幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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見習い死霊術師編

捜査開始

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今後の犯人探しについて相談する。
『そうじゃのう、犯罪捜査といえば何といっても犬じゃ。優れた嗅覚は使鬼になっても健在で追跡や捜索に役立つぞ』
師匠が犬を使った捜査を提案し、
『実家の私の部屋に行けば、匂いは残っていると思います』
アネットさんもそれを支持する。
「サラの話で出た、自警団や役人を調べる事ってできないかな?」
『そのためには文字の読める人間の使鬼が必要だな。当面はアネットが担当するしかあるまい』
やっぱりそうなるか。

方針としては、
①犬の使鬼を手に入れて、アネットさんの匂いを誘拐現場から辿ってみる
②アネットさん、および新しく人間の使鬼を手に入れて自警団や役人を調べる
の2つだ。

「じゃあ、僕と師匠は犬の幽霊を探すとして、アネットさんには自警団や役人を調べてもらうということでいいかな」
『はい。お任せ下さい、テオ様』
アネットさんはそう言って一礼すると、壁をすり抜けて外へ向かった。

僕らは、師匠が使鬼候補を探すためによく行く動物霊の集まりやすい場所へ向かう。
それは、郊外の墓地だった。
墓地には死者の安らかな眠りを守るための祠が設置されているのだが、その周りになぜか分からないが動物霊が集まるのだそうだ。
今日も祠の周囲に10匹くらい、いろんな動物の幽霊がうろついていた。
その中で犬は3匹いた。
「本当にこんなことで使鬼にできるんですか?」
ここに来る前に師匠にコツを聞いて、あるものを準備してきた。
『大丈夫じゃ。この300年でどれだけの犬を使鬼にしてきたと思っておる』
確かに。説得力あるわ。
僕は袋から鹿のあばら骨 (ちょっと肉付き)を取り出した。犬の幽霊は鼻が利くから、匂いにつられ寄って来るらしい。
「ほらー、おいでー」
すると、匂いが届いたのか一匹の犬幽霊がこっちを見た。
てってけてー、とこっちに寄ってくるが、犬だけじゃなくて猫や狐、狸なんかの幽霊も寄ってきてしまった。
「ちょっと師匠、これどうすれば?」
『なに。ついでにまとめて使鬼にしてやればよいだろ』
「うーん、大丈夫かな」
集まってきた霊たちは手に持った骨の匂いをしきりに嗅いでいる。食べられはしないけど匂いは楽しめるようだ。
その霊たちを<霊体操作>の”手”で優しくなでてあげるのが仲良くなるコツだという。
手加減をしながら、犬の顎の下やほっぺを撫でてみる。うん、悪くない感触。
何本も”手”を操作して、背中とかもなでなでしてみた。気持ちよさそうに見えるな。
「どうですか、師匠」
『いい感じじゃ。この犬は結構人懐っこいようだな、ついてるな。そろそろ念話で勧誘してみよ』
<念話>を発動し「僕の仲間になってよ」と思念を送ってみた。なんだか「しょうがないなー」みたいな返事が返ってきたので、同意が得られたってことだろう。
すかさず<使鬼使役>を発動すると、霊糸リンクが形成された。
とりあえず犬型使鬼をゲットだ!

ついでに集まってきた他の動物霊も勧誘してみたところ、猫と狸が一匹ずつ使鬼になってくれた。
新たな使鬼を引き連れて祠の方に近づくと、犬の霊が一匹近づいてきて使鬼になってくれた。
他の動物は警戒して近づいてこない。
中には肉を食わない動物の霊もいるので、次の機会には果物なんかも用意してみようと思った。

結局、犬2匹に、猫と狸の使鬼を入手できた。

自宅に戻って、アネットさんに通信を繋いで様子を聞く。
『自警団の詰め所で過去の記録を調べてみたところ、ここ1年程で失踪の相談が急に増えていることが分かりました。しかし、それらの対応として”上司に報告したが保留とするよう指示された”と記録されています。明らかに異常なので次はここを調べる予定です』
早速怪しいのを見つけてるね。さすが、アネットさん。
「すごいね、もうそこまで。えっと、こっちは犬の使鬼を手に入れたから、匂いを覚えさせたいんだ。一旦戻ってもらっていいかな?」
『分かりました。これから戻りますね』
「あ、収納してここで呼び出すよ」
『はい、分かりました』
収納して、呼び出しでアネットさんが目の前に出現する。
犬2匹も呼び出す。
「犬1号と2号だよ。この子たちに匂いを覚えさせてあげて」
『承知しました。さ、おいで』
『ワウ(分かった)』『クゥン(はい)』
壁をすり抜けてアネットさんの実家の方へ一直線に向かって行った。

アネットさんにはそのまま犬を連れて誘拐現場に行って匂いを辿たどれそうか調べてもらうことにした。
3体の使鬼を維持する魔力の関係で、一刻(2時間)以内で打ち切ってもらうように伝えた。


その間、僕はサラに昨日のことを聞きに行った。途中で帰って任せちゃったから。
サラの家に行ったが出かけているというので、町なかをうろついて探す。
飲食店が並ぶ通りに差し掛かった時、その一軒からサラが出てきたところに出くわした。
「よかった。サラ!」
「あら、テオ。元気?」
「うん。こんな所で何してたの?」
「え!え~と、お、お使いよ。商会の」
急に慌てだしたぞ。なんだか怪しいな。
出てきた店を見ると、酒場だな。こういうお店にサラを使いに出すかな?
「へぇー、どんなお使いなの?」
「そ、それは、商会のお仕事なんだから言えないの。そっちこそ、こんな所でどうしたのよ」
「そうだ、サラを探してたんだ。昨日は途中で帰っちゃったから、どうなったか聞きたくて」
「あ~、それね。預かった手紙もあるし、うちに行きましょ」
歩きながら聞いた所によると、アネットさんのご両親はその後もずっと行方を捜していたが、これでやっと落ち着いた生活に戻れると言っていたそうだ。
ご家族の心労を軽くできたなら、今回の作戦の目的を達成できたということだ。
サラがアネットさんのことを聞いてきたが、僕も本人のことは知らないと言い張って誤魔化した。

途中、裏路地を歩いて近道し、サラの家に到着する。
家の前で待ってると、手紙を持ってサラが出てきた。
「はい、これね」
「僕が預かってもどうにもならないと思うんだけど」
「もしかすると、その代理人みたいな人がまた来るかもしれないでしょ。その時に渡せるようにテオが持ってて」
代理人とは僕の苦し紛れの言い訳に出てきた架空の人物です。
「わかったよ、預かっておくね。サラ、今回は本当にありがとう。僕一人じゃどうにもできなかったから」
「いいのいいの。私も少し関わってたから、手助け出来てよかったよ」
「うん。それじゃ、これで。あ、くれぐれも危険なことに首つっこまないようにね」
「わ、分かってるってば。じゃあね、バイバイ」
手を振ると慌てて家の中に引っ込んでしまった。
うーん、やっぱり怪しいな。

自宅に帰る途中、アネットさんに霊糸通信の念話で進み具合を聞いてみた。
『やはり時間が経ちすぎていて、匂いは辿れないようでした。今は周辺の小屋や倉庫などをまわって匂いを探しています』
『どの辺りまで調べたの?』
『拉致現場より北西側の郊外までです。これから南側に調査を進めます』
『あ、そろそろ魔力がキツイから、今日はここまでにしよう』
『了解いたしました、テオ様』
通信を終えると、アネットさんと犬2体の使鬼を収納した。

「やっぱり人間の使鬼は頼りになるなぁ。他の使鬼を預けて仕事を任せられるのが良いよね」
『いやいや、アネットほど優秀な使鬼はなかなかいないぞ。幽霊は生前よりも知能の低下が見られるのが普通じゃ。今回のような幸運は滅多にないと思っておけ』
「そうなんですか。一般的なのはどのような感じです?」
『そうじゃな、平均すると子供にお使いを頼むような感じかのう。詳しく言い含めれば問題ないが、曖昧な指示だと時々大失敗をやらかすことがある。期待しすぎると痛い目を見るな』
「大人がついて見てやらないと危なっかしい、という感じかなぁ。捜査に使えそうな幽霊となると難しそうですね」
『そうなんじゃ。多分10人に1人当たりが出ればいい方だろうな』
「それは、一杯探さないとダメですね」
『その通り。まあ他の方法もあるにはあるが、まだ早いな。
ともあれ、人間の幽霊は元の生活をしていた場所に帰る傾向がある。つまり探すなら民家の中じゃ』
「え!それって難しいような…」
『なので、使鬼に探させる。使鬼は死霊術のおかげで霊視能力があるからな、おぬしが自分で探す必要はないぞ』
その後師匠から幽霊の探し方のコツなどを聞きながら自宅に戻った。

◇◆◇◆◇◆◇◆

次の日、魔力も回復したのでアネットさんと犬2匹の使鬼を呼びだす。
「匂いの調査はちょっと中断して、人間の幽霊を探してもらえるかな」
『幽霊ですか?どなたでしょうか』
「いや、特定の人物じゃなくて、使鬼になってもらえそうな人型の幽霊を見つけたいんだ」
『では、性別や年齢にご希望はありますか?』
「希望は、特に無いかな」
『かしこまりました。昨日の探索の途中でも人型の幽霊を何体か見かけましたので、確認して参ります』
「え?もう見つけてたの」
『はい。いくつかの建物の中で見かけております。ただこちらに気付いてはいない様子でした』
そうか。普通の幽霊は霊視能力が無いから使鬼が見えないんだ。
「とりあえず見てみたいから、最初の幽霊がいるところに着いたら教えて」
『承知しました』
そう言うと、アネットさんは犬2匹を連れて北西に一直線に向かった。
見送った師匠が。
『前にも言ったが幽霊の中には理性を失っているものも少なくない。話しかける時は十分に気を付けるのだぞ』
と忠告してくれた。
「はい、師匠」
この時まだ、僕はその意味を理解できていなかった。

しばらくして連絡が来たので、霊糸通信の感覚共有でアネットさんの視界と同期する。
どこかの小屋の中で薄暗いが、使鬼の視界なので何があるのかはっきりわかる。
その中央辺りに大人の男性の幽霊が佇んでいた。
師匠の忠告に従って、遠隔魔術で<霊体操作>を発動して身を守る準備を整える。

そして<念話>を発動させて男性の方へ意識を向けると、男性の方から思念が伝わってきた。
『失敗した御終いだ逃げられないもうだめだ誰も助けてくれないもう耐えられない・・・』
ブツブツとつぶやきながら、酷く追い詰められた焦燥感や後悔、恨みなどの感情が、グワーッと押し寄せてきた。
慌てて念話を切断した。ついでに感覚共有も切れてしまった。
「ぷはっ、はぁ、はぁ。な、何だ今のは」
鼓動が早くなり息が荒くなっていた。
『どうやら強い想念にてられたようだな。どれ、鎮静をかけてやろう』
猫師匠が鎮静を発動すると、気持ちが落ちついてきた。
自分が見て感じたことを伝えると。
『うむ、おそらくは事業か何かに失敗し追い詰められて自殺したんじゃろうな。幽霊の中には結構そういうのがおるから、よくあることじゃ。
ま、これも慣れだな。経験を積めば自然とそういう危ない幽霊を見分けられるようになる』
と師匠は言うが。
「こんなの何度もなんて勘弁してほしいよ~」
『そうじゃな。今日の所は場所だけ確認しておけ。そうすれば儂の使鬼で安全な幽霊を見繕って教えてやろう』
「ありがとう~、師匠!」

アネットさんが凄く心配してたが、大丈夫だと伝え、僕の魔力が続く限り幽霊を探して場所だけ報告してくれるようお願いする。
アネットさんが犬2匹にも探索を上手く割り振ってくれたので、かなり広い範囲について人間の幽霊がいる場所を特定することができた。
魔力欠乏症で頭痛がし始めたので、探索を切り上げて使鬼たちを収納した。
この記録を師匠に渡して、安全そうな幽霊を選別してもらうことになった。
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