幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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聖女と王妃編

慈善事業はじめました

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偽レシピで南隣のナンティア領が大混乱になり、ペリゴール領の支援で終息したあの事件の後、いたって平穏な日々が過ぎて行った。

レスコー男爵は近隣周辺で大注目の貴族となり、領主のペリゴール伯爵もしきりに褒めたたえていると言う。
ダヤン商会はナンティア領の事件で倒産したピザン商会を吸収することで、勢力を大きく伸ばした。
ペパン諜報部長の構築した情報網からも不穏な兆候は見受けられず、平穏そのものだ。

期節は闇から火へと変わり、春を迎えて暖かくなってきた頃。

最近の困った事と言えば、ニコレットさんの発明した化粧品類のレシピが莫大な利益を生み出し、僕の口座には一生かけても使いきれないほどの金額が今もなお振り込まれ続けている、という事だ。

ポリーヌさんのお遊び(研究?)に使っても微々たるもの。
「こんだけの額をポンと出しといてもらってアレだけど、あんたどんだけ金持ってんのよ」
と呆れられるほどだ。
一部はダヤン商会に出資して事業に活用してもらっているけど、それがまた利益を生むから増える一方だ。

アネットさんに相談したら。
「慈善事業を行ってはいかがでしょう?」
と提案された。
孤児院や治療院を運営するのが一般的だそうだ。
孤児院は自分たちで運営するのは難しそうなので、都内の施設に寄付だけ行うことにした。寄付の手続きはピエールさんがやってくれた。

治療院なら、うちには優秀な錬金術師も魔術師も両方そろっているので、何とかなりそうだ。やってみよう。

そんなわけで、屋敷前出張所のピエールさんと、ニコレットさん、エルフ師匠に集まってもらって相談した。
「いいですね!私は大賛成です」
「そういう事であれば、ご協力させていただきますよ」
ニコレットさんはすごいやる気だ。ピエールさん、お世話になります。
「死霊術で死体を扱う関係で、治癒系の魔術には精通しておる。任せておけ」
と師匠も協力してくれるようだ。良かった。

その後もいろいろと相談して、方針を決めた。
● 基本は無料で診察する。その代わり、お金を払える余裕のある人は普通の治療院に行ってもらう。<真実の口>の魔術で嘘はすぐに分かるので、騙そうとしてくる奴には容赦しない。そのため、受付と警備に人を雇う。

● ニコレットさんの錬金術で万能回復薬を作ってもらい、それを目玉にする。重症の病気や怪我も治せるはず。

● 錬金術師を数名雇って、一般的な治療薬を調合してもらって、普通の病気に使う。

● 体外魔力操作の使える上級魔術師を数名雇用し、師匠が治癒系魔術の指導をする。普通の怪我については魔術師を使う。たくさんの人を治療するので、体外魔力操作が必須だ。

と言ったところだろうか。

場所の用意と人員の募集はピエールさんにお願いした。

ニコレットさんには万能回復薬の調合をお願いする。
師匠も手伝うと言ったら、ニコレットさんが顔を赤くしてアワアワしてた。大丈夫かな?

セラフィン君と僕も、念のため治癒系魔術の練習をしておく。死体を良く調べて、身体の構造を理解することが大事らしい。

嘘発見のために<真実の口>を魔道具化してもらおうとポリーヌさんに製作依頼したら、僕の<精神干渉>の魔術が必要と言われ、手伝いに駆り出されてしまった。


しばらくして治療院の場所と人員が用意できたと連絡が来たので見に行くと、貧民街にほど近い平民居住区の一画に到着した。
そこに立派な建物ができており、看板には「ペルピナル慈善治療院」と書かれている。
既に警備員が数名常駐しており、玄関前に2人立っていた。
中に入ると、雇った錬金術師2名、魔術師2名が待機していて、挨拶を交わす。

錬金術師にはニコレットさんが仕事の説明をしている。最近は人見知りもすっかり良くなったみたいだ。
錬金術師2名は即戦力で、普通の病気向けの治療薬の調合を任せることになった。作業はこの治療院の中の調合室を使ってもらい、素材はこちらで全て用意することになっている。

魔術師にはエルフ師匠が治癒系魔術の指導を行う。師匠は古い人間なので、修業は厳しいぞ。健闘を祈る。
治癒系魔術の使える上級魔術師となると各所で引っ張りだこなので、相場の倍の給与を出すことにしているし、よそに引き抜かれないよう<信頼の楔>で魔術契約も交わしている。

僕は、アネットさんが受付の2名と警備の代表者に仕事を説明しているのを、横で聞いていた。
「と、このように嘘をつくと魔道具が赤く光ります。これで、本当はお金を払える余裕があるのにここに来るような不届き者を見つけて、お断りしてください」
「あの、泣きついてきたり、文句を言ってきたり、暴れられたりしませんか?」
受付の一人が不安そうにそう聞く。
「そこは警備員さんの出番です。受付には必ず一人常駐させて、そういう迷惑客に対処をお願いします。強制的に排除して構いませんので」
「了解です。お任せください」
警備の代表が力強く返事をする。
その後も、手順書を見せながら説明し、その後自分たちで練習をさせていた。
うん、大丈夫そうだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

春のうららかな日差しの中、治療院開業初日を迎えた。

特に宣伝とかしてないけど、玄関前にはたくさんの人が並んでいた。どうやら、改装工事をしている時から既に噂になっていたらしい。
「うわ、いっぱいいるよ」
「どうしよう、緊張してきた」
僕とセラフィン君は落ち着きが無くなってきた。
「落ち着け、おぬしたちは単なるお手伝いだろうが」
師匠が僕らをなだめる。
初日なので様子を見るため、僕、師匠、セラフィン君、アネットさん、ナナさん、ニコレットさんが来ている。

雇用した人員は朝から忙しそうだ。
入り口の受付には、この日のためにポリーヌさんに作ってもらった”嘘発見装置”を置いてある。
お金を払う余裕がある人はお断りだ。そうしないと、他の治療院から恨まれるからね。
入り口付近には受付と警備員1名ずつ、2組が交代で配置される。
診療室には、魔術師と錬金術師が1名ずつ、2組が交代で配置され、患者の治療に当たる。
玄関前にも警備員が数名配置されて、行列の整理をしている。
万全の体制だ。

時間になり、玄関を開けるとすぐに人が入ってくる。
「本当に無料で診てもらえるのか!」
必死の形相でそう聞いてくる男性。背中に子供を負ぶっている。
受付さんが手順通りに応じる。
「まずはこちらの装置に手を当てて、質問に答えてください。他の治療院でお金を払えるほど生活の余裕がありますか?」
「あるわけねぇ!子供4人食わせてやるだけで手いっぱいだ」
「はい、結構です。ようこそ、当治療院へ。あなたは無料で治療を受けられますよ。病気は左の部屋、怪我は右の部屋です。どうぞ、奥へ進んでください」
「本当か!あ、ありがとう!ありがとう!」
男性は何度も礼を言うと、奥の診療室へと向かって急いで歩いて行った。

同じようなやり取りが何度か続いた後、多少身なりの良い中年の男性が腕を押さえながら受付に来た。
「無料で診てもらえると聞いてきた。本当だろうな?」
何だか随分と偉そうな態度だ。
受付さんは決まり文句を返し、例の質問をする。すると。
「もちろんだ。そんな金を払っている余裕などない」
と男性が答えると、魔道具が赤い光を放った。
「残念ながら、貴方の治療は当院では受けられません。他の治療院にて受診なさってください。どうぞお引き取りください」
受付さんが素気無く言い渡す。
すると男性は怒りの表情を浮かべ。
「何!どういうことだ!今までの奴らは無料で診ておいて、なぜ俺はダメなのだ!」
「貴方はお金を支払う余裕があると判断されました。どうぞお引き取りください」
「だから、そんな余裕はないと言っただろう!」
なおも男は食い下がろうとしたが、警備員さんが動いた。
「そこまでだ!仕事の邪魔だ、帰ってくれ」
と言って、襟首をつかむと玄関へ引きずっていって、ポイっと放り出した。
そこからは外の警備員が応対してくれる。

大体10人に1人か2人はああいう輩が混じっていたが、全て撃退された。

「やっぱり、予想通りだったね」
「はい。準備しておいて良かったですね」
僕とアネットさんはその光景を見てしみじみとつぶやいた。
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