幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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見習い死霊術師編

領都への旅路

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翌朝、今日からは5人衆(洗脳済みの5人をこう呼ぶことにした)も同乗して行くのだと思っていたのだが。
「私どものような罪深きものが同じ馬車に乗るなど恐れ多いことです」
「我々は自分の足で進みます」
「これも贖罪のため」
「お気になさらず!」
と言い張って、5人衆は馬車の外を歩いて行くことになった。


その後、昼の休憩で停車した際に、師匠の提案で傀儡の戦闘訓練をすることにした。
敵の魔術師との戦闘で必要となるかも知れないからだ。

5人衆が練習相手になってくれるそうだ。
それで、犯1を呼び出し死体に入れて<傀儡>を使い、練習させてみたが、想像以上にへっぽこだった。
はっきり言って使えない。
『う~む。こりゃいかんな。アネットやナナを使ったらどうじゃ?』
うーん、アネットさんにこの死体を使ってもらうのは抵抗あるなぁ。
「ナナさんに聞いてみましょう」
ナナさんを呼び出す。事情を話すと。
『やる!』
と即答でした。やっぱりね。

犯1の使鬼は収納。ナナさんを犯1の死体に入れて<傀儡>を発動。
すると、先ほどとは明らかに動きが違うのが分かった。
「ふっ!今度は直接ボコボコにしてやんよ」
とナナさん(in犯1ボディ)がしわがれた声で言う。
死体だから喉が乾燥して声が枯れているようだ。師匠に聞くと油を吸い込ませればましになるそうだ。
そして5人衆との格闘訓練の結果、ボコボコになったのはナナさんだった。
「くっ!この体、動きが悪い!」
『そりゃあ、他人の身体だからのう。その違和感を調整するための訓練じゃ』
「がんばって、ナナさん」
僕は<死体修復>をかけて損傷を直し、応援する。
その後、何度か犯1の死体を修復しつつ訓練を行い、1対1であればそこそこ戦える程度になった。

「あー、まだ慣れない、この体」
「でも最初に比べれば随分よくなったよ」
「いや、あたしが生きてた頃に比べると全然ダメ」
ナナさんって女の人なのに相当強かったんだな。そういえば何やってた人なんだろ。
「ハンターをやってた。狩りだけじゃなく、魔物とも戦ってた」
おお!ハンター、カッコイイ!
「このまま体を動かす訓練を続けたい」
「え?もう出発するよ」
「歩いてついて行く」
「そういうことか。いいけど、僕が魔力欠乏症になる前に戻ってもらうよ」
「分かった」
こうして馬車の旅は、5人衆+ナナさん(in犯1ボディ)が周囲をついて歩くこととなった。

そして夕暮れ時に宿場町に到着。ここで1泊する。
ナナさんには犯1ボディを棺桶に入れてもらってから収納した。このくらいの時間なら維持できるようになっていたようだ。

宿屋に泊まるのは初めての体験だ。
食堂で夕飯を食べ、部屋で体をふいて、ベッドで横になる。
全部が初めての体験で興奮していたが、旅の疲れが出て間もなく眠った。
ちなみに5人衆は馬車の荷台で雑魚寝だったそうだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

次の日も出発後、荷台で師匠と話す。

先行した犬使鬼による追加情報だ。
魔術師の屋敷は悪霊祓いのおまじない(民間に出回ってるのはインチキだ)があり、使鬼では中に入れなかったらしい。
なお、おまじないというのは発動原理が分かっていない魔法現象のことで、魔法ギルドが「危険だから関わらないように」と呼び掛けるような代物だ。
この魔術師は手ごわいかもしれないので後回しにすることになった。


その後、この距離からであれば、領都ペルピナルへ使鬼を先行させて、被害者の幽霊を使鬼にすることが可能だろう、とのことで試すことにした。
アネットさんを呼び出し、先行してもらう。
『では行ってまいります』
宙をすべるように走っていった。
1刻半(3時間)ほどでアネットさんがペルピナルの魔術師の館付近に到着した。
早速視界を切り替えると、古ぼけた屋敷が見えた。
そして屋敷の周辺には見える範囲だけでも10体の人間の幽霊がいた。こんなにたくさんの幽霊を一度に見たのは初めてだ。
死霊のうち幽霊になるのは少数派だから、実際はもっとたくさんの人が死んでいるという事だ。
なんて恐ろしい魔術師なんだ。こいつを見逃すわけにはいかないな。
そのためにもまずは使鬼の勧誘だ。

先に来て待っていた犬師匠に話しかける。
『おすすめの幽霊はいますか?』
『そうだな。目に知性の光を残しているのが2体おった。まずはそれからじゃ』
案内してもらう。
男性の幽霊だった。着ているものが立派で、もしかすると貴族かも知れない。
<霊体操作>と<念話>を発動。話してみる。
『こんにちは。声が聞こえますか?』
『これは!まさか、おお!神よ!』
『い、いいえ違います神様じゃありません。僕はテオと言います。誘拐された人達を探してここまで来ました』
『そ、そうでしたか。姿が見えませんが、どちらにおられるのですか』
『町の外から魔術で話しかけています』
『魔術師でしたか。申し遅れましたが、私はシメオン・コルトと申します。コルト子爵家の次男です。
無実の罪で捕らえられ、この屋敷に運ばれて気づくとこのような状態でした。あなたは何かご存じでしょうか?』
『僕に分かるのは、あなたはすでに死んでいるということです。今のあなたは幽霊になっています』
『なっ!…そうか。薄々そんな気はしていたが。まさか、本当に幽霊が実在するとは』

『あの、無実の罪と言ってましたが、どういうことですか?』
『ああ、それは。少し長くなりますが聞いていただけますか』
という事で長いお話の要点をまとめるとこちら。
● コルト子爵家はこの領地の代官を務めている家系であり、シメオンさんはこの領都ペルピナルにお目付け役として派遣されて来た。

● ペルピナル周辺は元々レスコー男爵が治めていた場所で、今も領都の長として強い権力を維持し、全てを取り仕切っている。(領都とは言え、領主は王都に住んでいて不在。代官のコルト子爵も別の街が本拠地なのだとか)

● シメオンさんはお目付けとして真面目に仕事をし、レスコー男爵の不正行為をいくつか発見して証拠集めをしていた。そして、最近になってレスコー男爵が領内で発生している失踪事件の増加と何らかの関わりがあることを突き止めた。

● その矢先、シメオンさんの屋敷から失踪者の死体が発見され、レスコー男爵がシメオンさんを失踪事件の犯人として逮捕させた。おそらく関係者の買収がされていたのだろうが、弁明の余地なく、異様なスピードで有罪が確定し、幽閉された。

● 幽閉されていた屋敷に何者かが侵入し拉致されてしまい、この屋敷に運び込まれた。すぐに魔術師がやってきて魔術を掛けられ意識が朦朧としたまま、寝台に載せられ、何か措置をされたら意識を失った。

で、途方に暮れていたところに僕が話しかけたというわけか。
『そのレスコー男爵が失踪事件と関わっているというのは?』
『はい。都内での犯罪捜査に関する部署に干渉し、失踪事件についてのみ調査を見合わせるよう圧力をかけていたのです。
他にも失踪事件と関係あると思われる馬車が、レスコー男爵が発行した”御免状”を提示して監査を逃れたという門番の証言もあります。
まだ調査の途中でしたが、ダヤン商会にも”御免状”を与えて何かをやらせていたようです』
”御免状”と言うのを持っていると官憲の調査を受けずに済むらしい。アネットさんが教えてくれた。
もう、確実にそのレスコー男爵が黒幕だろう。
そのさらに上に黒幕がいないことを願うばかりだ。

これだけ材料がそろえば、シメオンさんを仲間にするしかないでしょう。
『シメオンさん。僕たちは今、その失踪事件を止めるために動いています。レスコー男爵に罪を償わせるために、仲間になってくれませんか?』
『おお!憎きレスコーめに正義の鉄槌を下せるのであれば、この身が砕け散ろうとも本望です!ぜひ、お仲間に加えていただきたい!』
おっと、やっぱり本心では相当恨んでいたようだ。この想念で幽霊になったのだろう。
『では今から魔術を発動するので、受け入れてください』
<使鬼使役>を発動すると即座に霊糸リンクが形成され、無事に使鬼となった。
『おや、メイドと犬?いつの間にそこに』
『お初にお目にかかります。私はテオ様にお仕えするメイドでアネットと申します。どうぞお見知りおきを』
と言って丁寧なお辞儀をする。
『そうか、テオ殿の。私の事はシメオンと呼んでくれ。よろしく頼む、アネット殿』
師匠は紹介など後で良いと言うので、話を進めよう。
『すみません、シメオンさん。もう一人仲間にしたい幽霊がいるので、ちょっと待っててもらえますか』
『幽霊? なっ!こんなに人が、いやこれが幽霊なのか。さっきまで誰もいなかったと思うが』
『僕の使鬼になったことで幽霊が見えるようになったんですよ』
『そういう事か』
そしてもう一人の幽霊へとアネットさんに近づいてもらう。
『ん?この御仁は確かダヤン商会の副支配人だったはず。なぜ幽霊に』
どうやらシメオンさんが知っている人のようだ。しかもダヤン商会の関係者か。

で、こっちの人にも同じように話をしてみた結果。
● 名前はトム・アレオンさん。ダヤン商会の副支配人(上から3番目に偉い)だったそうだ。

● ダヤン会頭が人さらい組織と組んで奴隷取引に手を出したことに反対したために失脚させられ、さらに口封じのためこの屋敷に送られた。

● 意識があるまま魔術師の処置を受けた。内容は、太い針を両腕に刺され管を繋がれ、右からは血を抜かれ、左からは真っ赤な液体を流し込まれるというもの。

● その途中で意識を失い、今この状態。

やはりダヤン商会に関する師匠の調査結果と一致する。
あと、初めて魔術師の人体実験の様子が分かった。何が目的かは不明だが。

トムさんに、「ダヤン会頭に報いを受けさせましょう」と勧誘した結果、快く使鬼になっていただけました。
もはや恒例のアネットさんとのあいさつの後、こんどは師匠の紹介もし、動物がしゃべることに驚くお約束もこなした。

この場を離れようとしたその矢先。
1人の少年の幽霊がこちらに近づいてきた。そして僕らの前で止まりこちらを見ている。
え?まさか霊視能力者か?師匠!
『んん?いや違うな。こうやって近づいてもこちらを見ない。どれ』
と言って魔力操作で魔力球を作って動かすと、その幽霊はそちらを見た。
『なるほど、魔力感知の能力が高いのだな。魔術師かも知れん。勧誘してみてはどうだ?』
物は試しで勧誘してみた。
名前はセラフィン。金髪碧眼の美少年で11歳。魔力は物心ついた時から見えていた。
村には魔術教室が無かったので、魔術師とは縁が無かったそうだ。もったいない。

何かしたいことは?と聞くと、お母さんに会いたいとのこと。
これはもう、会わせてあげるしかないよね。
すぐには無理だが必ず合わせると約束し、使鬼となった。

こうして3人の新しい人間の使鬼を戦力に加えたのだった。
これは心強い。
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