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聖女と王妃編
人を呪わば穴二つ
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数日は何事もなく過ぎたが、4日目の日中に、馬車で移動中のナナさんに寝室の監視用使鬼から連絡があったそうだ。
感覚共有したナナさんの報告では、メイドの恰好をしてたけどたぶん男、が寝室に忍び込み、ベッドの下に何かを隠してすぐに出て行ったという。
すぐにリアーヌ様に連絡し、調べてもらうことにした。
すると、メイドが古びた鏡のようなもの見つけたらしいのだが、見るからに不気味で触らないようにしているとの事。
許可を取ってから偵察用使鬼に近づいてもらい、<物品転送>でこちらにそれを取り寄せる。触らずに机に置いた箱の上に落とした。
う、確かに異様で不気味な感じがする。
エルフ師匠に見てもらうと。
「おそらくは”お呪い”に使う品だろうが、詳細は分からん。ベッドの下に置いたことから、夜や就寝時に発動するのかも知れんな」
との事。
するとペパン諜報部長が。
「効果を知るために、元の持ち主の下へお返ししませんか?」
と悪い笑みを浮かべて提案する。
犯人は既に使鬼で追跡中であり、すぐに依頼主が判明するだろうとの事。
そうなったら、依頼主のベッドの下にこれを戻して様子を観察しよう、と言うことだね。良いね!
尾行中の使鬼に<感覚公開>させて、みんなで見ている。
犯人の男はすぐに王宮を脱出し、変装を何度か変えて、王城の外へ逃れた。そのまま貴族地区のとある屋敷へと入っていく。
ある程度予想はしてたけど、やっぱりビュルレ伯爵家だった。ローラやアホンの実家だね。
屋敷の中で、犯人と執事っぽい人が会話して、お金のやり取りがあった。
犯人はそのまま出て行き、執事は奥へ。
いたのは例の無礼男ことアホンだった。執事が報告すると、アホンは高笑いをして勝ち誇った顔をしていた。
こいつが指示したので間違いないだろう。
ペパン諜報部長はこいつの周辺をさらに探るそうだ。
動物使鬼の鼻でアホンの寝室を突き止め、ベッドの下に<物品転送>で古びた鏡を送り込んだ。
そのまま使鬼に監視させて夜を待つ。
僕は昼寝をして夜更かしに備えた。
のだが、夜にはどうしても眠くて寝てしまった。
なので次の朝に聞いた話だ。
◇◆◇
真夜中過ぎ、誰もが寝静まった頃、ベッドの下の古びた鏡が怪しい紫の光を放つ。
すると、その上で寝ているアホンの身体が薄青くぼんやりと光り出した。それは死霊が抜けそうになる時の様子と似ている。
しかし、アホンは死んだわけではなかった。寝息は止まっていない。
少しすると薄青い光はベッド下に向かって引き寄せられていった。そして、古びた鏡に吸い込まれて行く。
ゆっくりと30を数えるほどの時間、その光景が続いていたが、唐突に古びた鏡の光が消え、アホンの身体の光も消えた。
◇◆◇
それ以降は何も起こらなかったそうだ。
異変の起こる時間はとても短いので、ずっと監視していない限り気づくことは難しいだろう。
朝目覚めたアホンの様子はと言うと、ボーっとしていて、寝る前より疲れている感じだったという。
本人も「疲れが取れない」と愚痴っていたそうだ。
師匠の見解では。
「あれは霊素が吸い取られたのだろう。霊素は生命そのもの。だから気力や意欲、さらには記憶や感情なども失われる可能性がある。そして最終的には死に至るだろう。
ここまで来るとお呪いでは収まらない、呪物だな。昔なら禁忌事物として封印対象だぞ。今はどうか知らんが」
それほどの強力な呪物をどうやって入手したのだろう。ビュルレ伯爵家に元からあったのか。
「今この鏡の入手経路を調べていますが、どうも他の貴族家から借りているようなのです。この鏡が入っていたと思しき箱が見つかっておりまして、確証を得るため使鬼に匂いを辿らせております」
ペパン諜報部長が既に次の手を打っていた。すごいな。
では続報を待ちましょう。
ペパン諜報部長から別件で報告があった。
今日は朝からリアーヌ様を観察する人間がいるらしい。
調べたところ、第一王妃付きの侍女の一人だった。朝から数回、物陰からこちらを伺っては帰っていくのだそうだ。昨日まではそんな行動は無かったらしい。
「恐らくは呪物の効果を確認しに来たのでしょうね。本来ならアホンのようにダルそうにしてるはずですから」
ペパン諜報部長がそう付け加えた。
そして、匂いを追っていた使鬼の到達した場所も判明した。ドルレアク公爵家、つまり第一王妃の実家の屋敷だった。
「つまり、こっちが本当の持ち主ってことか。ちゃんと持ち主の所に返さなきゃね」
僕がそうつぶやくと、ペパン諜報部長が。
「そう言うと思いまして、既に当主の寝室は突き止めてありますよ」
さすが!仕事が早いなぁ。
<物品転送>で呪いの鏡をアホンの寝室から取り寄せ、ドルレアク公爵の寝室のベッド下に送り込んだ。
落し物はきちんとお返ししたので、後はそっちでどうにかしてね。
翌朝のペパン諜報部長による報告。
・夜中にドルレアク公爵のベッド下で呪いの鏡が発動していた。
・朝になり公爵がダルそうにしていたが、気づかれた様子は無い。
・当面の間はこのままリアーヌ様の身辺と公爵家の監視を継続する。
・公爵と伯爵のどちらが首謀者なのかについても調査中。
との事。
お任せしますので、よろしくお願いします。
聖女一行がペルピナルまであと一日の距離まで来た頃。
ペパン諜報部長が今回の事件の首謀者を突き止めてくれた。
調査によると、聖女との関わりでローラとその兄アホンが社会的に制裁を受けた事を、ビュルレ伯爵家当主が逆恨みし、「聖女によって病気から回復した第二王妃が再び病に倒れれば、聖女の奇跡に疑惑が生じて、評判を落とすだろう」という筋書きを考えたらしい。
伯爵は聖女を良く思っていない第一王妃派閥の力を借りようと、派閥の有力貴族何人かに密かに話を持ち掛けたところ、派閥トップのドルレアク公爵家が興味を持った。
そして原因不明の病を引き起こす事のできる魔道具と偽って、例の呪いの鏡を貸し出したのだ。
ビュルレ伯爵は命を取ろうとまでは思っておらず、病気になって倒れてくれれば良いと考えていたらしい。
一方、ドルレアク公爵の方は死ぬ可能性があることも承知していたはずだ。
公爵は、自分の関与を疑われないように、呪いの鏡の出所を偽装する工夫をしていたようだ。
使鬼の嗅覚は誤魔化せなかったけどね。
つまり、計画の首謀者はビュルレ伯爵と言えるが、暗殺計画に仕立て上げたのはドルレアク公爵だということか。
この事件の真相はリアーヌ様にも詳細に伝えられたが、リアーヌ様は。
「使鬼を使った捜査ですから、これを証拠には出来ませんし、実際の被害が無いので罪に問うのは難しいでしょう。しかし、これを知っていることで優位に立つことができます。感謝いたしますわ」
と言っていた。
貴族の世界は色々複雑で難しいらしいので、悪い奴を懲らしめて終わり、ではないらしい。
僕としてはスッキリしないけど、後の事はお任せするしかないか。
感覚共有したナナさんの報告では、メイドの恰好をしてたけどたぶん男、が寝室に忍び込み、ベッドの下に何かを隠してすぐに出て行ったという。
すぐにリアーヌ様に連絡し、調べてもらうことにした。
すると、メイドが古びた鏡のようなもの見つけたらしいのだが、見るからに不気味で触らないようにしているとの事。
許可を取ってから偵察用使鬼に近づいてもらい、<物品転送>でこちらにそれを取り寄せる。触らずに机に置いた箱の上に落とした。
う、確かに異様で不気味な感じがする。
エルフ師匠に見てもらうと。
「おそらくは”お呪い”に使う品だろうが、詳細は分からん。ベッドの下に置いたことから、夜や就寝時に発動するのかも知れんな」
との事。
するとペパン諜報部長が。
「効果を知るために、元の持ち主の下へお返ししませんか?」
と悪い笑みを浮かべて提案する。
犯人は既に使鬼で追跡中であり、すぐに依頼主が判明するだろうとの事。
そうなったら、依頼主のベッドの下にこれを戻して様子を観察しよう、と言うことだね。良いね!
尾行中の使鬼に<感覚公開>させて、みんなで見ている。
犯人の男はすぐに王宮を脱出し、変装を何度か変えて、王城の外へ逃れた。そのまま貴族地区のとある屋敷へと入っていく。
ある程度予想はしてたけど、やっぱりビュルレ伯爵家だった。ローラやアホンの実家だね。
屋敷の中で、犯人と執事っぽい人が会話して、お金のやり取りがあった。
犯人はそのまま出て行き、執事は奥へ。
いたのは例の無礼男ことアホンだった。執事が報告すると、アホンは高笑いをして勝ち誇った顔をしていた。
こいつが指示したので間違いないだろう。
ペパン諜報部長はこいつの周辺をさらに探るそうだ。
動物使鬼の鼻でアホンの寝室を突き止め、ベッドの下に<物品転送>で古びた鏡を送り込んだ。
そのまま使鬼に監視させて夜を待つ。
僕は昼寝をして夜更かしに備えた。
のだが、夜にはどうしても眠くて寝てしまった。
なので次の朝に聞いた話だ。
◇◆◇
真夜中過ぎ、誰もが寝静まった頃、ベッドの下の古びた鏡が怪しい紫の光を放つ。
すると、その上で寝ているアホンの身体が薄青くぼんやりと光り出した。それは死霊が抜けそうになる時の様子と似ている。
しかし、アホンは死んだわけではなかった。寝息は止まっていない。
少しすると薄青い光はベッド下に向かって引き寄せられていった。そして、古びた鏡に吸い込まれて行く。
ゆっくりと30を数えるほどの時間、その光景が続いていたが、唐突に古びた鏡の光が消え、アホンの身体の光も消えた。
◇◆◇
それ以降は何も起こらなかったそうだ。
異変の起こる時間はとても短いので、ずっと監視していない限り気づくことは難しいだろう。
朝目覚めたアホンの様子はと言うと、ボーっとしていて、寝る前より疲れている感じだったという。
本人も「疲れが取れない」と愚痴っていたそうだ。
師匠の見解では。
「あれは霊素が吸い取られたのだろう。霊素は生命そのもの。だから気力や意欲、さらには記憶や感情なども失われる可能性がある。そして最終的には死に至るだろう。
ここまで来るとお呪いでは収まらない、呪物だな。昔なら禁忌事物として封印対象だぞ。今はどうか知らんが」
それほどの強力な呪物をどうやって入手したのだろう。ビュルレ伯爵家に元からあったのか。
「今この鏡の入手経路を調べていますが、どうも他の貴族家から借りているようなのです。この鏡が入っていたと思しき箱が見つかっておりまして、確証を得るため使鬼に匂いを辿らせております」
ペパン諜報部長が既に次の手を打っていた。すごいな。
では続報を待ちましょう。
ペパン諜報部長から別件で報告があった。
今日は朝からリアーヌ様を観察する人間がいるらしい。
調べたところ、第一王妃付きの侍女の一人だった。朝から数回、物陰からこちらを伺っては帰っていくのだそうだ。昨日まではそんな行動は無かったらしい。
「恐らくは呪物の効果を確認しに来たのでしょうね。本来ならアホンのようにダルそうにしてるはずですから」
ペパン諜報部長がそう付け加えた。
そして、匂いを追っていた使鬼の到達した場所も判明した。ドルレアク公爵家、つまり第一王妃の実家の屋敷だった。
「つまり、こっちが本当の持ち主ってことか。ちゃんと持ち主の所に返さなきゃね」
僕がそうつぶやくと、ペパン諜報部長が。
「そう言うと思いまして、既に当主の寝室は突き止めてありますよ」
さすが!仕事が早いなぁ。
<物品転送>で呪いの鏡をアホンの寝室から取り寄せ、ドルレアク公爵の寝室のベッド下に送り込んだ。
落し物はきちんとお返ししたので、後はそっちでどうにかしてね。
翌朝のペパン諜報部長による報告。
・夜中にドルレアク公爵のベッド下で呪いの鏡が発動していた。
・朝になり公爵がダルそうにしていたが、気づかれた様子は無い。
・当面の間はこのままリアーヌ様の身辺と公爵家の監視を継続する。
・公爵と伯爵のどちらが首謀者なのかについても調査中。
との事。
お任せしますので、よろしくお願いします。
聖女一行がペルピナルまであと一日の距離まで来た頃。
ペパン諜報部長が今回の事件の首謀者を突き止めてくれた。
調査によると、聖女との関わりでローラとその兄アホンが社会的に制裁を受けた事を、ビュルレ伯爵家当主が逆恨みし、「聖女によって病気から回復した第二王妃が再び病に倒れれば、聖女の奇跡に疑惑が生じて、評判を落とすだろう」という筋書きを考えたらしい。
伯爵は聖女を良く思っていない第一王妃派閥の力を借りようと、派閥の有力貴族何人かに密かに話を持ち掛けたところ、派閥トップのドルレアク公爵家が興味を持った。
そして原因不明の病を引き起こす事のできる魔道具と偽って、例の呪いの鏡を貸し出したのだ。
ビュルレ伯爵は命を取ろうとまでは思っておらず、病気になって倒れてくれれば良いと考えていたらしい。
一方、ドルレアク公爵の方は死ぬ可能性があることも承知していたはずだ。
公爵は、自分の関与を疑われないように、呪いの鏡の出所を偽装する工夫をしていたようだ。
使鬼の嗅覚は誤魔化せなかったけどね。
つまり、計画の首謀者はビュルレ伯爵と言えるが、暗殺計画に仕立て上げたのはドルレアク公爵だということか。
この事件の真相はリアーヌ様にも詳細に伝えられたが、リアーヌ様は。
「使鬼を使った捜査ですから、これを証拠には出来ませんし、実際の被害が無いので罪に問うのは難しいでしょう。しかし、これを知っていることで優位に立つことができます。感謝いたしますわ」
と言っていた。
貴族の世界は色々複雑で難しいらしいので、悪い奴を懲らしめて終わり、ではないらしい。
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