幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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聖女と王妃編

不穏な気配

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次の日、中央神殿から使いの者が昨日の釈明のため訪問してきた。

今度は正規の手続きを経て、いつもの侍女さんによる案内だ。
応接室ではやたらと腰の低い男性が深々と頭を下げて謝罪するので、それを受け入れて事情を聴く。

中央神殿としては伝説の聖女が国に認定されたことから、八神教としても何か祭事を行いたいと考え、聖女と相談しようと思っていた。
使者として本当は別の人が行く予定だったが、昨日の男が強引にその役目を奪い、独断専行で王宮へ行ったというのだ。
中央神殿も王宮からの抗議で初めて知って大慌てだったそうだ。
今その男は謹慎処分にしているが、降格や除名も検討しているらしい。

僕らとしては国王陛下からの庇護が得られたので、これ以上の面倒は避けたい。
「申し訳ございませんが、ペルピナルには私の帰りを待ちわびている方が多くいらっしゃいます。その方々を救うため、急いで戻らねばなりません。
神々への感謝と祈りはいつでも、どこからでも届けることができます。私がどこにいようとも、祭事を行う事ができるはずです」
と言って、遠回しに辞退させてもらった。
これ以上サイユにいると余計な厄介ごとに巻き込まれそうだから、さっさと帰ろう。

侍女さんに明日帰ることを伝え、リアーヌ様にも別れの挨拶に行くと。
「もっと一杯お話したかったです」
としょんぼりされた。
聖女が、霊糸通信でどんなに離れていてもお話はできると言うと。
「そういえば、そのようなことをおっしゃってましたね!」
と急に笑顔になった。言われるまで忘れていたらしい。
まあ、これで帰る準備は整った。

と思ってたら。
「聖女様、帰っちゃうの?」
とソフィ王女が目をウルウルさせて聖女に縋りついていた。
こ、これは手強いぞ!
屋敷の面々で緊急会議を開き、「ネズミくんを通信役に置いていく」と決まった。
<物品転送>でネズミのぬいぐるみをアネットさんの所に送る。
「ソフィ殿下、これを。ネズミくんを使えばどんなに遠く離れていても私とお話ができますよ」
と言って、ぬいぐるみを手渡した。
「わっ、かわいい!ありがとう、聖女様!」
ソフィ王女も笑顔でお別れができそうだ。
ネズミくん、後はよろしく頼む。

ネズミくんを献上したので、屋敷の方では急遽、警備を担当している猫全員に<念話中継>と<感覚公開>を搭載して、交代で屋敷の連絡役になってもらった。
ポリーヌさんとニコレットさんはネズミくんがいなくなって寂しがっていたが、猫は猫でかわいいと喜んで撫でていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日の朝、王城の前庭で国王陛下とリアーヌ様ご家族、リアーヌ様の兄上マリユスさん等がずらっと並ぶ中、王家が用意した豪華な馬車に聖女一行が乗り込んで、出発した。
ソフィ王女はべそをかきながら馬車が見えなくなるまで手を振っていた。
帰路では、警護の部隊だけでなく、別の馬車でメイドや移動式キッチンなども随行しており、王族並みの優雅な旅を味わうこととなった。

その夜、ペパン諜報部長が早速報告を持って来たので、みんなで報告を聞く。
アネットさんとナナさんは馬車の中から<遠隔会話>で参加した。

まずは中央神殿の調査結果から。
聖女の出現を祝う催事の計画は本当だった。ただ、その結論に至るまでにいろいろあったようだ。

聖女が八神教と無関係な者から出現した、と言うのを問題とした者たちがいた。そのうちの一人が例の無礼な男。名前はアホン。
このままでは八神教の権威が脅かされると危惧したようだ。

その者たちは聖女を神殿の管理下に置くことで神殿の威厳を保てると考え、中央神殿トップである八大神徒のうち半数を、賄賂で取り込む工作を行った。
しかし、急遽、国王が聖女を公式に認定したことで風向きが変わった。
国王の意向に背くのを恐れて八大神徒のうち実に6名が聖女と距離を置いて支援だけする方針に傾いたのだ。

それで残ったアホンともう1名から苦肉の策として出されたのが、「聖女降臨を祝う祭事」だったわけだ。神殿が主催し、そこに聖女が参加することで、八神教と聖女はつながってますよ、と世間にアピールするのが狙いだ。

これらの経緯は会議の議事録から得られた。
しかし、聖女が王都サイユを発ったため、祭事は聖女抜きで開催することに決定したそうだ。

結局、アホンは降格処分となり、八大神徒から外された。

この男を詳しく調べたところ、アホン・ビュルレと言う名前で、聖職者になる前はビュルレ伯爵家の三男だった(聖職者になると実家と縁を切る必要がある)。
さらに、このビュルレ家を調べると、なんと王宮を追放されたローラもこの家の娘だったのだ。
なるほど、確かに通じるものがある。あの無駄に偉そうなところとかそっくりだ。
王宮で正規の手続きをせずに無理やり面会を実現させたのも、二人が身内だったからなのだろう。


次の報告は貴族の方だ。

貴族の中には派閥があり、”第一王妃派”というのが最大派閥であるらしい。
先ほど神殿の話で出てきたビュルレ伯爵家も、この第一王妃派だ。

第一王妃はドルレアク公爵家、かつてこの王国に併合された小国の王家、の血筋だ。
血筋を大事にする血統主義者の有力貴族たちがこの派閥を支持しており、第一王妃の息子である第二王子を次期国王に据えたいと考えているという。
その有力貴族たちの傘下貴族が多いため、最大派閥となっている。

お披露目会場で剣呑な目線を送ってきた貴族は全て、この派閥に属する有力貴族だった。
血統主義者の考え方では「たかが伯爵家の娘である第二王妃(リアーヌ様)が国王の寵愛を受けること自体が間違っている」らしい。その子である第一王子(シャルル王子)が世継ぎになるなどもっての外、と考えているわけだ。

それが、重病でもうすぐ死ぬと思っていたところへ、急に聖女が現れて見る間に回復してしまい、忌々しく思っていたらそれだけに留まらず、国王が聖女を公認し庇護を与えてしまった。
そうなると第二王妃には「聖女の奇跡で死の淵より生還した」という箔までついてしまったわけだ。
それに加えて、聖女と友人関係にあるらしい。

今後、間違いなく第二王妃の評判が上がるので、第一王妃派の者にとって、聖女の出現は非常に面白くない出来事だったというわけだ。

うわぁ、こういう話を聞くと本当に貴族って面倒くさいな。げんなりする。

で、これらの報告の後ペパン諜報部長が。
「これらの情報を分析した結果、第二王妃様の身に危険が迫る可能性があると判断しましたので、警戒のために使鬼を配備する許可をいただいたいのです」
と言い出した。
なぜそう判断したのか良く分からないけど、リアーヌ様を護るのは良いと思います。
「ぜひ、やりましょう」
僕が言うと、アネットさんから。
『あの、寝室の監視は女性に行わせてくださいね』
と通信が来た。
ペパン諜報部長もその意見に賛同した。
リアーヌ様本人にも<伝書送信>で懸念と、使鬼の監視を付けることと、自分たちでも警戒して欲しいことを伝えた。

するとしばらくしてリアーヌ様から<伝書送信>の返信が帰ってきて、監視の件了承したと伝えるついでに、今日食べた物の話とか、子供たちがカワイイとか、陛下が大好き、とかいろんなことが伝わって来て困った。
あ、そういえばアネットさんも初めて使ったときそうだったよな、と思い出した。

諜報部門の持つ偵察用使鬼(犬や猫)を使い、第二王妃の寝室、居室、本人周囲、お子様たち周囲などを監視する体制を整えた。
寝室の使鬼に<感覚共有>する役目はナナさんかアネットさんがやることになっている。

一応、ネズミくんにもソフィ王女の周りで何か異変があれば教えるよう指示した。

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