幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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聖女と王妃編

ヤバいお薬

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右の診療室では、普通の怪我は魔術師が治癒系魔術を使って治療に当たる。左の診察室では、錬金術師が患者の症状を聞いて、適切な薬を使って治療していた。

職員は時間を決めて控えの組と交代し、休憩を取らせている。
いくつか細かいトラブルはあったものの、初日の営業は問題なく終了した。

「皆さん、お疲れ様でした。ペルピナル慈善治療院が無事に開業できたのも皆さんのおかげです。これからもよろしくお願いします。では、乾杯!」
「「「乾杯~」」」
営業終了後に職員を集めて、軽食と飲み物を用意してちょっとした慰労会を設けた。
アネットさんの発案で、準備もしてくれた。みんなの笑顔を見ると、やってよかったと思った。

「これほどたくさんの患者さんを診たのは初めてでした」
「今までもお金が払えないだけで、困っている人はこんなにもたくさんいたんですね」
診療に当たっていた錬金術師たちが口々にそんな感想を述べていた。
それくらい、今日ここに押し寄せた患者の数は予想以上だったらしい。これは、彼らの給与も上乗せしてあげなきゃね。

魔術師の方は、かなりぐったりしている。慣れない治癒系魔術を使い通しだったわけだからね、精神的に疲れたのだろう。
「あの、これ良かったら使ってください」
とニコレットさんが、”疲労回復薬”を二人の魔術師に差し出していた。
「え、こんな高価な薬を、良いんですか?」
「ええ、どうぞ」
ニコレットさんがニコッとほほ笑むと、魔術師たちは顔を赤くして「ありがとうございます!」と言って、大事そうに薬を飲んでいた。

明日も営業があるので、早めに切り上げたが、皆さんいい笑顔になっていた。


その後、職員も業務に慣れて、順調な営業が何日か続いた。

そして数日後、ついに重症の患者がやってきた。

連絡を受けて、師匠とニコレットさんが治癒院に急行した。
その患者は、右足に大けが負ったものの、治療費が払えないので放置してしまい、足先から腐りかけている状態だった。
診察の結果、通常であれば、これは脚を切り落とすしかないらしい。
診療室の面々も同じ意見だったようだ。

しかし、こちらには最後の希望である万能回復薬がある。その効能を実際に試してみることにした。
一応、人払いをして関係者以外は診療室から出て行かせた。
怪我に錬金薬を用いる場合の手順に則り、半量を傷に振り掛け、もう半量を患者に飲ませる。
すると、傷口の内側からみるみるうちに新しい肉が盛り上がってきた。さらに腐りかけていた足先がボロボロと崩れ去り、その下から新しい足先が生えてきたのだった。
「こ、これは!」
「すごい!足が生えて来たぞ」
魔術師と錬金術師が驚きの声を上げる。
「ああ!奇跡だ!神の奇跡だ!」
患者も涙を流して喜びの声を上げた。

「むぅ、予想以上の効果じゃな。これはちとまずいかも知れん」
師匠は、万能回復薬がこれほどの効果を発揮するとは思っていなかったようで、これが噂になるとこの治療院が狙われる恐れがあると危惧した。
一応この部屋にいるのは、患者以外は関係者だけなので、患者さんには申し訳ないが<信用の楔>を使って守秘義務契約を交わしてもらった上で、口止め料も渡しておいた。
ちなみに、ここで雇用している魔術師と錬金術師は最初に守秘義務契約を結んでいる。

幸い、この日は患者も少なかったのですぐに営業終了とし、万能回復薬の問題は持ち帰って検討することになった。


屋敷に戻って会議を開く。

まず、ニコレットさんに確認してみたところ、やはり万能回復薬の効果は予想以上だったようだ。
美白美容液や育毛剤を開発した経験から見ても効果が高すぎるという。
「まるで、おとぎ話に出てくる聖女様の奇跡みたいな効果ですよね。実際、どこまでの効果があるのか、もう少し調べてみたいところですが」
とニコレットさんは言う。
しかし、こんな常識外れの薬があると知られれば、絶対に厄介なことになるに違いない。

どうしたものか。やっぱり使わないようにするしかないか、と皆が思い始めた頃。
「では、いっそのこと聖女様の奇跡ということにしてはいかがでしょう?」
とアネットさんが突拍子もない提案をした。
みんな目が点になってしまった。
「ええと、つまりですね」
アネットさんの説明によると、治療には万能回復薬を使いつつ、偽の聖女を用意し演技をさせて人の目をそちらに向けさせることで薬の存在を隠蔽する、ということのようだ。

「この聖女様をどう保護するかが問題となりますが、薬の秘密を守るよりは容易いかと」
みんなもなるほど、と納得していた。
万能回復薬の効果も調べられる上に、その秘密も守れそうということで、この案を採用することになった。
聖女役は満場一致でアネットさんに決まった。
「ええ!私ですか?」
「うん。アネットさんにはそういう雰囲気あるよ、絶対」
と僕が言うと、周りのみんなもうんうんと頷いて同意を示す。
アネットさんは不安そうにしていたが、周囲が説得して、最終的には引き受けてくれた。

もちろん、身体は別に用意する。
なるべく神聖な雰囲気が出るような永続死体を地下倉庫から選ぶことになり、当事者のアネットさんに、僕と師匠とナナさんとセラフィン君も選別に加わって、ああでもないこうでもないと言いあいながら見て回る。

最終的に、2体の候補が選ばれた。
最初の1体は年齢が20代後半くらい、蜂蜜色の緩いウェーブのかかった長髪で、豊満な体形のまるで地母神のような女性。
もう1体は成人になりたての15~16歳で、まっすぐの腰まである銀髪に秀でた額、精霊のような美しい顔をしていて、細身だがメリハリのある体形の美少女。
どちらも聖女と言われて納得できる雰囲気がある。

最後はアネットさんに決めてもらう。
「では、こちらの少女の方にしましょう。新たに出現した聖女なのであれば、若い方が自然だと思いますので」
と美少女の方に決まった。
なるほど、確かに大人だと「なんで今まで知られていなかったんだ」となりそうだもんな。

ポリーヌさんには、聖女の身体の自給型偽生体化を依頼しておいた。
そして、聖女の保護について、トムさん、シメオンさん、ジルベール隊長とペパン諜報部長を交えて検討してもらう。
『”魔法研究所を守る会”を活用すると良いでしょう。一度聖女のお披露目会を開かせていただければ、支援を取り付けることは容易いかと』
とシメオンさんから意見が出て、皆の賛同を得た。
トムさんがパーティーの準備を、ジルベール隊長は聖女の護衛体制を、ペパン諜報部長は万能回復薬の防諜体制を、それぞれ担当してもらうことになった。

名付けて”アネットさんの聖女デビュー”計画が、こうして始まった。

その後、様々な準備が行われ、一巡り(8日)後にはお披露目パーティーが開かれることになった。急な事なので参加者は限られたが、これ以上遅らせるわけにはいかない。
というのも、ちょうどこの準備中に治療院へ重症患者が訪れたので、パーティーのお披露目に協力してもらうことになっているのだ。
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