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北方防衛戦編
森の中の戦闘
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その後も、敵国軍は陽動のため東と西の砦を数回襲撃してきた。
そして王国軍が城塞都市に到着する予定日の未明の事、中央砦に潜入していた工作員からの報告があった。
敵軍が夜襲を仕掛けてきたのだ。
砦正面に1000を超える敵兵が出現し守備隊が防戦にかかりきりになったところで、例の壊れた柵を越えてきた少数の敵兵に内側から門を破られたらしい。
守備隊の指揮官は即座に撤退の号令を出し、ほとんど戦わずに城塞都市方面へと撤退していったそうだ。
工作員はここまで観察してから安全な所へ避難し、使鬼を使っての偵察に切り替えた。
敵国兵は砦の備蓄食料を100人くらいで国境の向こうへ運び出し、さらに偵察用に200程の部隊を5つ作って、森の西、南西、南、南東、東の方角に送り込んだ。
既に森の中には敵兵がうろついているわけだ。
暗殺部隊だけでなく、敵兵にも気を付けなければいけない。
なお、暗殺部隊の方は特に動きなしとのことだ。
その日の夕方、王国軍は無事に城塞都市に到着した。
中央の砦が陥落した報せは既に司令部にも届いており、軍議が開かれた。
貴族の中からは北方辺境伯の失態を追求する声も上がったが、それは後回しにされた。
北方辺境伯家にある過去の記録から、敵軍の行動を推定。奴らは森の中に散開して奇襲や陽動を多用し時間稼ぎをしつつ、周辺村落から略奪して食料を持ち帰るのを最優先とするはずだ。
そこで、司令部は次のように作戦を立てた。
森に近い町村は、城塞都市を除き5つなので、そこに守備隊を送る。これを町村防衛部隊とする。
森の中で小隊を横にずらっと並べて隈なく捜索し、敵兵をあぶりだす。これを森狩り部隊とする。
司令部含む本隊は森狩り部隊の後を追って、中央の砦へ向かう物資運搬路を進む。
運搬路の東側の森狩り部隊を北方辺境伯が指揮すると申し出た。必ず失態を取り戻すと大げさに宣言していた。
軍の再編成が行われ、予定通りレスコー子爵家私兵団は司令部の警護担当となった。
シャルル王子と側近、身辺警護の人員だけ都市内で宿泊し、軍は外で野営している。
都市内でも暗殺を警戒し、警備体制を強化。ジルベール隊も警備に参加している。
第一王妃派閥の貴族やその配下を厳重に監視しているが、変な動きは見つかっていない。
ペパン諜報部長も「ここで仕掛けてくる可能性は低い」と言っている。
翌朝、全軍が整列し、シャルル王子の訓示を清聴する。
良く晴れていたため、吐く息が白い。
「・・・野蛮な北方の賊徒どもを駆逐し、我らが国土を取り戻せ。諸君の奮戦に期待する」
と勇ましい挨拶が終わり、全軍が鬨の声を上げる。
町村防衛部隊はすぐに出立した。
森狩り部隊も、遠いものは馬車に乗り、近いものは徒歩で、横に広がっていく。
砦へ続く運搬路に近い森狩り部隊から順に森の中へと進む。
本隊は、森狩り部隊がある程度進んでから、運搬路を前進することになっている。
ジルベール隊は、本隊から離れ、東側の森へと消えていった。
森狩り部隊のさらに後方から見つからないように進んでいく。
暗殺部隊がこの森狩り部隊をどう凌ぐつもりなのか、それも見届けなければ。
さて、その頃の敵国軍はどうしていたか。
使鬼を使って監視していた工作員からの報告によると、中央砦を出た後このような足取りだったらしい。
西と東に進んだ部隊は、各砦と城塞都市の中間にある備蓄基地をそれぞれ発見し、そのまま強襲し食料を略奪して、中央砦へと引き返していた。
南に進んだ部隊も備蓄基地を発見したが、ここは中央砦から撤退した守備隊が合流して兵力が増していたため、襲撃を諦めて中央砦へ引き返していた。
中央砦に戻った部隊は、南の備蓄基地を襲撃する計画を立てている。
南西に進んだ部隊は西の砦と城塞都市を結ぶ運搬路へ出て、城塞都市方面に向かっている。
南東に進んだ部隊は、例の暗殺部隊を発見したものの、迂回して東の砦への運搬路に出て、城塞都市方面に向かっている。
敵国兵と暗殺部隊が遭遇しそうになったと聞いてヒヤッとした。
折角の陰謀の証拠が失われてしまうところだった。危なかった。
結局のところ、王国軍がせっかく森狩り部隊を編成したにもかかわらず、今の森の中には敵軍の兵がいない、ということが分かってしまった。
「いやはや、恐るべき偵察能力ですな。どんな有能な斥候であってもこれほど早く正確で広範囲の情報を得ることは不可能でしょう」
ペパン諜報部長は使鬼の性能に惚れ惚れしている。
「それにしても、敵軍の移動が速すぎないか。森の中をあれだけの速さで移動するのは俺たちには不可能だぞ」
ジルベール隊長が眉をしかめている。
「彼らは山岳部の悪路に強い山羊を移動に使っています。そのおかげでしょうね」
とペパン諜報部長が補足する。
「それって危なくないですか?」
僕は素朴な疑問を持った。
「ああ、まずいな。この移動速度で強襲離脱戦法を取られると、こっちは各個撃破されちまう」
ジルベール隊長も危機感を抱いているようだ。
「幸い、彼らは食料奪取が最優先なので、積極的にこちらに戦闘を仕掛けてくる可能性は低いです。暗殺部隊を処理するまではこのまま進めるのが良いでしょう」
ペパン諜報部長がそうまとめた。
その時、暗殺部隊を監視していた工作員から連絡が来た、とペパン諜報部長が報告する。
「やはり、森狩り部隊は彼らを見逃して進んだそうです。辺境伯の指示でしょうね。暗殺部隊は南西方向へ移動を開始。本隊の後ろに回り込むつもりでしょう」
上空から偵察する使鬼の<感覚公開>をみんなで注目する。奴らの動きが丸わかりだ。
冬で良かった。夏なら木の葉っぱで上空からは見えなかったからね。
「よし、ようやく出番だな。任せろ」
ジルベール隊長が張り切っている。
「シメオンさん、聞こえましたか?」
僕が確認すると、シメオンさんから返事があった。
「ええ。私の兵団は本隊の右後方ですので、真っ先に当たります。蹴散らしてやりますよ」
こちらも気合が入っている。
暗殺部隊は100人に満たないぐらいの規模だ。なるべくこっそりと移動しているが、こっちは上空の使鬼から良く見えている。
その彼らの後ろからジルベール隊長と新5人衆が音もなく追跡している。こういう訓練を普段からしているってことだね。
ナナさんとセラフィン君もいるはずなんだけど、どこにいるのか分からない。
こっそり霊糸通信で聞いてみたら、本隊の側にいたらしい。今から森の中に入って待ち伏せするとの事だ。
つまり、ジルベール隊と挟み撃ちにするってことだ。
やがて、暗殺部隊は本隊の右後方の森の中で動きを止め、機会をうかがっている。
本隊に、森狩り部隊から伝令がやって来て、前進する準備を始めると、暗殺部隊も臨戦態勢となった。
その時。
『始め!』
それを察知したジルベール隊長の合図が霊糸通信経由で飛ぶ。
ナナさんの弓が立て続けに矢を放つ。凄い連射だ。
そしてそのすべてが、暗殺部隊の中心付近にいたローブ姿の男たちに突き刺さった。魔術師を真っ先に倒したのだ。
セラフィン君の攻撃魔術も乱れ飛ぶ。<雷球>と<粘液球>で外側を足止め、<火球>と<石球>で内側に殺傷を狙って、どんどん撃ち込んでいる。
体外魔力を使っているので、無尽蔵に撃てる。
奇襲を狙っていたのに逆に奇襲を受けたものだから、暗殺部隊は大混乱に陥った。
そこへジルベール隊長が猛突進して行き、裂帛の気合を込めて剣を振りぬいた。一度に3人が上下2つに分かれて吹き飛んだ。さらに止まらず連続で剣が振られ、その度に敵が縦に、横にと真っ二つになる。隊長の周りにはまるで赤い霧がかかっているようだ。すぐに姿が見えなくなった。
新5人衆も連携を取りながら敵に切りかかり、危なげなく倒していった。
逃げ出そうとする敵には、狩猟犬が追いすがり、足を噛み千切って逃走を阻止していた。
そこへさらに追い打ちをかけるように、本隊の右後方に配されていたレスコー子爵家私兵団が反転し、暗殺部隊に襲い掛かった。
彼らは一斉に魔道具を起動し、ド派手に燃え盛る炎の球を敵に向けて放った。
森の中でこんな大きな炎を出すとは非常識にも程がある、と本隊の味方も、暗殺部隊の敵も思ったはずだ。双方から悲鳴が上がった。
炎の球が敵に命中し、周囲に炎をまき散らす。敵は驚いて逃げまどっている。
そこに、私兵団が切り込んで、バタバタと敵が倒されていく。
不思議なことに、森の木々に火が燃え移ることはなかった。
これはポリーヌさんが作った魔道具で、ド派手に燃える炎の幻影と燃える音、熱風を感じるが、実際には何も燃えていないという威嚇用の魔道具だった。
バレるまでの最初の数回しか使えないが、十分に効果を発揮してくれた。
そこからは一方的な蹂躙だった。
逃げ出そうとする暗殺部隊の敵は、ナナさん達ハンターチームに倒されたり、返り血でドロドロの怪物に切り裂かれていた。
この時、僕と師匠は物凄く忙しかった。
次から次へと死霊が抜け出してくるものだから、使鬼を介して遠隔からどんどん捕獲して回っていたのだ。
霊体球にして、師匠の影収納に入れたり、<物品転送>でこっちに取り寄せたりして回収した。
敵の指揮官が誰だかさっぱり分からないので、全部捕獲するしかないのだ。
上空からの偵察もあるので、一人も逃がさず殲滅できたはずだ。
現場には使えそうな死体をまとめておくよう指示を出し、僕と師匠は捕獲した霊体球から指揮官などの偉そうな人を探す作業に取り掛かった。
100個近くあったのでげんなりしたが、30個くらいの所で傭兵団の団長という人物が、50個くらいの所で辺境伯軍の部隊長と言う人物が見つかったので、全部調べずに済んだ。
この2つを師匠に洗脳してもらってる間に、これらの人物の死体があるか探しに現場で使鬼を飛ばす。
傭兵団団長は恐らくジルベール隊長にやられたのだろう、死体が見当たらなかった。部隊長の方は使える死体の方に有ったので、この人を捕虜に仕立て上げよう。
部隊長は僕の使鬼に、傭兵団団長は師匠の使鬼にした。
『ああ、我々は何と愚かで罪深いことをしてしまったんだ!いと気高き我が主君シャルル殿下に懺悔させてください!』
部隊長は使鬼になるとそう喚いた。
う~ん、なんで師匠が洗脳するとこんな暑苦しい感じになるんだろう?
部隊長の死体を<死体修復>した後、この前開発した”全自動偽生体化装置”で偽生体に改造してやる。装置は師匠の影収納で運んでもらった。
これに憑依させた後、縄で拘束し、捕虜として振舞うよう指示する。
「罪深きわが身にふさわしい姿にしていただき、ありがとうございます!」
うわぁ、縛られて喜んでるし。
割と無事な死体は50体ほどあったので、装備も付けたまま師匠の影収納で屋敷に持ってきて、<死体修復>と<死体保存>をかけて地下に保管しておく。
とりあえずは部隊長の捕虜がいれば、証拠には困らないはずだ。
そして王国軍が城塞都市に到着する予定日の未明の事、中央砦に潜入していた工作員からの報告があった。
敵軍が夜襲を仕掛けてきたのだ。
砦正面に1000を超える敵兵が出現し守備隊が防戦にかかりきりになったところで、例の壊れた柵を越えてきた少数の敵兵に内側から門を破られたらしい。
守備隊の指揮官は即座に撤退の号令を出し、ほとんど戦わずに城塞都市方面へと撤退していったそうだ。
工作員はここまで観察してから安全な所へ避難し、使鬼を使っての偵察に切り替えた。
敵国兵は砦の備蓄食料を100人くらいで国境の向こうへ運び出し、さらに偵察用に200程の部隊を5つ作って、森の西、南西、南、南東、東の方角に送り込んだ。
既に森の中には敵兵がうろついているわけだ。
暗殺部隊だけでなく、敵兵にも気を付けなければいけない。
なお、暗殺部隊の方は特に動きなしとのことだ。
その日の夕方、王国軍は無事に城塞都市に到着した。
中央の砦が陥落した報せは既に司令部にも届いており、軍議が開かれた。
貴族の中からは北方辺境伯の失態を追求する声も上がったが、それは後回しにされた。
北方辺境伯家にある過去の記録から、敵軍の行動を推定。奴らは森の中に散開して奇襲や陽動を多用し時間稼ぎをしつつ、周辺村落から略奪して食料を持ち帰るのを最優先とするはずだ。
そこで、司令部は次のように作戦を立てた。
森に近い町村は、城塞都市を除き5つなので、そこに守備隊を送る。これを町村防衛部隊とする。
森の中で小隊を横にずらっと並べて隈なく捜索し、敵兵をあぶりだす。これを森狩り部隊とする。
司令部含む本隊は森狩り部隊の後を追って、中央の砦へ向かう物資運搬路を進む。
運搬路の東側の森狩り部隊を北方辺境伯が指揮すると申し出た。必ず失態を取り戻すと大げさに宣言していた。
軍の再編成が行われ、予定通りレスコー子爵家私兵団は司令部の警護担当となった。
シャルル王子と側近、身辺警護の人員だけ都市内で宿泊し、軍は外で野営している。
都市内でも暗殺を警戒し、警備体制を強化。ジルベール隊も警備に参加している。
第一王妃派閥の貴族やその配下を厳重に監視しているが、変な動きは見つかっていない。
ペパン諜報部長も「ここで仕掛けてくる可能性は低い」と言っている。
翌朝、全軍が整列し、シャルル王子の訓示を清聴する。
良く晴れていたため、吐く息が白い。
「・・・野蛮な北方の賊徒どもを駆逐し、我らが国土を取り戻せ。諸君の奮戦に期待する」
と勇ましい挨拶が終わり、全軍が鬨の声を上げる。
町村防衛部隊はすぐに出立した。
森狩り部隊も、遠いものは馬車に乗り、近いものは徒歩で、横に広がっていく。
砦へ続く運搬路に近い森狩り部隊から順に森の中へと進む。
本隊は、森狩り部隊がある程度進んでから、運搬路を前進することになっている。
ジルベール隊は、本隊から離れ、東側の森へと消えていった。
森狩り部隊のさらに後方から見つからないように進んでいく。
暗殺部隊がこの森狩り部隊をどう凌ぐつもりなのか、それも見届けなければ。
さて、その頃の敵国軍はどうしていたか。
使鬼を使って監視していた工作員からの報告によると、中央砦を出た後このような足取りだったらしい。
西と東に進んだ部隊は、各砦と城塞都市の中間にある備蓄基地をそれぞれ発見し、そのまま強襲し食料を略奪して、中央砦へと引き返していた。
南に進んだ部隊も備蓄基地を発見したが、ここは中央砦から撤退した守備隊が合流して兵力が増していたため、襲撃を諦めて中央砦へ引き返していた。
中央砦に戻った部隊は、南の備蓄基地を襲撃する計画を立てている。
南西に進んだ部隊は西の砦と城塞都市を結ぶ運搬路へ出て、城塞都市方面に向かっている。
南東に進んだ部隊は、例の暗殺部隊を発見したものの、迂回して東の砦への運搬路に出て、城塞都市方面に向かっている。
敵国兵と暗殺部隊が遭遇しそうになったと聞いてヒヤッとした。
折角の陰謀の証拠が失われてしまうところだった。危なかった。
結局のところ、王国軍がせっかく森狩り部隊を編成したにもかかわらず、今の森の中には敵軍の兵がいない、ということが分かってしまった。
「いやはや、恐るべき偵察能力ですな。どんな有能な斥候であってもこれほど早く正確で広範囲の情報を得ることは不可能でしょう」
ペパン諜報部長は使鬼の性能に惚れ惚れしている。
「それにしても、敵軍の移動が速すぎないか。森の中をあれだけの速さで移動するのは俺たちには不可能だぞ」
ジルベール隊長が眉をしかめている。
「彼らは山岳部の悪路に強い山羊を移動に使っています。そのおかげでしょうね」
とペパン諜報部長が補足する。
「それって危なくないですか?」
僕は素朴な疑問を持った。
「ああ、まずいな。この移動速度で強襲離脱戦法を取られると、こっちは各個撃破されちまう」
ジルベール隊長も危機感を抱いているようだ。
「幸い、彼らは食料奪取が最優先なので、積極的にこちらに戦闘を仕掛けてくる可能性は低いです。暗殺部隊を処理するまではこのまま進めるのが良いでしょう」
ペパン諜報部長がそうまとめた。
その時、暗殺部隊を監視していた工作員から連絡が来た、とペパン諜報部長が報告する。
「やはり、森狩り部隊は彼らを見逃して進んだそうです。辺境伯の指示でしょうね。暗殺部隊は南西方向へ移動を開始。本隊の後ろに回り込むつもりでしょう」
上空から偵察する使鬼の<感覚公開>をみんなで注目する。奴らの動きが丸わかりだ。
冬で良かった。夏なら木の葉っぱで上空からは見えなかったからね。
「よし、ようやく出番だな。任せろ」
ジルベール隊長が張り切っている。
「シメオンさん、聞こえましたか?」
僕が確認すると、シメオンさんから返事があった。
「ええ。私の兵団は本隊の右後方ですので、真っ先に当たります。蹴散らしてやりますよ」
こちらも気合が入っている。
暗殺部隊は100人に満たないぐらいの規模だ。なるべくこっそりと移動しているが、こっちは上空の使鬼から良く見えている。
その彼らの後ろからジルベール隊長と新5人衆が音もなく追跡している。こういう訓練を普段からしているってことだね。
ナナさんとセラフィン君もいるはずなんだけど、どこにいるのか分からない。
こっそり霊糸通信で聞いてみたら、本隊の側にいたらしい。今から森の中に入って待ち伏せするとの事だ。
つまり、ジルベール隊と挟み撃ちにするってことだ。
やがて、暗殺部隊は本隊の右後方の森の中で動きを止め、機会をうかがっている。
本隊に、森狩り部隊から伝令がやって来て、前進する準備を始めると、暗殺部隊も臨戦態勢となった。
その時。
『始め!』
それを察知したジルベール隊長の合図が霊糸通信経由で飛ぶ。
ナナさんの弓が立て続けに矢を放つ。凄い連射だ。
そしてそのすべてが、暗殺部隊の中心付近にいたローブ姿の男たちに突き刺さった。魔術師を真っ先に倒したのだ。
セラフィン君の攻撃魔術も乱れ飛ぶ。<雷球>と<粘液球>で外側を足止め、<火球>と<石球>で内側に殺傷を狙って、どんどん撃ち込んでいる。
体外魔力を使っているので、無尽蔵に撃てる。
奇襲を狙っていたのに逆に奇襲を受けたものだから、暗殺部隊は大混乱に陥った。
そこへジルベール隊長が猛突進して行き、裂帛の気合を込めて剣を振りぬいた。一度に3人が上下2つに分かれて吹き飛んだ。さらに止まらず連続で剣が振られ、その度に敵が縦に、横にと真っ二つになる。隊長の周りにはまるで赤い霧がかかっているようだ。すぐに姿が見えなくなった。
新5人衆も連携を取りながら敵に切りかかり、危なげなく倒していった。
逃げ出そうとする敵には、狩猟犬が追いすがり、足を噛み千切って逃走を阻止していた。
そこへさらに追い打ちをかけるように、本隊の右後方に配されていたレスコー子爵家私兵団が反転し、暗殺部隊に襲い掛かった。
彼らは一斉に魔道具を起動し、ド派手に燃え盛る炎の球を敵に向けて放った。
森の中でこんな大きな炎を出すとは非常識にも程がある、と本隊の味方も、暗殺部隊の敵も思ったはずだ。双方から悲鳴が上がった。
炎の球が敵に命中し、周囲に炎をまき散らす。敵は驚いて逃げまどっている。
そこに、私兵団が切り込んで、バタバタと敵が倒されていく。
不思議なことに、森の木々に火が燃え移ることはなかった。
これはポリーヌさんが作った魔道具で、ド派手に燃える炎の幻影と燃える音、熱風を感じるが、実際には何も燃えていないという威嚇用の魔道具だった。
バレるまでの最初の数回しか使えないが、十分に効果を発揮してくれた。
そこからは一方的な蹂躙だった。
逃げ出そうとする暗殺部隊の敵は、ナナさん達ハンターチームに倒されたり、返り血でドロドロの怪物に切り裂かれていた。
この時、僕と師匠は物凄く忙しかった。
次から次へと死霊が抜け出してくるものだから、使鬼を介して遠隔からどんどん捕獲して回っていたのだ。
霊体球にして、師匠の影収納に入れたり、<物品転送>でこっちに取り寄せたりして回収した。
敵の指揮官が誰だかさっぱり分からないので、全部捕獲するしかないのだ。
上空からの偵察もあるので、一人も逃がさず殲滅できたはずだ。
現場には使えそうな死体をまとめておくよう指示を出し、僕と師匠は捕獲した霊体球から指揮官などの偉そうな人を探す作業に取り掛かった。
100個近くあったのでげんなりしたが、30個くらいの所で傭兵団の団長という人物が、50個くらいの所で辺境伯軍の部隊長と言う人物が見つかったので、全部調べずに済んだ。
この2つを師匠に洗脳してもらってる間に、これらの人物の死体があるか探しに現場で使鬼を飛ばす。
傭兵団団長は恐らくジルベール隊長にやられたのだろう、死体が見当たらなかった。部隊長の方は使える死体の方に有ったので、この人を捕虜に仕立て上げよう。
部隊長は僕の使鬼に、傭兵団団長は師匠の使鬼にした。
『ああ、我々は何と愚かで罪深いことをしてしまったんだ!いと気高き我が主君シャルル殿下に懺悔させてください!』
部隊長は使鬼になるとそう喚いた。
う~ん、なんで師匠が洗脳するとこんな暑苦しい感じになるんだろう?
部隊長の死体を<死体修復>した後、この前開発した”全自動偽生体化装置”で偽生体に改造してやる。装置は師匠の影収納で運んでもらった。
これに憑依させた後、縄で拘束し、捕虜として振舞うよう指示する。
「罪深きわが身にふさわしい姿にしていただき、ありがとうございます!」
うわぁ、縛られて喜んでるし。
割と無事な死体は50体ほどあったので、装備も付けたまま師匠の影収納で屋敷に持ってきて、<死体修復>と<死体保存>をかけて地下に保管しておく。
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