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聖女と王妃編
王都へ
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春も終わり、そろそろ夏がやってきたと感じさせる、ある日の事。
増え続けるお金の使い道に頭を悩ませつつも、平穏な日々を過ごしていた僕の元へ、シメオンさんから<伝書送信>で緊急のお願いというのが来た。
詳細はまだ言えないが、王都サイユのやんごとなきお方が重病で余命いくばくも無いと言われている。
ペルピナルに奇跡の聖女様がいると噂を聞きつけ一縷の望みをかけて、治療を依頼してきた。
既に長旅に耐える体力は残っておらず、旅行に必要なものは全て手配するので、サイユへ行って治療をしてほしい。
と言うのだ。
これまた厄介なお話が来たものだ。
「まず十中八九、王族の誰かだろうな。面倒事ではあるが、この国で最高の後ろ盾を得られる好機とも言える。まぁ、どのみち断ることなどできんから、やるしかないぞ」
と師匠の言うとおりだ。
「問題は、万能回復薬といってもすべての病に効くわけではないということです。効果のない病の場合、救えずに命を落とされちゃったら、処刑なんてことに!」
ニコレットさんが問題点を指摘しながら、自分で恐ろしい想像を掻き立てて真っ青になってる。
「まぁ、その場合はそれこそ死霊術の出番じゃな。むしろ、死んでしまえばどうとでもなる」
と、師匠が身も蓋もないことを言う。
「じゃあ応じるということで返事します」
僕はシメオンさんに承諾の返事を出した。
その後、シメオンさんから詳細を教えられた。
患者は第二王妃陛下。師匠の予想通り王族だった。
症状は詳しいことは現地に行かないと分からないが、向こうの医者は”肉腫”の可能性が高いと言っている。
まずいな、それは万能回復薬が効かない病の一つだ。
僕らは万全の体制を整えて、急いで王都サイユへ向かわねばならない。
サイユに行くメンバーは、聖女様(アネットさん)、赤毛侍女(セラフィン君)、巨乳護衛(ナナさん)、金髪美少女メイド(ココちゃん)、と全員女性(外見は)にした。
それとペパン諜報部長からの要請で工作員用の偽生体を4体持ち込むことになった。
王妃陛下が命を落とした場合に備えて、偽生体化に必要なものを一式持って行くことにした。
馬車はレスコー男爵が最高級の物を用意してくれた。途中で何度も馬を替えつつ、急いでサイユへ向かう。
なお、聖女がサイユに行っている間に治療院に来た患者は、よほどのことが無い限りは通常の治療を行いつつ、待機してもらうことになる。
よっぽど切羽詰まった患者がいた場合は、守秘義務契約を結んでから、万能回復薬を使う予定だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして5日が過ぎて、ようやくサンテイユ王国の王都サイユに到着した。
通常8日はかかる道程を3日も短縮したのだから、頑張った。
今回もセラフィン君の<感覚公開>で現場の様子を居残り組のみんなで見ている。
王都サイユはさすがに大きかった。ペルピナルの10倍はあると聞いた。
街道を進んでいると、畑だったはずがいつの間にか建物が増えている、という感じで境目があいまいな感じだった。
平地なので見通しがきかず、どれだけ広いのか良く分からないほど広い。
やがて大きな外壁と街門が見えてきたが、特に検問とかは無くて素通りのようだ。
門をくぐると、いかにも都の大通りと言った風情の、整然と建物が並んだ光景に切り替わる。
しばらく進んだところで、ペパン諜報部長の指示で工作員4人の使鬼を馬車の中へ呼び出した。すると、偽生体に憑依して馬車を降り、雑踏の中へと消えて行った。今後、王都で潜伏して諜報にあたるそうだ。
その後、内壁と呼ばれる大きな壁と門に到着したが、ここには検問があった。御者が何かを示すとすぐに通してくれる。
門をくぐり、豪邸の立ち並ぶ区画を通り抜け、城壁と呼ばれる立派な壁と門が見えてきた。
ここが王城だ。ようやく目的地に到着した。
王城内に入り、どこかの入り口に横付けして馬車が停まる。
外側から扉が開かれ、外を見ると貴族らしき人物が待っていた。
護衛のナナさんから順に降り、最後に聖女(アネットさん)が馬車を降りる。
「聖女様。お初にお目にかかります。私はマリユス・ルパーブと申します。サイユでの案内役を務めさせていただきます。以後、よろしくお願いいたします」
待っていた貴族の青年が丁寧に挨拶する。
聖女もそれに応じて挨拶を交わす。
この様子から、聖女が貴族相当の身分で扱われていると分かる。
とりあえず、平民だからと軽んじられることがなくて、ホッとした。
案内されて王城の中を歩く途中の雑談で、このマリユスさんが伯爵家の次男であり、第二王妃のお兄さんであることが分かった。
王城で役人として勤めており、身内と言う事もあり今回のこの任務を与えられたようだ。
王城の奥、王族の住まいである王宮へとたどり着いた。
「ここから先は別の者がご案内いたします。聖女様。どうか王妃陛下を、妹をよろしくお願いいたします」
マリユスさんは首を垂れてそう言った。
「力を尽くすとお約束いたします」
聖女がそう答えると、マリユスさんは丁寧に一礼して踵を返した。
王宮の扉の前で待っていた、侍女と思しき女性がこちらに近づいてくる。
「聖女とその一行ですね。ついてきなさい」
今度は打って変わってぞんざいな扱いだ。どうなってるんだ?
「この女も貴族なのだろう。先ほどのマリユスと違い、身分にこだわりがある輩だな。貴族相当とはいえ平民だから、と侮っておるんじゃ」
屋敷で、隣で一緒に観ている師匠が解説を入れてくれた。
つまり、いけ好かない奴ってことだな、この侍女は。
今度は特に会話も無く、廊下を淡々と進む。
立派な装飾の施された扉の前で止まり、ノックをする。
多分、ここが患者の第二王妃の部屋なのだろう。
何か小声でやり取りがあり、扉が開いた。
「聖女だけ入りなさい」
いけ好かない女がそういうが、それは困る。
「なぜですか?彼女たちは全員が必要だから連れて来たのです。彼女たちが入れないのであれば、治療はできませんよ」
聖女が問いただす。
「っ!平民風情が生意気な口を!」
とその女が大きな声を出すが、部屋の中から落ち着いた女性の声が。
「ローラ、お静かになさい。王妃陛下の御前ですよ」
「しかし!」
「ローラ。部屋から出てお行きなさい。あなたを担当から外します」
部屋の中の年配の女性、王妃直属の侍女だろうか、がさらに言葉を重ねる。
「そ、そんな」
「何度も言わせないで。ローラ」
決して強い口調ではないが、反論を許さない迫力を感じさせる。
「は、はい」
そう返事をすると、いけ好かない女(ローラというらしい)は聖女を睨んで部屋から出て行った。
「大変申し訳ございません、聖女様。はるばるお越しくださった客人に対してあのような無礼を働くとは、汗顔の至りでございます。後でしっかりと罰しておきますので、どうぞご容赦ください」
そう言うと、その年配の女性は深々と頭を下げて謝罪した。
「謝罪を受け入れます。どうぞ頭をお上げください」
聖女が即座にそう応える。
「ありがとうございます。私は侍女頭のグレース・ギユメットと申します。お見知りおきください」
丁寧に挨拶をしてくれた。
さっきのローラとかいう女が例外だったと思いたい。
彼女に案内されて、さらに奥の部屋、寝室へと向かった。
「この先に見聞きしたことは全て皆様の胸の内に収め、決して口外なさらないでください」
グレースさんが念を押すと、こちらの一行は頷いて同意を示した。
ここからはセラフィン君の<感覚公開>も中止し、僕だけ感覚共有することにした。
扉を開くと豪奢な寝室が広がり、真ん中に天蓋付きの豪華なベッドがある。
その上に横になっているのが王妃陛下だろう。
美しく輝いていたであろう金色の髪は、今はつやを失いバサバサになっている。
顔はすっかりとやせこけ、顔色は死体と見まごうほどに青ざめている。
カサカサの唇がかすかに動くことから、生きていることが分かる。
その様子に思わず一行の足が止まる。
一目見て分かる、もう長くはないと。
そして、霊視能力のある僕らには、その体から青白い光が漏れ出しているのが見えていた。
増え続けるお金の使い道に頭を悩ませつつも、平穏な日々を過ごしていた僕の元へ、シメオンさんから<伝書送信>で緊急のお願いというのが来た。
詳細はまだ言えないが、王都サイユのやんごとなきお方が重病で余命いくばくも無いと言われている。
ペルピナルに奇跡の聖女様がいると噂を聞きつけ一縷の望みをかけて、治療を依頼してきた。
既に長旅に耐える体力は残っておらず、旅行に必要なものは全て手配するので、サイユへ行って治療をしてほしい。
と言うのだ。
これまた厄介なお話が来たものだ。
「まず十中八九、王族の誰かだろうな。面倒事ではあるが、この国で最高の後ろ盾を得られる好機とも言える。まぁ、どのみち断ることなどできんから、やるしかないぞ」
と師匠の言うとおりだ。
「問題は、万能回復薬といってもすべての病に効くわけではないということです。効果のない病の場合、救えずに命を落とされちゃったら、処刑なんてことに!」
ニコレットさんが問題点を指摘しながら、自分で恐ろしい想像を掻き立てて真っ青になってる。
「まぁ、その場合はそれこそ死霊術の出番じゃな。むしろ、死んでしまえばどうとでもなる」
と、師匠が身も蓋もないことを言う。
「じゃあ応じるということで返事します」
僕はシメオンさんに承諾の返事を出した。
その後、シメオンさんから詳細を教えられた。
患者は第二王妃陛下。師匠の予想通り王族だった。
症状は詳しいことは現地に行かないと分からないが、向こうの医者は”肉腫”の可能性が高いと言っている。
まずいな、それは万能回復薬が効かない病の一つだ。
僕らは万全の体制を整えて、急いで王都サイユへ向かわねばならない。
サイユに行くメンバーは、聖女様(アネットさん)、赤毛侍女(セラフィン君)、巨乳護衛(ナナさん)、金髪美少女メイド(ココちゃん)、と全員女性(外見は)にした。
それとペパン諜報部長からの要請で工作員用の偽生体を4体持ち込むことになった。
王妃陛下が命を落とした場合に備えて、偽生体化に必要なものを一式持って行くことにした。
馬車はレスコー男爵が最高級の物を用意してくれた。途中で何度も馬を替えつつ、急いでサイユへ向かう。
なお、聖女がサイユに行っている間に治療院に来た患者は、よほどのことが無い限りは通常の治療を行いつつ、待機してもらうことになる。
よっぽど切羽詰まった患者がいた場合は、守秘義務契約を結んでから、万能回復薬を使う予定だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして5日が過ぎて、ようやくサンテイユ王国の王都サイユに到着した。
通常8日はかかる道程を3日も短縮したのだから、頑張った。
今回もセラフィン君の<感覚公開>で現場の様子を居残り組のみんなで見ている。
王都サイユはさすがに大きかった。ペルピナルの10倍はあると聞いた。
街道を進んでいると、畑だったはずがいつの間にか建物が増えている、という感じで境目があいまいな感じだった。
平地なので見通しがきかず、どれだけ広いのか良く分からないほど広い。
やがて大きな外壁と街門が見えてきたが、特に検問とかは無くて素通りのようだ。
門をくぐると、いかにも都の大通りと言った風情の、整然と建物が並んだ光景に切り替わる。
しばらく進んだところで、ペパン諜報部長の指示で工作員4人の使鬼を馬車の中へ呼び出した。すると、偽生体に憑依して馬車を降り、雑踏の中へと消えて行った。今後、王都で潜伏して諜報にあたるそうだ。
その後、内壁と呼ばれる大きな壁と門に到着したが、ここには検問があった。御者が何かを示すとすぐに通してくれる。
門をくぐり、豪邸の立ち並ぶ区画を通り抜け、城壁と呼ばれる立派な壁と門が見えてきた。
ここが王城だ。ようやく目的地に到着した。
王城内に入り、どこかの入り口に横付けして馬車が停まる。
外側から扉が開かれ、外を見ると貴族らしき人物が待っていた。
護衛のナナさんから順に降り、最後に聖女(アネットさん)が馬車を降りる。
「聖女様。お初にお目にかかります。私はマリユス・ルパーブと申します。サイユでの案内役を務めさせていただきます。以後、よろしくお願いいたします」
待っていた貴族の青年が丁寧に挨拶する。
聖女もそれに応じて挨拶を交わす。
この様子から、聖女が貴族相当の身分で扱われていると分かる。
とりあえず、平民だからと軽んじられることがなくて、ホッとした。
案内されて王城の中を歩く途中の雑談で、このマリユスさんが伯爵家の次男であり、第二王妃のお兄さんであることが分かった。
王城で役人として勤めており、身内と言う事もあり今回のこの任務を与えられたようだ。
王城の奥、王族の住まいである王宮へとたどり着いた。
「ここから先は別の者がご案内いたします。聖女様。どうか王妃陛下を、妹をよろしくお願いいたします」
マリユスさんは首を垂れてそう言った。
「力を尽くすとお約束いたします」
聖女がそう答えると、マリユスさんは丁寧に一礼して踵を返した。
王宮の扉の前で待っていた、侍女と思しき女性がこちらに近づいてくる。
「聖女とその一行ですね。ついてきなさい」
今度は打って変わってぞんざいな扱いだ。どうなってるんだ?
「この女も貴族なのだろう。先ほどのマリユスと違い、身分にこだわりがある輩だな。貴族相当とはいえ平民だから、と侮っておるんじゃ」
屋敷で、隣で一緒に観ている師匠が解説を入れてくれた。
つまり、いけ好かない奴ってことだな、この侍女は。
今度は特に会話も無く、廊下を淡々と進む。
立派な装飾の施された扉の前で止まり、ノックをする。
多分、ここが患者の第二王妃の部屋なのだろう。
何か小声でやり取りがあり、扉が開いた。
「聖女だけ入りなさい」
いけ好かない女がそういうが、それは困る。
「なぜですか?彼女たちは全員が必要だから連れて来たのです。彼女たちが入れないのであれば、治療はできませんよ」
聖女が問いただす。
「っ!平民風情が生意気な口を!」
とその女が大きな声を出すが、部屋の中から落ち着いた女性の声が。
「ローラ、お静かになさい。王妃陛下の御前ですよ」
「しかし!」
「ローラ。部屋から出てお行きなさい。あなたを担当から外します」
部屋の中の年配の女性、王妃直属の侍女だろうか、がさらに言葉を重ねる。
「そ、そんな」
「何度も言わせないで。ローラ」
決して強い口調ではないが、反論を許さない迫力を感じさせる。
「は、はい」
そう返事をすると、いけ好かない女(ローラというらしい)は聖女を睨んで部屋から出て行った。
「大変申し訳ございません、聖女様。はるばるお越しくださった客人に対してあのような無礼を働くとは、汗顔の至りでございます。後でしっかりと罰しておきますので、どうぞご容赦ください」
そう言うと、その年配の女性は深々と頭を下げて謝罪した。
「謝罪を受け入れます。どうぞ頭をお上げください」
聖女が即座にそう応える。
「ありがとうございます。私は侍女頭のグレース・ギユメットと申します。お見知りおきください」
丁寧に挨拶をしてくれた。
さっきのローラとかいう女が例外だったと思いたい。
彼女に案内されて、さらに奥の部屋、寝室へと向かった。
「この先に見聞きしたことは全て皆様の胸の内に収め、決して口外なさらないでください」
グレースさんが念を押すと、こちらの一行は頷いて同意を示した。
ここからはセラフィン君の<感覚公開>も中止し、僕だけ感覚共有することにした。
扉を開くと豪奢な寝室が広がり、真ん中に天蓋付きの豪華なベッドがある。
その上に横になっているのが王妃陛下だろう。
美しく輝いていたであろう金色の髪は、今はつやを失いバサバサになっている。
顔はすっかりとやせこけ、顔色は死体と見まごうほどに青ざめている。
カサカサの唇がかすかに動くことから、生きていることが分かる。
その様子に思わず一行の足が止まる。
一目見て分かる、もう長くはないと。
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