くろちゃん!

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俺は生まれつき黒ミミ黒しっぽで生まれてきた。俺は拾われた子供らしく、母も父も兄弟も血の繋がったものはいなかった。物心ついた時にはこの虎の群れの中で生活していた。


「変な耳~、変な尻尾~」
「キバも短くてかっこわるー」
子供の頃から、そう言ってずっといじめられてきた。黄色と黒の鮮やかなコントラストの耳をもつものたちの中で、真っ黒な俺は異質な存在だった。虎は攻撃的な性格で、異質なものに対してはきつく当たる節があった。最初は毎日ないてばかりだったが、だんだんとそんな毎日にも慣れてくる。いつしか、そんな悪口など気にも留めなくなり、群れとは壁を作って生活するようになっていった。

そんな生活になってはやくも10年。俺も23歳になった。10年前は全く体格に差もなかったが、同年代の虎たちはたくましく成長し、対して俺は細くて背もあまり伸びなかった。20歳を超えてオスの虎たちは狩りに出て獲物をとってくるようになったが、俺はまだ一度も大物をとった事がなかった。良くて川魚ぐらい。そんな俺を群のみんなは厄介者のように扱ってきた。

「大して狩りもできないくせに、とんだ穀潰しだな」
「気味の悪い耳だし、どっか行ってくれないかな」
「オスのくせにガリガリで、みすぼらしくて視界にも入れたくない」

そう言って俺に聞こえるように騒ぎ嘲笑うのが俺と同年代の虎の中でも中心グループのやつら。そのリーダーのシハが特に俺のことを嫌っていた。だが、俺はお前らのとってきた獲物を分けてもらったことなんてない。自分で毎日狩りにいって、大したものはとれないが、自分の獲物だけで食いつないでいる。そう反論したかったが、どうせ言ったところであいつらは俺を追い出したいんだ、何言っても無駄かとあきらめて、村の外れの小屋に向かい眠る準備をした。古い物置小屋で、生活できるような場所ではないが、俺を家に上げてくれるようなものなどこの群れにはいない。野宿よりはましかと、冷える夜更けに凍えながら眠りについた。



今日も朝から1人狩りに励む。昨日はほぼ無収穫だったから、お腹もぺこぺこで力も出ないが、今日も断食すると流石にまずい。冷える冬場なので避けていたが、今日は川魚狙いで河原に向かった。
「ううっ」
やはり冷たい。だが、いつまでも凍えて震えているわけにもいかず、深いところに向かって進んでいく。奥の深いところで何か動くものが見えて音を立てないようにそっと近づいて行く。なんの魚だ、と思って近づいていうと、急に足を何かに掴まれ、引き摺り込まれる。俺はパニックになりもがいたが、圧倒的な力の差に完全に水の中に浸かってしまった。どんな化け物がいるのかと川の中でびくびくと目を見開くと、そこにいたのは綺麗なオスの獣だった。


頭には真っ黒な二つの耳が、後ろには滑らかに動く黒い長い尻尾があった。その獣も驚いた様子で俺の顔を凝視する。お互いに見つめあっていると、流石に息が続かず、俺がもがき始めると、はっとして水面まで誘導し、そのまま川辺まで抱えて連れて行かれた。

俺の息が整うと、俺はすぐに自分の考えを口にした。
「俺と同じ種族の方ですか?」
今まで俺と同じ黒い耳黒い尻尾を持つものは見たことがなかった。だから、虎族の突然変異で俺のようなものが生まれてきてしまったのだと思っていた。だが、違った。他にもいた。俺は、虎じゃないんだ、そう確信していた。

「…いや、わからない。だが、俺とお前は、よく似ている。その可能性はある。」
俺の迫力に押されたのか、彼は圧倒されたような顔をした後ゆっくりと語った。だが、その口調は優しいもので、今までの扱われ方との大きな差を感じ、俺の目からはぽろぽろと大粒の涙が流れた。

「っおい、どしたんだよ」
彼は突然泣き出した俺にうろたえたが、俺はもう止めることができなかった。黙って泣き続ける俺を見て、彼はおずおず頭を優しく撫でてくれた。その優しい手つきに安心して、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
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