幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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戦力拡充編

その頃僕らは

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時間を戻して、工作員リーダーに偽レシピを持たせて送り出した頃。

僕らは実に平穏な毎日を送っていた。
分かる範囲ではもう敵はいないはずなので、ダヤン商会の錬金術工房も平常運転に戻った。

他にやることも無いので、僕は一般的な魔術をもう少し覚えておきたいと思い立ち、修業することにした。
実は、セラフィン君を見ていてちょっと羨ましかったんだよね。僕は死霊術を習得するのに必要な最低限の魔術しか教わってないので、攻撃魔術なんて一つも知らない。
カッコイイよね、攻撃魔術!

師匠にそれを言ったら。
『何を言っておる。死霊術こそ至高!死霊術に比べれば攻撃魔術なぞゴミみたいなもんじゃ。必要になればその場でちょちょいと作って使えば良かろう』
出たよ、これだから天才は。
凡人はその場で魔術作るなんてできません。

『本当にそうかな? おぬしは試してみたのか』
と師匠は思わせぶりなことを言う。
確かに「そんなの無理」って試す事さえしてないな、僕。
『必要な技術は既に持っているはずじゃ。後はおぬしの努力次第だぞ』
師匠は攻撃魔術を僕に教えるつもりはないらしい。
仕方ないので、独りで修業してみることにした。

とは言え、取っ掛かりは欲しかったので、セラフィン君に攻撃魔術を使って見せてもらうことにした。
訓練場で、初級攻撃魔術を放ってもらう。光系統の<雷球>、闇系統の<腐蝕球>、火系統の<火球>、水系統の<粘液球>、風系統の<破裂球>、土系統の<石球>の6つだ。
じっくりと攻撃魔術の発動の様子を見たのは初めてだった。

そして、驚いた。
え?そんなに簡単でいいの、と思ったのだ。
やってることは、体外魔力を操作して球体を作り、その性質を変化させ、高速で打ち出すと同時に具現化させているに過ぎなかった。
言うなれば、基礎となる魔力球を作り出す魔術の”改変”で、6つとも全部実現可能と思われるのだ。

いやいや、そんな簡単なはずはないよね。何か見落としがあるはずだ。
実際に試せば失敗するに違いない。
「ちょっとやってみよう」
今試しに考えた<魔力球>を火の性質で改変し、発動してみた。
ゴウッ!と音を立てて炎の球が飛び出して行って、的に当たると勢いよく燃え上がった。
「凄い!テオ君いきなり無詠唱じゃないか!」
セラフィン君が驚いている。
僕も驚いている。本当にできちゃったよ。

念のため、他の5種類もやってみたら、全部できてしまった。
「本当にすごいね。僕が全部できるようになるまで1期節(40日)はかかったのに。流石は師匠の一番弟子だね!」
セラフィン君が大絶賛してくれるが、僕はちょっと納得いかない気分で一杯だった。

とりあえずセラフィン君にお礼を言って、僕は屋敷の書斎へ向かった。
ここには外道魔術師ゲルルフの蔵書がそのまま収められている。錬金術関係が多いが、魔術に関する本もいっぱいある。
その中から攻撃魔術に関する書籍を探して読んでみた。
ざっと読んでみて分かったのは、攻撃魔術というのは制御を安定化させるための単純で効率的な構造と、そこに少しでも多くの魔力を流し込むことで威力を上げることがすべてだ、という事だった。

つまり、複雑で難しい攻撃魔術など、そもそも存在しないという事だ。
師匠の言っていた「攻撃魔術はゴミ」という意味がようやく分かったよ。
確かに、死霊術は全て複雑で繊細で技巧が凝らされた難解な魔術ばかりだった。そればっかりやってきたから、魔術ってこういうものだと思ってたけど、違ったらしい。

ちょっと気になったので、高等魔術に関する書籍も引っ張り出して読んでみたら、死霊術で扱う魔術の複雑さに比べれば全然大したことのない内容だった。
ここでは試せないけど、この程度なら一発で発動させられると思う。

僕は自覚が無かったけれど、世間一般の魔術師から見れば相当高度な技術を、既に持っているようだ。
師匠の常識は、世間の非常識と思っておかないと、何かまずいことをやらかす可能性があるぞ。

早急に「普通の魔術師」の感覚を身に付けるため、僕はこの書斎で”常識”の勉強をすることに決めた。

◇◆◇◆◇◆◇◆

僕が書斎に引きこもって勉強している間に、屋敷の面々も色々とやっていたようだ。

師匠とニコレットさんの研究が成果を出した。

最初はぬいぐるみの素材として、霊体との親和性を高める研究をしていたらしいのだが、その過程で「万能生体組織」なるものを偶然発見したらしい。
これは、錬金術の魔力を込めて操作すると、皮膚や筋肉、脂肪、骨、体毛、爪、牙、目玉など、どんな体組織にも変化させることができるものだ。
しかも、元となる動物の体の一部に接触させて情報を取り込ませることで、その動物の体組織に変化するようになる。
体組織の種類も、動物の種類も全て対応可能なので「万能」なのだ。

さらに、以前里帰りに行く前に提示した研究テーマの「偽生体の体型を変化させる」にも応用が可能であり、実験もしている。
犯1の偽生体の皮膚の下に注入して、脂肪へと変化させれば肥満体型になり、筋肉へと変化させればマッチョ体型になることを確認したのだ。

驚くべきことに、体組織をすべて一から作って組み合わせれば、動物一体を丸ごと作ることすら可能だった。
ニコレットさんはネズミの死体を参考にしながら、万能生体組織を使ってそれとそっくりな模造死体を丸ごと作り上げたらしい。(魔力欠乏症でぶっ倒れたそうだが)
この模造死体にネズミくんが憑依したところ、永続死体のように高い親和性を示し、<傀儡>が無くても普通に動けていたという。

これは本当にすごい成果であり、まだまだ応用できそうなので、研究を継続すると言っていた。


一方、ポリーヌさんは暇を持て余していたので、仕事を与えた。
これまで魔力自給化をしていなかった偽生体使用者の面々も改造することにしたのだ。
アネットさん、ココちゃん、ナナさんの生活用の身体、あとはココちゃんの金髪美少女の身体とアネットさんの予備の身体も自給型偽生体にしてあげた。

トムさんとシメオンさんのことは、ポリーヌさんに知られたくないので、僕と師匠で自給化を施した。
これにより、僕自身の体内魔力を供給している使鬼はほぼいなくなった。

非常時には、急に使鬼として呼びだして使いたい場合ってよくあるので、魔力的に余裕が増えるのは良いことだ。

◇◆◇◆◇◆◇

僕は1巡りほどかけて、書斎で”常識”を学んだ。

特に重要なのは魔法ギルドについてだった。
師匠が死んだ後100年以上かけて魔法ギルドは勢力を拡大し、今では魔術に錬金術、魔道具に関する技術や知識をすべて魔法ギルドで管理している。
それ以前は、勝手気ままに研究や実験をやって、周囲に多大な迷惑をかける魔法関係者が少なからずいて、善良な魔法関係者が肩身の狭い思いをすることも多々あったようだ。

そういう事件を無くすのに、ギルドはこれまで多大な貢献をしてきたし、今もしている。
例えば外道魔術師ゲルルフに対しても指名手配は行われていたので、取り締まるつもりはあったのだろう。ただ、彼がかなり規格外の化け物だったため、手をこまねいていたってわけだ。
魔法ギルドが無い時代は、ああいう輩が世間に迷惑をかける事件がもっと多かったという事らしい。

そして重要なのが、僕らが魔法ギルドに所属していない、”非正規な”魔術師だということだ。
即座に犯罪となるわけではないが、ギルドの心証はとても悪くなるだろう。何か問題が起こった時に、ギルドが敵に回る可能性すら出てくる。

魔法ギルドのことは何となく嫌いだったけど、やっぱり入っておいた方がよさそうだ。
加入には、ギルド会員2名以上の推薦、またはギルド会員の弟子であることの証明、が必要との事。
詳しそうなニコレットさんとポリーヌさんに相談してみたら。
「子供のテオやセラフィンがいきなり会員になるのは難しいんじゃないかな」
「そうですね。普通はお弟子さんとして会員になりますから。でも、猫のぬいぐるみがお師匠様というのは、ちょっと」
「う~ん」
つまり、師匠を二人の推薦で会員にした後、師匠の弟子として会員になればいいということらしい。

師匠!出番ですよ。
『面倒くさいのう。モグリのままではいかんのか?』
「そうだね、やっぱりまずいよこのままじゃ。わたしらがここで働いてる以上、どうしても関わりが出てきちゃうし、貴族の威光も魔法ギルドには効果が薄いからね」
とポリーヌさんに注意された。

そんなわけで、師匠にもついに身体を持ってもらうことが決定した。
身体は自分で作るそうなので、こっちから必要な錬金素材や魔道具類などを、お化け屋敷に発送することになった。
ついでに野盗の死体も改造するというので、予備も含め5体分を用意した。
ニコレットさんとポリーヌさんに準備を任せ、屋敷前出張所のピエールさんに配送をお願いした。

師匠がどんな身体でやってくるのか、楽しみだ。
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