして、このペリゴール領の正式な領主さまになってしまった。大出世だね。
そんな”時の人”レスコー伯爵ことシメオンさんから、お願いがあるとの事で<幻影会合>で話した。
「伯爵ともなりますと家臣団に騎士団と、いろいろと揃えなければならないものがたくさんありまして。これまでにも増して人材不足となっております。
幸い、化粧品外交のおかげで味方の貴族も多く、家臣団は何とかなりそうなのですが、騎士団の方はなかなか即戦力というのが難しいのです。
つきましては、この前の戦で捕らえた辺境伯の兵士をお貸しいただけないかと」
そっか、貴族だと出世したら嬉しい事だけでなく、苦労も増えるのか。大変なんだなぁ。
「もちろん、大丈夫です。何人必要ですか?」
「できるだけ多くでお願いします!」
うう、本当に苦労してるんだな。分かりました全部貸します。
あの時捕獲した暗殺部隊の死霊は全部で84体。
その内、辺境伯軍の兵士は36体だった。
魔術師6体を除いた30体のうち、12体は備蓄基地の作戦で使鬼にしていたので、18体を新たに使鬼にする。
と言うことで、師匠にお願いして18体を忠実なレスコー伯爵の部下にしてもらった。また、既に使鬼にした12体も、あの時は急ごしらえだったので、微調整をしてもらった。
この30体に、戦場で回収した死体から自給型偽生体を用意してやって、レスコー伯爵へ派遣した。
もちろん、貸出料をいただく契約になっている。無料で貸そうとしても「貴族のメンツにかかわる」と言って聞いてくれないのだ。
シメオンさんから「これで騎士団が一気に充実しました。ありがとうございます」と感謝の言葉をいただいた。
彼らの中から、後にレスコー伯爵騎士団の「不死身の13騎士」として畏怖される精鋭部隊が出現するのだが、まだ先の話だ。
備蓄基地で敵軍を駆逐し、勝利が確実になった頃、トムさんは既に戦勝ムードだった。
「戦勝祝いとしてサイユで売り出す新商品を検討しておりまして、ライナス様に相談させていただきたく」
<幻影会合>でトムさんと師匠が話している。
「何かな」
「例の王子殿下が持っていたネズミのぬいぐるみのレプリカを大々的に売り出したいと考えておりまして」
「ほう?良い所に目を付けたのう」
一気に師匠が乗り気になった。
そこからは縫子の手配や師匠による指導など、実現に向けた具体的な話し合いに突入していった。
「よし、戦もここまでくれば儂の出番も無かろう。儂は早速、縫子の指導に行ってくる」
シュタ!と立ち上がると足早に立ち去ってしまった。
僕はあっけに取られて見送るしかなかった。
どんだけぬいぐるみ作りたいんだよ。
「ライナス様のぬいぐるみにかける情熱には目を瞠るものがありますね」
アネットさんも驚いていた。
この後、ペパン諜報部長は王都サイユに潜伏中の工作員に、王子を絶賛する噂と、北方辺境伯を貶める噂を流すよう指示を出していた。
特に、上流階級に向けては、北方辺境伯の暗殺計画に第一王妃派閥が関わっていたという噂を加えていた。
これで、ドルレアク公爵を直接断罪できずとも、嫌がらせ程度にはなるはずとの事だ。
確かに、それくらいはしてやらないと、腹の虫がおさまらないよね。
王子一行が王都サイユに到着するまでの間、師匠はずっとぬいぐるみ製造に携わっていた。
師匠の厳しい指導により製造されたぬいぐるみは、王子の持つものと寸分たがわぬ仕上がりとなった。
ダヤン商会はこれを完成した端からサイユへ送り、「シャルル王子の勝利の御守りレプリカ」と称してかなりの高額で販売を始めた。
ペパン諜報部長が流した王子の噂の事もあってか、縁起が良いとして富裕層の目に留まり、高額にもかかわらず飛ぶように売れた。
すぐに真似をした類似品が現れたが、比較すれば一目で品質の違いが分かるため、富裕層向けの本物と、庶民向けの偽物で自然と住み分けができていた。
「いやぁ、予想以上の売れ行きですよ。”ダヤン印のぬいぐるみ”として評判になったおかげで、サイユでもダヤン商会の名前が使えるようになりましたし、本当にライナス様には感謝していますよ」
トムさんは大喜びのご様子。
師匠は師匠で「儂の持つぬいぐるみの技術をすべて叩き込んだ。免許皆伝じゃ」とか言って、満足そうにしていた。
ぬいぐるみの売り上げの一部は技術指導料として、師匠の口座に振り込まれるようになったらしく、これでうちの屋敷の収入がまた増えてしまったのだった。
さらに後日、トムさんはネズミくんの叙勲の話を聞きつけると、リアーヌ様から王家のお墨付きをもらった上で、勲章のレプリカ付きで「叙勲を受けたネズミのレプリカ」と名前を変えて値もぐんと釣り上げて売り出した。
そしてこれも売れに売れた。多分、国内の貴族のほぼ全てに行きわたったんじゃないかな。そのぐらいの勢いで売れた。
余りにも有名になったため、世間では「銀星剣盾勲章」の事を”ネズミ勲章”と呼ぶようになり、”戦場で王族を命がけで守るくらいの誉れ”であると知れ渡った。
なお、ダヤン商会のサイユ支店には「ネズミ以外のぬいぐるみは無いのか」と貴族からの問い合わせがちらほら寄せられるようになったため、第二弾「猫」、第三弾「狸」の製造が計画されているとか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんなとある日のこと。
今日はアネットさんが何だか疲れた様子だったのでお休みを与えた。
「どうしたの?大丈夫?」
使鬼だから体調不良と言うことは無いだろうけど、心配になる。
「すみません、テオ様。ご心配をおかけしてしまって」
アネットさんが申し訳なさそうな表情で謝る。
「気にしないで。良かったら話してみてよ」
「ええ、実はここの所リアーヌ様から、その、愚痴を聞かされることが多くて、気疲れしてしまいまして」
「うーん、それは悩ましいね。なかなか断るのも難しいし」
「はい。おしゃべりするのは楽しいのですが。最近はすっかり愚痴が多くなってしまって」
「最近急に?何かあったのかな」
「ええ、実は」
王子暗殺未遂で北方辺境伯が処刑されて以降、第一王妃派閥が急激に縮小したため、焦ったドルレアク公爵が巻き返しを図ろうといろいろと暗躍しているそうだ。
監視体制は強化されているが、なかなかに巧妙で尻尾を掴ませないらしく、それでリアーヌ様もイライラしているようだ。
「本当に嫌な奴だね、あの公爵って。そんな裏でコソコソするほど暇なのかな?ちゃんと仕事しろよ、って思うね」
「公爵ですからね。仕事と言っても……ッ!これなら、あるいは」
アネットさんが何か閃いた様子。
「すみません、テオ様。ちょっとリアーヌ様とお話させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「うん、どうぞ」
アネットさんが無言になる。リアーヌ様と霊糸通信で会話しているんだろう。
しばらくして、晴れやかな顔で。
「ふぅ、リアーヌ様も喜んでいました。これで何とかなりそうです。ありがとうございます、テオ様」
「ん?僕は何もしてないけど」
「いいえ、テオ様とのお話が無ければ思い付きませんでしたから。ですからテオ様のおかげなのです」
とアネットさんは笑顔でそう言う。
「大げさだなぁ。おしゃべりで良ければいつでも歓迎だよ。そうだ、アネットさんの愚痴は僕が聞いてあげるから、遠慮しないでね」
「テオ様。はい、おねがいしますね」
それからしばらく僕はアネットさんと他愛のないおしゃべりを楽しんだのだった。
今にして思えば、これが「北方長城壁」誕生のきっかけだったのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今回の戦争では、装置や死体などの大きな物体の輸送に影収納が大活躍だった。
やっぱりアレ使えるようになりたいなぁ。
「まだおぬしには無理じゃろ。<物品転送>の手順は理解できたのか?」
「う、まだです」
「なら、無理じゃな。あれは影収納を簡略化したもの。あれで練習を続ければいずれ理解できるだろう」
「はい、頑張ります」
そういう事なら、やるしかない!
それからは毎日、暇さえあれば<物品転送>を発動してはすぐ解除、を何度も繰り返した。
う~ん、さっぱり分からない。発動のさせ方はもうすっかり覚えたけど、なぜそれで”穴”が開くのかは理解できないままだった。
師匠は、「やれば分かる」としか言わないし。こういう時は書斎だな。何か参考になる本があるかも。
書斎へ向かい、本棚を端から見て行くと、「転移・転送の魔術」という本を見つけたので、さっそく読んでみた。
専門用語だらけでさっぱり分からない。でも空間、亜空間、情報次元、辺りの単語が頻繁に出て来た。
本棚をもう一度探して、「空間系統魔術入門」と「情報次元とは何か」という本を見つけた。
「空間系統魔術入門」を開く。くっ!これもまた難解な。でも”試してみよう”というページに呪文が書いてあるから、実際に発動させながら本と見比べれば、何となくわかる気がする。
さっきの本よりは、かなりましだぞ。
それからしばらくは書斎にこもって本を読む日々が続いた。
5日後。
「あ~、読み終わったぁ」
とりあえず、関連する入門書や初心者向けの本を読み漁ってみた。何となく知識が増えて理解が深まった、ような気がする。
ここのところずっと本を読んでたからな、気分転換に魔術の練習をしよう。
庭に出て、犯1の使鬼を呼びだし、庭の反対側に行ってもらう。足元から小石を拾い、<物品転送>を発動する。
空間に”穴”が開いて向こう側とつながった。これまでは”穴”としか見てなかったが、今なら分かる。
これは、こっちの空間と裏側の亜空間が融合している面なのだ。犯1の側に開いた”穴”もそうだ。で、情報次元上で亜空間の座標を同一に設定してあるから、向こうとこっちの穴が重なって、物が通り抜けるってことか。
小石を放り込むと、それが通常空間⇒亜空間⇒通常空間と通過するのが理解できた。
こういう事だったのか。
うん。魔術を練習するだけじゃ絶対に習得できないよ、これは。
多分、師匠は本なんか読まずに理解したんだろうなぁ。あの天才め!
師匠の言う事を全面的に信じちゃダメだな。すべて天才基準だから。
本を読んで勉強するの大事。僕は理解した。
その証拠に、「空間系統魔術入門」を読んで影収納が古い魔術であることを知り、より使い勝手の良い<物品庫>という魔術を見つけた。
これは影が不要で、術者の半径2尋(3メートル)の範囲内であればどこからでも出し入れできるし、他にもいろいろ便利。
僕はこの<物品庫>を習得した。
師匠に見せてドヤ顔したら。
「ほう、それは便利じゃな。どれ」
と言って一瞬で真似された。
くそっ!天才めぇ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日はペルピナルの都内でお祭りだ。
レスコー子爵が陞爵して伯爵になったことのお祝いだそうだ。
驚いたよね。ついこの間子爵になったばかりだったのに。
そして、このペリゴール領の正式な領主さまになってしまった。大出世だね。
そんな”時の人”レスコー伯爵ことシメオンさんから、お願いがあるとの事で<幻影会合>で話した。
「伯爵ともなりますと家臣団に騎士団と、いろいろと揃えなければならないものがたくさんありまして。これまでにも増して人材不足となっております。
幸い、化粧品外交のおかげで味方の貴族も多く、家臣団は何とかなりそうなのですが、騎士団の方はなかなか即戦力というのが難しいのです。
つきましては、この前の戦で捕らえた辺境伯の兵士をお貸しいただけないかと」
そっか、貴族だと出世したら嬉しい事だけでなく、苦労も増えるのか。大変なんだなぁ。
「もちろん、大丈夫です。何人必要ですか?」
「できるだけ多くでお願いします!」
うう、本当に苦労してるんだな。分かりました全部貸します。
あの時捕獲した暗殺部隊の死霊は全部で84体。
その内、辺境伯軍の兵士は36体だった。
魔術師6体を除いた30体のうち、12体は備蓄基地の作戦で使鬼にしていたので、18体を新たに使鬼にする。
と言うことで、師匠にお願いして18体を忠実なレスコー伯爵の部下にしてもらった。また、既に使鬼にした12体も、あの時は急ごしらえだったので、微調整をしてもらった。
この30体に、戦場で回収した死体から自給型偽生体を用意してやって、レスコー伯爵へ派遣した。
もちろん、貸出料をいただく契約になっている。無料で貸そうとしても「貴族のメンツにかかわる」と言って聞いてくれないのだ。
シメオンさんから「これで騎士団が一気に充実しました。ありがとうございます」と感謝の言葉をいただいた。
彼らの中から、後にレスコー伯爵騎士団の「不死身の13騎士」として畏怖される精鋭部隊が出現するのだが、まだ先の話だ。
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