幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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見習い死霊術師編

アジト制圧

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犬1号からの通信と、師匠の猫型使鬼による猫パンチ(<念動力>付)で起こされた。
まだ夜明け直前のようだ。
犬1号の視覚と同期し、<念話>を発動して答える。
『はい、起きました』
目の前には師匠の犬型使鬼がお座りの姿勢で待機していた。
『休んでるところすまんのう。どうやらアジトに着くようだ』
『ここは?』
『南の村へ向かう街道の途中、西に広がる森の中じゃ。今から儂が先行してアジトを探るのでな、この場を頼む』
『分かりました。お気を付けて』
犬師匠が空中を駆けて馬車の行く先へ向かった。
おお!空を走ってる。あんなこともできるのか。
考えてみれば、使鬼には実体が無いんだからできても不思議はない。今度教えてもらおう。

改めて馬車の中を見回す。
たくさんの荷物が載せられているのは、サラを隠すためだろう。
霊視能力に集中して周囲の霊体を探すと、馬車の御者台に二人、そして荷物の中心付近に一人の反応がある。
犬1号に荷物をすり抜けて進ませ、大きな箱をすり抜けるとその中にサラの姿を発見した。
近づいてみると、どうやら寝息を立てて眠っているようだ。
よかった、無事だ。
サラを確認できたので、今度は犯人の姿を見ておくことにした。
御者台の方へ顔を出すと、強面でゴツイ体格のいかにもヤバい奴らが座っていた。
犯人1号とは大違いの迫力だ。
僕が内心ビビっていると、犬1号から。
『ワウ(大丈夫。こんな奴らに負けない)』
と力強い思念が伝わってきた。
『そうか。頼りにしてるよ』
『ワフ(まかせろ!)』
犬1号は親分肌なのかもしれないな。

犬師匠が戻ってきた。
『見てきたぞ』
『どうでした?』
師匠の話によると。
アジトは一見すると小さな小屋だが、広い地下室がありそこに牢屋がある。
敵は外の見張りが2人、地下に2人の計4人。
牢屋に2人の被害者が監禁されていた。さらに、地下に被害者の幽霊が一人いて、使鬼にできそうだった。
馬車が到着するまであと四半刻の半分(15分)くらいかかる。
との事。

『増援の使鬼を呼んでアジト内を制圧し、到着した馬車の2人を迎え撃つのがよかろう』
『え、町から使鬼をここまで呼んでも間に合わないんじゃ』
『そうか、まだ教えておらんかったな。この場に呼び出すのじゃ。霊糸リンクがつながっている所ならどこでも収納した使鬼を呼び出せるぞ』
『そうだったんですね。ではみんなを…』
『いや、戦闘向きの使鬼だけで良い。魔力が尽きるぞ』
『あ、そうですね』
う~ん、どうするか。まずは犬2号で、アネットさんも頼りになるし。
犬1号越しに呼び出してみた。
馬車の中に使鬼達が現れる。成功だ。
師匠は鹿型の使鬼を呼びだしていた。あの剥製を動かしてた鹿だろう。
師匠が皆に状況を説明し、作戦を伝える。
と言っても単純で、いきなり<霊衝撃>を食らわせ、ひるんだところに<念動力>で頭部を攻撃し沈める、というもの。
少しもめたのはサラの側に置く留守番。
みんな殺意高めで前線を希望したからね。勇ましいな。
仕方ないので結局、ネズミくんを呼んで留守番を頼んだ。

『時間が無い。行くぞ』
師匠の犬使鬼が先導し、皆が駆け出す。
空中を駆ける犬師匠と鹿を見た他の使鬼が、真似をして空中を駆けだした。
あ、そんなあっさりできるもんなんだね。ネズミくんは全然だったのにな。
僕は今のうちに感覚共有をアネットさんに移しておいた。

アジトの小屋が見えてきた。
側に二人の男が立っているのが見える。すると。
『バウ(俺が行く!)』
『バウ(お供します!)』
と言って犬1号と2号が突っ込んでいった。やっぱり1号が親分なんだな。
『鹿も援護しろ』
と師匠が指示し、鹿が先行した。
『儂らはそのまま地下へ向かうぞ』
犬たちが見張りに襲い掛かるのを尻目に、僕らは小屋に突っ込んで、床をすり抜けて地下へ侵入した。
『儂が右側をやる。後は任せる』
と言って師匠は突っ込んでいった。
アネットさんがそのまま左の敵に突進して行った。
ガツンと<霊衝撃>が決まり、敵がフラフラになる。
そこへ、アネットさんがすべるように踏み込み、下から綺麗な掌底打を顎に打ち込むと、敵はスコーンと真上に30㎝くらい浮き上がってから、後ろ向きに倒れた。
鮮やか!っていうか、アネットさんカッコイイ!
『メイドのたしなみです』

制圧が完了し、地上の2人の男を地下まで運び、牢屋に4人全員を閉じ込めた。
代わりに監禁されていた男の子と女性は、<精神干渉/熟睡>で深く眠らせてから、牢屋の外に出した。
僕は犬1号2号を収納し、代わりに犯人1号を呼んで作業をやらせた。

それらの作業を師匠たちに任せている間、僕は地下にいた幽霊との交渉に挑んでいた。
まだ年若い、成人(15歳)してすぐ位に見える女性の幽霊だった。
女性だけど肩くらいの短い髪で、細身で身軽そうな体型に、動きやすそうなズボンと上着を着ている姿だ。
アネットさんに近づいてもらい、<霊体操作>と<念話>を発動。
『こんにちは。僕はテオと言います。あなたのお名前は?』
『何?この声は、どこから?』
幽霊さんにはこちらが見えないので驚いている様子。
『あなたの目の前にいます。敵ではないので安心してください』
『そう。私はナナ。あいつらを倒したのはあなた?』
『ええ、そうです』
『…本当は私がこの手でぶちのめしたかったけど、少しスッキリした』
『そ、そうですか。まだあと2人、奴らの仲間がここに向かっています。次は自分でぶちのめします?』
『できるの!』
『はい。僕の仲間になってく・・・』
『なる!』
かぶせ気味の即答いただきました。
『分かりました。ではこの魔術を受け入れてください』
<使鬼使役>を発動し、多分契約を確認したのだろう、少し間があって霊糸リンクが形成された。
『あ、見えた。え!メイドさん?』
使鬼になって霊視能力を得たことで、ナナさんにもこちらが見えるようになった。
『私はアネットと申します。テオ様にお仕えするメイドです。ナナさん、これからよろしくお願いしますね』
『あ、うん。よろしく』
面食らいつつも挨拶を返すナナさん。
『僕は別の場所からアネットさんを通してナナさんに話しかけてたんだ』
『そういうことね。で、どうやれば奴らをぶちのめせるの?』
『それは私が説明させていただきます』
とアネットさんが買って出た。うん、適任だと思う。
その場で戦闘訓練が始まった。もう全面的にお任せします。
次の戦いのため、犯人1号は収納し、犬1号2号を呼びだした。

あっちで作業を終えた犬師匠がこっちに来た。
『上手くいったようじゃな。ところで馬車の方はどうじゃ?』
『確認します』
感覚共有を馬車のネズミくんに移す。
御者台に出てみると、行く先にアジトの小屋が見えていた。
『小屋が見えてます。もうすぐですね』
『では上に出て迎撃準備じゃな』
それを聞いてアネットさんとナナさんが真っ先に外に出て来たのが、ネズミくんの視点から見えた。
うん。あの二人は絶対に怒らせないようにしなきゃ。
僕はこのまま馬車側で待機することになった。

『馬車が完全に停まってから開始じゃ。向かって左側を動物たち、右側を人間たちに任せる』
犬師匠の指揮の下、小屋の前で使鬼達が準備を整えた。
馬車がゆっくり近づいて行く。
「おかしいな。見張りがいねぇ」
御者台の一人が異常に気付いたようだ。
「何かあったか?」
もう一人がそう言うと腰の剣を抜いて、馬車の左側に飛び降りた。
すると、アネットさんとナナさんがススーっと動いてその男を挟む位置に着く。
犬1号2号は馬車の右側に近づく。
馬車が完全に停止すると同時に、全てが動いた。

一瞬の出来事だった。

使鬼達が飛び掛かったと思ったら、屈強な男たちはもう地面に横たわっていた。
うーん、使鬼って反則だよね?

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