幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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見習い死霊術師編

領都へ行こう

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人さらい達のアジトを壊滅させたので、この町周辺はもう安全なはずだ。
だが領都ペルピナルにいるはず黒幕は健在。
いずれまた同様の組織を作って人さらいを再開しないとも限らない。
それに、他の地域での人さらいは止まらず、犠牲者も出続けるだろう。

自分たちの安全だけ考えるなら、これでもう十分だ。
でも、僕はアネットさんに誓った。こんなことが二度と起こらないようにするって。
そのためには黒幕を何とかしないといけない。
とは言え僕はまだ子供で何をすれば良いか分からないので、師匠に頼りっぱなしだ。
今も師匠が色々と考えて、準備を進めてくれている。

師匠の話によると、ペルピナルの黒幕を何とかするにあたって、いくつか課題があるようだ。

1つ目は、僕がペルピナルに行くという事。
使鬼を出しっぱなしにすると維持のために体内魔力を消費し、いずれ魔力欠乏症を起こす。
師匠の場合、屋敷の魔道具を使うので魔力欠乏症とは無縁だが、逆に同時展開可能な使鬼の数が3体までという制限がある。
調査だけならまだしも、黒幕たちを実力で排除するなら戦力が足りない。僕の使鬼が絶対に必要になる。
領都へ行くだけでも3日はかかるので、僕もついて行く必要がある。
だが僕はまだ8歳の少年なので、一人で行くわけにもいかないし、親を説得できる理由も必要だ。

2つ目は敵の魔術師の事。
アネットさんの証言から、黒幕の勢力に魔術師が関わっている。
魔術師の実力によっては、こちらの使鬼による攻撃が無効化されたり、最悪の場合使鬼が破壊される可能性も出てくる。
使鬼だけに頼った方法では対抗できない可能性も考慮しておく必要がある。

2つ目の課題については、犯1(犯人1号の略)の死体を領都に運び傀儡くぐつとして運用すること、途中のアジトで洗脳済みの5人を拾って戦力とすること、が決まった。

そして、1つ目の課題について、師匠の出した解決策がこれだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

今、僕の家に立派なローブを身にまとった魔術師風の男が来ている。
「うちのテオを弟子に、ですか?」
お母さんが困惑気味に問い返す。
「はい、そうです。テオ君は優秀な魔術師になる素質をお持ちです。
また頭脳も明晰で平民でこの年齢にも関わらず、既に読み書き計算が堪能と来ている。
これほどの才能はこの領内どころか国内でも珍しいでしょう。
今のうちから正式な指導を受けて修業をすれば間違いなく、歴史に名を遺すような立派な魔術師となることでしょう。
いかがでしょう。 領都ペルピナルでも屈指の実績を誇る我が”太陽の魔術師会”で、その才能を磨く機会をテオ君に与えてはいただけませんか?」
男は見事な活舌で、いかに素晴らしい事であるかを諭すように話す。
お母さんは圧倒されつつも。
「し、しかし、テオはまだ8歳ですし。魔術を習うのは早いのでは?」
「いいえ、決してそのようなことはございません。天才魔術師の中には5歳から始めたという方もいらっしゃるくらいです。
才能を伸ばすには早い方が良いのですよ。
しかし、親御様がご心配なさるのも無理はございません。そこで、まずは体験だけでもということで、3巡り(24日)だけテオ君をお預かりする、というのはいかがでしょう?
その経験をもとに今後の事を考えることで、間違いのない判断をいただけるものと確信しております」
とさらに畳み掛ける。
お母さんはたじたじで。
「そ、その、夫とも相談しないと」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。ぜひご相談ください。
そうだ!他の方の意見も聞いた方が安心でございましょう。
魔術の事に詳しいと言えば、この町では魔術教室の先生くらいでしょうか。良ければ紹介状をお書きしますよ」
男はその後、自分の連絡先を伝え、挨拶をして去っていった。

お母さんは疲れた様子で椅子に座って。
「テオはどうしたいの?」
「うん、魔術を習いたい」
「でも、家族と離れてペルピナルで生活するのよ。大丈夫?」
「大丈夫!それにまずはお試しだって言ってたし」
「うーん、そうねぇ。それでダメそうならお断りすればいいんだし。
でもお父さんにも聞いてみないとね」

その後お父さんとお姉ちゃんが帰宅し、家族会議をした。
「よかったじゃない、テオ!あんた昔っから魔術大好きだったもんね」
お姉ちゃんは心配してないようだ。
「しかしペルピナルか。遠いな。本当に大丈夫か」
お父さんは心配そうに言う。

それで、念のため魔術教室の先生にも話を聞くことになった。
次の日、仕事が休みだったお母さんが行くことになった。当然僕も一緒だ。
お母さんが魔術教室の扉を叩く。
「どうぞお入りください」
「ごめんください。あの、少しお話を伺いたくて。よろしいでしょうか?」
「ええ、今は生徒もいませんし、大丈夫ですよ」
「ええと、こちらの紹介状をいただいてきたのですが」
と言って、昨日の男にもらった紹介状を出す。
それを見た先生が。
「ああ、この方ですね。存じてますよ。それでどのようなお話を?」
お母さんが、テオに本当に才能があるのか、預け先は信用できるのか、魔術師の修業は辛くないのか、などを質問した。

「では、テオ君。こちらの魔道具に触れてみてください」
と言って円盤状の物を出してきた。
僕は、周囲の魔力を集め、円盤に流し込んだ。
すると円盤の中央が眩い光を放つ。
「こ、これは!何という凄まじい魔力!間違いありません、テオ君はとんでもない才能がありますよ!」
と先生が興奮気味に言うと、お母さんも驚いていた。
「”太陽の魔術師会”と言えば優秀な魔術師を輩出する名門ですし、テオ君なら瞬く間に頭角を現すでしょう。いやあ、羨ましいですな」
その後、先生は自分の体験を踏まえて魔術師の修行生活について話をしてくれた。

お母さんも納得したようで。
「お話いただき、ありがとうございました。とても参考になりました」
「いえいえ。優秀な魔術師の未来のためになるのが、私の使命ですよ」
こうして、魔術教室を後にした。
「本当にテオは魔術の才能があったのね。驚いたわ」
とお母さんがしみじみと言う。
「うん、僕も驚いたよ」
棒読みにならないように気を付けた。

その晩、もう一度家族会議を開き、僕を領都に行かせることが決定した。
つまり、師匠の作戦通りになった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

その後自室にて。
「すごいです、師匠!」
『やれやれ。上手くいってよかった。儂もこんなに上手くいくとは思っておらんかった』
と猫師匠が首を振りながら言った。
「あれ?もしかして、師匠の立てた作戦じゃなかったんですか?」
『うむ。あれは犯人のリーダーの案じゃ。どうやら似たような手法で子供を拉致しておったらしい。
あの魔術師役の男は金で雇った本職の詐欺師じゃ。
あまり気分の良い方法ではないが、効果は確かだったな。
やはり蛇の道は蛇、儂らには思い付かないような知恵が、裏社会にはあるということじゃ』
おおう、今回は自分で協力したとはいえ、これは恐ろしい手口だ。
本気で仕掛けられたら見破るのは難しいだろう。
背筋がゾッとした。

ともあれ、こうして僕は領都ペルピナルへ行けることになった。


僕らが色々準備している間、師匠の犬型使鬼がペルピナルに先行していた。
あのアジトの牢屋で拉致被害者たちの匂いを記憶したので、ペルピナル都内でそれらの匂いが辿れるか調査するためだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そして出発当日。
犯人リーダーが馬車で迎えに来た。
家族と挨拶し、僕を荷台に乗せると馬車が動き出す。
荷台から身を乗り出して、僕は家族に手を振る。
お父さんは「しっかりやってこい」と声援をくれた。
お姉ちゃんは「お土産よろしく~」だってさ。
お母さんが手拭いで目元を押さえながら手を振り返していた。
それを見て、僕もちょっと泣いた。

角を曲がって家族が見えなくなると、荷台の中を見回す。
奥の方に棺桶がデンと居座っていて異様な雰囲気だが、犯1の死体を運ぶためには必要だった。
この後、南の森のアジトに立ち寄って洗脳済みの5人を回収してから、領都ペルピナルへ向かう予定だ。

移動中はやることが無いので、師匠と話をした。

まずは、先行した犬使鬼の調査結果について。
犬使鬼は匂いを辿って怪しい場所を見つけていた。
一つ目はダヤン商会の会頭の屋敷。ダヤン商会が関与していたのは衝撃だった。サラのお父さんはダヤン商会の支店に勤めているのに。

二つ目は貴族街と呼ばれる高級住宅地。ここのいくつかの屋敷で拉致被害者の匂いが見つかっている。

三つ目が町外れのスラム街にほど近い大きな屋敷。ここの周囲には被害者らしき幽霊が10体ほど見つかっている。
ここで拉致被害者が殺害されているようだ。魔術師がいるとしたらここだ。

これらを踏まえたうえで今後の作戦。
まずは事情聴取と戦力増強のため、三つ目の屋敷周辺で使鬼を増やす。ついでに魔術師の偵察も行う。
もし魔術師の実力が劣っている場合は真っ先に魔術師を潰し、これ以上の犠牲を食い止める。
次は人をさらい集めていると思われるダヤン商会を止める。屋敷内を探し犯罪の証拠を手に入れ、然るべきところに突き出す。
貴族街の方は、おそらくダヤン商会が癒着している権力者に、攫った人を賄賂として贈ったのではないかと師匠は推測している。
ダヤン商会で証拠が出れば、芋づる式にしょっ引かれるだろう。

今後の調査でまた変わるかもしれないが、現状はこのような方針とした。


次の暇つぶしは魔術の訓練だ。
今後の事を考え、使鬼を出し続けていられる時間を延ばすための方法を教わることになった。
使鬼の維持には僕の体内魔力を供給する必要があり、出しっぱなしではいずれ魔力欠乏症になってしまうのが問題だ。
そこで、周囲から集めた魔力を、僕の体内魔力と同じ性質に変化させる方法、「内外魔力同調法」を学んだ。
これが上達すれば、いずれ師匠のように、使鬼を常時出し続けていられるようになるという。

今後、空いている時間はこれの練習をすることになった。


途中で街道を逸れて、森のアジトに立ち寄った。ここで一泊することになっている。
久しぶりに見た洗脳済みの5人は、ナナさんがボコボコにした傷がもうほとんど治っていた。頑丈だな。
リーダーの指示で彼らは食事を作り、僕の寝床を用意し、と忙しく働いていた。
そんな彼らの目は労働の喜びに溢れ、キラキラと輝いていた。
せんのう、まじこわいです。

粗末な寝床だったけど、慣れない馬車旅の疲れのせいでぐっすり眠れた。

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