幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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北方防衛戦編

北の不穏な動き

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僕の10歳の誕生節パーティーから1巡りほど過ぎた頃、リアーヌ様から<幻影会合>で情報提供があった。

この国の北方、大陸の東端から中央やや西まで広がる広大な山岳地帯に点在する小国家群、”北方諸国”で不穏な動きがあるというのだ。
山岳地帯は、昨年末の大雨で災害に見舞われ、農作物に大きな被害が出たらしく、食糧不足に陥っているらしい。
このままでは冬を迎えられないので、こちらに略奪戦争を仕掛けてくるつもりだろうとの事。過去にも似たようなパターンで戦争になったことがあったようだ。

うわー、戦争か。でも遠い地方だし、僕には関係ないよね?

と思ってたのだが、レスコー子爵(シメオンさん)に兵を率いて戦争に参加するよう王命が下った。
子爵以上の貴族は、外国との戦争で兵を出す義務があるんだそうだ。

そして、これにジルベール隊長が食いついた。
「戦争!俺行く!行きます!行かせろ!」
この戦闘狂め。
でもまあ、使鬼になる時の約束があるからなぁ。
「シメオンさん、どうですか?」
「ジルベール隊長にお力添えいただければ心強いですよ。ぜひお願いします」
と快諾されてしまった。
こうして、レスコー子爵の出兵に加わる形で、ジルベール隊長率いる屋敷の私兵隊も戦争に赴くことになった。


この戦争については、ペパン諜報部長からも情報提供があった。

リアーヌ様の暗殺未遂事件以降、ずっと監視していたドルレアク公爵にも不穏な動きがあったらしい。
伝書鳥で北方辺境伯宛に手紙を送っていたので、その暗号文を入手し解読したところ、第一王子の暗殺を仄めかす一文があったのだそうだ。
「シャルルを暗殺ですって!今すぐドルレアク公爵家に兵を送るのです!」
<幻影会合>の写影身から見ている、王宮のリアーヌ様が急に立ち上がって声を荒げた。
これ、ヤバいのでは。
「これはいかん。<精神干渉/鎮静>」
師匠が慌てて遠隔でリアーヌ様に魔術を行使した。
「はっ!す、すみません。ついカッとなってしまいました」
リアーヌ様が恥ずかしそうにそう言うと椅子に座りなおした。
侍女さんが慌てて飛び込んできたみたいだが、なんとか誤魔化していた。

リアーヌ様が悔し気な表情を浮かべる。
「そういうことでしたか。今回の戦で、我が子シャルルが初陣を飾ることになりました。それをいくつかの貴族が強く推したのですが、その中心にドルレアク公爵がいたのです。
いつもは私たち親子を毛嫌いしているのに何故かと思ってましたが、初めから、戦場で害するつもりだったのですね」

その様子を見ていたジルベール隊長が急に立ち上がって敬礼をする。
「王妃様、このジルベールが王子様を必ず守るとお約束いたします!」
元軍人だからだろうか、強い決意を込めてそう宣言した。
「ええ。ありがとうジルベール殿。我が子シャルルをよろしくお願いいたします」
そう言ってリアーヌ様が礼を述べる。
「ジルベール隊長に先を越されましたが、このシメオン、レスコー子爵として必ずやシャルル殿下を御守りすると誓います」
「ありがとうございます、シメオンさん。レスコー子爵家の兵はシャルルの近くに配すよう、手をまわしておきましょう」
これで、いざという時は僕の使鬼たちが身を挺してシャルル王子を護ることが可能になった。

この戦争、僕らの敵は2つだ。北方諸国の軍と、そしてドルレアク公爵の一派だ。その2つに打ち勝たなければならない。
シャルル王子に何かあれば、妹のソフィ王女が悲しむ。友達としてそんなことは許さない。
「みんなの力を合わせて、2つの敵に勝利しよう!」
僕の掛け声に、みんなが応えてくれた。
さあ、準備をしよう。

今回の作戦ではジルベール隊長とペパン諜報部長に中心となって動いてもらう。
使鬼も偽生体も必要なだけ提供するつもりだ。
まず前線に出る部隊はジルベール隊長と新5人衆、そしてハンター形態のナナさんとセラフィン君そして狩猟犬、の8名と一匹だ。
諜報部門からも、斥候や潜入工作のために諜報部門から3名と、その相棒の動物使鬼3体が参加する。

あとは、戦闘用自給型偽生体を10体ほど作って屋敷に保管してある。師匠の影収納を使えば現場に送れるので、戦闘で破損した場合の予備や、こっちから使鬼を送って臨時の増員にするなど、色々使えるはずだ。

装備については、ピエールさんに一番良いのを頼んでおいた。
さらに、ポリーヌさんが攻撃用の魔道具を提供してくれた。戦場では炎を出すのが効果的らしいので、派手なのを用意してもらった。これはレスコー子爵家私兵団にも貸し出した。

ジルベール隊長の部隊はレスコー子爵家私兵団と同行はするが、指揮系統は別と決めてある。
屋敷が作戦本部となり、ペパン諜報部長が参謀、師匠とアネットさんが相談役、そして僕が司令として最終決定することになっている。

僕は最初、そんな大役は無理だと言ったのだけど、師匠に諭された。
「彼らの主人はテオなのだ。彼らを戦場に送る以上、おぬしにはその責任を背負う義務がある。それが死霊術師というものだ。今のうちに慣れておけ。
何、おぬしは直感で判断すればよい。明らかに間違っていれば儂らが指摘する。心配はいらん」
そうか。一流の死霊術師を目指すなら、こういう心構えが必要なんだな。
よし、頑張らなきゃ。

そしていよいよ出陣だ。
秋も深まり肌寒くなってきた頃。
屋敷の前庭で、ジルベール隊長を先頭に部隊の面々が整列している。
台の上に立つ僕に向かって、ジルベール隊長が敬礼をして声を張り上げる。
「我らジルベール隊は戦地へと赴き、いかなる脅威からもシャルル王子殿下を御守りすることをここに誓う!」
宣誓に続いて、全隊員がびしっと敬礼した。
「見事任務を果たし、無事に全員が帰還することを望みます」
僕も敬礼を返して、事前に教えられたセリフで返答する。
決まった!

ジルベール隊長がどうしてもというので、このお見送り式をやってあげた。うん、嬉しそうで何よりです。
「行って参ります」
ジルベール隊長が号令をかけて、回れ右する。
軍用の馬車に全員が乗り込み、屋敷の外の駐屯地へ向かった。そこでレスコー子爵家私兵団と合流して戦地へ向かうのだ。

とは言え、彼らが戦地に到着するまで、特にこっちでやることは無い。
時々連絡を取りつつ、普通の生活を送っていた。
ペパン諜報部長だけは色々忙しそうにしてたけど。

聖女活動も最近は数日に一度やればよいくらいだ。治療が必要な人に行きわたったということだろう。
その代わり、アネットさんの最近のお仕事に、リアーヌ様のお話相手愚痴を聞くというのが加わった。息子の初陣が近づき不安になっているらしい。

それを聞いて、僕はソフィ王女に通信を繋いだ。
『どうしたの?テオから通信なんて珍しい』
『うん、あのね、ソフィの持ってるネズミくんをシャルル王子に貸してあげて欲しいんだ』
『えー、どうして?』
ソフィ王女がやや不満そうに疑問を呈する。
『初めての戦場でしょ?シャルル王子も不安だと思うんだ。でもネズミくんがあればリアーヌ様やソフィといつでもお話ができるから、心が休まると思うんだ』
『ああ!それはいいわね。お母さまも最近はお兄様の心配ばかりしてるから、これで少しは安心してもらえそう。ありがとう、テオ!行ってくるね』
通信が切れた。さすがソフィ王女、落ち着きがない。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

数日後、王城で開かれた王国軍の壮行式で、総大将として皆の前に立った第一王子の肩にはなぜかネズミのぬいぐるみがくっついていたという。

噂では、あれは妹のソフィ王女が大事にしているぬいぐるみで、御守りとして兄に持たせたらしい。
麗しい兄妹愛を示すエピソードとして民衆には受けが良く、瞬く間に噂は広まっていった。

これをきっかけに王都サイユでネズミのぬいぐるみが大流行し、ダヤン商会が大儲けするのだが、それはまだ先の話だ。
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