幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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死霊術革新編

故郷を後にする

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家に帰るとお姉ちゃんも帰ってきてた。
「テオが帰ってきてるって聞いたからさ」

家族そろっての夕飯。僕も久しぶりにお母さんの手料理を堪能した。

食後、家族会議を開催。僕が正式に弟子入りして今後もペルピナルで生活することを報告した。
「そうか。そう決めたのなら後は頑張れ」
と父さん。
「魔術師と言えばお金持ちだよね。そうだ、お土産は?」
とお姉ちゃん。
「いつでも帰ってきていいからね。無理するんじゃないよ」
とお母さん。
改めて、ここが僕の帰ってくる場所なんだなと実感した。

ここしばらく慌ただしかったし、ゆっくりさせてもらおう。

と思ってた矢先の事。
夜寝ようと思ったら、ネズミくんから通信があり、視界を借りるとニコレットさんが何か興奮した様子で待ってた。
<念話>を繋ぐと。
『すごいのができたんです!』
とニコレットさんとは思えない勢いで報告が来た。

話を聞くと、「肌が若返る化粧品」だそうだ。僕はいまいちピンとこないので、アネットさんに通信を繋いで聞いてみた。
『それは素晴らしいものですよ!世の女性なら大枚をはたいてでも手に入れたいと思うに違いありません!』
と大興奮でした。そういうものなのか。
お金になりそうなら、トムさんの出番だな。トムさんに通信を繋いで伝えると。
『それはすごい!貴族のご婦人方なら言い値で買ってくれるでしょう。儲け放題ですよ!』
とこちらも大興奮だった。

『ただ、効果の程を知りたいのですが、何かありますか?』
とトムさん。ニコレットさんに確認すると。
『犯リーさん達に協力してもらって、右手と左手ではっきりと違いがあります。ちょっと待っててください』
と言って、ネズミくんを持って移動し、犯リーの所へ行って。
『これ、見てください』
とネズミくんを犯リーに近づけて、両手の甲を見せてきた。
うーん、なるほど? 確かに違いがあるような気がする。
トムさんにそのことを伝えると。
『私にも見せてもらえませんか』
と言われたが、視覚をどうやって送ったらいいか分からない。使鬼から使鬼に感覚共有はできないしな。

ここからは無理だから、明日屋敷に来てくれと伝えた。
あ、でもニコレットさんは人見知りだった。
ポリーヌさんにも同席してもらおう。
そういった指示をして、ようやく解放された。
お、おやすみ。
ドサッとベッドに倒れ込む。
あ、使鬼たちを収納しないと…


翌朝、僕の所に師匠の猫使鬼が来ていた。旅の間は犬だったので、猫は久しぶりだ。
お化け屋敷で野盗8人の死体と、ナナさん達3人の偽生体を預かっているので、基本はお化け屋敷で留守番をするから、何かあったら猫経由で連絡してくれ、との事だ。

そうだ、早速話があった。
昨夜の化粧品の件を報告すると、とても感心していた。
『女性ならではの発想じゃな。ニコレットが来てくれてよかったな』

それとその時に感じた、遠距離の複数の使鬼と同時に話し合う不便さと、使鬼と使鬼の間で視覚の共有ができない不便さを話した。
『なるほどな。従来の使鬼というのは一方的に命令するもので、話し合いをするようなものとは思われておらんかった。これもまた新しい死霊術の可能性じゃな。
使鬼同士も近距離であれば会話ができるんだが、遠距離だと霊糸通信経由だから無理だったか。
うむ。かなりの改良が必要になるな。時間はかかるが、何か方法は考えよう』
「あ、それとニコレットさん達のように普通の人も会話に加われると助かります」
『確かに、そういう事もあるな。組み入れてみよう』
さすがは師匠。頼りになります。


朝から暑かった。
ちなみにこの町にいる間、ココちゃんには領都の屋敷で金髪メイドをしてもらっている。アネットさんにはご家族と過ごしてもらいたいからね。

自室で<そよ風>+<冷却>の魔術で涼んでいると。
「テオ~、お帰りなさい!領都はどうだった?」
バタンと音を立ててドアを開き、サラがやってきた。
「ああ、サラ。ただいま」
「あれ、なんか涼しくない? もしかして、これって魔術!」

そっからはサラの質問攻めにあった。
話せないことだらけなので、架空の魔術修業のお話で何とかつないだ。
都内の様子はアネットさんと一緒に回っていたおかげで色々話せた。

アネットさんが僕の専属メイドだと聞いて。
「え~!すっごい偶然じゃない。あ!もしかして手紙を渡された時から、そのお師匠さんに目を付けられてたのかもね」
ふ~。さすがにカンの鋭いサラでも、真実は見抜けなかったようだ。

「いいなぁ。ペルピナル! 私も行きた~い」
冗談じゃないぞ!サラだったら確実に屋敷に遊びに来るだろ。絶対色々バレちゃうよ!
サラのお父さん、お母さん、絶対許可出さないで!
僕は8柱の神々に祈りをささげた。

祈りは届かなかったらしい。
「テオ!私も領都に行くことになったよ~!」
午後になって、町を歩いていたらサラが駆け寄ってきてそう言った。
なんてこった!
「そ、そうなんだ。でも僕は魔術の修業があるから、向こうじゃ遊べないね」
苦し紛れにそう言ってみる。
「それはそうね。私も遊びじゃなくて、商人として修業しに行くからね」
ほっ、それなら大丈夫そうだ。
「でも休みくらいあるでしょ?日にち合わせて遊びに行きましょ!」
う~ん、さすがにそれまで断るのは不自然か。
「ペルピナルに着いたら連絡するからさ、連絡先教えてよ」
げ!それは困るな。
「えっと、今すぐは分からないから、後でアネットさんに聞いておくね」
「絶対よ。忘れちゃダメだからね!」
少し雑談して別れた。

アネットさんと相談だな。
霊糸通信で相談して、ダヤン商会を間に挟むことで直接やり取りしないこととした。トムさんには<伝書送信>でお願いしておく。
トムさんからはすぐに返信が来て。
『承知いたしました。今後色々と商会が間に入るべきことは増えるでしょうから、お屋敷に信頼のおけるものを常駐させますので、面倒事は全てお任せください』
との事だ。頼りになります。

また、連絡先はアネットさんがサラに伝えに行く(その方が信憑性が高まるだろう)と言ってくれた。助かります。
その後、トビやポールなど友達と会ってから、家に帰った。


家に着いて一息つこうと思ったら、珍しくトムさんから通信が。
『すごいですぞ!これは画期的な商品です。ペリゴール領どころかこの王国中に評判が轟くに違いありません!』
のっけからスゴイ勢いで来ました。
トムさん、外見はダヤン会頭、が屋敷に直接やってきて、あの化粧品と効果を目の当たりにして興奮していた様子。
視界を借りてみたら、ちょっと!周りにニコレットさん達もいるじゃないですか。
急いで、霊糸通信を使うと不自然だから、ネズミくんを使ってこっちに連絡するよう伝える。
『申し訳ありません。ついこの感動をいち早くお伝えしたくて』
トムさんが正気に戻ってくれた。

少ししてネズミくんから合図が来たので、こちらから<念話>を繋いで話を聞く。
化粧品を販売するにあたり、まずはダヤン商会が独占販売すること、製造もダヤン商会で請け負いたいので指導をニコレットさんにお願いしたいこと、僕にはレシピの使用権料なるお金が入ってくること、などだ。
横にいる猫使鬼経由で師匠と相談すると、問題ないとの事だったので、トムさんにそれで進めるようにお願いしておく。

ニコレットさんは突然ダヤン商会の会頭が自分を訪ねてきて、しかもどでかい商売の話をし始めたので目を白黒させてワタワタしていた。
隣のポリーヌさんがフォローしてくれたようで、何とかなったけど。
鼻息の荒いトムさんに後はお任せして、<念話>を終了する。

ふぅ、ようやく一息付けたよ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

次の日はのんびりして過ごすことに。
今日はナナさんとセラフィン君も呼び出して、自由に過ごしてもらっている。
ココちゃんはペルピナルの屋敷で金髪メイドだ。
僕は連日の暑さで外に出たくなかったので、部屋を魔術で冷やして快適にゴロゴロしている

時々アネットさんから<伝書送信>で、今料理をしてます、とか、お部屋の掃除してたら懐かしいものが出てきました、とか、友人をたずねました、のような連絡が来て、それに返事を返しながら一日を過ごした。

そしてこの町滞在最後の朝。
何かにペシペシと顔を叩かれて目が覚める。
何かと思って見ると、猫がそこにいた。
いや、よく見るとぬいぐるみの猫だ!

『おはよう。起きたか』
猫ぬいぐるみ師匠だよ。
「おはようございます。もしかして新作ですか?」
『ああ。暇だったのでな。久しぶりに作ってみた。おぬしの所の狸の分も作ってやったぞ』
と言って、影からたぬきのぬいぐるみを取り出す。
何とも味のある、たぬきのぬいぐるみだった。
早速、狸の使鬼を呼び出して<傀儡>を使ってみると、ひょこっと動き出す。
『くぅ(ひさびさの体だぬ)』
「調子はどうだい?」
『く(悪くないだぬ)』
…語尾は気にしちゃいけない。

「いいみたいです。ありがとうございます。師匠」
『そうか。それでな、出発の前にこっちの屋敷に来てくれるか』
「分かりました」
ネコとたぬきのぬいぐるみが足元でポフポフとじゃれあっている。
これはいいものですね。

僕はぬいぐるみを抱きかかえてお化け屋敷に来ていた。
『来たな。こっちじゃ』
久々の髭じじい姿の師匠だ。うん、違和感しかない。
野盗の死体が並んでいる部屋に入る。
『それで、相談なんだが、このうちの3体をもらえんか?』
「ええ。いいですよ」
特に必要ではないので即答する。

『おお、あっさりだな。一緒に使鬼も譲ってくれ』
「はい、分かりました。どうすればいいですか?」
僕が3体の使鬼を呼び出して、師匠がその1体に対して<使鬼使役>を使うと、使鬼から「所有権の移譲を許可してもよろしいですか?」と問い合わせが来る。
僕が「許可する」と答えると、霊糸リンクが切れる感触があり、僕の使鬼ではなくなったようだ。
『今のが<使鬼使役>の譲渡機能じゃ。本来は師匠から弟子に使鬼を譲渡するのに使うもんだがな。さ、残りもやってしまおう』
無事3体の使鬼の譲渡を終えた。

ペルピナル行きの5体の野盗とナナさん達に使鬼を宿らせ、先に裏の林で待っていてもらうことにした。師匠の犬使鬼が引率して行く。

僕は自宅に戻り家族に別れを告げて、アネットさんと合流して馬車で町を出る。
林の前で合流し、全員で南に向かって出発した。
故郷の町を振り返り、しばしの別れを告げる。
さあ、ペルピナルの屋敷に帰るぞ!

帰りの馬車では、ネコとたぬきのぬいぐるみが癒しになっていた。
ポフポフと動いている姿を見るだけでほっこりする。

元野盗を引き連れているので南の村に入るのは避け、その夜は街道の脇で野宿をした。
その後も順調で、途中の宿場町で1泊して、無事にペルピナル都内へ入り、久々の屋敷に到着してようやくほっと一息ついた。

この時、以前にトムさんが言っていた、ダヤン商会から派遣されてきた調整役のピエールさんと挨拶。
ピエールさんは屋敷の門のすぐそばに新設されたダヤン商会の出張所に常駐している。
この屋敷の窓口業務のためだけに作られた出張所だという。すごいな。

それと、留守中にニコレットさんが開発した化粧品だが、貴族のご婦人方に試供品を配ったところ、口コミで物凄い評判になってしまったそうだ。
量産体制が整うよりも前に問い合わせが殺到し、予約が3期節先までいっぱいなのだとか。
現在ニコレットさんがフル稼働で先行生産しているみたい。

なんかすごいことになってるらしい。
ダヤン商会の体制が整うまで、ニコレットさんに別の仕事は頼めないっぽいぞ。
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