幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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聖女と王妃編

国家認定の聖女

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その後、聖女がリアーヌ様のお茶会に御呼ばれしたり、ソフィ王女が客室に遊びに来たり、等いろいろあった。
日々順調に処置を続けてリアーヌ様も急速に健康的な外見に近づいて行った。

そして、ついに聖女のお披露目の当日になった。

今日のお披露目会には王妃様が参加されるらしいと、もっぱらの噂だ。死の淵から救っただけでなく、その後の肥立ちも尋常ではない速さで、聖女様の奇跡が改めて注目を集めている。
今日のお披露目会は、王都サイユにいる貴族だけを集めて行われるもので、とにかく急いで聖女の称号を認定し、広く世に知らしめるのが先決だと国王陛下が判断した結果らしい。
と言う話を、事情通の侍女さんから聞かされた。

時間になって式典場へ案内される。
聖女は、この数日で急遽仕立てられた衣装に着替えていた。すんごい豪勢で煌びやかだった。かなり重たいらしい。
同伴するのは侍女のセラフィン君だけ。これは以前と同じだ。セラフィン君も豪華な衣装になってる。
扉が開いて中が見える。かなり広くて天井の高い部屋だ。目の前に一直線に深紅の絨毯が伸びていて、その両脇に貴族たちが整然と並んでいる。

あ、そうそう。魔術による演出は無しになった。
先日、客室内でちょっとした魔術をセラフィン君が使ったら、侍女さんが慌ててやってきて。
「王城内全域は魔術の無断使用が禁止されています。魔術の発動を監視する魔道具や、監視専門の魔術師が配備されていますのでご注意ください」
と言われたためだ。
リアーヌ様の寝室で魔術を使ったのも感知されていたが、手術のためと判断され黙認されていたらしい。
危なかった。先に知っておいてよかったよ。
死霊術の霊糸通信に関する魔術は感知されないのを確認済みなので、現場中継のため<感覚公開>は使っている。

聖女が入場すると居並ぶ貴族に盛大な拍手で迎えられた。
大半は好意的な笑顔だったが、いくつか不満げな、あるいは敵意のこもった視線もあった、とジルベール隊長とペパン諜報部長から聞いた。
うーん、そんなことも分かるのか、凄いな。

後は事前に打ち合わせした通りに歩いて行き、国王陛下の前で一礼する。
ここで拍手が鳴りやむ。陛下の隣にいるリアーヌ様がこちらをニコニコ笑顔で見ている。
もう一方の隣にいる、恐らく第一王妃は、逆に無表情な顔でこっちを見ている。
「ありゃあ、相当イラついてる顔だな」とジルベール隊長は言っていた。
あんな無表情なのに、良く分かるな。

◇◆

陛下が玉座から立ち上がり、聖女の称号を与えること、そして国王の名のもとに聖女の行いを何人たりとも妨げてはならない、と宣言した。
侍従から受け取った一本の豪華絢爛な杖を頭上に掲げて。
「その証として、この”聖者の杖”を聖女に授けるものとする。聖女よ、ここへ」
と陛下が言うと、聖女がしずしずと壇上に上がり、陛下の横に並びたち向かい合う。
そして立ったまま、杖の授与が行われた。
この光景に会場が静かにどよめく。

通常は国王陛下から下賜される場合、膝をついて受け取るものだ。だが、立ったまま受け取るということは国王と対等な立場と言う事を意味する。

聖女の称号がどういったものなのか、会場の全員が今のこの光景からはっきりと理解した。
聖女が陛下に一礼して、会場を向くと、割れんばかりの拍手が鳴り響いたのだった。

◇◆

この後は侍従から会場の貴族へ通達があるので、王族と共に聖女は退室する。
廊下を歩きながら陛下が聖女に話しかけた。
「聖女よご苦労であった。今後その杖を見せればそなたの行いは全て余の許しを得たものとみなされる。人々の救済に役立てて欲しい」
「感謝いたします、陛下」
と聖女が応えると、リアーヌ様が。
「いつでも私に会いに来てくださいね。お待ちしています」
朗らかに言う。
第一王妃は押し黙ったまま歩き、最初の分かれ道で「失礼いたしますわ」と一礼してさっさと去っていった。
「やれやれ。あれは血統主義者でな、聖女の地位を面白く思っておらんのだ。身内の無礼を謝罪する」
と陛下が苦々し気にそう言った。
その後、陛下は執務に戻り、聖女は控室へ戻る。

その途中で。
「アンネさん、この後お茶を一緒にいかがですか?」
とリアーヌ様からお誘いがあった。もちろん断る理由は無かった。
聖女が控室で豪華な衣装から着替えている間、なぜかリアーヌ様は一緒に待っていて、そのまま連れ立ってお茶会へと向かって行った。リアーヌ様は始終笑顔で上機嫌だった。

「すごいです。アネットさん、すっかり王妃様と仲良しなんですね」
と屋敷で一緒に観ていたココちゃんが驚いていた。
「王宮だとこうして信頼のできる友人を得るのは難しいでしょうからね。命を拾った上に友も得たのは王妃陛下にとって僥倖だったと言えるでしょう」
ペパン諜報部長がしみじみと言う。

リアーヌ様の治療は予定を前倒ししたので、既に終わっている。
もうペルピナルに帰ってもいいのだが、リアーヌ様がどうしてもと引き留めるので、もう数日滞在することになった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日、客室のドアがノックされ、応じると初日に会ったきりのローラとかいういけ好かない女だった、と緊急で通信が来たので、セラフィン君の<感覚公開>を見ている。

「中央神殿からお客様だ、…です。ついて来、…案内するので一緒にお越しください」
侍女頭の罰がきつかったのだろう、ローラは苦々し気な表情ではあるが、努力して敬語を使っている。

中央神殿って何?
「全国の神殿を取りまとめている大きな神殿ですよ。各国の首都にあります」
とペパン諜報部長が教えてくれた。

応接室に行くと、神殿の偉い人が着ているよりさらに豪華な服装の中年男性が座っていた。
聖女が入室し、ソファの近くに行くが男性はじっとこちらを見たまま座っている。
「?」
聖女が不審な表情を浮かべる。こういう場合は、訪問者が先に挨拶するものだろう。しかも座ったままでいるなどあり得ない。
「どちら様ですか?」
埒が明かないので、聖女から聞く。
「誰に向かって口を聞いておる!」
その男はいきなり怒り出した。これには誰もが面食らった。
それはこっちのセリフだろう!

ナナさんがスッと、聖女と男の間に入り睨みつける。
「なんだお前は!無礼だぞ!」
椅子の後ろに立っていた護衛らしき男が慌ててそう言うと、椅子の横を周ってナナさんに掴みかかろうとして。
ドシーン!と大きな音を立てて床に転がった。
ナナさんが投げ飛ばしたのだ。
『テオ様、威圧をお願いします』
とアネットさんが霊糸通信で伝えてきたので、<精神干渉>で威圧をかけた。緊急事態だから魔術も仕方ないよね。
相手の男たちが急に顔をこわばらせて、動きを止めた。
「無礼なのはどちらですか。私を訪ねてきたにも関わらず名乗ろうともせず、それどころか恫喝するとは。恥を知りなさい」
聖女のいつもより低く、さほど大きくはないがよく通る声が男を糾弾する。
「貴方のような礼儀を知らぬ者と話すことは何もありません。お引き取りください」
そう言うと、軽く一礼してさっさと退室した。

いつもの担当侍女さんが廊下を慌てて駆けてくる。
「どうされましたか!なぜ応接室に?」
ん?どういうことだ。
「私を訪ねてきた人がいると、ローラとかいう侍女に案内されました」
と聖女が応えると、侍女さんが驚いた。
「ローラが!聖女様には接近禁止だったはずなのに。申し訳ございません、こちらの不始末です。ひとまず客室へお戻りください」
そう言って頭を下げ、客室へ先導する。
後ろの応接室から男の喚く声が聞こえたが、無視だ。
全く、何だったんだ?


後で侍女さんから聞いた話だと、ローラは王宮から永久追放処分となったらしい。
これはかなり重い処分で、上流階級の間に瞬く間に噂が広がってしまい、社交の場に出てくることが実質不可能になるそうだ。
僕には良く分からないが、アネットさんや師匠の反応を見るに、かなりヤバい状態になるようだ。

そして訪問客の男だが、中央神殿の”八大神徒”という一番偉い8人のうちの一人だそうだ。
あんなのが一番偉い人間だとは、神殿に不信感を持ってしまうなぁ。
なんでそんな仰々しい肩書の人が来ていたのかは、分からなかったとの事。ぷんぷん怒ったまま帰ってしまったため、何も事情が聞けなかったらしい。
王宮としてはこちらの言い分を全面的に信用してくれて、こちらに落ち度はない、先方が悪いと結論が出た。
正式に中央神殿に抗議してくれているとの事。
まあ、当然だよね。


この騒動を受けてペパン諜報部長が王都サイユに潜伏させた工作員に中央神殿の情報収集を命じたそうだ。
また、お披露目の時に貴族から敵意の視線を向けられたことから、怪しい貴族については既に調査を進めているという。
めちゃめちゃ優秀です、うちの諜報部門。
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