幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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聖女と王妃編

聖地ペルピナル

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サンテイユ王国に奇跡の聖女が現れたという噂は急速に周辺国にも広まっていった。
特に、不治の病に侵され死の淵にあった第二王妃を奇跡の御業で救った美談は、吟遊詩人の歌や、旅芸人の芝居によって、広く庶民にも知れ渡っていた。

聖女がその仕組みを作ったとされる「慈善治療院」は、今やサンテイユ王国全土の都市部に設置され、農村部には慈善治療院行きの無料の乗合馬車が運行されており、どんなに田舎の村人でも治療を受けられるようになった。

さらには、遠方から聖女の奇跡を必要とする重症患者をペルピナルまで移送するための護送キャラバン、通称「聖女のわだち」なるものまで登場した。
この”聖女の轍”は、旅の安全のため、あるいは聖女の奇跡にあやかりたい商売人をも巻き込んで大規模な隊列に成長し、各地からペルピナルまで連日多くの人を運んで来る。

単なるいち地方都市に過ぎなかったペルピナルは、聖地として人々の憧れの的となり、多くの人々が集まる巨大都市へと変貌を遂げていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

その裏の事情を語るとこんな感じだ。
話は聖女一行が王都サイユから帰ってきた頃にさかのぼる。

僕らは研究やら、聖女活動やら、慈善活動やらをして日々を過ごしていた。しばらくはのんびりしたものだったが、聖女の噂が国中に広まるにつれ、ペルピナル慈善治療院を訪れる重症患者が徐々に増えてきた。
さすがにアネットさん一人だと大変なので、セラフィン君やココちゃんにも交代で聖女をやってもらうことにして、決まったセリフと決まった振り付けで乗り切ってもらった。

最初に建てた「ペルピナル慈善治療院」はすぐに手狭になったので、一般患者用のもっと大きな治療院を立てて、最初の建物は聖女専用として建物の大部分は宿泊施設に改装した。

さらには、全国各地の偉い人たちから「ぜひうちにも慈善治療院を作って欲しい」と、寄付金付きで嘆願が届くようになった。
お金を使うために始めた事業なのに、さらにお金が入ってくるのは困るんです。
困った時のピエールさん。
「ダヤン商会で新たに慈善事業部門を作りました。今後、慈善治療院の事業拡大はこちらで承ります」
相談すると同時に、あっという間に解決してくれた。
寄付金に加えて僕のお金をドンと上乗せして丸投げしておいた。

進捗報告のついでにピエールさんが、「各地で慈善治療院を開設しているので、錬金術師と上級魔術師が不足して人員の獲得が難しくなってきています」と教えてくれた。
これは、魔法ギルドに追加で寄付するのもいいかもしれない。師匠名義で魔法ギルドに人材育成を目的として寄付しておいた。


そんなある日、アネットさんが相談を持って来た。
「リアーヌ様から聞いたのですが、サイユの中央神殿に聖女の救いを求める重症患者が集まっているそうです。ペルピナルに自力で行けない貧しいものがほとんどだとか。
できるだけリアーヌ様もお金を出してペルピナルに送り出しているそうなのですが、これはサイユだけに限らないのではないでしょうか。
他の地方にも、ペルピナルにたどり着けずに苦しんでいる方が取り残されているのではないかと思います。
聖女がここを離れられない以上、患者を無償でここに連れてくる仕組みを用意できないものでしょうか」

そっか。結構な患者がここに来るから気にしてなかったけど、ここに来れるのはお金のある人か、わりと近くに住んでいる人なんだよな。
見落としていたよ。
「うん、やろう。たくさんの馬車を用意していろんな地方を回って重傷患者さんをここまで連れてきてもらおう」
と言うわけで、ピエールさーん!
「既に、地方と都市の間に定期馬車を運行し、地方の貧民でも慈善治療院の利用ができる仕組みを構築中です。それをさらに拡充し、重症患者はペルピナルまで護送する体制を至急整えます」
すごい!依頼する前にすでに進めているとは。本当に頼りになります。
さらにお金を上乗せしてお願いしておいた。

それからまたしばらくして。
何故だか「ペルピナル慈善治療院」の周囲が日に日に騒がしくなっていると、アネットさん達から聞いた。
はて?と思っていると、シメオンさんから連絡が入る。
『聖女に参拝しようとする人々が治療院の周辺に集まって、地域住民から苦情が寄せられています。役所でも人を出して対応していますが、参拝者が多すぎて手に負えない状態です』
何と!そんなことになってたのか。
『おそらく、今後も人は増える一方と予想されます。つきましては、郊外に広い土地と建物を私どもで用意させていただきますので、今後はそちらを拠点にしていただきたく』
他にも、警備や参拝者対応の人員を用意してもくれるらしい。
そこまでされたら嫌とは言えない。まぁ、最初から断るつもりもないけど。
突貫工事で新施設が建設され、3日後にはそちらに引っ越した。

新しい建物を見て驚いた。神殿じゃないか、これ。ペルピナルの八神教の神殿より大きいかもしれない。
神殿、もとい慈善治療院は敷地の奥に患者さんの滞在施設と、聖女の診療施設があり、その手前側が全て参拝のための施設になっていた。
うん、やっぱり神殿だわ、これ。
ちょっと、シメオンさんやり過ぎじゃない?

と思ってた、僕が間違ってました。
あれよあれよという間に参拝客が増えて、今ではあの広かった参拝施設に行列ができている。このままだと、近いうちに前庭にも行列ができるかもしれない。
そのことをシメオンさんに言ったら。
『予想より早いですね。かなりの余裕を見ていたんですが。ペルピナル都内も人が増え、特に宿泊施設はほとんど満室状態が続いています。移住希望者も増えており、早急に都市を拡張する予定です』
シメオンさんはとても忙しそうにしていた。

この状況で純粋に喜んでいるのはトムさんだった。
『いやー、おかげさまで大盛況でございます。宿も作った端から満室ですし、住宅も作った端から売れていきます。食料も日用品もいくらでも売れますよ』
と笑いが止まらない様子だった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

忙しい日々にもいつしか慣れて、普通の毎日になってきた頃。
気付けば夏も終わり、年を越し、秋の半ばとなっていた。

聖女活動が忙しくて、今回の年末年始は簡単なお祝いしかできなかった。
都内のお祭りは物凄い人出で盛り上がっていたが、お祭りに一緒に行けなくてサラには申し訳ないことをした。今度埋め合わせをしよう。

最近ようやく重症患者が減ってきた。国内の患者はあらかた治療を終えたということだろう。


そして気が付けば太陽神の期節。つまり、僕は10歳となった。

今年も僕の誕生節パーティーをみんなで開いてくれた。ありがとう!
さらに、<幻影会合>を使って、リアーヌ様とソフィ王女も参加してお祝いしてくれた。
王族に祝ってもらうなんて恐れ多い事だけど、友達なんだし良いよね。


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