幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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見習い死霊術師編

悪は滅びた

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そして”レスコー男爵の頭から悪いものを追い出そう”作戦の前日の朝。

「おはようございます、テオ様」
「ふわぁ~、おはよう、アネットさん」
アネットさんは体を取り戻してから、ずっと僕の側でお世話をしてくれている。
最近、内外魔力同調法がまた上達して使鬼2体までなら、常時出しておいても魔力欠乏症にならなくなったのだ。
今は、アネットさんとトムさんを常時出現させている。

明日は夕刻からパーティーがあり、そこでレスコー男爵を罠にめる予定だ。
それまでは各自、作戦に支障がない範囲で自由行動だ。
ナナさんとセラフィン君に事前に頼まれていたので呼び出してあげると、それぞれの身体に憑依してどこかに出かけて行った。

僕とアネットさんはダヤン商会系列の服飾店へ来ていた。
アネットさんがメイド服を欲しがったからだ。
ダヤン会頭の紹介状を持ってきたので、下にも置かない対応でちょっと困った。
すぐに着たいと言うと、どこかのお屋敷で使われているメイド服を持ってきて少し手直ししたものを用意してくれた。
着替え用の2着は別途仕立てて拠点に届けてくれるそうだ。
「もちろんお代は結構です」と言われ、お礼だけ言って店を出る。

アネットさんは嬉しそうだ。
「さすが、メイド服が似合うね、アネットさん」
「ふふっ。テオ様、私のわがままを聞いていただいて、ありがとうございました」
「いつもお世話になってるからね。それに、お金を出してくれたのはトムさんだけどね」
「はい。トムさんにも感謝しています」
いや本当にトムさんってば気前良くて、ダヤン商会系列ならどこでも無料にしてくれたんだよね。
折角なので存分に楽しませてもらいます。

それから、以前都内でメイドをしてたアネットさんに案内してもらって、いろんなお店をのぞき、美味しいものを食べて、僕は初めての街歩きを楽しんだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

いよいよ作戦当日。

パーティーの1刻(2時間)前に拠点に集合。最終確認をする。
レスコー男爵をスっ転ばせる役は使鬼状態のナナさん、シメオンさん。
すぐに駆け寄り状況を掌握するのがメイドのアネットさん。
それを運び出す偽医者は犯リーが雇った詐欺師と、助手に扮した5人衆(ちょっとゴツ過ぎるけど)。
予備で犬師匠と使鬼の犯1(僕の目として)。
と言う陣容だ。

ナナさんとシメオンさんは、犯1の傀儡を相手に何度も転ばせる練習を繰り返し、今では実に自然なスっ転ばせ技を習得している。

アネットさんと5人衆と犯リー、それと師匠の犬使鬼は先行して馬車で会場入りしてもらった。

そして、僕の使鬼達はアネットさん経由で会場に直接呼び出す。
僕は犯1の視界を借りている。
豪華なパーティー会場にはまだ客は集まっていない。ダヤン商会から派遣されたスタッフが忙しそうに準備していた。
アネットさんは変装のためスタッフと同じメイド服をきて、スタッフに混じって働いている。

会場正面にはの舞台があり、階段が設置されている。
その階段周りにナナさんとシメオンさんが待機する。

偽医者とは会場で合流し、隣接する待機部屋で5人衆たちと共に待機してもらう。

お客もどんどんと集まってきて、いよいよ時間となった。

ホスト役の貴族が舞台に立ち、本日の主賓であるレスコー男爵を紹介する。
会場からは拍手が沸き起こる。
レスコー男爵が片手を上げて会場中の注目を浴びながら舞台を階段の方へ歩いていく。

そして階段を降り、ようとしたところで、ナナさんとシメオンさんが名人芸の域に達したスっ転ばせ技を繰り出した!

階段に降ろした足がグキッと変な方に曲がり
躓いたので、手すりに手を突こうとしたら
その手も変な方向に曲がって滑り、何とかバランスを取ろうと
伸ばしたもう片方の腕の勢いが強すぎたのか、ふわりと体が浮き上がって
足が上に伸び、頭が下になって、
後頭部から階段下にダイレクトで落ちたのだ。

ドゴッと重たい音が響いた。

あまりの見事な転びっぷりに、会場全体がシーンと静まり返った。

そんな中、階段脇から走り寄るメイドが一人。
「大丈夫でございますか!」
アネットさんが迫真の名演技を披露する。
その声で会場が動き出す。キャーという貴婦人の悲鳴や、怒号が上がる中。
「お医者様!お医者はいらっしゃいませんか!」
とアネットさんが呼びかけると、実にタイミングよく。
「私は医者です。お任せください」
と偽医者&5人衆が登場した。
テキパキと診察すると周囲に「大丈夫、すぐに治療します」と言って、5人衆に担がせて会場を後にした。
完璧だ!

大混乱の会場を尻目に、犯1(僕の目として)、犬師匠、シメオンさんは急ごしらえの医務室へと集まった。
偽医者と5人衆には別室で待機してもらっている。
つまり、普通の人には医務室にはレスコー男爵しかいないように見えている。
運び込まれたレスコー男爵は首の骨が折れており瀕死の重体だ。

『レスコーよ。今すぐ楽にしてやろう。せめてもの情けだ』
そう言って、シメオンさんが念動力でその首をコキッとひねった。
すると間もなく霊体が離れ始め、死霊が抜けてきた。
すぐに<強制休眠>を使い、球体にする。
霊体球を犬師匠に渡し、僕は<死体修復>と<死体保存>を発動する。

『やれやれ、このような男がペルピナルを牛耳っておるとは。恐ろしくて都内には住めんな』
<霊素干渉>で霊体球を処理している師匠が嘆くように言う。
『それも今日これまでのこと。これからは私が安全で不正の無いペルピナルにして行きますよ』
『そう願うぞ。よし、できたぞ』
師匠が処理した記憶のみになった霊体球を、<霊体操作>でシメオンさんに埋め込む。
『おお!これが。くっ!何たることだ。このようなことまで』
早速得た不正の記憶を思い出したのだろう。憤りをあらわにしている。

『それでは仕上げですよ。死体に入ってください』
レスコー男爵の死体にシメオンさんが入ったのを確認し、<傀儡>を発動した。
むくりと死体が起き上がり。
「私は今、生まれ変わりました。これまでの不正を正し、安全なペルピナルを取り戻すことをここに誓う!」
頭を打って人格が変わった演技(?)でシメオンさんが熱く宣言した。

この後、偽医者と一緒にレスコー男爵(中身はシメオンさん)が会場に戻り、偽医者から「頭を強く打った影響で人柄が変わってしまった」と証言してもらい、会場の人々に証人となってもらったのだった。
そして、この噂はすぐにペルピナル中を駆け巡った。

その日からレスコー男爵は、夜は夕食も取らずに寝室に入り翌朝の執務ギリギリまで寝室から出てこない、という生活パターンに変化したが、他にもいろいろと変わり過ぎたので目立たなかった。

実は、この生活パターンの原因は僕だった。今のところ常時維持可能な使鬼が2体なので、シメオンさんは毎晩収納して、毎朝呼び出してから走って身体に戻ってもらっているためだった。
え? もちろんアネットさんが優先だよ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

これで領都の黒幕たちは全て一掃できた。
レスコー男爵の記憶を読んだ師匠からも、これ以上の黒幕はいないと断言された。

後は、人さらいの実行犯たちや、奴隷を購入した貴族たちなど、いくつか対処すべき課題はあるが、その辺はが何とかしてくれる、はず。

アネットさんの証言に端を発したこの一連の事件について、僕らがやるべきことは終わったのだ。

「終わったねー」
「はい。テオ様、本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。こうして体を取り戻すこともできて、望外の幸せです」
「うん。本当に良かった。アネットさんもこれでようやく家族に会えるね」
「はい!」

とてもうれしそうなアネットさんを見て、僕も笑顔になった。
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