幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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聖女と王妃編

新魔術と新技術

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聖女一行がペルピナルに帰還して数日後、師匠が新しい魔術を引っ提げてやってきた。

「ついに完成じゃ。名付けて<幻影会合>、まずは見せてやろう」
師匠は僕から少し離れて、僕とナナさん、セラフィン君を加えた4名を参加者として、魔術を発動した。
すると、僕の胸の前、腕を伸ばした先くらいの位置に2尺(30㎝)くらいの大きさの3人分の写影身(師匠、ナナさん、セラフィン君)が椅子に座った状態で空中に出現した。
ちらっと肉眼で師匠の方を見ると、同様に3体の写影身が出現している。
離れた場所にいるナナさん、セラフィン君の所でも、写影身が出現しているのだろう。

「どうじゃ?全員お互いの顔が見えておるか」
師匠の声が、写影身と生身の両方に聞こえてくる。
「見えてる」
「うん、見えます」
「僕も見えてます」
他の全員が応える。<遠隔会話>と違って、同時にしゃべっても区別して認識できるのが素晴らしい。
「よろしい。ではお互いの声は聞こえておるかな? ああ、発言する際は手を上げてくれ」
師匠がそう言うと、お互いに顔を見合わせて、ナナさんが手を上げて発言した。
「ん、全員の声が聞こえる」
セラフィン君も手を上げて。
「僕も、みんなの声が聞こえてます」
最後に僕が手を上げて、聞こえていると応答した。

他の3人の所にそれぞれ1体ずつ自分の写影身がいて視聴覚が伝わってくるのだが、それが違和感なく受け取れる。不思議な感覚だった。

その後、師匠から説明されて、色々試して機能が分かった。
・相手の写影身は胸の前から動かない。つまり自分が動いても追従して動いて、常に胸の前にいるという事だ。
・写影身は椅子から立ち上がれない。椅子の向きは変えられる。上半身の動きは基本的に本体の動きを真似する。
・写影身は幽霊と同様、触れないし、霊視能力が無いと見えない。しかし、一般人にも見えるように幻影化することができる。
・写影身の姿は基本的に霊体と同じになるが、憑依している身体の姿にすることも可能。
・途中で人を加えたり、人を減らしたりもできる。なお、目の前に並ぶ写影身の最大人数は5人までに制限している。
・事前に会合の開始時間を設定しておくと、その時間に確認の念話が飛んできて、自動で開始することができる。これを予約機能と言う。

これはすごい。本当にみんなで集まって話し合いをしている気分を味わえる。
師匠も初お披露目で満足げに頷いていた。

この<幻影会合>をシメオンさん、トムさん、リアーヌ様に教えたら、大変なことになってしまった。

「これは素晴らしいですぞぉ!やはり駆け引きでは相手の表情を伺うのは非常に重要ですからね」
「ええ、ええ、全くその通り」
シメオンさんとトムさんはその有用性にしきりに感心していた。

「わぁ!あなたがテオ君ね。顔を見るのは初めてだわ!」
「この子がテオなのね。馬車の時に声だけ聞いたわ。魔術師なのよね?」
リアーヌ様とそのお膝に座っていたソフィ王女は僕に興味津々だった。

このままじゃ収拾がつかないので、挨拶だけして一旦切り上げさせてもらった。
機能や使い方は<伝書送信>で送っておいた。

すると早速リアーヌ様とソフィ王女の連名で、アネットさんと僕を入れて<幻影会合>したいと伝書が来た。
うーん、よし。セラフィン君とココちゃんも巻き込もう。僕一人で相手するのは流石に厳しい。
この後、この6人で<幻影会合>を行い、ソフィ王女は本来のアネットさんを見てこれが聖女様と同一人物と納得するまでしばらくかかっていた。
そして、ソフィ王女は今まで王宮では同年代の友達がいなかったらしく、僕らはすぐに打ち解けて「敬語なしでおしゃべりしましょ」と言われるほどの仲になった。
リアーヌ様とアネットさんはそんな僕らを嬉しそうに眺めていた。

なお、この時の2対4での<幻影会合>の様子を師匠に伝えて、グループで対話する場合の使い勝手を改善してもらった。全員の前に写影身が出現する必要がないので、各グループの代表者の前にだけ相手側人数分の写影身が現れるように改良してもらった。

その後もソフィ王女とリアーヌ様は数日に1回のペースで<幻影会合>の要請を出しては、みんなでおしゃべりを楽しむようになった。


次に良く使うのはトムさんだ。ナンティア領に増えたダヤン商会の支店に送り込んだお目付け役たちと<幻影会合>を使って会合を行っているのだ。これぞ本来の目的通りの使い方だね。
僕は要請に応じて魔術を発動するだけで、会合に参加はしていない。

シメオンさんも時々、リアーヌ様やトムさんと<幻影会合>で会合を持つことがある。これも僕は参加しないが、シメオンさんは涙目で、僕に参加して味方になって欲しいって言うんだよね。厄介ごとの臭いがするのでお断りします。



数日後、師匠が研究してたもう一つの魔術、「霊素直接攻撃への防御策」も完成した。
これは、使鬼の魔術基盤に組み込まれ、何か危険があれば自動発動することになっている。

「儂とおぬしには基盤が無いからな、ポリーヌに時間ができたら魔道具を作ってもらうことにしよう」
そうだった、自分の事は忘れていたよ。あぶないあぶない。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

こうやって僕と師匠が新しい魔術の研究をしている間にも、ポリーヌさんとニコレットさんの研究は進んでいた。
まだ完成じゃないが、凄い発明があったらしい。

万能生体組織に着想を得て、魔道具の部品を体内で作り出して組み上げることができないか検討した結果、それを実現してしまったという。

錬金術の業界で初心者の練習用に使われる自在金属というものに着目したそうだ。
自在金属は錬金術の魔力を流して操作すると、自由に形を変え、性質もある程度変更が可能という金属なのだが、制御が難しくて精密な加工はほぼ不可能で、時間が経つと形状を失ってもとに戻ってしまうなど、実用性に欠けるため練習用にしか使われていない。

しかし、ポリーヌさんは自在金属を加工する工程を自動化する魔道具を開発し、人間には不可能な精密加工を繰り返し再現できるようにしてしまった。これも、魔力自給化に使った体内魔力発生装置があるからこそできた発明だ。
形状が元に戻る欠点も克服された。定期的に魔道具で加工し続ければ良いのだ。

今はまだここまでしかできていないが、今後の研究では、自在金属で作った部品を組んで魔道具を仕上げる予定だという。
実際に自在金属を加工するところを見せてもらったけど、液体状の金属が見る間に形を変えて、複雑な形状の固い金属部品になるのは面白かった。

参考までに、ニコレットさんが自ら錬金術を駆使して自在金属を加工するところも見せてもらったが、時間がかかったうえに形も歪んでいた。ニコレットさんほどの凄腕錬金術師でさえこれなのだから、確かに今までは実用的でなかったのも頷ける。
今後に期待だね。よろしくお願いします。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから2巡りくらい後、ポリーヌさんが喜び勇んで僕の所に来た。
「できたぞー!」
髪の毛はボサボサ、目の下に隈ができてるが、表情は晴れやかだ。
「ポリーヌさん、疲れてるみたいだから休んでからで良いよ」
「そんなの後でいいから、見に来いよ!」
ポリーヌさんは僕をひょいと抱え上げると、ずかずかと工房の方へ歩いて行く。
こりゃダメだ、大人しくしておこう。あ、師匠も呼ぼう。
僕は<伝書送信>で師匠に工房へ来るよう知らせた。

工房に行くと、寝台の上で検査着のニコレットさんが眠っている。
しかし、その傍らにも、作業着のニコレットさんが立ってて、こちらに挨拶する。
「あ、テオさん。いらっしゃい」
「え!どういうこと!?」
なぜニコレットさんが二人?
「お?ああ、これか。模造死体だよ。万能生体組織で作った、ニコレットの複製だね」
「はい。ポリーヌさんが模造死体を自動で作る魔道具を開発してくださったんですよ」
二人が答えてくれた。
「実験のたびに死体を使ってたら、死体が足りなくなるし、処分にも困るからね。模造死体なら使用後に作り直せるから、繰り返し使えて実験に最適なんだ」
ポリーヌさんが補足説明をしてくれる。
なるほど、そんな事までやってたのか。すごいなぁ。

と、そこへ師匠もやってきた。
師匠は何度か手伝いに来ていたようで、ニコレットさんが二人いても驚いていなかった。
「あ、師匠さん呼ぶの忘れてたわ」
ポリーヌさん。本当に、魔道具以外はポンコツだなぁ。

そして、完成した魔道具、”全自動偽生体化装置”を見せてもらうことになった。
装置は見た目、でっかいベルトだ。お腹の所に来るバックルがお腹全体を覆うくらい大きいし、ベルトの幅も1尺(15㎝)くらいある。
この装置を寝台に横たわっている模造死体のお腹に巻き付ける。検査着はお腹の所だけ開くようになっていた。
そして装置に3本の筒を取り付けた。
「この中に改良した自在金属と、万能生体組織、そして”永遠の血液”が入ってます」
ニコレットさんが説明してくれる。

ポリーヌさんが装置に魔力を流して起動すると、小さな音を立てて装置が動き始めた。
が、見てても特に変化はない。何をやってるのかな?
「まぁ、こっからは見た目に変化ないから面白くないよね。やってることを説明すると」
ポリーヌさんの説明をまとめると。
①お腹から注射針を刺して自在金属を注入し、中で手術用の装置を構築する。
②この装置から管が伸びて行って、血液の入れ替え、不要な臓器の除去や魔道具の作成などの作業を行う。材料は外の装置とつながってる管を通じて供給される。
③最後に体内の手術装置は、魔道具類の自在金属を維持するための装置に変化して体内に残る。
④お腹に空いた穴を万能生体組織で埋めて完了。

う~ん、凄すぎる。見えない体内でそんな複雑なことをやってるなんて。
「いやー、苦労したよ。失敗しても途中経過が見えないから、原因突き止めるのに時間かかったし」
「それで、体内を透かして見るための魔道具も作りましたよね」
「そうそう。って、それがあったじゃない!ちょっと待ってね」
ポリーヌさんが装置を取りに行く。
「…何か意図があって見せないようにしてると思ってたのに」
ニコレットさんもあきれていた。
「はい、これ!これ被ってみて」
と兜のようなものを持ってきて、僕に被せる。
それを通して見ると。
「おお!体の中で動いてるのが見えるよ」
体内の自在金属で作られている装置類がぼんやりと光って透けて見えている。
管が伸びて行って変形して部品に変わっていく様子は、とても不思議で面白い。
「すごいすごい!これは見てて楽しいね」
僕はその光景に、はしゃいで声を上げる。

「ふふ、テオもまだまだ子供ね」
ポリーヌさんが言うと、ニコレットさんが。
「最初にあれを見た時のポリーヌさんの方がもっとはしゃいでましたよ」
ジト目でポリーヌさんを見た。
「あ、師匠もこれ見ますか?」
聞いてみたら、師匠が。
「いや、儂は自分で見ることができるから、不要じゃ。そもそもその方法を教えたのが儂だからな」
そう言って、ニヤッと笑った。
なるほど、師匠はこういうアドバイスをして手伝ったのか。

色々と話しながら見てるうちに、装置から『完了しました』と声がして停止した。
紅茶を2回入れる時間(6分)くらいだろうか。手作業でやるよりもずっと早い。
しかも、周りは汚れないし、何をやっているか分からないのが良い。
「すごいよ、完璧だね!」
僕が絶賛すると、ポリーヌさんは「でしょ~」とドヤ顔で笑っていた。

「最後に本物の死体で実験しようと思ってます。アネットさんが、予備の身体を使っていいと言ってくれたので、女性はそれを使わせてもらいます。
後は男性の死体を1体使わせていただきたいのですが」
とニコレットさんが言うので、許可を出す。
「うん。大丈夫だよ。地下から犯1に取って来てもらおう」
「ありがとうございます」

この後、本物の死体でも問題ないことを確認して、完成となった。
これで、今後人目のある所でも簡単に偽生体化することが可能になった。急な蘇生が必要な場合とかに役立つだろう。

こうして王都旅行で思い付いた研究テーマは全て決着がついたのだった。
さて、次は何を研究しようかな。
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