52 / 91
聖女と王妃編
事件の顛末
しおりを挟む
と思ってたら次の日事態が大きく動いた。
聖女一行がペルピナルに到着する予定日の朝の事だ、ドルレアク公爵を監視していた使鬼から連絡があったようだ。
ペパン諜報部長による報告を聞く。
ついに公爵が呪いの鏡を見つけてしまった。
さすがに、持ち主だけあって症状に心当たりがあったのだろう。
そして、怒り狂って部屋の物に八つ当たりして、壊しまくった。ビュルレ伯爵が裏切ったと考えたのだろう。冷静に考えればそんな事は無いと分かっただろうが、呪いを何度も受けたせいで判断力が鈍っていたのかも知れない。
公爵はすぐに家臣に向けて、第二王妃暗殺を企んだ罪をビュルレ伯爵に擦り付けて告発しろ、と命じたのだ。
家臣たちは即座に命令通りに動き、告発状が王城に届けられた。
ドルレアク公爵家ほどの有力貴族が言う事なので効果は抜群だし、何より最初から伯爵が犯人になるように証拠を集めてあったから、告発を疑うものはいなかった。
ビュルレ伯爵家には多数の衛兵が踏み込み、当主や家族の身柄を拘束する。
証拠を隠滅する時間はなかったし、実際ビュルレ伯爵は(暗殺のつもりはなかったが)実行犯だから言い逃れもできなかった。
そのまま投獄され、今は牢屋の中だそうだ。
このように、今回の事件は犯人が仲間割れして、片方を処分してしまうという結果になった。
こちらがやったことと言えば、迷惑なプレゼントを持ち主に送り返したことくらいだ。
不思議なこともあるもんだなぁ。
その夕刻、聖女一行がペルピナルに戻ってきた。
王家の馬車はレスコー男爵の屋敷に入り、男爵(シメオンさん)が自ら出迎えた。
軽くあいさつをしたら、レスコー男爵の用意した馬車に乗り換えて慈善治療院に送ってもらい、これにて任務完了だ。
今日は治療院を休みにしているので、中には住み込みの職員以外誰もいない。
聖女は祭壇室に引きこもり、アネットさんを屋敷に戻した。
ナナさんはココちゃんの金髪美少女の偽生体を背負って、セラフィン君と一緒に徒歩で屋敷へ戻ってくると言う。もう馬車は懲り懲りだそうだ。
「おかえりなさい、アネットさん」
僕は屋敷でアネットさんを出迎えた。
「ただいま戻りました、テオ様。今日の夕食は久しぶりに私が作りますね」
「休んでて良いんだよ。疲れてない?」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。テオ様のために料理をするのは楽しいですから」
とアネットさんが笑顔でそう言うので、お任せする。
さて、聖女の王都遠征についてはこれで終わりだ。
この後は数日の間、聖女の帰りを待っていた患者たちの治療に大忙しだったけれども、こっちの屋敷は平常運転に戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後。
ビュルレ伯爵の事件の捜査は第一王妃派閥の貴族が担当して行われた。伯爵は取り調べで「殺すつもりはなかった、魔道具を貸し出してくれたドルレアク公爵に聞いてくれ」と懇願したが、ことごとく黙殺された。
そして、1巡り(8日間)もしない内に迅速に裁判が行われ、ビュルレ伯爵家は断絶の上、一族すべてが処刑となった。三男アホンは本来なら家と縁を切っているので助かるはずだったが、事件に積極的に関与していたため同じく処刑となった。
第二王妃が被害を受ける前に未然に事件を防いだということで、国王からドルレアク公爵に感謝状と金一封が贈られた。
しかし、本来このような貢献には勲章などのもっと良い褒賞があって然るべきなので、貴族たちは首をかしげていた。その所為か「ビュルレ伯爵とドルレアク公爵に何らかのつながりがあったのではないか」という疑惑の声がどこからともなく広まった。
◇◆
こうして事件に決着がついた頃、リアーヌ様から<遠隔会話>でみんなと話したいと連絡が来た。
『全く。あのような方に感謝状を贈るだなんて、業腹でしたわ。陛下も嘆いておられましたわ、形だけでも感謝を示さねばならぬと。ですが、アンネさん達に迷惑をかけたビュルレ伯爵家の者たちを処分できたことだけは良かったですね』
とリアーヌ様がぶっちゃける。
『そうそう、公爵の褒賞を下げた表向きの理由に必要だったので、レスコー男爵の陞爵が決まりましたわ』
『は?』
リアーヌ様の突然の爆弾発言に、シメオンさんが固まった。
『ほほう!これは、これは。おめでとうございます、シメオン様。いや、レスコー子爵様と言うべきですかな?』
トムさんがそう言うってことは、良い事なんだよね?
リアーヌ様が追加の説明をする。
『私の命を救うために聖女を説得し王宮へ送り届け、見事その役目を果たしてくれました。そのことに対する褒賞という名目になります。
本当はアンネさんにもっと褒賞をお出ししたいのですが、それでは逆に迷惑をかけてしまうでしょう? なので代わりにレスコー男爵に受け取ってもらうことになりましたの。
それに、こうすれば相対的に公爵の評価が低いのは当然、と一応の説明がつきますからね』
『な、なるほど。納得いたしました。このシメオン、いや、レスコー家当主ベルトランとして謹んでお受けいたします』
硬直からようやく復活したシメオンさんがそう答えた。
『詳しいことはまた後日。それでね、式典で王城へ来られる際に、例の化粧品を少しで良いので持参できないかしら?』
リアーヌ様がさっきより熱のこもった声でそう尋ねた。
あー、どうやらこっちが本題だったみたい。
『もうね、王宮の淑女方から毎日聞かれるのよ。「レスコー男爵とお知り合いなのですか?化粧品は手に入りますか?」って。今まで私に見向きもしなかったような貴族家の娘さんたちまで、手のひらを返したように擦り寄ってくるのだもの。
でも、これは絶好のチャンスだと思いません?』
シメオンさんが興奮して口早に応じる。
『それは!第一王妃派閥を突き崩す糸口になるやもしれませんな。そしてそのカギを握るのが我がペルピナル特産の化粧品とは、滾りますな!』
僕にはよく理解できなかったけど、いわゆる貴族の権力争いって奴みたい。
頑張ってねリアーヌ様、シメオンさん。
◇◆◇◆◇◆◇◆
夏も盛りで暑い日、レスコー男爵は王都サイユへと旅立っていった。
レスコー男爵は陞爵して子爵となり、ペリゴール領の代官に任命された。
今まで代官だったコルト子爵は、南隣のナンティア領の臨時代官として赴任した。
事実上、ナンティア領はペリゴール領に吸収されたとみなされ、領主のペリゴール伯爵の立場は随分と強化されたと言う。
そして、不祥事で断絶されたビュルレ伯爵家が持っていた権益は、大部分がルパーブ伯爵家(第二王妃の実家)に移譲され、一部はペリゴール伯爵家へと移譲された。
また、この頃から、王宮では第二王妃リアーヌの取り巻きが急に増え始める。その中には第一王妃の取り巻きだった者もちらほら見られ、王宮の勢力図が書き換わった事を示していた。
なお、その取り巻きに加わったものは皆、まるで若返ったかのように美しかったという。
聖女一行がペルピナルに到着する予定日の朝の事だ、ドルレアク公爵を監視していた使鬼から連絡があったようだ。
ペパン諜報部長による報告を聞く。
ついに公爵が呪いの鏡を見つけてしまった。
さすがに、持ち主だけあって症状に心当たりがあったのだろう。
そして、怒り狂って部屋の物に八つ当たりして、壊しまくった。ビュルレ伯爵が裏切ったと考えたのだろう。冷静に考えればそんな事は無いと分かっただろうが、呪いを何度も受けたせいで判断力が鈍っていたのかも知れない。
公爵はすぐに家臣に向けて、第二王妃暗殺を企んだ罪をビュルレ伯爵に擦り付けて告発しろ、と命じたのだ。
家臣たちは即座に命令通りに動き、告発状が王城に届けられた。
ドルレアク公爵家ほどの有力貴族が言う事なので効果は抜群だし、何より最初から伯爵が犯人になるように証拠を集めてあったから、告発を疑うものはいなかった。
ビュルレ伯爵家には多数の衛兵が踏み込み、当主や家族の身柄を拘束する。
証拠を隠滅する時間はなかったし、実際ビュルレ伯爵は(暗殺のつもりはなかったが)実行犯だから言い逃れもできなかった。
そのまま投獄され、今は牢屋の中だそうだ。
このように、今回の事件は犯人が仲間割れして、片方を処分してしまうという結果になった。
こちらがやったことと言えば、迷惑なプレゼントを持ち主に送り返したことくらいだ。
不思議なこともあるもんだなぁ。
その夕刻、聖女一行がペルピナルに戻ってきた。
王家の馬車はレスコー男爵の屋敷に入り、男爵(シメオンさん)が自ら出迎えた。
軽くあいさつをしたら、レスコー男爵の用意した馬車に乗り換えて慈善治療院に送ってもらい、これにて任務完了だ。
今日は治療院を休みにしているので、中には住み込みの職員以外誰もいない。
聖女は祭壇室に引きこもり、アネットさんを屋敷に戻した。
ナナさんはココちゃんの金髪美少女の偽生体を背負って、セラフィン君と一緒に徒歩で屋敷へ戻ってくると言う。もう馬車は懲り懲りだそうだ。
「おかえりなさい、アネットさん」
僕は屋敷でアネットさんを出迎えた。
「ただいま戻りました、テオ様。今日の夕食は久しぶりに私が作りますね」
「休んでて良いんだよ。疲れてない?」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。テオ様のために料理をするのは楽しいですから」
とアネットさんが笑顔でそう言うので、お任せする。
さて、聖女の王都遠征についてはこれで終わりだ。
この後は数日の間、聖女の帰りを待っていた患者たちの治療に大忙しだったけれども、こっちの屋敷は平常運転に戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後。
ビュルレ伯爵の事件の捜査は第一王妃派閥の貴族が担当して行われた。伯爵は取り調べで「殺すつもりはなかった、魔道具を貸し出してくれたドルレアク公爵に聞いてくれ」と懇願したが、ことごとく黙殺された。
そして、1巡り(8日間)もしない内に迅速に裁判が行われ、ビュルレ伯爵家は断絶の上、一族すべてが処刑となった。三男アホンは本来なら家と縁を切っているので助かるはずだったが、事件に積極的に関与していたため同じく処刑となった。
第二王妃が被害を受ける前に未然に事件を防いだということで、国王からドルレアク公爵に感謝状と金一封が贈られた。
しかし、本来このような貢献には勲章などのもっと良い褒賞があって然るべきなので、貴族たちは首をかしげていた。その所為か「ビュルレ伯爵とドルレアク公爵に何らかのつながりがあったのではないか」という疑惑の声がどこからともなく広まった。
◇◆
こうして事件に決着がついた頃、リアーヌ様から<遠隔会話>でみんなと話したいと連絡が来た。
『全く。あのような方に感謝状を贈るだなんて、業腹でしたわ。陛下も嘆いておられましたわ、形だけでも感謝を示さねばならぬと。ですが、アンネさん達に迷惑をかけたビュルレ伯爵家の者たちを処分できたことだけは良かったですね』
とリアーヌ様がぶっちゃける。
『そうそう、公爵の褒賞を下げた表向きの理由に必要だったので、レスコー男爵の陞爵が決まりましたわ』
『は?』
リアーヌ様の突然の爆弾発言に、シメオンさんが固まった。
『ほほう!これは、これは。おめでとうございます、シメオン様。いや、レスコー子爵様と言うべきですかな?』
トムさんがそう言うってことは、良い事なんだよね?
リアーヌ様が追加の説明をする。
『私の命を救うために聖女を説得し王宮へ送り届け、見事その役目を果たしてくれました。そのことに対する褒賞という名目になります。
本当はアンネさんにもっと褒賞をお出ししたいのですが、それでは逆に迷惑をかけてしまうでしょう? なので代わりにレスコー男爵に受け取ってもらうことになりましたの。
それに、こうすれば相対的に公爵の評価が低いのは当然、と一応の説明がつきますからね』
『な、なるほど。納得いたしました。このシメオン、いや、レスコー家当主ベルトランとして謹んでお受けいたします』
硬直からようやく復活したシメオンさんがそう答えた。
『詳しいことはまた後日。それでね、式典で王城へ来られる際に、例の化粧品を少しで良いので持参できないかしら?』
リアーヌ様がさっきより熱のこもった声でそう尋ねた。
あー、どうやらこっちが本題だったみたい。
『もうね、王宮の淑女方から毎日聞かれるのよ。「レスコー男爵とお知り合いなのですか?化粧品は手に入りますか?」って。今まで私に見向きもしなかったような貴族家の娘さんたちまで、手のひらを返したように擦り寄ってくるのだもの。
でも、これは絶好のチャンスだと思いません?』
シメオンさんが興奮して口早に応じる。
『それは!第一王妃派閥を突き崩す糸口になるやもしれませんな。そしてそのカギを握るのが我がペルピナル特産の化粧品とは、滾りますな!』
僕にはよく理解できなかったけど、いわゆる貴族の権力争いって奴みたい。
頑張ってねリアーヌ様、シメオンさん。
◇◆◇◆◇◆◇◆
夏も盛りで暑い日、レスコー男爵は王都サイユへと旅立っていった。
レスコー男爵は陞爵して子爵となり、ペリゴール領の代官に任命された。
今まで代官だったコルト子爵は、南隣のナンティア領の臨時代官として赴任した。
事実上、ナンティア領はペリゴール領に吸収されたとみなされ、領主のペリゴール伯爵の立場は随分と強化されたと言う。
そして、不祥事で断絶されたビュルレ伯爵家が持っていた権益は、大部分がルパーブ伯爵家(第二王妃の実家)に移譲され、一部はペリゴール伯爵家へと移譲された。
また、この頃から、王宮では第二王妃リアーヌの取り巻きが急に増え始める。その中には第一王妃の取り巻きだった者もちらほら見られ、王宮の勢力図が書き換わった事を示していた。
なお、その取り巻きに加わったものは皆、まるで若返ったかのように美しかったという。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる