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戦力拡充編
ハンターギルド
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ある程度の戦闘訓練を受けた後、いよいよセラフィン君がハンターギルドの仕事をすることになった。
もちろん、ナナさんが一緒だ。
二人とも戦闘用偽生体に取り換えていく。セラフィン君は赤毛の少女、ナナさんが金髪イケメンだ。
まずは登録に行くというので、僕も一緒に行って見学することにした。
師匠も見たいというので、犬使鬼の師匠も一緒だ。
屋敷の周りのレスコー男爵私兵団駐屯地を通り抜けて大通りに出る。
ハンターギルドは南門の近くにあるのでそちらへ向かう。
途中、道行く人たちの男性はセラフィン君に注目し、女性はナナさんに注目している。2人とも美形だから。
中身を知ってるから、可笑しくてしょうがないけど。
ギルドに到着して、窓口でセラフィン君が登録作業をする。ナナさんは既に登録済みだ。なお、二人とも偽名を使っている。
初回登録時にギルドの職員が色々と説明してくれた。
● 動物を狩る人だけでなく、薬草や木の実の採取をする人もギルドの管轄。
● 狩場を荒らされるのを防ぐため、ギルド会員以外が狩りや採集をすることは禁じられている(自衛目的は除外)。違反すると怖いハンターが捕まえに行く、との事。
● 10歳以上であれば登録可能。それ以下は保護者同伴という条件付きの仮会員になる。
● 技能を身に付けるための初心者向け講習会もあるからぜひ受けるといい、とやたら勧められた(ノルマでもあるのかも)。
● 素材の買い取り、素材採取等の依頼の仲介もしている。
● 仕事をする前は必ずギルドで情報収集すること。時期によって狩猟禁止になる獲物もいる。知らなかったでは済まないぞ、と脅された。
● 魔物や盗賊の討伐依頼もここで扱っている。逆に、そう言う所は危険だから近づかない方が良い。
「うん、分かった。ありがとう」
セラフィン君が礼を言って終わった。
ふ~、結構注意事項があったなぁ。
町の外の植物とかを勝手にとっちゃダメって、これの事だったのか。なるほどなぁ。
『なんだか面倒な世の中になったもんだのう。昔はその辺で好きに狩猟採取できておったぞ』
と犬師匠が嘆いていた。
僕も仮会員なら加入できるので、ナナさんを保護者にしてその場で登録する。
今日は情報収集だけして帰る予定だったが、とりあえず安全そうな植物採取の依頼を受けてみることにした。
「テオ、念のため使鬼を呼んでおいて」
金髪イケメンのナナさんに言われて、ちょっと考えて通信用の予備として犬猫の使鬼が残っていたのを思い出し、犬の使鬼2体を呼び出した。
「大丈夫。テオ君は僕が守るからね」
とセラフィン君がかっこいいことを言う。今は赤毛の美少女だけどね。
目的地に到着し、使鬼に周囲を警戒してもらいつつ、ナナさんの指導の下植物採取を行っていると。
『ワウ(何か来る)』
と犬使鬼の1体が警告を発する。
採取の手を止め、ナナさんが周囲を見回すと。
「げ、最悪」
とちょっと焦った声を上げた。
「え、なに?」
「熊がいる。この辺に出る情報は無かったのに。ついてない」
く、熊ぁ!
「ど、ど、どうするの?」
焦る僕。緊張しながらも落ち着いているセラフィン君。
「ふふ。生きてた頃なら逃げるしかなかったけど、今なら倒せる」
とナナさんが不敵な笑みを浮かべた。
そして作戦を聞かされて、みんな頷いた。
「行くよ」
ナナさんを信じて、いざ作戦開始。
ナナさんは僕らから少し離れた所で弓で矢を放つ。熊の咆哮が聞こえた。
ようやく僕も近寄ってくる熊を見つけた。大きい!4つ足の状態でも大人の背丈以上の高さがある。
ナナさんがなおも矢を放ち、目の近辺に刺さった。
僕の犬使鬼達が突っ込んでいく。まず1体が飛び掛かって<霊衝撃>が発動し、熊がよろめいた。
遅れて2体目が体当たりして、さらに熊がふらついた。が、気絶はしていないようだ。手強い!
そこに準備していたセラフィン君の魔術<雷球>が飛ぶ。
バリバリバリッ!と火花が飛んで、熊がビクンと震えた。
犬の使鬼たちが作戦通り<念動力>で足を押さえたら、ふらついていた熊が横倒しになった。
既に駆け寄っていたナナさんが熊に飛び掛かり、後頭部を短剣で突き刺した。
ぐっ、と体重をかけて差し込み、さらにぐりぐりと動かす。
熊がビクンビクンと痙攣し、大人しくなった。
やがて、全身が青白く光り始め、死霊が抜けてきた。
倒したようだ。
「ふぅ~」
ナナさんが大きく息をついた。
「よし、やった!」
セラフィン君が珍しく大きい声で喜びを表現する。
凄い!本当に倒しちゃったよ。
僕が熊の凶悪さに驚いている間に終わってしまった。
「テオ、これいいの?」
と抜け出て来た熊の死霊を指さしながらナナさんが言ったので、ハッと我に返った。
手をかざして<強制休眠>を使って熊の死霊を捕獲した。
この時、ふと<強制休眠>の元となっている<霊素干渉>の手順が理解できる気がしたのだ。
一度休眠を解除し、再度<強制休眠>を掛けると、今度ははっきりと<霊素干渉>の手順が分かった。
おお!これは、一歩前進なのでは?
「どうしたの、テオ君?」
セラフィン君が不思議そうにしている。
「ああ、うん。ちょっと魔術の練習をね」
『何か掴んだようだな』
犬師匠が気づいてそう聞くので、頷いた。
死霊を捕獲した僕を見てナナさんが聞いてきた。
「テオ、それ使鬼にして、この熊運べる?」
なるほどね、そういう使い方があったか。ナナさん、冴えてるな。
<霊素解析>で熊の霊体球を調べると、さすがに僕らが殺しただけあって、使鬼にするのは無理っぽい。説得できる気がしない。
うーん、こういう場面ってアレの出番かな。
「師匠、このままだと使鬼にできそうにないので、それで…」
『ふむ。洗脳か?あまり好ましい手段ではないのは分かっておるな?』
「はい。恐ろしいものだってのは分かります」
『そうじゃ。決して安易に使うでないぞ』
『おぬしも<霊素干渉>を使えるようになったみたいだからな、練習にはこういう敵性生物が丁度良かろう』
『え?僕がやるんですか!』
『そうじゃ。とは言え、今後も儂のいる所でだけ許す。一人で行うことは禁止じゃ』
『はい、分かりました』
師匠の説明によると、洗脳では自分から従いたいと思わせれば良いらしい。
思い出の中から「こいつには逆らえない」と畏怖している存在や、「こいつに任せれば大丈夫」と信頼している存在などを探し、その存在に関する知識の部分を見つけ、そこを術者の情報で置き換えてやればよい。
それと、念のため、記憶の不都合な部分は消去する。例えば、術者と敵対していた記憶などだ。
微調整として、理性や知能を低下させて判断を鈍らせることも効果がある。
よし、ダメで元々だ。やってみよう。
<霊素干渉>を発動。霊体球に意識を向け、思い出を探ると信頼できる存在として「母親」が出て来た。母親に関するものを僕の情報で上書きしてみた。
そして、さっきの戦闘の少し前から記憶を消去しておく。あとは、理性と知性を少し削る。
これでどうだろう。初めての事だから全く分からない。
休眠解除して確かめてみる。
<念話>を発動し、話しかけてみる。
『ガオ(ママ!)』
と甘えた声が返ってきた。
おお!若干子供っぽくなっているみたいだが、成功かな?
<使鬼使役>を使うと、すぐに霊糸リンクが形成された。
できた。洗脳ってこういう感じなのか。うん、やっぱり怖いわ。
セラフィン君が死体に<鮮度保持>をかける。これで都内に持ち帰るまで新鮮なままだ。
さっそく熊の使鬼に死体に憑依するよう指示すると、ちょっと戸惑っていたが、のっそりと動いた。
ぎこちないゾンビの動きだが、今回は移動できればいいので問題ない。
今回は初めての洗脳だし何が起こるか分からないから、<傀儡>は止めておくよう師匠からアドバイスされた。
そして、それが正解だった。
ちゃんと後をついて来ていた熊が突然。
「グア(遊ぼう)」
と吠えて、前を歩いていたナナさんにじゃれついたのだ。
とは言え熊の巨体だから、じゃれつかれた方はたまったもんじゃない。
「うわぁ!」
ナナさんは後ろから押し倒され、熊の下敷きになっていた。
「こら!ダメだよ、離れなさい」
「ガァ(えー)」
しぶしぶという感じで離れる熊。
「大丈夫ですか、ナナさん?」
「うぁー、酷い目に遭った」
ヨレヨレになったナナさんが起き上がった。
怪我、というか損傷はないみたいで良かった。
この後は油断せずに進んだので問題は起こらなかった。
さて、南門が見えるくらいの所まで来ると、通行人に目撃されると困るのでこれ以上憑依は続けられない。
「それじゃ、収納」
熊の使鬼を収納すると、熊の死体がそのまま横倒しになった。
「こっからどうします?」
「確か、物を運ぶのに役立つ生活魔術があったはず」
とナナさんが言うと、セラフィン君が不安そうに。
「<軽量化>のことじゃないかな。でもこんな大きなもの運べるかな?」
『複数の術者が協力すれば、より重いものを運べるじゃろ』
と師匠が提案して、セラフィン君が頭の方から、僕がお尻の方から、師匠が背中の辺りから<軽量化>もどきを発動してみた。
「ナナさん、どうでしょう?」
「どれ、ふん!」
と熊の前足を持って引っ張ると、ズリズリと死体が引きずられた。
「おお!スゴイ、動いたよ」
セラフィン君と喜び合う。
僕らも片方の前足を持って引っ張る。
犬師匠にも<念動力>で頭を引っ張ってもらった。
<軽量化>もどきが効いているとはいえ、大人の男性くらいの重さはあるので、結構大変だった。
南門まで引きずると、門周辺で人々が騒ぎ出した。
「おい、なんだありゃ」
「でっけぇ熊だな!」
と熊の余りの大きさに驚きの声が上がる。
門の横に熊を置いて、僕とセラフィン君が留守番、ナナさんがハンターギルドへ走った。
門番の人が近づいて来て。
「おいおい、こいつを優男と女子供だけで倒したってのか?」
僕とセラフィン君が顔を見合わせた後、笑顔で。
「「うん、そうだよ」」
と声を揃えて答えた。
野次馬が集まり、傷が見当たらない、この大きさは異常だ、運んでくるだけでも大変だ、など口々に感想を述べている。
そこへ、ギルド職員を連れてナナさんが戻ってきた。
「こ、これは!まさかとは思いましたが、恐らくは”南の森の主”で間違いないでしょう。良くぞご無事でしたね!」
「ん。よゆーよゆー」
とナナさんがふんぞり返ってドヤ顔してた。
「これが薬草採取をするような場所に出たんですか。いやー、本当に犠牲者が出なくて良かったです」
職員さん曰く、もっと南の森の深い所に縄張りがあったはずで、そこはギルドでも警告が出ていて立ち入り制限されているエリアだそうだ。
熊の死体は丸ごとギルドに買い取ってもらい、後でお金をギルド口座に振り込んでもらうことで話がついた。
その後、僕らはギルドに寄って、薬草を提出して初めての依頼を完了したのだった。
ちょっとお試しのつもりが、ガッツリ戦闘まであってもうお腹いっぱいです。
ナナさんとセラフィン君は”主殺し”として一気に有名になってしまった。
さらに、その後のハンター活動でも見事な狩りの腕を発揮したため、ハンターギルド界隈で「やたら凄腕の赤毛美少女と金髪イケメンのカップルが現れた」と噂になったらしい。
「ぶー、カップルじゃない。師匠と弟子」
とナナさんは不服そうにしていたけどね。
もちろん、ナナさんが一緒だ。
二人とも戦闘用偽生体に取り換えていく。セラフィン君は赤毛の少女、ナナさんが金髪イケメンだ。
まずは登録に行くというので、僕も一緒に行って見学することにした。
師匠も見たいというので、犬使鬼の師匠も一緒だ。
屋敷の周りのレスコー男爵私兵団駐屯地を通り抜けて大通りに出る。
ハンターギルドは南門の近くにあるのでそちらへ向かう。
途中、道行く人たちの男性はセラフィン君に注目し、女性はナナさんに注目している。2人とも美形だから。
中身を知ってるから、可笑しくてしょうがないけど。
ギルドに到着して、窓口でセラフィン君が登録作業をする。ナナさんは既に登録済みだ。なお、二人とも偽名を使っている。
初回登録時にギルドの職員が色々と説明してくれた。
● 動物を狩る人だけでなく、薬草や木の実の採取をする人もギルドの管轄。
● 狩場を荒らされるのを防ぐため、ギルド会員以外が狩りや採集をすることは禁じられている(自衛目的は除外)。違反すると怖いハンターが捕まえに行く、との事。
● 10歳以上であれば登録可能。それ以下は保護者同伴という条件付きの仮会員になる。
● 技能を身に付けるための初心者向け講習会もあるからぜひ受けるといい、とやたら勧められた(ノルマでもあるのかも)。
● 素材の買い取り、素材採取等の依頼の仲介もしている。
● 仕事をする前は必ずギルドで情報収集すること。時期によって狩猟禁止になる獲物もいる。知らなかったでは済まないぞ、と脅された。
● 魔物や盗賊の討伐依頼もここで扱っている。逆に、そう言う所は危険だから近づかない方が良い。
「うん、分かった。ありがとう」
セラフィン君が礼を言って終わった。
ふ~、結構注意事項があったなぁ。
町の外の植物とかを勝手にとっちゃダメって、これの事だったのか。なるほどなぁ。
『なんだか面倒な世の中になったもんだのう。昔はその辺で好きに狩猟採取できておったぞ』
と犬師匠が嘆いていた。
僕も仮会員なら加入できるので、ナナさんを保護者にしてその場で登録する。
今日は情報収集だけして帰る予定だったが、とりあえず安全そうな植物採取の依頼を受けてみることにした。
「テオ、念のため使鬼を呼んでおいて」
金髪イケメンのナナさんに言われて、ちょっと考えて通信用の予備として犬猫の使鬼が残っていたのを思い出し、犬の使鬼2体を呼び出した。
「大丈夫。テオ君は僕が守るからね」
とセラフィン君がかっこいいことを言う。今は赤毛の美少女だけどね。
目的地に到着し、使鬼に周囲を警戒してもらいつつ、ナナさんの指導の下植物採取を行っていると。
『ワウ(何か来る)』
と犬使鬼の1体が警告を発する。
採取の手を止め、ナナさんが周囲を見回すと。
「げ、最悪」
とちょっと焦った声を上げた。
「え、なに?」
「熊がいる。この辺に出る情報は無かったのに。ついてない」
く、熊ぁ!
「ど、ど、どうするの?」
焦る僕。緊張しながらも落ち着いているセラフィン君。
「ふふ。生きてた頃なら逃げるしかなかったけど、今なら倒せる」
とナナさんが不敵な笑みを浮かべた。
そして作戦を聞かされて、みんな頷いた。
「行くよ」
ナナさんを信じて、いざ作戦開始。
ナナさんは僕らから少し離れた所で弓で矢を放つ。熊の咆哮が聞こえた。
ようやく僕も近寄ってくる熊を見つけた。大きい!4つ足の状態でも大人の背丈以上の高さがある。
ナナさんがなおも矢を放ち、目の近辺に刺さった。
僕の犬使鬼達が突っ込んでいく。まず1体が飛び掛かって<霊衝撃>が発動し、熊がよろめいた。
遅れて2体目が体当たりして、さらに熊がふらついた。が、気絶はしていないようだ。手強い!
そこに準備していたセラフィン君の魔術<雷球>が飛ぶ。
バリバリバリッ!と火花が飛んで、熊がビクンと震えた。
犬の使鬼たちが作戦通り<念動力>で足を押さえたら、ふらついていた熊が横倒しになった。
既に駆け寄っていたナナさんが熊に飛び掛かり、後頭部を短剣で突き刺した。
ぐっ、と体重をかけて差し込み、さらにぐりぐりと動かす。
熊がビクンビクンと痙攣し、大人しくなった。
やがて、全身が青白く光り始め、死霊が抜けてきた。
倒したようだ。
「ふぅ~」
ナナさんが大きく息をついた。
「よし、やった!」
セラフィン君が珍しく大きい声で喜びを表現する。
凄い!本当に倒しちゃったよ。
僕が熊の凶悪さに驚いている間に終わってしまった。
「テオ、これいいの?」
と抜け出て来た熊の死霊を指さしながらナナさんが言ったので、ハッと我に返った。
手をかざして<強制休眠>を使って熊の死霊を捕獲した。
この時、ふと<強制休眠>の元となっている<霊素干渉>の手順が理解できる気がしたのだ。
一度休眠を解除し、再度<強制休眠>を掛けると、今度ははっきりと<霊素干渉>の手順が分かった。
おお!これは、一歩前進なのでは?
「どうしたの、テオ君?」
セラフィン君が不思議そうにしている。
「ああ、うん。ちょっと魔術の練習をね」
『何か掴んだようだな』
犬師匠が気づいてそう聞くので、頷いた。
死霊を捕獲した僕を見てナナさんが聞いてきた。
「テオ、それ使鬼にして、この熊運べる?」
なるほどね、そういう使い方があったか。ナナさん、冴えてるな。
<霊素解析>で熊の霊体球を調べると、さすがに僕らが殺しただけあって、使鬼にするのは無理っぽい。説得できる気がしない。
うーん、こういう場面ってアレの出番かな。
「師匠、このままだと使鬼にできそうにないので、それで…」
『ふむ。洗脳か?あまり好ましい手段ではないのは分かっておるな?』
「はい。恐ろしいものだってのは分かります」
『そうじゃ。決して安易に使うでないぞ』
『おぬしも<霊素干渉>を使えるようになったみたいだからな、練習にはこういう敵性生物が丁度良かろう』
『え?僕がやるんですか!』
『そうじゃ。とは言え、今後も儂のいる所でだけ許す。一人で行うことは禁止じゃ』
『はい、分かりました』
師匠の説明によると、洗脳では自分から従いたいと思わせれば良いらしい。
思い出の中から「こいつには逆らえない」と畏怖している存在や、「こいつに任せれば大丈夫」と信頼している存在などを探し、その存在に関する知識の部分を見つけ、そこを術者の情報で置き換えてやればよい。
それと、念のため、記憶の不都合な部分は消去する。例えば、術者と敵対していた記憶などだ。
微調整として、理性や知能を低下させて判断を鈍らせることも効果がある。
よし、ダメで元々だ。やってみよう。
<霊素干渉>を発動。霊体球に意識を向け、思い出を探ると信頼できる存在として「母親」が出て来た。母親に関するものを僕の情報で上書きしてみた。
そして、さっきの戦闘の少し前から記憶を消去しておく。あとは、理性と知性を少し削る。
これでどうだろう。初めての事だから全く分からない。
休眠解除して確かめてみる。
<念話>を発動し、話しかけてみる。
『ガオ(ママ!)』
と甘えた声が返ってきた。
おお!若干子供っぽくなっているみたいだが、成功かな?
<使鬼使役>を使うと、すぐに霊糸リンクが形成された。
できた。洗脳ってこういう感じなのか。うん、やっぱり怖いわ。
セラフィン君が死体に<鮮度保持>をかける。これで都内に持ち帰るまで新鮮なままだ。
さっそく熊の使鬼に死体に憑依するよう指示すると、ちょっと戸惑っていたが、のっそりと動いた。
ぎこちないゾンビの動きだが、今回は移動できればいいので問題ない。
今回は初めての洗脳だし何が起こるか分からないから、<傀儡>は止めておくよう師匠からアドバイスされた。
そして、それが正解だった。
ちゃんと後をついて来ていた熊が突然。
「グア(遊ぼう)」
と吠えて、前を歩いていたナナさんにじゃれついたのだ。
とは言え熊の巨体だから、じゃれつかれた方はたまったもんじゃない。
「うわぁ!」
ナナさんは後ろから押し倒され、熊の下敷きになっていた。
「こら!ダメだよ、離れなさい」
「ガァ(えー)」
しぶしぶという感じで離れる熊。
「大丈夫ですか、ナナさん?」
「うぁー、酷い目に遭った」
ヨレヨレになったナナさんが起き上がった。
怪我、というか損傷はないみたいで良かった。
この後は油断せずに進んだので問題は起こらなかった。
さて、南門が見えるくらいの所まで来ると、通行人に目撃されると困るのでこれ以上憑依は続けられない。
「それじゃ、収納」
熊の使鬼を収納すると、熊の死体がそのまま横倒しになった。
「こっからどうします?」
「確か、物を運ぶのに役立つ生活魔術があったはず」
とナナさんが言うと、セラフィン君が不安そうに。
「<軽量化>のことじゃないかな。でもこんな大きなもの運べるかな?」
『複数の術者が協力すれば、より重いものを運べるじゃろ』
と師匠が提案して、セラフィン君が頭の方から、僕がお尻の方から、師匠が背中の辺りから<軽量化>もどきを発動してみた。
「ナナさん、どうでしょう?」
「どれ、ふん!」
と熊の前足を持って引っ張ると、ズリズリと死体が引きずられた。
「おお!スゴイ、動いたよ」
セラフィン君と喜び合う。
僕らも片方の前足を持って引っ張る。
犬師匠にも<念動力>で頭を引っ張ってもらった。
<軽量化>もどきが効いているとはいえ、大人の男性くらいの重さはあるので、結構大変だった。
南門まで引きずると、門周辺で人々が騒ぎ出した。
「おい、なんだありゃ」
「でっけぇ熊だな!」
と熊の余りの大きさに驚きの声が上がる。
門の横に熊を置いて、僕とセラフィン君が留守番、ナナさんがハンターギルドへ走った。
門番の人が近づいて来て。
「おいおい、こいつを優男と女子供だけで倒したってのか?」
僕とセラフィン君が顔を見合わせた後、笑顔で。
「「うん、そうだよ」」
と声を揃えて答えた。
野次馬が集まり、傷が見当たらない、この大きさは異常だ、運んでくるだけでも大変だ、など口々に感想を述べている。
そこへ、ギルド職員を連れてナナさんが戻ってきた。
「こ、これは!まさかとは思いましたが、恐らくは”南の森の主”で間違いないでしょう。良くぞご無事でしたね!」
「ん。よゆーよゆー」
とナナさんがふんぞり返ってドヤ顔してた。
「これが薬草採取をするような場所に出たんですか。いやー、本当に犠牲者が出なくて良かったです」
職員さん曰く、もっと南の森の深い所に縄張りがあったはずで、そこはギルドでも警告が出ていて立ち入り制限されているエリアだそうだ。
熊の死体は丸ごとギルドに買い取ってもらい、後でお金をギルド口座に振り込んでもらうことで話がついた。
その後、僕らはギルドに寄って、薬草を提出して初めての依頼を完了したのだった。
ちょっとお試しのつもりが、ガッツリ戦闘まであってもうお腹いっぱいです。
ナナさんとセラフィン君は”主殺し”として一気に有名になってしまった。
さらに、その後のハンター活動でも見事な狩りの腕を発揮したため、ハンターギルド界隈で「やたら凄腕の赤毛美少女と金髪イケメンのカップルが現れた」と噂になったらしい。
「ぶー、カップルじゃない。師匠と弟子」
とナナさんは不服そうにしていたけどね。
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