幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

文字の大きさ
上 下
24 / 91
死霊術革新編

家族に会いに行こう

しおりを挟む
家族との再会で思い出したけど、アネットさんのお母さんから預かった手紙が、荷物の中に入れっぱなしだった。
サラが誘拐された後のドタバタで、すっかり忘れてた。
いい機会だし、渡しておこう。

庭に出ると、夏の盛りでぎらぎらと太陽が輝いていた。暑いな。

アネットさんが洗濯物を干しているのを見つけた。
夏の衣替えで、彼女のメイド服も薄着になり涼しげになっている。まぁ、傀儡なので暑さ寒さは関係ないんだけど、季節感は大事だそうだ。

「アネットさん」
声をかけると、アネットさんがこちらを振り向く。
「テオ様、どうかしましたか?」
「渡すの忘れてたんだけど、はい、これ」
「?お手紙ですか」
「ほら、アネットさんのお母さんの手紙だよ」
「ああ!私も忘れてました。ありがとうございます。後で読ませていただきますね」
そう言って手紙をエプロンのポケットにしまった。
「用事はこれだけ。僕も干すの手伝うよ」
「ありがとうございます。では、このシーツの端を持ってもらえますか?」
僕はお手伝いをすることにした。

その時の雑談で、アネットさんが「セラフィン君を先に家族と再会させてあげて欲しい」と言い出した。
自分は幽霊の状態ではあるが既に会っているし、手紙もあるから、後で良いと。
確かに。偽生体となった今ならセラフィン君の帰省も問題なくなった。
それならついでに、ココちゃんも帰省させてあげよう。
あ、そうなるとこの家に家事のできる人がいなくなるか。
まずいな、特にポリーヌさんが。

その辺の懸念を伝えると、アネットさんから。
「地下にある永続死体を1体こちらに置いておけば、旅行中でもこちらに来て仕事ができると思います」
と、ナイスアイディアが出て来た。
なるほどね。体をこっちにもう一つ置いておけばいいんだ。
その案を採用し、アネットさんとココちゃんには、地下倉庫でそれぞれ好きな永続死体を選んで持ってくるように言っておいた。運搬は犯1の傀儡に手伝わせた。

2人はなるべく背格好の似たものを選んできたようだ。
アネットさんの方は黒い髪を肩までで切りそろえたスレンダーな女性。
ココちゃんの方は、金髪の腰まである長い髪で、本人より少しお姉さんな感じの女の子だ。
旅行中に使うだけなので、偽生体化はしないでおく。


早速、僕とアネットさん、ココちゃんの実家に、近いうちに帰省する旨の手紙を送った。
セラフィン君の実家には、でっちあげたこれまでの経緯と、今後セラフィン君を屋敷で預かる旨を記した手紙を送った。
いずれも安心のダヤン商会の伝書事業を利用し、代読サービスも付けた。
セラフィン君の実家は、近い場所なので手紙より僕らが到着する方が早いかもしれない。

そして、出発準備だ。

まずこの屋敷の留守番はぬいぐるみに入ったネズミくんにお願いした。
ネズミくんがいれば、アネットさんやココちゃんをこの場に呼び出せる。
それと、何か騒ぎがあったら霊糸通信で教えてくれるよう指示しておいた。

ポリーヌさんとニコレットさんに旅行で留守にする事を伝えに行くと、「旅に出る前に次の仕事をくれ」と言われたので研究テーマを与えて自由にやってもらうことにした。
師匠と相談して、こういうのができると良いなと言うのを列挙してみた。

● 外道魔術師ゲルルフの記憶にあった「若返りの薬」と「万能回復薬」のレシピを元に、売れそうな商品を考える。
● 偽生体に疑似的な体内魔力を作れるか検討。これができると、使鬼経由でも錬金術が使えるかも。
● 偽生体に、太る、やせる、成長する、老いる、という自然な外見の変化を付加できるか検討。今後、長年使用する上で必要となる。
● 憑依の相性をよくする条件の調査。どのような素材を使えば相性が上がるのか、死体を使わずに相性を上げられれば最高。

結果が出なくても構わないので、挑戦して欲しいと伝えたら、ポリーヌさんが「やったろうじゃん」と燃えていた。

トムさんとシメオンさんにも、しばらくペルピナルを離れるという話はしておいた。
何かあれば霊糸通信で連絡できるので支障はないはずだ。

後は、犯人リーダーと5人衆には屋敷の警備と、何かあればネズミくんに知らせるよう頼んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

準備が整い、いざ出発となった。
旅行に出るのは僕以外には、師匠の犬使鬼、アネットさん、セラフィン君、ココちゃん、そして護衛をすると言ってついてきたナナさんだ。
当然、師匠以外は偽生体に入っている。よっぽどのことが無い限り、普通に生きてる人間にしか見えないだろう。

大人の男性がいないので不用心に見えるかも知れないが、ナナさんは元ハンターであり、女性ながらもかなり強い。
セラフィン君も初級の攻撃魔術をいくつか覚えたそうなので、いざとなれば戦える。
僕が使鬼を呼び出せば見えない攻撃もできるので、外道魔術師ゲルルフ並みの化け物が襲ってこない限りは大丈夫だ。

最初の目的地であるセラフィン君の故郷、ペルピナルの東の村へ向かった。
ダヤン商会が御者付きで馬車を用意してくれて、乗り心地も快適だ。
ココちゃんは眠っているように見えるが、実は屋敷で金髪美少女メイドになっている。旅行中、ココちゃんにはこうして屋敷で家事をしてもらうことにした。
道中、僕はアネットさんとおしゃべりして過ごした。

セラフィン君は、師匠に教わりながら熱心に魔術の練習をしていた。
師匠曰く、魔力視能力のおかげでかなり優秀だそうだ。死霊術はさすがに無理だが、平均的な魔術師(師匠の基準で)になれる程度は修業をつけてあげるつもりだとか。
ちなみに、使鬼は体内魔力を魔術に使えないため、セラフィン君は上級者向けの体外魔力の操作から始めたので、とても大変だったらしい。

そして、ナナさんは時々馬車から飛び降りてどこかに行っている。
何してるのか聞いてみたら、危険な生物(動物や魔物)がこっちに近づく前に倒しているのだそうだ。
てっきり散歩だと思ってたら、そんな高度なことをやってたのか。
特に武器らしきものも見えないのでどうやってるか聞くと、鉄製の杭のようなものを見せて「これを投げる」という。
「この体、胸がデカすぎて弓使えなくなった。不便」
と、その大きなものを持ち上げて嘆いてた。
なんかいろんな意味ですごい人だぞ、この人。

途中の宿場町で一泊。
大部屋を借りてみんなで一息ついた。
食事は僕だけなのだが、アネットさんが付き添ってくれた。
メイドとして控えてれば食べなくても不自然じゃなかった(が目立った)。

現在の内外魔力同調法の技術では3体(トムさん、シメオンさん、ネズミくん)までの常時維持が限界だ。
なので、ここにいる全員と屋敷のココちゃんを収納してから眠った。

次の日も順調に進み、まだ明るいうちに東の村に到着した。

村を見たセラフィン君が目を輝かせている。
村入り口の停車場に馬車が止まると、セラフィン君が飛び降りた。
そのまま駆け出して、多分実家に向かったのだろう。
「ナナさん、ついてってあげて」
「りょーかい」
ナナさんも走っていく。

御者さんとココちゃんに先に宿に行くよう言ってから、僕とアネットさんも歩き出した。
霊糸リンクのおかげでどこに使鬼がいるか分かるので、見失うことは無い。
僕らが着いた時には、ナナさんが民家の前で立っていて、家の中からはいろんな人が泣いて喜んでいる声が聞こえてきた。
「良かったですね」
「うん。本当に、約束を守れてよかった」
ご家族が落ち着くまで、ここで待たせてもらおう。
この間にココちゃんを屋敷に送っておいた。

しばらくして、中の様子が落ち着いたのを見計らって、ドアをノックした。
「はい、どちらさま?」
と母親にしては若いので、多分お姉さんが顔を出した。
「私はメイドのアネットと申します。セラフィン君の今後についてお話させていただきたいのですが」
一応、大人のアネットさんを前面に出すことにしている。
「え、メイド?え、今後?」
まぁ、驚くのも仕方ない。
「はい。親御様にご紹介いただけますか?」
「あ、はい。どうぞ入って。ちょっとお母さん」
と家の中に戻っていった。
僕らもお邪魔する。ナナさんは先に宿に行ってもらった。

居間らしき所で家族が集まっていた。
セラフィン君がこっちを見て。
「テオ君、ありがとう。お母さんに会えたよ」
涙にぬれた笑顔でそう言った。
僕も笑顔で頷いた。
「あの、あなた方は?」
と母親らしき人が問う。
「私はメイドのアネットと申します。こちらは私のお仕えするテオ様。セラフィン君の兄弟子に当たる方です。ところで手紙は届きましたでしょうか?」
「え、手紙ですか?」
やはり、僕らの方が早かったようだ。
「そうでしたか。手紙より早く到着してしまったようですね。それでは事情の説明をさせていただきます」

アネットさんは戸惑うご家族に構わず、これまでの(でっちあげた)経緯を説明した。
2巡りほど前にペルピナル都内で迷子になっていたセラフィン君を保護し、屋敷で世話していた。
セラフィン君には魔術の才能があり、屋敷の主である魔術師にその才を見出され弟子入りすることになった。
今回、セラフィン君がペルピナルの屋敷で暮らしながら魔術の修業をすることをご両親に了承してもらうために来た。
と言うストーリーだ。全くの嘘ではない。

「お師匠様は多忙な方ですので、兄弟子であるテオ様に代理でお越しいただきました」
とアネットさんが言うと。
『本当はここにおるがのう』
と犬師匠が茶化す。
セラフィン君のお母さんが困惑しきった顔で。
「そんなことを言われても、この子は帰ってきたばかりで、またいなくなるなんて」
と言った。
「流石にすぐにとは申しません。2~3日はこの村に滞在いたしますので、その間によく話し合われてください」
アネットさんがそう伝えると、あいさつして僕らはその場を後にした。

後はセラフィン君に説得してもらうことになっている。
セラフィン君も本当は家族と暮らしたいだろうけど、使鬼が僕から離れて生活できないのは理解している。
将来的には技術的に解決できるかも知れないので、今しばらくは我慢だ。

僕らは村に一軒しかない宿へ向かった。

夜は、セラフィン君に眠るタイミングを知らせてもらい、収納。
翌朝、僕が目覚めると同時に急いでセラフィン君を呼び出すと、(使鬼状態の)セラフィン君は実家に走っていった。
ふぅ。結構せわしないな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...