幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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死霊術革新編

より生き生きと

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僕らが領都ペルピナルで暗躍する黒幕たちを退治した後、都内は少し騒がしくなった。

◇◆◇

貧民地区に突如としてレスコー男爵の私兵団が押し寄せ、ここを拠点とする犯罪組織が軒並み潰される、という事件があった。犯人たちは処刑されたり、犯罪奴隷に落とされたりして都内の治安はかなり良くなった。

都内に居を構える貴族や富裕層の一部が、不正な奴隷売買の罪で摘発された件では、罰金や財産没収などの刑罰が科され、没落する家も出た。

頭を打ってまるで人が変わったと噂のレスコー男爵が、都市内に蔓延る不正に大鉈を振るっているのだ。

その騒ぎの裏で、この数期節の間に失踪した者たちがひょっこりと家に帰ってくるという事件も起こっていた。しかもかなりの大金を持って来たものだから、家族は大騒ぎだ。
しかし家族以外にはその話が広がることは無く、この事件を知る者は一部に限られた。

◇◆◇

まぁ、シメオンさんやトムさんが事件の後始末を頑張っていたという話なんだよね。

僕の内外魔力同調法が上達して3体常時維持が可能になり、シメオンさんも24時間動けるようになったので、そりゃもうすごい大活躍だ。

僕はあの後、予定通りに外道魔術師ゲルルフ・コッセルが所有していた屋敷とその周辺の土地を手にいれた。
こんな子供でも所有者になれるんだー、と驚いたけど、いつの間にかレスコー男爵が後見人ということになってるそうだ。
ダヤン商会が改装や家具の新調を手配してくれたので、ちゃんと人が生活できる状態になっている。
宿は引き払い、今はこの屋敷を拠点にして生活している。

犯罪組織が潰されたので、犯人リーダーと5人衆には、この屋敷で警備や雑用の仕事をしてもらっている。


実はシメオンさんから犯罪組織壊滅作戦の話が出た頃に、これを聞いた師匠が「制圧戦や処刑などで出た死体のうち体格の良いものを譲って欲しい」と言い出した。
やっぱり死霊術師としては、戦力として使える死体は確保できるときにしておきたいものなのだとか。
確かに、屋敷の地下倉庫にある死体は、女性や子供がほとんどで、体格のいい男性は少なかった。

シメオンさんに通信でお願いしたら「全員処刑して確保します」とかいうので、さすがにそういうのは止めさせた。ちゃんと法律に従ってください。
ただ、今後も犯罪者の取り締まりや処刑で出た死体はこちらに回してくれるそうだ。

僕もふと思い付いて、犬や猫などの動物の死体は手に入るか聞いてみた。
すると、役所の仕事で野良動物の駆除などもやっているはずだから可能だろうとの事だったので、そちらもお願いしておいた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

屋敷で平和な毎日を送っていた、初夏のある暑い日。

僕は椅子に座るアネットさんの膝の上に座り、後ろから抱きかかえられていた。
「ふぅ、ひんやりして気持ちい~」
今日みたいな暑い日は助かるね。
僕は手を差し伸べ、アネットさんのほっぺたに触れる。
「テオ様の手のひらは温かいですね」
アネットさんが僕の手に自分の手を添えて、目を閉じて堪能している。

「うん、やっぱり温もりが欲しいよね」
今後アネットさんを家族に会わせるとして、さすがにこのままじゃ不審に思われるだろうな。

想像してみる。
行方不明になっていた娘が帰ってきたらとしたら?
親はまずハグして、頬ずりするだろう。手も握るだろう。
お互いに涙を流して再会を喜び合うだろう。
そしてお話をして、ごちそうを用意して振舞うだろう。

うん。そうなってくると、①体温、②涙、③食べ物を食べる、が最低限必要だな。

あ、そう言えば小さな弟くんがいたな。胸に飛び込んでいくだろうから、もしかすると心臓の音に気付くかもしれない。
それに、夜は一緒に寝るかもしれない。

となると、④心音、⑤寝息も必要か。

そういえば、トムさんやシメオンさんは食事どうしてるんだろう。
気になったので、霊糸通信で聞いてみた。するとお二人とも「今立て込んでるので後ほど」と言われた。
確かに。普段仕事をしているから急に話しかけられても困るよな。
これも何か対策が必要だ。

それにだ、トムさんやシメオンさんは(地下にあった”綺麗な”死体ではなく)普通の死体を使っているから、顔色を化粧で誤魔化しているはずだ。
彼らの使っている死体も、地下倉庫の実験体のように”まるで生きてる”っぽく加工できないだろうか。

あれこれ考えてると。
「ふふっ、テオ様。何だか楽しそうですね?」
とアネットさんが微笑みながら言う。
そっか、僕はこういうのをあれこれ考えるのが楽しいらしい。

「うん。今使っているみんなの死体をもっと生きてるっぽくして、家族と触れ合ってもバレないようにしたいんだ。その方法を考えてた」
「まぁ!それは素晴らしいことですね。ありがとうございます、私たちのために」
アネットさんの笑顔に、僕も俄然やる気になる。
よし、師匠に相談だ!

困った時の師匠頼み。
猫師匠に先ほど考えたあれこれを聞いてみる。
『なるほどのう。面白い考え方じゃ。魔術で実現する手もないではないが、魔力の動きで逆に不審に思われるかも知れん。となると魔道具しかないな』
「魔道具!そんな高級品、手に入るんですか?」
『いやいや。作るんじゃ。こんな特殊な用途の魔道具があるわけないからな。資金はまあ、ダヤン商会頼りかの』
作る。そうか、魔道具って作れるんだ。
思いつきもしなかった。
この件はダヤン商会に魔道具職人を紹介してもらうこととなった。

『あと、ダヤン会頭とレスコー男爵の死体をどうにかする話は、心当たりがある。ゲルルフの研究成果を使うのだ』

師匠は、外道魔術師ゲルルフの記憶から、地下でどのような研究が行われていたかを知った。
あの地下倉庫の死体がまるで生きているかのように見えるのは、”永遠の血液”と言う、錬金術で作られた鮮血色をした液体の作用だと言う。
奴の人体実験はこれを開発、改良するために行われていたのだ。
奴はこれを生きている人間に使っていたが、原理的には死体に使っても同じ効果が得られるはず、と師匠は予測していた。

という事で、”永遠の血液”の調査を行うことになった。

あと、霊糸通信で忙しい時に繋いで迷惑かけないようにしたい、と言う話をしたら。
『今まで傀儡に普通の生活をさせようとしたことは無かったから、そういう考えはなかった。本当におぬしは面白いのう。よかろう儂の方で考えておく』
と、魔術の改良を請け負ってもらえた。

その後、手の空いたトムさんとシメオンさんからそれぞれ連絡があり、食事はなるべく食べないようにしていて、どうしても避けられないときは食事の後に吐き出している、との事だった。
うーん、それも辛いよね。やはり魔道具頼りか。

◇◆◇◆◇◆◇◆

今すぐできることとして、地下で”永遠の血液”を調査することになった。

実験には犯1の死体を使うので、使鬼の犯1に憑依して持ってきてもらったら、地下に降りてくるその動きがゾンビだった。
そういえば、<傀儡>を使わずに普通の死体を動かしたの初めてだったかも。
あ~、さっきアネットさんの悲鳴が聞こえたのはこれのせいだったのか。ゴメン、アネットさん。

ゲルルフが調合した”永遠の血液”があと1回分残っていたので、それを使う。
犯1の死体を寝台に横たえて、穴の開いた太い針(注射針と言うらしい)を腕に刺して”永遠の血液”を流し込む、のだが心臓が動いていないので入っていかない。
結局、生活魔術の<送水>(液体を意図した方向に流す)を使って上手く流し込むことができた。

全身の血管に流し込み終わったが、しばらく見ていても顕著な変化は見られなかった。
多分時間がかかるのだろうということで、食事をしてから戻ってくると、見て分かるほど肌に赤みがさしていた。

ここで犯1に憑依してもらったところ、かなり動かしやすくなったとの事。
実際に歩いてみてもらったら、ゾンビっぽさは無くなっていた。ちょっと疲れている人、くらいだ。

肌色についてはもう少し様子見が必要だ。

さらに放置して翌朝。かなり血色が良くなり、硬直していた肌も、張りが出て健康的になった。
注入から半日で、見た目的な問題は解決することが分かった。

うん。これは実験成功と言っていいだろう。

この、”永遠の血液”を注入した死体は明らかに普通のよりも性能が向上しているため、「永続死体」と呼称して区別することにした。

ただ、”永遠の血液”の備蓄がもう無くなってしまったので、新たに調合が必要だった。
材料は備蓄もあるし不足ならダヤン商会に頼めばよいが、問題は錬金術師だ。

錬金術は魔術とは異なる魔法技術で、体内魔力を利用するものらしい。したがって使鬼には使えない(体内魔力を使えないので)。
師匠はゲルルフの記憶を利用できるから錬金術で調合することができるが、使鬼を経由する場合は無理というわけだ。
僕が今から錬金術を学んでも、使い物になるには1年以上かかるらしい。

と言うことで、ダヤン商会には錬金術師探しも頼むことにした。
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