幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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死霊術革新編

久々の故郷

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今日も旅は順調、と思いきや。

僕らの馬車の前に3人、後ろに2人の強面の男たちが手に武器を構えて立ちふさがっている。
はい、野盗ですね。
「男は殺せ。女子供は商品になる、傷つけるなよ」
とリーダーらしき男が指示している。

僕はすでにアネットさん、犬1号2号、猫、狸、犯1の使鬼を呼び出し済みだ。
アネットさんは偽生体に憑依して、いざという時に備えてもらう。
残りの使鬼たちは、それぞれ1対1で野盗どもの側で待機。
僕とココちゃんとセラフィン君は荷台の奥で待機。

「アネットさん、野盗の扱いってどうなってる?」
「”生死問わず”です。野党の持ち物は討伐者の物になります」
『これはいい機会だ。死霊と死体の両方が手に入るぞ』
と師匠は殺る気満々だ。

「よし、みんな、行け!」
合図を出すと、使鬼たちが飛び掛かり<霊衝撃>を放つと、と野盗どもがバタバタと倒れた。
と思ったらナナさんが飛び出して行って、短剣でサクサク止めを刺して回った。
この間、ゆっくり30を数えるほども経っていない。鮮やかでした。

野盗どもから出て来た死霊は僕と師匠で回収し、死体にも魔術で修復と保存処理をした。
御者さんは何が起こったか分からず、きょとんとしていた。

とりあえず、動物使鬼たちは収納し、犯1使鬼に死体を荷台の中へ運ばせた。
見えない何かに運ばれる死体を見て、御者さんは目を丸くしていたが、魔術ですと言うと感心していた。

師匠が野盗どもの霊体球(休止状態の死霊)を解析し、事情を探った。
『なるほど、ペルピナルに有った人さらいの組織が壊滅し、失業した下っ端どもが野盗になったようじゃ。しかもあの森のアジトを根城にしてるらしいぞ。
アジトにもまだ仲間がおるな。奪った財貨もアジトにあるようじゃ』
「狩ろう」
それを聞いたナナさんがめっちゃ殺る気だ。
犬師匠とアネットさんも、目が獲物を前にしたオオカミのようだった。
まあ、僕も放っておけないと思うので、やりましょう。
馬車で森のアジトへ向かった。

今回は、師匠が呼び出した鹿の使鬼が偵察を務めた。
野盗は小屋の外に2人、地下に1人。牢屋には女性が2人囚われていた。今回、幽霊はいなかった。

再び犬1号2号を呼びだす。
ナナさんが先行するというので、犬1号2号をお供につけた。現地には師匠の鹿もいるし、大丈夫だろう。
『外の見張りを2人排除したな。相変わらずの鮮やかさじゃ』
現地を見ていた師匠が言う。
え、もう?
犬1号の視界を借りると、もう地下室だった。早すぎるな。
見る間に野盗が倒れ、止めを刺されていた。
本当にあっという間だった。
僕と師匠が使鬼越しに遠隔で死霊を捕獲し、死体に魔術処理をして回った。

こっちはもう大丈夫なので、アネットさんを屋敷に戻した。
少しして、馬車が到着。犯1に荷台の死体を降ろして地面に並べるよう指示した。
新たな死体も同じように並べた。

合計で8体の死体と死霊を入手できた。
牢屋の女性2人はだいぶ怯えていたが、犬師匠に<精神干渉>で鎮静と熟睡をかけてもらい眠らせた上で、犯1が馬車に載せた。

『さて、こういう犯罪者の死霊は手っ取り早く洗脳して強制的に使鬼にしてしまうに限る。おぬしにはまだ早いのでな、今回も儂がやる。
ちょっと後ろを向いておれ』
やっぱり洗脳関係はまだ僕には見せられないものみたい。
うん、あれは怖いからな。

『よし、良いぞ。これらを使鬼にするんじゃ。ああ、交渉は不要だぞ』
休眠解除してみると、妙に晴れやかな顔の幽霊があらわれた。
ああ、この顔は。アレだ。
<使鬼使役>を使うと、即座に霊糸リンクが出来た。
『ご主人様、何なりとお申し付けください。この身滅ぶまでお仕えします』
うん、いきなり忠誠心最大の状態だね。
これを8回繰り返すと、さすがにげんなりした。

各々の死体に憑依するよう指示すると、8体のゾンビが現れた。
…今回、アネットさんは遠く離れた屋敷にいるので大丈夫だ、よね?

このままだと動きが遅すぎるので、師匠と手分けして<傀儡>を使った。
なお、これらの死体はお化け屋敷に保管することにしたので、馬車についてくるよう指示した。

◇◆◇◆◇◆◇◆

救助者2名を加え、8体の傀儡を引き連れて馬車は北に向かう。
その後は何事もなく進み、夕刻に町の郊外に到着。
お化け屋敷裏手の林で、8体の傀儡を犬師匠が引率して別れた。

馬車は南口から町に入った。近くの自警団の詰め所に救助した2人を預け、ナナさんとセラフィン君とココちゃんを残して事情を説明してもらう。
3人にはこの後お化け屋敷に向かって、そこで滞在してもらうことになっている。

久しぶりの故郷の町並みを見ながら馬車は進む
アネットさんを屋敷から呼び戻し偽生体に入ってもらった。

まずは僕の実家だ。
実家の前で二人が降りると、馬車はダヤン商会の支店へと向かった。

僕はドアを開けて中へ入る。
「ただいまー」
「あら、テオ!お帰り、疲れたでしょ」
とお母さんが笑顔で迎えてくれる。
「馬車に乗ってるだけだから、そんなでもないよ」
「あら、そちらのお嬢さんは?」
「ああ、メイドのアネットさんだよ」
「初めまして、お母様。私はテオ様にお仕えするアネットと申します」
と言って深々とお辞儀する。
「まぁ、ご丁寧に。テオの事よろしくお願いしますね」
「はい、お任せください。テオ様の事は私が全身全霊をもってお世話させていただきます」
おお、なんかアネットさんのテンションが上がった?
少し雑談して、数日滞在すること、これからアネットさんの実家に行くことを伝えた。

さあ、次はアネットさんの実家だ。
徒歩で向かう道中、アネットさんの口数は少ない。
横を見上げると、アネットさんの緊張した顔が見える。

アネットさんの家の前についた。
「大丈夫?」
「はい。少し緊張しますが」
そう言うと決心がついたのか、ドアをノックした。
「はーい。どちらさま?」
ドア越しに声がする。
「あの、 アネットよ、お母さん」
ちょっと震える声で応える。
「アネットかい!手紙貰ってから楽しみにしてたのよ」
ガチャッとドアが開いてお母さんが顔を出す。
それを見たアネットさんの顔がくしゃりと歪み。
「お、かあさん」
とかすれた声と涙がこぼれた。
「ああ、アネット、良く帰ってきたねぇ」
お母さんも涙を浮かべ、アネットさんを抱き寄せた。
アネットさんは声を上げて泣きながら、お母さんに縋りつく。

僕は邪魔にならないようにちょっと離れた。
本当に良かった。
アネットさんと最初にここで出会ってからの日々が頭をよぎる。
思ったより時間がかかったけれども、思いもよらない最善の結果になった。

僕はこの時、死霊術師になって本当に良かったと、心からそう思えた。

少し落ち着いてから、アネットさんが僕を紹介した。
「私がお仕えしているテオ様です」
「こんばんは。お久しぶりです」
「あら?まあ!サラちゃんと一緒に手紙を届けに来た子ね」
「はい。あの時はまだアネットさんとは知り合ってなかったんだけど、偶然ですね」

その後、これまでの経緯(でっちあげ)を説明した。
以前メイドとして勤めていたお屋敷の人が、どうしてもアネットさんを取り戻したくて誘拐をしたこと。(どうも、過去のメイド時代にそういうトラブルで辞職したらしいので、説得力があった)
領都ペルピナルで運よく逃げ出して、親切な魔術師に匿われていたため、密かに手紙を出す事しかできなかったこと。
ちょうどそこに弟子入りしてきたのが僕で、同郷のアネットさんが世話役になったこと。
レスコー男爵の人格が変わったことで都内の治安が良くなり、今回の里帰りに同行できたこと。
等を伝えた。

うん、今回は嘘ばっかりだね。まぁ、仕方ない。
数日この町に滞在することを伝え、その間アネットさんは実家に滞在することになった。
家族とゆっくり過ごしてほしい。
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