幽霊が見えるので死霊術を極めます ~幽霊メイドが導く影の支配者への道~

雪窓

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見習い死霊術師編

死霊術の修業開始

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それから2巡り(16日)ほどで、いくつかの重要な魔術を習得した。

● <身体強化> 体内の魔力を循環させ身体能力を高める魔術。
筋力、持久力、五感、反応速度などを向上させることができる。僕の場合、霊視能力も強化できる。
特定の分野だけを選択的に強化、例えば視覚強化だけ、とかも可能。

● <精神干渉> 自分や他者の精神に影響を及ぼす汎用魔術。
不安や恐怖を増幅させる精神攻撃から、逆に精神を落ち着かせる治療行為まで幅広い応用ができる。
重要な派生魔術として、言葉を介さず相互に意思を伝える<念話>、嘘偽りを検知する<真実の口>、契約違反を防ぐ<信用のくさび>等がある。
本来、僕のような見習い卒業直後の魔術師には習得できないくらい難しい魔術なのだが、霊視能力によって精神の大本である霊体の動きが見えるので、それほど難しくはなかった。

● <紱霊ふつりょう> 人間に害をなす悪霊を退治する唯一の魔術とされ、非常に優秀な魔術師でも習得は困難であり、この大陸でも数名しか使い手がいないと言われている。
だが、霊視能力者である僕にとってはむしろ簡単な魔術だった。

これらの魔術が死霊術の基礎となるということで、みっちりと訓練させられた。

苦労のかいあって師匠から合格点をもらったので、いよいよ今日からは死霊術を学ぶこととなった。
ここまで来るのに1期節 (40日)もかかってしまった。
『いやいや、これだけ早く魔術を習得できる者などそうそうおらんぞ。予想外だったわい』
「でも1期節は僕にとっては長かったです。僕の才能が活かせる死霊術ってものを早く知りたかったので」
『それほど待望されれば師匠冥利につきるというものじゃ。それではまずは基礎知識から教えていこう』

猫姿の師匠の話を聞きながら要点をメモにまとめた。
● 幽霊は魔力と霊体でできてる
● 霊体は霊素が集まってできてる
● 霊素は生命を持つものが生きている間、その体の中で増えていく
● 霊素や霊体は霊視能力者にしか感知できない
● 霊素は、生物の記憶とか感情といった精神的な要素の根本だと考えられている(魔術の<精神干渉>と霊視能力の関係性から)
● 生物が死ぬと、その体から霊体=霊素の塊、が抜け出す(これは以前僕も見たことがある)
● この死亡時に出てくる霊体を”死霊”という
● 通常の死霊は徐々に霊素が拡散し、2~3日で完全に消滅する
● 死霊術を使うと死霊を魔力で固定化し、人工的に幽霊を作ることが可能
● 天然物の幽霊は、死霊が強い想念で魔力に干渉し自らを固定化して生じると考えられている
● 死霊術は幽霊や死霊などの霊体を使役して、役立てるための魔法的手法
● 使役された霊体のことを”使鬼しき”と呼ぶ

僕にしか見えなかったあの青白く光るモノの正体をようやく知ることができた。
今まで漠然とあれは死と関係ありそうと思っていたが、まさにその通りだったんだな。

「ちょっと気になったんですが」
『なんじゃ?』
「師匠の使鬼は動物だったけど、もしかして人の幽霊も使役できるのですか?」
『もちろんじゃ。複雑な作業もできるし優秀じゃぞ』
「それって、その、良いんでしょうか?」
『ふむ、倫理的にということかのう。基本的には本人と交渉し納得の上で使鬼になってもらうのでな、普通に使用人を雇うのとそう変わらんな。
そのあたりは生者であろうと死者であろうと使う側次第。つまりおぬしの心持次第じゃな』
「そっか。うん、確かに」
『そうじゃ、この話をしておこう。
かつて、我らが受け継ぐ死霊術とは無関係に、自力で死霊術もどきを編み出した魔術師が現れたことがある。
其奴そやつは死霊術もどきを悪用して死者の霊を強引に使役し事件を起こしよった。
使役した霊を率いてある地方の都市を占拠して支配下に置き、好き放題に悪事をなしたのじゃ。
霊は普通の人間には見えんからな、国の軍隊も迂闊に手を出せなかったらしい。
しかし、我らの先達がその危機に駆け付け、其奴を討滅したのだ。
どのような力も使い手次第で善にも悪にもなる。おぬしならそのような過ちは犯さぬと信じておるぞ』
「うん、絶対にそんなことしないと誓います」
『うむ、よろしい。では、死霊術の実践に移ろう。
死霊術は使鬼を手に入れねば始まらん。入手方法は幽霊と交渉するか、死霊と交渉するかの2通りじゃ』
「え、どっちも同じなんじゃないですか?」
『いやいや、全然違うぞ。
幽霊の場合は強い想念、恨みや無念などだな、そういった感情が強いので話をするだけでも大変じゃ。その代わり探せばそこらじゅうで見つけることができるという利点があるな。
一方、死霊は死んですぐなので生前の知性や人格が残っており話はしやすい。しかし数日で消滅するからのう、出会える可能性が低いのが難点じゃ。
このようにそれぞれ一長一短がある。
交渉では主に<念話>を使って説得したり、交換条件を話し合うことになる。
幽霊の場合、話が通じず暴れたり逃げ出す事もあるから、それを押さえつけるために<霊体操作>の魔術があると便利だろう。
そして交渉が成立すれば使鬼とするための契約を交わす。そのための魔術が<使鬼使役しきしえき>じゃ。
まずはこれらの魔術を習得してもらおうかの』
「はい」

<霊体操作>は<紱霊ふつりょう>の魔術の応用というか、それを汎用的にした魔術だった。
<紱霊>では特殊な魔力の”手”を生み出して、霊体を引きちぎって霧散させるのだが、これに手加減を加えて押さえつけるとか、変形させるとか繊細な操作を可能とした魔術だ。

<使鬼使役>は、契約遵守じゅんしゅのための<信用のくさび>と、主従の霊体の間に霊素の繋がりを作る操作など(他にもあるが説明は後日)をひとまとめにした魔術だ。
この使鬼と術者の間にできる霊素の繋がりを”霊糸れいしリンク”と呼ぶ。
霊糸リンクのおかげで、使鬼はどんなに離れていても存在を感知できるし、念話的な意思疎通ができる(魔術の<念話>は距離が離れると使えない)。
この魔術はいくつもの機能をひとまとめにしただけあって、非常に複雑だった。覚えるまで時間がかかりそうだ。

練習には師匠が作り出した専用の模倣もほう霊体を使う。これは、幽霊のなれの果てで形を失った霊素の塊を集めて作ったもので、師匠が霊体そっくりの反応を返すように細かく調整してくれたものだ。
この模倣霊体を相手に、しっかり発動できるまで繰り返し何度も練習する。

特に、<使鬼使役>は手強かった。今まで習った魔術のなかで最大の難関だ。
僕は初めて「これは無理かもしれない」と思うほどの魔術に出会った。
『これが死霊術だ。儂は死霊術こそ至高の魔術と考えておる』
と猫師匠が自慢げにそう言っていた。

そんな困難な<使鬼使役>も、師匠の指導のおかげで何とか発動できるようになった。

さあ、いよいよ実践だ!
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