幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

文字の大きさ
上 下
7 / 91
見習い死霊術師編

アネットさん

しおりを挟む
こうして一通り死霊術の基礎を学んだ僕は、一つ気になることを思い出した。
肝試しに行くことが決まった頃に、サラと一緒に町を歩いていて遭遇した人間の幽霊の事だ。
死霊術を学んだ今ならあの幽霊とお話ができるんじゃないか、と思ったのだ。
師匠に相談してみた。
『ふむ、いい経験になるだろう。上手くいけば使鬼になってくれるかもしれんぞ』
「あ、なるほど。そこまで考えてなかったけど、挑戦してみたいです」
『人の幽霊の場合、怨念が強すぎたりすると会話が成り立たないどころか、逆恨みされてひどい目に遭う事もある。話しかけるときは、必ず儂が立ち会っているときだけにするんじゃ』
「はい、分かりました」
今日は訓練を切り上げ、その幽霊を探すことになった。

幽霊を見かけた商会前通りまでやってきた。
「あ、いた」
以前と同じようにとある民家の前の道路に佇んでいる、青白く光る人影を発見した。
見たところ年若い女性のようで、腰まである長い髪で、簡素なワンピースを着ている。
ん?そういえば何で服まで幽霊になってるんだろ? 服は生き物じゃないのに。
師匠に質問してみた。
『変な所を気にするのう。
幽霊というか霊体は「自分自身はこんな姿」という記憶を持っていて、それが姿に反映されるのじゃ。
人は大抵自分の姿を思い浮かべる時に、服を着た状態を想像するだろう?』
「そういうことですか」
疑問が解消できてすっきりした。
さて、本題だ。
「それじゃ、話しかけてみます」
『うむ。慎重にな』
<霊体操作>を発動して万が一に備え、<念話>を発動して会話の準備を整える。
ちなみに、この念話は幽霊さんの声を聴くためのものだ。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
『!?』
幽霊さんが目を見開いてこちらを見た。
僕は右手を挙げながら。
「あ、僕はテオです。少しお話を聞かせてもらえませんか」
と再び声を掛ける。
『私のこと見えるの!』
「はい、見えますよ」
『ああ!良かった。これまで誰にも気づいてもらえなくて、こんなに近くにいるのに、一人ぼっちで、私…』
幽霊さんはうつむいて泣き出してしまった。
「えっと、大丈夫ですか?」
幽霊さんは泣き続けている。
『鎮静を掛けてやるとよいぞ』
と師匠がアドバイスをくれた。早速<精神干渉/鎮静>を発動する。
『…あ、ごめんなさい』
効果があったようだ。
「それで、あなたはどうしてここに?」
幽霊さんはぼんやりとした表情で。
『家に帰りたくて、家族に会いたくて、でも誰にも気づいてもらえなくて。居たたまれなくなって、外に出て、でも遠くには行きたくなくて』
「もしかして、ここがあなたのお家ですか?」
目の前の民家を指さすと、幽霊さんが頷いた。
『どうやらこの無念が、このお嬢さんを幽霊とした”強い想念”なのだな』
と師匠が言った。
「何とか力になれないかな。師匠、どうです?」
『そうじゃのう。このお嬢さんを使鬼にできれば方法はある。
使鬼を通じておぬしが<念話>を発動させてやれば、お嬢さんの思念をご家族に伝えることができるぞ』
「なるほど。声を伝えられるだけでもいいか、交渉してみましょう」
幽霊さんに話を持ち掛ける。
「あの、ちょっといいですか」
『はい?』
「あなたの声だけなら、ご家族に届けることができるようです」
幽霊さんの目に力が戻る。
『っ!本当ですか!』
「はい。ただ、そのためにはあなたが僕の使鬼に、あー、簡単に言うと使用人みたいなものになる必要があるんですが、よろ…」
『なります!何でもやりますので、どうか!』
食い気味に了解が得られました。
「わ、分かりました。それでは今から魔術を発動しますので、逆らわずに受け入れてください」
『はい!』
同意が得られたので、<使鬼使役>を発動する。
魔力が幽霊さんを包み、霊糸リンクが形成されたのを感じた。
『こ、これは? 頭にかかっていたもやが急に晴れたような感じがします』
と幽霊さん。師匠に聞くと。
『使鬼化したことで霊体が安定し、意識がはっきりしたのだろう。幽霊から使鬼になる場合にまれに起きる現象じゃ。運が良かったのう』
確かに、さっきより表情や話し方がしっかりしてる感じだ。

「改めて、僕の名前はテオです。よろしくお願いします」
『あ、名乗りもせず失礼しました。私はアネットと申します。テオ様、どうぞよろしくお願いいたします』
と丁寧にお辞儀をされる。
「そんな、様付けなんていいですよ。僕の方が年下だし」
『いいえ。テオ様は私のご主人様ですので、立場を明確にするために必要なことです。どうぞ慣れてくださいませ』
そ、そういうものなのか。う~、ムズムズするなぁ。
『お嬢さんはしっかりしているのう。何かそういう職業の経験でもあるのかな?』
『!?猫がしゃべった!』
アネットさんがびっくりしてる。
「ダメですよ師匠、急に入ってきたら。えっと、こちらは僕の師匠、…の使鬼である猫です。本当の師匠は別の場所にいます」
『テオの師匠をやっておる、ライナスと言う。よろしくな』
猫師匠が片手をあげてあいさつする。
『あ、すみません。改めましてアネットでございます。よろしくお願いいたします、ライナス様』
確かに礼儀がしっかりしてるみたいだ。
「アネットさんは、何かそういう仕事をやってたんですか?」
『はい。一時期メイドをしていたことがございます。その時に一通り教わりました。
…あの、それより、このような道端では目立ってしまうのではございませんか?』
はっ、と周囲を見回すと、確かにジロジロと見られてるかも。
周りの人からしたら僕が空中を見つめて一人でしゃべっている、と言う風に見えてるはず。
ぐぁ~、は、恥ずかしい!
「場所を変えよう!」
脱兎のごとくその場を逃げ出した。

とりあえず近くの広場に場所を移し、アネットさんの話を聞く。
アネットさんの話をまとめたメモがこちら。
● 太陽神の期節3巡目の水の日【注:1巡り=地母神・太陽神・光・闇・火・水・風・土の8日、1期節=5巡り=40日、1年=地母神・太陽神・光・闇・火・水・風・土・創世の9期節=360日】に、町外れの工場までお弁当を届けに行く途中、背後から襲われて袋詰めで拉致された
● どこかの小屋か倉庫で夜を待ち、馬車に載せられて町を出た。夜明け前にどこかの森の中と思われる場所で降ろされ、小屋の地下にある牢屋に押し込められた。牢屋には他にも人がいた。
● 3日くらいでまた馬車に載せられた。途中で同様の被害者が3人追加された。1泊して次の日に大きな都市に到着した。多分領都だと思う
● どこかの屋敷に連れていかれ、まとめて部屋に押し込められ監禁された。
● 数日後に魔術師らしき人物が部屋を訪れ、何か魔術が発動したと思ったところで意識が途絶えた。
● 気付いたらこの状態(幽霊)になって領都をさまよっていたが、家に帰るために徒歩で歩いてこの町に戻ってきた
● 今日までは実家の周りをウロウロして過ごしていた

アネットさんも自分が既に生きていないことは予想していたようだが、幽霊=死者という事実が確定したことで少なからずショックを受けていた。
今は火の期節だから、3期節前にアネットさんは誘拐されたという事だ。
確かに町ではちらほらと失踪者が出て、駆け落ちとか借金苦の夜逃げだとか噂が立っていたように思う。
でも、まさか人さらいが横行していたとは。
そしてそのことに誰も気づいていないらしい事が恐ろしい。

今の時点で分かるのは、①人さらいは馬車を使って人を運ぶ、②馬車で半日ほどの場所に拠点がある、③この町以外でも人さらいは活動している、④被害者は領都に集められている、⑤魔術師が関与している、⑥被害者は殺害されている、といったところだ。
用意周到であり、町なかで情報操作が行われている気配もあることから、組織的犯罪と考えられる、と師匠。
『下手に探ろうとすれば口封じに殺される可能性もある。もしかすると役人やもっと上も関与しているかもしれんからな、軽率な行動は控えた方がよかろう。
アネットのご家族にもこの事件には首を突っ込まぬよう釘を刺しておくべきだな』

せっかく家族と会話できると思っていたアネットさんだが、家族を危険にさらす可能性が出てきて困惑している。
自分の死を伝えれば家族は確実に事件を追おうとするだろう、と彼女は言う。
アネットさんの死を隠しつつ、家族に伝言をするには。
「そうだ、手紙を書いたらどうだろう?」
『でも、家族は文字を読めませんよ』
「僕が届けて、代読をするよ」
『しかし、テオが手紙を持って行く理由をどう説明するんじゃ?』
と師匠がつっこむ。
「え、え~と、どうしよう」
『そういえば、商会には有料で手紙を届ける事業があったはずです。それを利用できないでしょうか?』
アネットさんが提案する。
なるほど、商会関係ならサラに協力してもらえるかも。
「うん、それで行こう」
”アネットの手紙”作戦始動!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...